『ARMS』、そのおもしろさとは――?

 新しいことをイチから始めるという行為は、なかなかにハードルが高いことだと感じる。それまでの人生で未知だったものを知るという行為は、自分が思っている以上に腰が重くなりがちだ。たとえばそれが、ふだんの自分となじみの深い“ゲーム”というジャンルにおいても同様のことが言えると思う。よく遊ぶジャンルもあれば、あまりなじみのないジャンルもある。ましてや、それが、“遊ぶまでのハードルが高い”と言われているゲームジャンルならなおさらだ。

伸び~る腕はプレイヤーの心もつかむ! 任天堂完全新作『ARMS』を腕を振るって遊んでみた_15

 2017年6月16日の発売まで1週間を切った新作ゲーム『ARMS』は、まさにその“ハードルが高い”と思われがちな対戦アクションゲームだと筆者は思う。“対戦ゲーム”というだけで一歩気持ちが後ろに下がってしまう方もいるかもしれないが、少し待ってほしい。本作は、遊びやすさと対戦ゲームの持つ奥深さが、じつに絶妙なバランスで成立している作品なのだ。今回、そんな本作を先行して遊ばせていただく機会を得たので、『ARMS』がいかに多くの人に受け入れやすく、かつ奥深い内容になっているのかを、筆者のプレイインプレッションを通して解説させていただく。

ゲームを遊ぶ、その間口の広さに舌を巻く

 格闘ゲームと言えば、筋肉ムキムキなキャラクターが数多く登場したり、複雑なレバー操作やボタン入力を求められると思いがち。かく言う筆者も、それを連想するタイプの人間だが、『ARMS』にはそういった“固さ”がほぼないと言っていい。本作に登場するキャラクター(以下、ファイター)は全部で10人。忍者やミイラ、メカに謎の生命体など、一目見ただけで個性的とわかる面々が目白押し。ポップな雰囲気のファイターたちは、「まさに戦士!」と言えるような筋骨隆々なキャラクターというわけではなく、「どうやって戦うのかな?」とバトルスタイルが気になってしょうがない外見であることのほうが多い。DNAマンとか全身緑色のスライムみたいな見た目だし……(笑)。

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▲本作に登場するファイターのひとり、メカニッカ。腕を伸ばして戦うゲームなのに、早速メカに乗り込んでいる!

 『ARMS』を遊びやすいゲームだなと思わせてくれる理由のひとつに、操作方法が5種類の中から選べることが挙げられる。グリップと組み合わせるJoy-Conグリップ、本体に直接Joy-Conを装着する携帯モード、ふたつのJoy-Conをひとつずつ横に持って使う“横持ち”、Proコントローラーでの操作、そしてJoy-Conを両手に持った“いいね持ち”の操作に対応している。とくにユニークな操作方法であるいいね持ちに関しては、かなり独特なので詳しく説明しておきたい。まず手を握って親指を立てる“グッド”のサインを作る要領でJoy-Conを握る。Joy-Conを片方ずつ突き出すと“パンチ”、同時に突き出せば“投げ技”。両手を八の字に傾けるとガード、左右に倒せば移動ができる。Rボタンでジャンプ、Lボタンでダッシュ。ZRかZLボタンで強力な“必殺ラッシュ”が発動できるほか、方向ボタンの上を押せばターゲットの切り換えも可能だ。直感的な操作のおかげで非常に楽しい反面、身体を常時動かすためそれなりに体力を使う。運動不足の人にとっては体力作りのいい(?)機会になるかもしれない。この直感的な操作のいいね持ちを始め、ほかの操作方法も対応するボタンなどに違いはあるが、どれもボタンをひとつかふたつ押すだけで、即座に操作ファイターの反応が返ってくる。5種類の操作はどれもシンプルで、さらに複雑なコマンド入力を求められないため、すぐに操作に慣れるので、アクションゲームが苦手な人でも、すんなりゲームの世界観に入り込めるだろう。なお、これ以降の操作に関わる説明では、いいね持ちを準拠に説明をさせていただくので、あらかじめご了承をば。

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▲対戦相手を攻撃しているとエネルギーが溜まり、満タンになれば必殺ラッシュがくり出せる。左右のアームを使った怒涛の連続攻撃だ。

 対戦で筆者が対処に困ったのは投げ技。どのファイターの投げ技も威力が高めで、ガードで防げないため当たりやすいのだ。投げ技が飛んできたらこちらの片手パンチを当てれば阻止できるが、接近戦では反応する前にあっという間につかまれてしまうので対応が難しかった。そんな投げ技の弱点は、モーションが長く隙が非常に大きいこと。ダッシュやジャンプで回避すれば対戦相手は無防備になるため、自分にとっても攻撃のチャンスになる。ゲームに慣れるまでは、お手軽で強力な投げ技を使いがちなのだが、対処方法を意識して敵の投げ技をパンチで落とせるようになると、俄然対戦がおもしろくなる!

