シブサワ・コウ作品の名曲がオーケストラで
神奈川県、ミューザ川崎シンフォニーホール。“世界屈指の音響”とも評されたことがあるこの音楽ホールにて、2017年9月2日にオーケストラコンサート“GAME SYMPHONY JAPAN 24th CONCERT KOEI TECMO Special~シブサワ・コウ 35周年記念~”が開催された。
このイベントは、『信長の野望』や『三國志』などの歴史シミュレーションを始め、数々の名作を世に送り出してきたコーエーテクモゲームスのゲームプロデューサー、“シブサワ・コウ”の活動35周年を記念して行われた企画で、同社と志村健一氏率いる“GAME SYMPHONY JAPAN”とのコラボレーションで誕生した。
本記事では、このコンサートの模様をダイジェストでお送りする。
衰えぬ情熱がもたらした珠玉の楽曲たち
開演前には“プレトーク”が行われ、戦国大名家の子孫や今回のイベントに貴重な資料を提供した方々が登壇し、『信長の野望』シリーズでの思い出など、こういったイベントならではの話題で盛り上がっていた。
19時30分、いよいよ舞台が幕を開ける。オープニングは『信長の野望・全国版』のオープニングテーマ『Overture ~信長の野望~』。パイプオルガンの荘厳な音色が鳴り響く、35周年の歴史を振り返るコンサートにふさわしい始まりとなった。
そして壇上には、“シブサワ・コウ”の名で35年間ゲームプロデューサーとして活躍し続けてきた、コーエーテクモホールディングス代表取締役社長の襟川陽一氏が挨拶のため登場。34年前に『信長の野望』第1作を制作したときの思い出を披露してくれた。「テストプレイではクリアーするまで、自分で作ったゲームであることも忘れてのめり込んでいました」と語った襟川氏。いまでも、どんなゲームであってもクリアーするまで遊んで楽しむことを心掛けているという。さらに最新作となる『信長の野望・大志』に話が及んだところで、オーケストラの準備が整った運営側から「そろそろ……」という“巻き”の指示が出てしまってトークは終了となったものの、ゲームに対する情熱は35周年を迎えてなお衰えていないことを存分に知らしめていた。
ここからはいよいよ本格的なコンサートのスタートである。
今回は『三國志』シリーズから始まり『ウイニングポスト』、『大航海時代』、『蒼き狼と白き牝鹿』などの諸作品、そして『信長の野望』シリーズと、プロデューサー・シブサワ・コウが手掛けてきた名作の数々からさまざまな曲がチョイスされていた。
それらの曲を手掛けたアーティストたちの名前を見れば、ゲームを知らない人でも驚くことだろう。菅野よう子氏、向谷実氏、服部隆之氏、川井憲次氏など、いまや押しも押されもせぬ大物から、池頼広氏、山下康介氏らさまざまなテレビ作品などで活躍する気鋭のアーティストなど、じつにそうそうたる顔ぶれだ。ちなみに、菅野よう子氏が『信長の野望・全国版』の音楽を手掛けた時、彼女はまだ早稲田大学に通う大学生であり、当時菅野氏を見出した襟川氏の慧眼には驚かされる。
当時はハードの制約から、ゲーム中は少ない音色数で奏でられていたのだが、それらがフルオーケストラで楽しめるというのは、ファンにとっては幸せこの上ない経験であり、『三國志』、『三國志II』、『三國志III』……と、作品ごとの演奏が終わるたびに割れんばかりの拍手が贈られていた。
一方、シリーズ最新作である『三國志13』の楽曲は、ゲーム版でも多彩な音色が表現されていたためか、オーケストラ演奏と原曲とのギャップが少なく感じられた。ゲームではシステムやボリューム、グラフィックはもちろん、音楽も30余年のあいだに大きく進化していることを感じさせるひと幕となっていたと思う。
『三國志』シリーズに続いては、初代『ウイニングポスト』(1993年発売)から5曲が演奏された。現在も使われているゲームオリジナルのGIファンファーレも、フルオーケストラアレンジに……。実際に競馬場で流れるファンファーレも、その演奏は管楽器だけであり、競馬を知っている人は「こんな豪華なファンファーレがあるのか!」と本物よりも豪華な演奏に驚かされていたようだ。
