マーベラスが2017年3月に設立を発表した、高木謙一郎氏率いるゲーム開発スタジオ“HONEY∞PARADE GAMES”が、2017年5月9日よりマーベラス100%出資の子会社“株式会社HONEY∞PARADE GAMES(以下、ハニーパレードゲームス)”として法人化された。そこで、法人化の意図などについて、高木氏にインタビュー。今後への意気込みを語ってもらった。

夏には今後の作品を発表したい! HONEY∞PARADE GAMES代表取締役に就任した高木謙一郎氏にインタビュー_01
株式会社HONEY∞PARADE GAMES
代表取締役
高木謙一郎氏(文中は高木)
夏には今後の作品を発表したい! HONEY∞PARADE GAMES代表取締役に就任した高木謙一郎氏にインタビュー_02
▲こちらがハニーパレードゲームスのブランドロゴとコンセプトイラスト。“まだ誰も気づいていない、おもしろさの蜜(HONEY)”にたどり着くためパレードをしている様子が描かれている。

「よりチャレンジができる会社に」

――ハニーパレードゲームスは、今年(2017年)の3月にスタジオとして設立されたばかりですよね。

高木 スタジオ化については、マーベラスが今年で20周年という節目を迎えた中で、会社の規模も大きくなってきて、手掛けているコンテンツもすごく幅広くなってきました。そうした中で、いろいろなブランドの集合体、おもしろさの集合体というのを、まずはゲーム部門、とくにコンシューマー(家庭用)の中でやってみようと。それぞれのスタジオの個性をより強く出していき、そこからマーベラス全体のファンを作っていくということをやりたいというのは、何年か前から話には挙げていたのですが、ようやく今回、ひとつ実現したということです。

――構想自体は、前からあったのですね。

高木 はい。タイトルやブランドというのは、人や作品の集合体だと僕はずっと考えておりまして。『一騎当千』のころから、自分が会社全体のアイコンや象徴になるのは難しいけど、それを構成するひとつの小さなブランドみたいな存在として作るのはできるかなというふうに思いながらこの10年くらいやってきました。そのほかにもスタジオ化には、いろいろな理由がありまして。

――具体的には?

高木 大きな要素としては、ふたつあります。まずは、弊社はいろいろな会社と合併してきた歴史がありますが、いま一度改めて、協力体制を整えたり、よいところと悪いところを見つめ直そうということで、組織の若返りを図りました。自分も含めて同年代の40歳の者が、事業部長になったり、ほかのスタジオ長になったりしています。おかげさまで、その前の仕込みが花開いて前期はコンシューマー部隊としては成果を出せたかなという思いもあって、そういった改革をやるべき時期に入っていると考えたのがひとつ。もうひとつは、会社としては、ビジネスだけで考えたら、ゲーム部門全体で誰かがヒットを打って、誰かが三振したとしても、トータルで勝っていればいいみたいな考えかたがありまして。

――ああ、よくある話ですね。

高木 ですが、モノ作りをしている僕らとしては、どちらかといえば「俺が俺が」と主張する集団のはずなんですよ。ひとりひとりの結果というのをはっきりさせるべきだと思いまして。会社全体のトータルでよかった、悪かったではなくて、俺はよかった、お前は悪かったというのを、ゲームのクオリティーやユーザーの評判、売上などさまざまな面ではっきり認識しあいましょうと。リーダーもスタッフたちも、「今年僕らはよかったよね、いい仕事したよね」と思えて、当然給与面でもちゃんと評価されるべきなんです。でも、すごくがんばったのに、「トータルではマイナスだったから、みんなまとめてダメです」みたいなのは、ちょっと違うと思うんですよ。スタジオ化はそういう面もはっきり見えてくるので、働いている人たちにとっても、いいことかなと思います。ユーザーさん的にも、マーベラス以外の部分で「ここの看板のタイトルだったらやってみよう」と思っていただける、ひとつのきっかけになっていってくれたらいいなと。

――確かに、同じマーベラスという会社からいろいろなゲームが発売されていますから、それを誰が作ったのか、どこのスタジオが作ったのかが明確になりますね。

高木 そうです。スタジオの個性をより理解していただくことによって、お客さんもよりゲームの中身とは違うクセみたいなところも知って楽しんでもらえるといいな思っています。