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▲プレイ中、腕がきつくなってきた筆者は途中でいいね持ちからグリップ持ちに変更。疲労から回復したらまたいいね持ちに戻して……という流れをくり返した。自分の前方にコントローラを突き出せば、それに連動して操作ファイターも攻撃するという、ゲーム内とリアルの行動が一致するのは臨場感が満載だ。
▲“ヘルプ”の項目には、基本操作からルール、テクニックなど、さまざまな情報が詰め込まれている。

多彩なルールの下、伸び~る腕を駆使してバトル! 

 ファイターたちは、それぞれに移動速度や投げの威力などが異なるほか、固有の能力も持っている。筆者が個人的に初心者にオススメしたいのは、大きな体が特徴のマスターマミーとメカニッカだ。対戦相手のパンチに怯みにくいという長所があり、多少強引に攻めても十分に戦えるおかげで、対戦に慣れていなくても安心だ。

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▲必殺ラッシュは敵の攻撃が当たると中断されてしまうという欠点があるものの、マスターマミーやメカニッカならそういった事態にも陥りにくい。
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▲筆者がよく使っていたファイターのひとり、ニンジャラ。機動力に優れ、ステージを素早く駆け回れる。無敵時間のある瞬間移動も可能なので、クールでスタイリッシュ!
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▲よく使っていたファイターその2、キッドコブラ。アームがチャージ状態になると最大4回まで高速のステップが可能。ニンジャラと同じく機動力に長けている。

 バトルの流れも説明しよう。ファイターたちの両腕に備わった“アーム”で戦うのだが、試合の前にあらかじめ3つのアームを選び、その中から両腕に装備するものをふたつ選択。アームはJoy-Conを傾けた角度によって、攻撃中の軌道を変えることもできるのだ。アームは全30種類ものバリエーションが用意されていて、それぞれに攻撃方法が違う。シンプルに正拳突きをくり出すものから、左右への薙ぎ払い、その場で留まり時間差で殴るタイプなど多種多様。さらに、“軽い”、“ふつう”、“重い”といった重量の概念もあり、お互いの攻撃がかち合った際、重量が重いアームが軽いアームを弾き飛ばせる。……と、説明すると、重いアームが最強だと考えがちだが、パンチの速度が遅いという弱点も。一方の軽いアームは手数を稼ぎやすいため、重いアームでの攻撃中にカウンター気味のラッシュを受けてしまうという事態になりやすかった。ファイターの固有能力だけでなく、アームの組み合わせも考える必要があり、実際の対戦はかなり奥深い読み合いが展開するように感じる。

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▲3つの弾を水平方向に発射する“トリプルボム”。左右へ回避しようとする敵に対して当てやすいが、高低差には弱いという弱点がある。
▲こちらは“ヘビィハンマー”というアーム。敵の位置まで伸びた後、ワンテンポ遅れて攻撃を行う。射出速度は遅いが威力が高い。

 アームに備わっている属性についても触れておきたい。アームは、ダッシュボタンやガードボタンの長押しでチャージ状態にすると、属性効果が発動する“チャージパンチ”が放てる。当てた敵をダウンさせる炎、一定時間行動不能にする雷など、属性は全部で7種類。筆者がとくに強力だと感じたのは雷属性。動きを止めた敵に高威力のアームを当てるなど、両腕を使ったコンボが狙いやすかった&狙ったコンボを叩き込めると爽快感もバツグン! 自分の狙った攻めかたがハマる瞬間が、対戦ゲームの楽しいところだ。

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▲属性がないアームも存在する。それらのアームは、チャージ状態になるとアームのサイズが大きくなる。

