エッジの効いた良質なインタラクティブドラマ

 2017年7月11日、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア(SIEJA)が開催したメディア向け体験会にて、Quantic Dreamが開発を手掛けるプレイステーション4用アドベンチャーゲーム『Detroit Become Human』をプレイする機会を得た。残念ながらE3 2017に出展されていたものと同様の内容であり、英語版でのプレイとなったが本稿にてインプレッションを述べたい。とはいえ、概要を解説する趣旨のものではないので、ゲームの基本情報については、PlayStation.Blog《⇒こちら》を参照してほしい。

 『Detroit Become Human』をプレイして目を見張ったのは以下のふたつだ。

独特の鋭い空気感と演出の間の取り方
ゲーム初心者から上級者までが満足する間口の広さ

 まずは独特の鋭い空気感について述べよう。今回プレイできたのは捜査官である男性型アンドロイド、コナーを操作するシチュエーションだったため、筆者が感じた空気感はコナー操作時に限られたものかもしれない、ということを最初に述べておく。プレイ開始からしばらくののち、心地いい既視感に襲われた。頭に浮かんだのは、英国グラナダTV製作のテレビドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』。『シャーロック・ホームズの冒険』は、ヴィクトリア時代のイギリスの風景を正確に再現した、全編に漂う華やかでありながらどこか退廃的な空気感が印象的な、いまでも語り継がれている名作ドラマである。『Detroit Become Human』における近未来世界の徹底した作り込みと、人間とアンドロイドの共存する社会というディストピア、そしてコナーの決して無表情ではないものの、アンドロイドだからこその冷静で厳格なたたずまいは『シャーロック・ホームズの冒険』で描かれた世界、ホームズを演じた俳優ジェレミー・ブレットの演技を彷彿とさせた。

『Detroit Become Human』プレイインプレッション 唯一無二の鋭い空気感_01

 また、筆者の心の琴線に触れたのが『Detroit Become Human』の独特な演出の間の取り方だ。意味がありそうな物。そして、それに対してリアクションを行うコナー。カメラの構図、コナーの仕草、対象を手に取るまでの独特の“間”。この一連のシチュエーションは非常に意味深で、プレイヤーをいい意味で疑心暗鬼にさせる。さらには、後述する右アナログスティックのアクションが絶妙で、手に取るのか、取らないのか、プレイヤーの心情が操作に直結されるものとなっている。演出の間が本作独特の空気感を増幅させ、エッジの効いた良質なインタラクティブドラマを生み出しているのだ。

『Detroit Become Human』プレイインプレッション 唯一無二の鋭い空気感_02

 そのほか、プレイヤーの選択による物語の変化に絶対の正解がないということも特筆すべき要素。たとえば、少女を人質にとったアンドロイドの説得に失敗しても物語は進む。少女のみが助かる展開もあれば、アンドロイドと少女が助かる展開もある。どの展開でもゲームオーバーにはならず、プレイヤーの行動とその結果によって物語は紡がれていくのだ。「この選択でいいのか?」。プレイヤーを悩ませる豊富な選択肢は、ドラマに奥深さを与えている。なお、本作の開発を率いるDavid Cage氏はE3 2017開催中に放送された“YouTube Live at E3”に出演した際、1年をかけて脚本を書き終えたこと、脚本は2000ページ規模に達していることを明らかにしている。ページが多ければいい脚本になるというわけではないが、それだけの物語分岐があるという証明となるだろう。

『Detroit Become Human』プレイインプレッション 唯一無二の鋭い空気感_03
『Detroit Become Human』プレイインプレッション 唯一無二の鋭い空気感_04

 続いて、間口の広さについて。目の肥えたプレイヤーは、背広の網目や質感まで見てとれるグラフィック、そしてシームレスなゲーム展開とキャラクターの表情の自然さに息を飲むことだろう。背景にいたるまでパーツが徹底的に作り込まれており、またそれらが高水準のクオリティーで統一されているため、没入感を高度なレベルに押し上げている。このグラフィッククオリティーの高さは、ふだんゲームを遊ばない人にとっても注目に値する要素であり、なにより本作は『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』、『BEYOND: Two Souls』の流れを汲んでいるため、複雑な操作を要求されることがない。体験したVer.では、左アナログスティックでの移動、そして右アナログスティックやボタン、タッチパッドを画面の表示に従って直感的に操作するだけとなっていた。左アナログスティックによる操作では、入力時間に応じてコナーがアクションを行うので、主人公との一体感をより強く感じられる。また、現場の状況から過去の出来事をシミュレーションできるプロファイリングは、斬新かつ未来感に富んでおり、ゲームだからこその体験が味わえるものとなっている。プロファイリングによってゲーム進行に影響を与える重要な情報を入手できることもあり、前述した没入感との相乗効果で、老若男女問わずドラマの主人公になったような感覚に包まれることだろう。一見すると『Detroit Become Human』は“ゲーム上級者以外お断り”と思われがちだが、このような間口の広さのあるタイトルだということを強くお伝えしておきたい。

『Detroit Become Human』プレイインプレッション 唯一無二の鋭い空気感_05

 予想以上の衝撃を受けたため、計らずもインプレッションをお伝えすることになったが、残念ながら『Detroit Become Human』は国内発売の発表はされているものの、発売日は現時点では未定となっている。国内発売日の正式なアナウンスを楽しみにして待ちたい。

■E3 2017 Trailer(マーカス篇/ 日本語吹替版)

■Paris Games Week 2015 Trailer(カーラ篇/ 日本語吹替版)

■E3 2016 Trailer(コナー篇/ 日本語吹替版)