『紅蓮のリベレーター』開発時の裏話を直撃

 次期拡張パッケージ『紅蓮のリベレーター』には、新たにお目見えするジョブの衣装や、はじめて目にするフィールドの景色など、見た目の面においても未体験の世界が待ち受けている。そうした視覚的な部分において、今回の拡張パッケージにはどんな見どころが用意されているのか……。そんな疑問を解決すべく、グラフィックスやモーションの制作に直接携わられたおふた方にインタビューを依頼。水中を表現することの技術的な難しさから、新規ジョブ制作時の裏話まで、幅広くお話をうかがった。

※『FFXIV』開発者インタビュー第1弾 シナリオ編の完全版はコチラ!

新ジョブや新フィールドのグラフィックス秘話!『FFXIV』開発者インタビュー第2弾【完全版】_08
新ジョブや新フィールドのグラフィックス秘話!『FFXIV』開発者インタビュー第2弾【完全版】_09
▲リードアーティスト の鈴木健夫氏。
▲リードアーティスト の市田真也氏。

鈴木氏は当初『DQX』の制作も兼務していた

──おふた方は、『FFXIV』のどの部分の制作に携わっておられるのでしょうか?

鈴木健夫氏(以下、鈴木) グラフィックの業務自体は、キャラクター、アニメーション、VFX(視覚効果)、カットシーンなど多岐にわたるものですが、我々がそれら全体を統括する立場です。市田は、バトルコンテンツのモンスターやキャラクターの見えかたに注力しています。『紅蓮のリベレーター』でいえば、新規ジョブのチェックも担当しています。自分はフィールドやカットシーンのほうの確認などがメインです。

──『FFXIV』の開発に参加した経緯を教えてください。

鈴木 『FFXIV』チームに参加する前は、『FFXII』を制作していました。それを作り終えたのが、ちょうど『ドラゴンクエストX オンライン』と『旧FFXIV』のふたつのプロジェクトが進行しはじめたころです。自分はもともと『FFXII』当時はアニメーターで、アニメーションのデータを作るためのツールや、データ管理の仕組みなどを担当していました。

──なるほど。

鈴木 そうしてつぎのMMORPGを制作するに当たり、「いろんな種族が登場したり、それぞれの個性が明確になるモーションをデータとして持てたり……そういったところをやってほしい」という話を受けて、『ドラゴンクエストX オンライン』と『旧FFXIV』を兼任することになりました。そこからだんだん『旧FFXIV』をちゃんと作らないと、という流れになり……あとは皆さんがご存じの通りです(苦笑)。

──鈴木さんは、『旧FFXIV』時代から制作に参加しておられたのですね。

鈴木 そうです。そこから吉田(吉田直樹氏。プロデューサー兼ディレクター)が入ってきて、「(『旧FFXIV』の運営を継続しつつ)『新生エオルゼア』でいっしょに立て直しましょう」となったわけです。それまで自分はアニメーションだけをチェックしていたのですが、このタイミングからBGやカットシーンなど、ほかの分野の統括も行う役回りになりました。

──市田さんは、『FFXIV』のどのあたりをご担当されているのですか?

市田真也氏(以下、市田) とくに、バトルコンテンツ周辺のグラフィックスのチェックを担当しています。『紅蓮のリベレーター』でいえば新ジョブ、インスタンスダンジョン、蛮神討滅戦あたりですね。演出の方向性を決めたりですとか、グラフィックス的に見せたいものについて企画側と折り合いをつける……といった感じの業務になります。

──これまでに、どんなタイトルを手掛けてこられたのでしょうか?

