『東のエデン』や『攻殻機動隊S.A.C.』などで知られる神山健治監督の最新作『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』のBlu-ray&DVDが、2017年9月13日に発売。これを記念して、2017年9月16日、東京・渋谷のHMV&BOOKS TOKYOにてリリースイベントが行われた。
同イベントには、神山健治監督、映画劇伴と主題歌を手掛けた作曲家の下村陽子氏、モリオを演じた俳優の満島真之介さんが参加し、映画の冒頭のシーンを見ながらトークを展開。スタッフ・キャストによる映像を見ながらの解説が聞ける貴重な機会ということもあり(Blu-ray&DVDにはオーディオコメンタリーが収録されていない)、熱心なファンが会場に駆けつけ、貴重な制作秘話に耳を傾けた。
※以下、『ひるね姫』に関するネタバレが含まれます。ご注意ください!
さて、『ひるね姫』を観た人はおわかりと思うが、同作は、主人公ココネの夢の世界であるハートランドのシーンから始まる。このシーンの曲について、下村氏は、まずはハートランドのテーマを先に作り、それをベースに、シーンに合わせて曲を作っていったという。神山監督からは、ハートランドは機械の王国ということで、重々しさもありつつ、ちょっとズッコケな感じも出してほしい……という要望があったとのこと。また下村氏は、作曲するうえでキャラクターは大きな存在だと述べ、“最初に各キャラクターのテーマを作り、その一部を拾ってシーンの楽曲を展開していく”という手法を採っているとも語った。
ゲームの音楽を数多く手掛けている下村氏が楽曲を担当することになった経緯については、以前、下村氏のインタビューでも語られたが、改めて神山監督からもオファーした理由が明かされた。監督は、同作は女性が主人公ということで、女性の作曲家に依頼することは決めていたという(女性ならではのテイストにもっていってほしい、という意図から)。そして、下村氏が書いたピアノが印象的な曲を聴き、「この人なら」と思い、オファーしたそうだ。
物語の冒頭と言えば、ココネと父・モモタローの朝食風景(オムレツがおいしそうで、思わずつばを飲む)も印象的。これについて、日本のアニメ映画なら、やはり食事シーンに凝らないといけないのでは……という考えがあったと神山監督。スタッフたちも気合いを入れたとのこと。
ここで満島さんが、“アニメ映画の食事シーンは、(実写映画よりも)本当においしそうに見える”と言うと、神山監督は“それはアニメの魔法”と回答。実写映画に移っている本物の料理に魔法をかけるには、相当盛らないといけない。しかしアニメはすべてが偽物であるため、ちょぴっとだけがんばると、おいしそうになるという。監督がここで例に挙げたのは、某アルプスを舞台にしたアニメ。チーズがとろ~っと溶けるシーンは有名だが、あのチーズにはちょっとだけ魔法がかかっており、チーズが少し光っていて、それでおいしそうに見えるのだとか。この話を受けて下村氏は、『ひるね姫』を見てオムレツを作ったものの、箸で切ってプルンとするデキにはならなかったというエピソードを明かした。
ライブコメンタリー後は、来場者からの質問に監督たちが答えるコーナー。「何度も見てほしいシーンは?」と聞かれた監督は、『ひるね姫』では“光”を意識して演出したと述べ、そこを見てほしいと語った。今回のBlu-rayでは、監督が本来意図していたものにより近い表現が見られるとのこと。また、夢のシーンと現実のシーンで演出が異なっている点も見どころ。夢のシーンではカメラが存在していないような、現実のシーンではカメラのレンズがあるような演出にしているそうだ。
エンディングでイクミさんが試運転をしている場所は、どこをイメージしている? という質問に対しては、イクミさんが所属した会社の場所自体は都内をイメージしているものの、印象的な坂道については、“函館にある有名な坂をモデルにした”とコメント。洗剤のチャーミーグリーンのCMでも使われた坂ということで、ピンときた人も多いのでは?
なお、このエンディングのシーンは、本来はストーリー本編に入る予定だったそうだ(イクミさんが父と決別した後に入る予定だった)。しかし、神山監督が頭の中で、音楽をイメージしながら物語を上映していったところ、あのシーンで盛り上がりすぎてしまい、そこで映画が終わってしまう……という状態になってしまったとか。そのため、本編からはカットされることになったが、捨てがたいシーンだったため、エンディングで使われることとなった。
ここまで紹介してきたように、『ひるね姫』に関するさまざまな秘話が明かされた今回のイベント。神山監督は「あと2時間くらい喋りたい」と、まだまだ話し足りない様子を見せつつ、「長く愛してもらえる作品を作れた」と、『ひるね姫』を制作できたことへの喜びを語り、改めてファンに感謝してトークを締めくくった。