『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』は3つのコンセプトと、逆算、そして“顕在化していない声”から生まれた【CEDEC 2017】

CEDEC 2017会期2日目に行われたセッション“Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライトを支える、“非常識”な企画術。”をリポートする。

●「マシュのマシュがマシュマシュで」はこうして生まれた

 2017年8月30日~9月1日の期間、パシフィコ横浜で開催されている、日本最大級のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2017”。会期2日目に行われたセッション“Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライトを支える、“非常識”な企画術。”の内容をお届けする。

 改めて『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』(2017年冬配信予定。以下、『FGO VR』)について説明すると、本作はTYPE-MOONが贈るFateRPG『Fate/Grand Order』から生まれた、Fateシリーズ初のVR作品。2017年3月に行われたAnimeJapan 2017での先行体験会では、2日間で約2000人がプレイし、現在では5000人以上が体験。体験者からは多数の絶賛の声が寄せられている。

 今回行われたセッションは、『Fate/Grand Order』での事例をもとに、“これからスマホコンテンツをVRへ展開していく上で知っておくべき“非常識”な企画術”を通して、企画ノウハウ、VRならではの体験のつくりかたを伝えるというものだ。

▲ディライトワークス FGO PROJECT クリエイティブディレクター
塩川洋介氏

 本講演で登壇したのは、ディライトワークス FGO PROJECT クリエイティブディレクターの塩川洋介氏。塩川氏は「今日はVRについての話をしますが、『FGO』の開発・運営を支えるとある秘密が隠されている」と言う。セッションでは、『FGO VR』を作成するうえで考えた、3つの非常識なコンセプトを紹介し、その話を通じて、どんなゲーム制作にも役立つヒントを与えたいと述べた。

●(1)特別な日常

 VRコンテンツを作ろうと話があがり、ゼロから企画を立ち上げることになった『FGO VR』。そこで塩川氏がまず考えたのは、“誰に遊んでもらうか(ターゲット)”だ。ターゲットは、もちろん全『FGO』ユーザー。『FGO』を題材にしたVRだから、『FGO』ユーザーをターゲットにするのはあたりまえではあるが、じつはこれがとても難しいことだった。なぜなら、『FGO』のユーザーはスマートフォンゲームのユーザーであり、さらに、「スマートフォン向けゲームでは『FGO』しかプレイしない」というユーザーも多く存在したからだそうだ。この、スマートフォンゲームのユーザー(ターゲット)に向けて、スマートフォン以外であそぶ『FGO』を企画・立案するのは難しい問題だ。そこで塩川氏は、この問題をふたつのポイントで乗り越えることにした。

1:全マスターが遊べる
 すべてのユーザーが、等しく遊べる状況を作りたい。そこで、全『FGO』ユーザーが手に入れられるメインヒロインでサーヴァントの“マシュ”をフィーチャーすれば、ビギナーでもヘビーユーザーでも遊べる内容になるだろうと考えた。

2:全マスターが遊びたくなる
 すべての『FGO』ユーザーに遊びたいと思わせるため、VR空間で“パーソナル・トレーニング”をすることにした。なぜ“パーソナル・トレーニング”に絞ったのかというと、マスターとマシュがトレーニングをしていたかもしれないという一コマを切り取った礼装“パーソナル・トレーニング”が『FGO』で登場し、まさにユーザーの妄想を叶える題材にピッタリだったとのこと。また、『FGO』のバトルや世界観をVRで体験するよりも、より現実的かつ日常的なシチュエーションにしたほうがよいと考えたそうだ。

 つまり、マスターにとって親しみのあるマシュとともに、『FGO』の中では体験できない特別なシチュエーションを実現すること(VR空間で、マスターとなったマシュと過ごす日常感と特別感)が、スマートフォンユーザーをVRコンテンツに引き込むうえで重要であるとし、“特別な日常”をコンセプトに掲げて、ゲームを作ることに至ったのだ。

 ここまでの話のまとめとして、“特別な日常”は“居心地がよいVR”であると塩川氏は説明する。それは、「特別なことをしているけれど、日常的である」ということだ。一見矛盾しているようにも思えるが、「『FGO』で日常的に接するマシュと、パーソナル・トレーニングをする」という特別な出来事は、“特別な日常”というコンセプトをクリアーしているだろう。特別感と日常感を両立することで、「この空間に居続けたい」と思えるようにしたと、塩川氏は述べた。

