ぶっ続けで一気に遊ぶのを推奨

 Fullbrightのアドベンチャーゲーム『Tacoma』を紹介する。本作はSteamやGOG.comなどで日本語に対応したPC/Mac版が日本時間の8月2日9時ごろより配信予定。参考までにSteamでの定価は1980円となっている。
 なお海外ではXbox One版も配信予定で、Fullbrightによると少なくともローンチ時点では正式な日本での配信は行われないものの、北米版やヨーロッパ版などに日本語ローカライズは収録されるとのこと。

 2088年、あなたは作業員エイミー・フェリアーとして、宇宙開発企業ヴェンチュリスの所有するステーション“タコマ”にたどり着く。ヴェンチュリスによって指示された業務は、ステーションに残されたデータとコントロールAI“ODIN”(オーディン)のハードウェアの回収だ。
 しかしそこにはなぜかクルーの姿はなく、何か不測の事態が起こったことがうかがわれる。果たしてクルーはどこに行ったのか? まだステーションのどこかにいるのか、あるいは既に離れたのか? そして彼らは生きているのか、もしや死んでいるのか? あなたは作業の過程でその真相を知ることになる。

“過去進行形の物語体験”

 本作はスタジオにとって、3Dアドベンチャーゲーム『Gone Home』に続く第2作。同作は“誰もいなくなった実家を探索していくうちに、残された手紙などから真相を知る”という間接的なストーリーテリングが高い評価を受けたが、本作ではSF設定を利用して、さらにそのスタイルを進化させている。

 そのコアとなるのが、ステーションに断片的に残されている3次元ARデータ。クルーの音声や身体の位置が空間的に記録されており、再生すると実際当時そこにいた場所にクルーのシルエットが浮かび上がり、やり取りを正確にプレイバックしてくれる。早送りや巻き戻しも自由自在だし、クルーが目の前でARデスクトップを開いていた時は、その時に見ていたデータを発掘し閲覧できることもある。

『Tacoma』宇宙ステーション“タコマ”から消えたクルーに何があったのか? 『Gone Home』のスタジオによる新作アドベンチャーが日本語入りで登場_01
▲ARデータはクルーのシルエットと音声、彼らが使うARデスクトップの情報を記録。再生は任意に一時停止・巻き戻し・早送りが可能。視界に3次元的にオーバーレイされるので、まるでその場に居合わせているかのように、移動するクルーの後を追ったり、背後に回り込んで何を見ていたかを察することができる。
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▲また専用ガジェットを使ってクルーの視界にAR情報を重ね合わせているという設定なので、セカイカメラ的な空間アイコンはもちろん、この画像の「オペレーション」のように、標識や掲示物、手に取った手紙、その辺に落ちているものに書かれた説明なども、翻訳された日本語テキストがオーバーレイ表示されるという仕組み。これ、リアルライフで欲しい。

 『Gone Home』の物語は、“結末”に関与できず、後から追っていくしかない、おいて行かれたような寂しいトーンを持っていた(実際に実家に帰ってきたかと思えば家族において行かれていたわけだが)。この寂しさは、現在時点から出来事が起こった時点までの一種の距離感でもある。

 一方、あなたが『Tacoma』で見聞きする重要な物語要素の多くは、『Gone Home』と同じく数日前にすでに起こったことであり、その結果を変えることはできない。違いは、今回は目の前でいまそれが起こっているかのようにバーチャルに居合わせることができるということ。『Gone Home』を過去形の物語体験と呼ぶことができるならば、この『Tacoma』は“過去進行形で体験する物語”なのだ。

より複雑に、多層的になった物語

 そして、それが目の前で起こり、自在に再生できるだけに、臨場感の一方でこの妙な寂しさは強まる。例えば目の前でキャラクター同士のすれ違いが起こっても、幽霊のような傍観者にすぎないプレイヤーにそれを止めることはできず、巻き戻してそれぞれがその直前にどんなものを見ていたかや、別の人とどんな会話をしていたかを辿って、その立場や考えの違いを知れるというだけ。これはこれでそう発言した意図などがわかって面白いのだが、詳しくなった分だけ、無力さが際立つ。

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▲あるクルーのARデスクトップの内容を発掘。こうしたサブテキストで発言の背景にある事情などがわかっていく。

 しかし、逆にそうであるからこそ、何かいいことがあった時は「そうだ、それでいいんだ」と、わがことのように嬉しい。また、シルエットは各個人固有のカラーとアイコンで簡単に見分けられるようになっているので、各自のパーソナリティと色が紐づけされて記憶されるのも面白いところ。名前を覚えきれなくても「緑は確かこういう家庭事情があったよな」とか、「もしかしてこの色の人とこの色の人は単なる仲のいい同僚以上のものがあるのでは……」と、物語に入っていける。その上で各自の個室に残された写真などを発見すると、より印象が強く刻まれる。

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▲クルーが幸せな様子を見るとひときわ嬉しい。

 そういった感じに、『Tacoma』では『Gone Home』よりも物語としての複雑性が増し、プレイヤーの感情への作用もより深くなっているように感じた。
 ちなみにプレイは2時間で大体の要素を拾いきれるんじゃないかと思う。本作ならではの微妙な点としては、より背景を知るための謎解き要素として鍵を探したり、暗証番号を入手するといったものがあるのだが、前者は大体同じような場所にあり、後者は“大体ARデータの中でそこを通る人物がいるので、開けるシーンを再生して入力する番号を盗み見ればいい”といった具合に、あまりひねりがないことだろうか(まぁ謎解きが本筋ではないということなのだろうが、もうちょっといろいろあっても良かったと思う)。

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▲暗証番号を知りたかったら、それを知ってる人が入力するのを盗み見ればいいんである。

 また『Gone Home』にあった「値段の割に短い」とか、「これはゲームと言えるのか」といった声は本作でもあがるだろうが、それが妥当かどうかは人によるだろう。個人的には映画のように2時間のギュッと詰まったインタラクティブな物語を体験できたので満足といったところ。できれば中断なしでぶっ続けで遊ぶのをオススメしたい。