そして舞台は“オムニバス”コーナーへ。かつて『信長の野望』、『三國志』とともに“歴史三部作”とよばれた『蒼き狼と白き牝鹿・ジンギスカン』(1987年発売)や、『水滸伝・天命の誓い』、『維新の嵐』(ともに1988年発売)といった1980年代の名作たち、いまでも根強いファンを抱える『太閤立志伝』(1992年発売)、『決戦III』(2004年発売)といった戦国作品から1曲ずつ演奏された。プレイステーション2で発売された『決戦III』を除き、これらの作品は『シブサワ・コウ アーカイブス』としてSteamで配信中なので、興味のある方は遊んでみてほしい。
トークコーナーを挟み、ここからいよいよ後半戦へ。“OLIVE WIND『大航海時代』”というテーマで、初代『大航海時代』(1990年発売)から菅野よう子氏作曲の5作品が演奏された。戦いがテーマとなり、勇壮さや重厚さを演出した曲が多い歴史シミュレーションのBGMと異なり、ヨーロッパを軸に海洋を舞台とした“冒険もの”であるこの作品のBGMは、どこか心を癒やす要素が入っていたり、ロマンチックな曲調のものが多い。それらを奏でるギターやマリンバといった楽器の心地よい音色に、会場もしばし聞き惚れていた。
そしてクライマックスである『信長の野望』シリーズのコーナーでは、一節笛や二胡、尺八、篠笛に太鼓と、多彩な楽器がゲストとともに登場。尺八と篠笛のデュオなど、戦国時代をテーマにした楽曲ならではの演奏も行われた。さらに、織田信長が愛した「人間五十年~」の節でも有名な幸若舞の演目『敦盛』が、源光士郞氏によって演じられる。実際に信長が愛用したとされる“陣太鼓”を使い、古武術などの武士文化と和楽器による演奏を組み合わせた“武楽”によるダイナミックな舞で会場を沸かせていた。
じつに2時間半にも及んだコンサートだったが、ただゲーム音楽をオーケストラで再現するだけではなく、ゲームが生み出してきたさまざまな文化の形を、音と、そして武楽とのコラボレーションなどで視覚的にも表現した、ふたつの意味で意義あるものになった。しかし、シブサワ・コウの35年間を彩る音楽はまだまだ豊富に存在する。ファンにとっても、また違ったレパートリーの公演を観たいという気持ちもあるだろう。また別の形でこういったコンサートが実現されたら、うれしい限りである。
セットリスト
・オープニング
Overture ~信長の野望~ (『信長の野望・全国版』)
・三國志
桃園の誓い(『三國志』)
黄河~揚子江(『三國志』)
魏のテーマ、呉のテーマ、蜀のテーマ(『三國志II』)
英傑決起(『三國志III』)
劉備のテーマ(華龍進軍)(『三國志V』)
続貂(『三國志X』)
・三國志13
猛き荒波の如く
桃園の誓い
燦爛たる時代
宿命を告げる鐘
波濤天剋~幕開け~
・ウイニングポスト
オープニング ~What A Wonderful World!!~
愛馬と共に ~二頭五脚~
関東GIレース
勇姿堂々と ~栄光の本馬場~
エンディング ~凱旋門賞制覇~
・オムニバス
夢の旅人(『蒼き狼と白き牝鹿・ジンギスカン』)
武田軍のテーマ(『決戦III』)
無頼の宴(『水滸伝・天命の誓い』)
龍馬(『維新の嵐』)
回天(『太閤立志伝』)
・OLIVE WIND『大航海時代』
セイレンの歌
Opening オープニング~果てしなき航海~
Olive Wind
A SYMPHONY OF PIRATES
SEVEN SEA
・信長の野望
オープニング曲(『信長の野望・大志』)
最終決戦(『信長の野望 Online』)
オープニング ~群雄決起~(『信長の野望・群雄伝』)
狼煙(オープニング)(『信長の野望・武将風雲録』)
毘の旗幟 上の巻(上杉謙信のテーマ)(『信長の野望・武将風雲録』)
・交響詩『信長の野望・全国版』
Overture ~信長の野望~
現世夢幻
敦盛
天下攻防
賛歌
蒼い朝