2017年9月19日のソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアのカンファレンス“2017 PlayStation Press Conference in Japan”で発表された、スクウェア・エニックスのプレイステーション4、PC用ソフト『LEFT ALIVE』。『フロントミッション』(以下、『FM』)のDNAを継ぐ本作は、『FM』を長年手掛けてきた橋本真司氏と、『アーマード・コア』シリーズで知られる鍋島俊文氏、そして『メタルギア ソリッド』のデザインを統括する新川洋司氏という豪華なクリエイター陣によって制作が進められている。いかにしてこの作品が生まれるに至ったのか? その制作の経緯や、物語を彩る主人公たちのデザイン誕生の秘話、ゲームシステムなどについてうかがった。(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)

※本記事は週刊ファミ通2017年10月5日号(2017年9月21日発売)に掲載されたインタビューに加筆・編集を行ったものです。

『LEFT ALIVE』橋本真司氏×鍋島俊文氏×新川洋司氏のインタビューを全文掲載!_01
橋本真司氏(左・文中は橋本)、鍋島俊文氏(中央・文中は鍋島)、新川洋司氏(右・文中は新川)

豪華クリエイター陣が手掛ける新プロジェクト

――ユーザーは、橋本さん、鍋島さん、そして新川さんという錚々たる方々が、ともに新作を制作されることに驚いていると思います。なぜ、このお三方でプロジェクトを立ち上げることになったのか、開発に至った経緯を教えてください。

橋本 私は『フロントミッション』(以下、『FM』)1作目から関わっているのですが、シリーズを重ねるごとに、いろいろなスタッフと作品を作っていきたいという思いが強くなっていったんです。その流れで『FM エボルヴ』では、海外のスタジオともお仕事をしました。そうした経験を経て、新しい布陣で、新しい『FM』の世界を作りたくなった、というのが発端ですね。

――『FM』シリーズの続編という位置づけではなく、新作としたのはなぜですか?

橋本 シリーズは、『FM』から始まって、『2』、『オルタナティヴ』で個性的な作品を目指し、つねに「チャレンジしたい」という気持ちで制作してきました。今回は、いわゆる“ロボットもの”ではなく、少し違う視点で『FM』を見てもらいたかった。『FM』のイメージをいい意味で打破するために、『LEFT ALIVE』という新作として立ち上げたんです。

――『FM』の冠を付けない、というのは、大きな決断でしたよね。

橋本 確かに、『FM』の生みの親としては、非常に悩みましたよ。ただ、これまで培ってきた20年の蓄積を新しい世代に託したいので、『FM』の世界設定などはそのまま引き継いでいます。一方で、ゲームの内容は大きく変わるので、新シリーズのイメージは、新しいスタッフたちで作っていってほしいですね。『LEFT ALIVE』は、2018年に発売予定です。2018年で私もめでたく還暦ということで(笑)、60歳の節目の年に、このシリーズを引き継げればいいなと考えています。

――橋本さん個人としても、大きな意味のあるタイトルなんですね。タイトル名の『LEFT ALIVE』には、どういう意味が?

鍋島 最初は、『ALIVE』という候補があったのですが、いろいろと問題があって。どうしようか悩んでいたところ、海外のスタッフから『LEFT ALIVE』という案が出てきたんです。これはストレートに“生きる”という意味でもあるし、“生かされる”というニュアンスも含まれています。サバイバルアクションというジャンルにも合い、物語の中でもそういった要素が多く登場するので、晴れて『LEFT ALIVE』に決定しました。

――『LEFT ALIVE』のジャンルはアクションになるのでしょうか?

