57社95人のゲーム業界関係者が参加
ゲームの翻訳・ローカライズ、パブリッシングなどを手掛ける企業アクティブゲーミングメディアが主催する、ゲームソフトの海外展開セミナーが、2017年6月20日、東京渋谷・渋東シネタワーABルームにて開催された。同社が主催するセミナーは、これが初めて。セールス部部長の中西一彦氏によれば、ゲームソフトの海外展開に関する問い合わせが多くのゲームメーカーから寄せられていたため、情報共有の機会として企画されたとのこと。当日は、招待された57社95人のゲーム業界関係者が詰めかける盛況ぶりだった。
セッション1:ローカライズについて
最初のセッションでは、アクティブゲーミングメディアサービス部部長・ローカライズ担当のフランチェスコ・チョッフィ氏を中心に、ゲームソフトのローカライズの概要と、それにともなう実作業が紹介された。
「言語の翻訳はローカライズ作業のひとつに過ぎません」と語るフランチェスコ氏は、海外展開を前提としたタイトルを手掛けるパブリッシャーに向けて、注意してもらいたい4つのポイントを説明。【1】対象国のゲーマーの性質を意識したコンテンツになっているか? 【2】対象国の文化的・宗教的・政治的に容認されるものになっているか? 【3】ゲームシステム自体が対象国のユーザーに受け入れられるものであるか? 【4】対象国の通信環境、端末でスムーズにプレイできるか? について、アクティブゲーミングメディアが実際に経験した事例を交えつつ、丁寧に解説した。
続いて、ゲームソフトの開発からリリースまでの一連の流れにおける具体的なローカライズ関連の作業が説明された。“ゲーム開発”時は、ソースコードの全テキストをストリング化するなどのローカライズしやすい開発環境の構築と、各言語によって必要なテキストスペースを考慮したUIの設計、“翻訳”時は、事前のファミリアライズ(開発チーム全体での情報共有)や、テキストのはみ出しや組み込み忘れなどをチェックする校正といった作業が欠かせないことが強調された。校正が不十分だったことによる失敗例として、フランチェスコ氏は、アクティブゲーミングメディアが過去に翻訳のみの依頼で請け負ったフランス向けゲームアプリについてのエピソードを披露。パブリッシャーが依頼した開発会社のミスで、“ログインボーナス”を意味するフランス語“BONUS DE CONNEXION”が、画面の表示スペース内に収まりきらず、“BONUS DE CON=アホのボーナス”と表示されてしまったため、ユーザーから大量のクレームが寄せられたという。ローカライズ工程の些細なミスによって、ゲームのイメージが挽回不能なほどに悪化するケースとして、セミナー参加者に印象づけられた。
そのほか、ゲームが完成してからの作業として、対象国向けの各種プロモーション展開を紹介。リリース後のサポートに関しては、クレームに対応するだけの“パッシブカスタマーサポート”だけでなく、寄せられたクレームや意見をまとめ、運用に有利な情報をユーザーに共有する“アクティブカスタマーサポート”を行うことの重要性が語られた。
アクティブゲーミングメディア・セールス部海外事業開発担当の朴英梅(パク ヨンメ)氏からは、 対中華圏マーケットのビジネスを2年半間やってきた上での知見が披露された。政府によって大規模なネット検閲が行われている中国では、Google Playが利用できない代わりに、1000近くの独自のAndoroidプラットフォームが乱立しているという。その中からどのプラットフォームを選ぶべきかといったことや、また、中国内の動画・ネット生放送の配信者を利用したプロモーション展開についてが、大まかに語られた。2016年時点で7000~8000億円市場になっているといわれる中国の動画・生放送サービスでは、“網紅(ワンホン)”と呼ばれる人気ネット配信者たちをいかに確保し、契約を結ぶかが、プロモーションの成否を左右するという。日本国内でも似た状況はあるものの、中国ではその傾向が一層強いことが浮き彫りにされた。
セッション2:Steam攻略法
アクティブゲーミングメディアのゲーム部部長であり、国内PCゲームプラットフォーム“PLAYISM”の運営リーダーである水谷俊次氏からは、米Valve社が運営する世界最大のPCゲームプラットフォーム“Steam”上でのセールスアップ法が、「2017年6月現在時点での」との注釈つきで紹介された。
2013年にGreenlight(※Steamユーザーの反応によってストアリリースの可否が決定するシステム)が始まって以降リリースタイトルが急増し、現在では1日に約20の新規タイトルがリリースされているSteamストア。2017年6月13日から新プログラム“Steam Direct”が始まったことで、さらなる激化が予想されるが、水谷氏は、現在のSteamのシステムを「売れているものがさらに売れるシステム」と分析。その上で、Steamのアルゴリズムが何を判断材料にして、トップページのディスカバリーキューや各タイトルページのおすすめフィードに掲載するタイトルをセレクトしているかを知ることの重要性を説いた。具体的な対策として挙げたのは、各タイトルの特徴をあらわす“タグ”を自社で設定することや、バナークリエイティブを見直すことなど、ごく基本的な内容。しかし、そういった地味かつSteamのルールに反しない“正攻法”をしっかりこなすことこそが、コンバージョンの母数となるストアページ閲覧数を増やす最善の方法であると語った。また水谷氏は、Steamストアの見え方がアカウントや表示言語、閲覧する国によって変化することについても言及。バナーの言語別切り替えや、言語別のストアページの用意、国別のプロモーション映像の作成によって、より広いユーザー層にリーチする可能性を示唆した。
「個人でもSteamストアに登録しやすくなった現在において、パブリッシャーであるアクティブゲーミングメディア(PLAYISM)がどのような役割を果たせるのか?」という点について、水谷氏は「何歩か進んだところからのプロモーションができます」と、2013年の『LA-MULANA(ラ・ムラーナ) 』(NIGORO)を皮切りにインディーゲームのSteamパブリッシングを手掛けてきた実績に基づいた施策を紹介。各国言語のネイティブサポートや、バンドルのコーディネート、そして、Valve社との直接交渉などを挙げ、「パブリッシャーに任せることで、自分たちのソフトの可能性を広げるのも悪い選択肢ではないと思います」と締めくくった。
合計約1時間半のセッション終了後には懇親会が催され、セミナー参加者が登壇者に直接質問する様子も見られた。こうしたセミナーが今後、個人・小規模チームのデベロッパー向けに行われるかは未定とのことだが、Steam展開に関する情報が“先駆者”によって共有されていくことで、国内シーンがいっそう活気づくことは間違いないだろう。