●(2)マシュ詣

 『FGO VR』はこれまで、各地で実施されているイベントで体験会を開催している。その数6回で、今後も配信開始までは体験会を順次開催する予定だ。なぜこれだけの回数を実施しているのかというと、「『FGO VR』は体験会を想定した企画だった」と塩川氏は明かす。さらに、各イベントの目玉展示として機能しなければならず、「ただイベントに出展すればいいだけではないのかと思われるが、とても難しい問題だった」と当時を振り返る。

 そもそも、『FGO』ユーザーはスマートフォンでマシュに毎日会えるが、「イベントに足を運んでまで「VRでマシュに会いたい」と思わせるには何をするべきか」という問題に直面したとのこと。この問題で出た答えは、“会いに行った人だけが味わえる特別感”と、“会いに行くイベントごとに、演出を”だった。

 まず、2017年1月に公開されたティザー映像では、情報の露出を控えめにしている。これは、実際にプレイしないとコンテンツの内容を把握できないよう、露出される情報内容に注意したため。プレイするまでの期待感や高揚感を生み出すような、“マシュに会いに行くまでの過程も楽しめるよう”、意図的に情報の露出を抑えているのだ。塩川氏はこれを、「会いに出かけたくなるVR」とまとめている。

●(3)5秒に1マシュ

 「会いに出かけたくなるVR」を目指して作製された『FGO VR』だが、それだけではいけないと塩川氏。なぜなら、体験者がシェアできるものがないからだ。「VRは体験しないと分からない」とよく言われるため、なかなか感想などがユーザーから発信されない。塩川氏はこれを克服するために、「5秒に1マシュ」というコンセプトを掲げている。

 これは、プレイ中5秒おきに小ネタを見せるよう、事細かに設計した手法。例えば、目の前で生着替えをしたり、バランスボールでトレーニングしたり、さらにはマシュが接近してドキドキしてしまうなどが挙げられる。ほかにも、コマンドカードのデザインはVRでしか見られないオリジナル版で、クローゼットの中には聖晶石もあるのだ。とにかく、5秒おきにネタを見せるため、事細かにゲームデザインが設計されている。この「5秒に1マシュ」を体験したユーザーからは、「マシュのマシュがマシュマシュで、どうにかなりそう」、「なんかもう……いろいろすごかった!」というステキなコメントが寄せられたそうだ。

 塩川氏は、「こういった感想が出るであろうと逆算して、見せかたを設計した」とし、「5秒に1マシュ」は“声に出して言いたいVR”であるとまとめる。『FGO』ファンがよろこぶネタをたくさん詰め込むことで、感想をコミュニティでシェアしたいと思わせるのが、本作なのだ。

 “居心地がよいVR”、“会いに出かけたくなるVR”、そして“声に出して言いたくなるVR”。これら3つの要素を持っているのが、『FGO VR』だ。この要素はVRを作るうえであたりまえのことではあるが、まだユーザーにこれら要素を届けられていないVR作品はたくさんあると、塩川氏は言及する。

 また、『FGO VR』には『FGO』の開発も支える、ある秘密があるという。それは、ふたつのタイトルに共通する“顕在化していない声に答える”ということだ。

 「こういう要素がほしい」、「もっとキャラクターを増やしてほしい」など、顕在化された声に答えることで“納得を生む”と塩川氏。しかし、“顕在化していない声”に答えると、“爆発を生む”というのだ。

 たとえば、先日『FGO』でオマケの無償石が1.5倍になり、大反響を得ている。この施策は、ユーザーの意見を反映したものではないし、有料アイテムの事実上値下げにはなるが、結果的に多くのユーザーがたくさんプレイすることになった。

 ほかにも、2017年4月1日にリリースした『FGO GO』や本作『FGO VR』も、“顕在化していない声に答える”ことで生まれたものであると塩川氏は語る。

 最後に塩川氏は、「“顕在化していない声”を探そう。その声を探して実現することで、非常にゲームはおもしろくなっていく」と語る。“顕在化していない声”は、邪念があると見つけられないとのこと。塩川氏は、「ディライトワークスの開発理念である“ただ純粋に、おもしろいゲームを作ろう”という素直で純粋な気持をもって突き詰めていくと、顕在化されていない声を探せる」と述べ、セッションを締めくくった。