鍋島 スタイル的にはTPS(三人称視点シューティング)です。ただ、シューティング要素もありますが、それだけではクリアーは難しいですし、ヴァンツァーに乗ってのアクションや、潜入といった要素も取り入れているので、ジャンル=TPSとは言い切れません。プレイヤー次第でさまざまな攻略を楽しめるのが、『LEFT ALIVE』のコンセプトでもあります。敵に対抗するための手段を確保することそのものが、ゲームの要素になっているのですが、その中で銃弾に余裕がある状況なら、銃撃メインで攻略してもいいし、銃弾が乏しいときは、接敵しないようステルスプレイに徹するのもありです。敵を罠にはめて倒す、なんてこともできます。敵は歩兵だけでなく、ヴァンツァーも登場するので、“正面からやりあったら勝てない”といったシチュエーションにも遭遇します。その場や自分の状況に応じて、工夫して進んでいく必要があるんです。

――ヴァンツァーでのバトルがメインになるゲームではないんですね。

鍋島 敵のヴァンツァーを奪い、蹴散らしていく状況もあります。ですが、つねにヴァンツァーに乗って戦うという訳ではなく、どちらかというと、敵として登場することのほうが多いですね。たとえば、目的地に向かうときに、道を真っすぐ進むと敵と交戦する恐れがある。そこで、敵の視線に入らないように隠れて侵入するか、そのエリアから少し離れて大きく遠回りして行くか、状況に応じて攻略法を選択できるんです。マップは限られた空間で構築されていますが、その中で目的地に向かうルートには幅があるように設計しています。一方で特定の場所を通過するシチュエーションもあるので、その場合はきちんとレベルデザイン(※1)された状況を攻略するという遊びになります。

※1……フィールドの設計やアイテムの配置などを通じ、難易度を調整すること。

――では、ストーリーはどういったものになりますか? 『FM』の流れを汲むとすれば、重厚な人間ドラマが期待されますが……。

鍋島 ロシア圏のとある街を舞台に、そこで起きた1日の出来事が描かれます。大まかに説明すると……街で戦争が起き、その騒動に巻き込まれた主人公はひとりぼっちになってしまいます。まだ街には敵が徘徊していて、いまから夜になろうとしている。そこからゲームが始まります。その過酷な状況下で、街から脱出するのがひとつの大きな目標です。脱出を図る中で、ほかの生存者と出会い、さまざまなドラマが展開していきます。

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舞台となるロシア圏の街。クリスマスツリーが見て取れることから、12月のとある日の物語ということがうかがえる。

――公開されたキービジュアルでは、3名のキャラクターが確認できますね。

鍋島 この3人が主人公です。それぞれが街の異なる場所で孤立してしまい、生き残る道を探します。その中で、主人公たちの過去の因縁や、『FM』らしい陰謀が判明していきます。

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『LEFT ALIVE』の3人の主人公。左の美少年は現役の軍人で、女性は元軍人の警官。中央の男性は、元傭兵という過去を持つ脱獄囚。

――『FM』の世界設定を用いられているということですが、シリーズの時間軸で言うと、どの時代にあたるのでしょうか?

橋本 いまから約100年後の、2127年が舞台です。時系列的には、『FM 5』と『FM エボルヴ』のあいだにあたりますね。現実の延長線上にある『FM』の世界観や設定をそのまま引き継いでいるので、ところどころで登場するデバイスなどは、近未来らしいものを取り入れていますよ。

新川氏が描く『FM』のイメージを踏襲した3人のメインキャラクターたち

――主人公たちのデザインを担当されたのが新川さんとのことですが、なぜ新川さんにオファーされたのでしょうか?

橋本 新川さんの手掛けたキャラクターのフィギュアを当社で販売させていただいていたのですが、その制作や『FM エボルヴ』のコラボ(※2)などでお会いして、お仕事を拝見するうちに、「ぜひ新川さんと、ゲームに直接関わる仕事をしてみたい!」と思うようになったんです。それで、『LEFT ALIVE』のプロジェクトが立ち上がった際に「これだ!」と、小島さん(コジマプロダクション(※3)・小島秀夫氏)、今泉さん(コジマプロダクション・今泉健一郎氏)、新川さんにご相談したところ、快諾していただけました。