 アームの種類は多いが、初期の状態だと各ファイターはアームを3つしか持っていない。使用可能なアームは、“アームゲッター”というミニゲームを遊べば増やせるという仕組み。アームゲッターは、制限時間内に前方に出現する的をアームで破壊し、スコアを稼ぐというもので、途中に出現するプレゼントを打ち抜いたり、スコアによって新しいアームが手に入る。また、制限時間に応じて、“ショート”、“ミドル”、“ロング”の3コースがあり、制限時間が長いほど手に入るアームも多くなる模様。なお、誰のどのアームを入手できるかはランダムだ。
 ショートは制限時間が25秒しかなく、ゲットできるアームはせいぜい3つ。一気に多くのアームが欲しいなら、ミドル以上でアームゲッターに挑んだほうがいいかもしれない。各コースに何回か挑んだが、挑戦時に選んだファイターには、高確率で新たなアームが手に入るように感じた。スピードタイプが好きな筆者はアームゲッターでニンジャラとキッドコブラばかり使っていたため、ふたりの所持するアームの数も増えていった。

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▲ショートは30、ミドルは100、ロングは200のゲーム内通貨が必要。ゲーム内通貨は、各モードを遊べば貯まっていく。ちなみに、ひとりのファイターが手に入れたアームはほかのファイターと共有することはできず、個別に手に入れる必要がある。

プレイヤーを待ち受ける多彩なゲームモード

 本作はゲームモードも充実している。その中のひとつが“バーサス”というモードだ。1対1の“バトル”、紐でつながれたペアどうしで戦う“チームバトル”、相手をゴールに入れる“バスケット”、爆弾が入った球を相手のコートに打ち込む“バレーボール”、前に出現する的を破壊する“マトアテ”などのルールが存在。とくに注目してほしいのはチームバトル。味方どうしが紐で結ばれているため、一方が吹き飛ばされた場合、攻撃していようが防御していようが関係なしに片方も巻き込まれてしまう。対戦相手の行動を妨害できるので、敵味方の位置把握が非常に重要となる。何度も吹き飛ばされるうちに、味方と敵の位置がごちゃ混ぜになって乱戦になることが多く、コンピューターとの戦闘だけでも十分に盛り上がった。大乱闘といった感じだが、そんな中にも、ふたりが紐でつながっていることを活かした敵への妨害や味方のカバーといった駆け引きが楽しめる。伸びる腕を使った戦闘とチーム戦の妙は、『ARMS』のなかでもっとも印象的な組み合わせに思えた。

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▲6つ目のルール“100人組手”はひとりで挑むことになる。つぎつぎと出現する敵を薙ぎ倒していき、100人撃破するまでの時間を競う。

 『ARMS』のストーリーモードに当たる“グランプリ”では、コンピューターとの10連戦で勝ち抜くことを目指す。1対1のほか、バスケットやバレーボールのルールを採用したバトルもあるので、チュートリアルを兼ねているという認識で問題ないだろう。また、難易度は1~7までの7段階となるので、自分に合った難度から始めて徐々に上げていくといいだろう。ちなみに、試合に負けてしまってもその場で何回でも再挑戦できるため、言ってしまえば敗北を気にする必要がない。腕を上げたいならいきなりレベル7に挑戦し、勝てるまでリトライしてみるのもアリだろう……すごい敵は強いけど。グランプリ中は、セーブをすれば後々中断したところから再開できるため、いいところでリアル(現実)の都合が悪くなり、プレイを止めざるを得なくなっても安心だ。

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▲試合の合間には“コブッシ―”と呼ばれる解説者による実況が入る。ファイターやスタジアムのちょっとした情報が聞ける。
▲アームゲッターでアームを早く集めたい人はグランプリがオススメ。レベルが高いほど、1回の試合で得られるゲーム内通貨の量が増える。

 ポップな世界観、斬新ながらシンプルにまとめられた操作体系、ファイターとアームの組み合わせが奏でるバトル――。老若男女、どんな層のプレイヤーでも入り込みやすい導入を確保しつつも、戦略性の高さも維持されていると確かに感じる『ARMS』。腕を伸ばして戦うという斬新なスタイルは、これまでに筆者が培ったゲームの経験をあまり活かせなかったものの、だからこそ、初心者としてスタート地点に立ち、新たな発見にワクワクしながらプレイすることができた。『ARMS』は、アクションが苦手な人も、得意な人も等しく満足できるような作品だと言えるし、発売が待ち遠しい!