市田 『FFXIV』の前は、『フロントミッション』シリーズでアニメーションを制作していました。入社したころでいえば『FFVIII』や『キングダムハーツ』あたりにも携わり、『フロントミッション』シリーズに加入した感じです。そうした一連の部門でさまざまな規模のプロジェクトを学んだ後、その経験を活かして『FFXIV』の開発に参加しました。

──比較的自由に、部署やプロジェクトを移れるものなんですね。

鈴木 あまり自由ではないです(笑)。当時は、ちょうど『フロントミッション フィフス~スカーズ・オブ・ウォー~』や『FFXII』の開発が終了して、『FFXIII』や『FFXIV』といったつぎの大型プロジェクトに力を入れなければならない時期だったせいもあると思います。『FFXIV』のモーション部門に関していえば、『FFXI』、『フロントミッション』シリーズ、『FFXII』を開発していたスタッフが集結した感じです。

──市田さんは、『フロントミッション』シリーズのどのあたりを作ってらっしゃったんですか?

市田 『フロントミッション フォース』、『フロントミッション フィフス~スカーズ・オブ・ウォー~』、『フロントミッション オンライン』の3本です。

鈴木 『FFX』の開発が終わった後に『フロントミッション』シリーズに参加した、みたいな流れですね。

市田 『FFX-2』の制作が終了したくらいの時期だったと思います。

水中ではいままでにない景観が楽しめる

──『蒼天のイシュガルド』当時と比較して、『紅蓮のリベレーター』の制作で何か変わったことはありましたか?

市田 『蒼天のイシュガルド』は初の拡張パッケージということもあり、「どんなのが来るのだろう」みたいな感じで、プレイヤーの方々もワクワクしながら楽しんでいただけたと思います。その第2弾として『紅蓮のリベレーター』が発売されるわけですが、皆さんはある程度(中身や規模の)予測ができていると思います。そういったなかで、どれほど新たな驚きをもたらせるか……いい意味で期待を裏切る、ものすごいアピールになる要素が必要だろうと思いました。

鈴木 どちらかといえば、自分は演出よりも作りかたのほうに目が行くので、ベースそのものは前回と変わりません。ですが『紅蓮のリベレーター』の場合は、最初のコンセプトとして「潜りたい」という依頼が来たので、その部分がすごく変化を感じたところです。潜水くらいならすぐ実現できると思われるかもしれませんが、最初の部分(の仕組み)をどう作ればいいのか……といったところにすごく悩みました。

──水中を作るのもたいへんそうです。

鈴木 新しいフィールドを足すだけであれば、これまでと同じような作りかたができます。ですが潜水中はプレイヤーの行動が変わるため、当然ながら遊ばせかたも変化するわけです。そこがとても難しくて……。『蒼天のイシュガルド』との違いは、そこですね。

──開発作業は楽しかったですか?

鈴木 苦しかった思い出しか……(苦笑)。ほぼ、つらい記憶しかありません。

──素人目には、飛ぶことと潜ることはさほど違いがないように見えますすが、制作面ではだいぶ変わるんですね。

鈴木 自分は背景を中心に担当しているので視覚的なお話になりますが、空の作りは基本的に地上と同じです。空から地上を見下ろしたときに、グラフィックス面で破たんが起きない工夫を考えることが重要になります。(空中の)絵作り自体は地上と同じように進められるので、その部分は楽です。

──一方で、水中はそうもいかないと。

鈴木 これが水中になると、水の中を一式丸ごと作る必要が出てきます。(地上と水中の)絵の切り替えをどうやって行うべきかというところからスタートして、ここがまた……楽しかったです(苦笑)。

──あまり楽しそうな表情に見えません(笑)。

鈴木 ゲーム体験として、水の中と陸地にいるときの違いが必要になってきます。それを実現するために必要な水の濁りの表現ですとか、深度によって光の届きかたが変わるような雰囲気を作っていくのがたいへんでした。

──そうなんですね。

鈴木 水中という空間をしっかりと構築したうえで、マップジャンプのようなローディングが発生しない作りにも注力しました。プレイヤーの方に、なるべくシームレスに水中と地上を行き来する体験をしていただきたかったので、そこも難しかったところです。

新ジョブや新フィールドのグラフィックス秘話!『FFXIV』開発者インタビュー第2弾【完全版】_01
▲フィールドとは大きく作りの異なるもうひとつの“箱庭”として、水中が用意されたのだ。

──フィールドと同様に、水中にも見た目的な変化はあるのでしょうか?