※2……『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』(以下、『MGSPW』)と『FM エボルヴ』のコラボ。『FM エボルヴ』のゲーム内に『MGSPW』デザインのデカールが登場した。
※3……2015年12月16日に小島秀夫氏が設立した開発スタジオ

――熱烈なラブコールが(笑)。新川さんが、オファーをお受けした理由もお聞きしたいですね。

新川 私自身、単純にロボットが好きだということもありますが、『FM』の1作目は自分が尊敬するアーティストの天野喜孝先生と、横山宏先生が携わっていたということがとても大きいですね。自分にも同じことができるかわかりませんが挑戦したいと思い、オファーを受けることにしました。

――どういった立ち位置で、このプロジェクトに関わっているのでしょうか?

新川 キャラクターデザインです。発注を受けて、そのイメージに合わせてキャラクターを描いていきます。いつも通りの仕事ですが、ほかのメーカーさんとガッツリ組んで何か作るのは初めてですので、どのくらいまで踏み込めるのか探りつつ作業しています。

――最初に世界観や設定を確認して、それをもとにイラストを描いていくわけですね。

新川 そうですね。 『FM』というタイトルのイメージがあるので、そこはあまり崩さないように気をつけています。かつ、そこに自分なりのキャラクターを描くと、『FM』はどう変化するのか。そうした挑戦をしつつ、バランスも取りながら描きました。

――鍋島さんからは、新川さんに、どういったオーダーをしたのでしょうか?

鍋島 キャラクターに関しては、最初に年齢や性格などのプロフィールを説明しました。細かいオーダーはしていないんですよ。

――そうなんですね。新川さんが3人の主人公をデザインするうえで、こだわった部分や挑戦している部分はどこになるのでしょうか?

新川 “生き残る”というテーマを、どうキャラクターの絵で表現するかは悩んだところです。主人公たちについては、自分が素で、自然に描けるキャラクターがひとりは欲しいと思っていたので、ハードボイルドな感じの男性を描きました。実際にオファーされた内容もハードボイルドなキャラクターだったので、ちょうどよかったですね(笑)。ヒロイン的な女性キャラクターは、ハードボイルドなキャラクターとバランスを取りながら描きました。いちばん難しかったのは、美少年風のキャラクターです。「スクウェア・エニックスさんの作品寄りにしたほうがいいのかな?」と考えながら描きました。どうしても、渋いおじさん系のキャラクターになってしまうので、そこは難しかったです(笑)。

鍋島 イケメンは苦手とおっしゃっていましたよね(笑)。

新川 苦手ですね(笑)。でも気に入っていただけたので、よかったです。

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新川氏がいちばん書きやすかったという、3人の主人公のひとり。

――3人の主人公以外にも、新川さんがデザインされたキャラクターはいるのですか?

新川 お仕事を受けた時点では3人の主人公のデザインを、というお話だったのですが、メインキャラクターだけを描くとサブキャラクターとのバランスが取れず、統一感がなくなってしまうことがあるんですよね。そのあたりのバランスが取れるように、メインキャラクターのデザインをした際に、サブキャラクターのラフも描きました。

鍋島 メインの3人のプロフィールを説明する際に、参考としてサブキャラクターの情報もお渡ししていたんです。その後、メインキャラクターのデザインがあがってきたときに、ラフのサブキャラクターが入った相関図もいっしょに来たんですよ。それを見て、「これは、使っていいということかな?」とうれしくなりました(笑)。主要なキャラクターの原案は、だいたい新川さんに手掛けていただいています。

――新川さんとしては、そこまでやりたくなったということですね。

新川 半分は興味本位というか、乗りかかってしまおうという気持ちです(笑)。ほかのメーカーさんの仕事ではありますが、やることは、自分がいままでやってきたこととあまり変わりません。とは言っても、僕はこれまで同じメンバーで仕事をしてきたので、いつもと違った環境で仕事するのはとても刺激になりますね。