鈴木 水中で採集活動ができるほか、クエストを通じて訪れる街があったりもします。見た目的にも海、川、湖ごとに絵作りを変えたりしています。

──街というのは、トレーラームービーに登場したあの竜宮城のような建物ですか?

鈴木 ちょっと不思議な海底都市みたいな感じです。

──海域に応じて、グラフィックス面で見せかたが変わるのでしょうか?

鈴木 色味、奥行き感、植生などの違いがあります。せっかくいろんな場所で潜れるからには、違った体験をしていただきたいですので。

──作りとしては、フィールドと完全に違うエリアという感じですか?

鈴木 たとえば地上では晴れから曇りに変わるときに、空の雲がだんだん増えてきますよね。そうした環境の変化に関して、水中はまったく新しい作りかたになっています。また水中で底を見ると、濁りなどが影響して下が見づらくなるんですが、それを表現するためにフォグという霧のような効果も用いています。

──さまざまな技術が使われているわけですね。

鈴木 地上では、どこから見ても霧の見た目は変わりませんが、水中の場合は見る角度によってグラデーションの度合いが違ってきます。そうした水中向けの機能は、いくつか足しました。

──冒険者が水中の深い場所に進むにつれて、あたりが暗くなっていく感じですか?

鈴木 そうですね。イメージ的には、だんだん深海に潜っていくと光るが届かなくなる……そうした演出も楽しめると思っていただければと。

──水中深くまで潜れるようになっているんですか?

鈴木 データの作り的には、水面をゼロメートルに設定した場合、空中と同様に1キロメートルくらい下まで潜れるように作れます。とはいえ、そこまで深く潜らせるポイントはほとんどありません。物語の進行上、奥まった場所にどうしても到達してほしい場合に限り、深みに行けるようになっています。

クガネのテーマは傾(かぶ)いたジャポニズム

──『紅蓮のリベレーター』では、ドマやクガネのような異国情緒あふれる場所が登場します。そうしたエリアの雰囲気を押し出す際に、気を付けた点は何でしょうか?

鈴木 現実感あふれる雰囲気で作ると面白味がなくなってしまうので、クガネに関しては“傾(かぶ)いたジャポニズム”みたいなテーマのもとで作られています。現実を忠実に再現するのではなく、プレイヤーの好奇心を掻き立てるような建物や色使いに注力しました。

市田 たとえば物語の中でも、日本式のお辞儀をすることでその土地の人々と交流していく場面があります。

鈴木 人の動きでは他にも、いままでは何か物を書いているNPCは横書きでしたが、それがクガネでは縦書きをしていたりもします。

──たとえば天気予報士みたいなNPCですか?

市田 そうです。看板や貼り紙に書かれた文字も(縦書きに)変わったりしています。

──一方、アラミゴはどんな雰囲気でしょうか?

鈴木 アラミゴはエオルゼア圏内にある都市国家なので、乾いた荒野っぽい雰囲気ですが、ウルダハとは異なった雰囲気に仕上げています。そこから東方地域に行くと、より湿度が感じられるようになっています。同じ地域の中でも差別化を図れるよう、アジムステップという平原では(青空が)抜けていたり、ドマのあるヤンサという地域では霧がかかっていて、晴れの天候でも上空がかすんでいる感じになっています。

──同じ天候でも、フィールドごとに違う絵作りをしていると。

鈴木 日本を連想させるクガネは、ちょっと湿気た感じの空の色です。そうした空気感みたいなものは、地域色が出るようこだわりました。

──各地の気候に応じて、木々の種類も変わってくるんですね。

鈴木 ステップ気候のアジムステップでは、足の短い草が生え広がったりしています。一方紅玉海では、松の木が生えていたりなど、和風なイメージを押し出す植生になっています。

新ジョブや新フィールドのグラフィックス秘話!『FFXIV』開発者インタビュー第2弾【完全版】_02
▲新規フィールドを訪れたら、現地の気候や植生にも意識を向けてみよう。空の色や草の葉ひとつひとつに、担当スタッフのこだわりが感じられるはずだ。