――そんななか、スタジオ設立から2ヵ月後の(2017年)5月に法人化となりました。

高木 私の部署を法人化するという話は、これまでにも何度かいただいておりましたが、これからハニーパレードゲームスとして、家庭用に限らず、スマホ、モバイル、アニメーションも含めて幅広く展開していくのなら、独立したほうがやりやすいかなと思いまして。いまはマーベラスという会社が大きくなってきて、企業としての安心感が出てきたので、あえて自分の中にリスクを負わせることによって、「自分たちでどうにかしなくては」という、ベンチャー的なスピリッツをいま一度呼び戻そうと。あとは、我々のチームとして責任を持ってモノを作って世の中に出していくというスピード感を維持するためにも独立部隊になったほうがいいのかなというのが、ちょうどこのタイミングだったので、わりと急ピッチでしたが、法人化しました。

――今回法人化されましたが、ゲーム作りという面においてはとくに変わらないですか?

高木 いまのところは変わっていないですね。

――高木さんの心境としてはどうでしょう? いままでもずっと上の立場としてチームを引っ張ってきていますが、スタジオ長から法人のトップになられたことで、もちろん責任感とかは感じられていると思いますが。

高木 プロジェクトのリーダーとしての気持ちは変わらず当然強く持っていますけど、とくに肩書きがプロデューサーだろうが、スタジオ長だろうが、取締役だろうが、そこは関係ないです。別に役職が上がったからといって面白スキルが上がるわけでもないので(笑)。ただ、「あの爆乳Pが代表になってんの?」みたいなのはちょっとおもしろいかなと(笑)。あとは、両親にドヤれるのがうれしいですね(笑)。

――確かに(笑)。そういえば、Twitterでこの件を報告した際の、ユーザーの反応がおもしろかったですね。

高木 皆さん、いつもイベントとかにも来てくださっているんですよね。本当にありがたいです。ただ、ハニーパレードゲームスの代表取締役になったからといって、マーベラスを離れるわけではないので、そこはうまく使い分けていきたいです。

――使い分け、ですか。

高木 ハニーパレードゲームスから出したほうがいいタイトルもありますし、マーベラスとして出したほうがいいものもありますので。『牧場物語』でマーベラスのファンになってくれた人、『魔法つかいプリキュア!』で知ってくれた人、“テニミュ”(ミュージカル『テニスの王子様』)で……と、マーベラスではいろいろなIP(知的財産)を扱っており、そんな中でどうしてもエロ要素のあるIPは悪い目で見られる可能性が高いんですよね。それによって、意図せず全体の足を引っ張ってしまうようなことがあるんじゃないかなというのは自分の中でも少し思っていまして。フィルターじゃないですけど、段階があったほうが、結果的にお互いのブランドとかタイトルに対していいんじゃないかなと思っているので、これからはマーベラスとハニーパレードゲームスをうまく切り分けてやっていこうと思っています。

――扱っているタイトルの幅が広いぶん、お客さんの層もぜんぜん違いますからね。

高木 誤解されて「何だこれはけしからん!」ってなるのもよくないので。『閃乱カグラ』も5年目迎えて、つぎは8周年を……10じゃなくて8を狙おうと思っているんですけど(笑)、IPが広がっていくなかで、いろいろな人が集まってきて、いろいろな意見がありますので、そこはちょっと考えていきたいなと思います。

――マーベラスさんのリリースによると、今回の法人化の理由について、“主力IPである『閃乱カグラ』の企画・育成強化を中心に置きつつ、次世代のIP創出を目的として”とありますが、新しいIPを生み出すためのチャレンジがしやすくなるということでしょうか。

高木 そうですね。いままでもかなり自由にやらせてもらっていますが、より結果がハッキリと出るので、そういう意味では、自分たちの責任の中でやっていくという意識をより強くできるかなと思っています。数字面で多少のマイナスが出ても、そこはこれまで同様にスタジオ内で補完しあえばいいので、あまり恐れず、若い人たちがどんどん企画を出せるような環境にしたいなと思っています。ゲームを作るときに、私はけっこうシンプルにこれはおもしろい、おもしろくないと考えるんですけど、家庭用ゲームの売り上げがちょっと下がってきた影響もあって、スマホのアプリのような、数値ベースの作りかたが広がってきているんですよね。もちろん収支を考えての数字合わせも重要なんですけど、何となく数字的に筋が通っているからこれはいけるんじゃないかという安心感で進めるのは違うと思っています。もっと気持ち的な部分、感情的な部分でのおもしろさを中心に、タイトルを編成したいと思っています。私が代表になったことで、そういう判断はある程度私のところで完結しますから、とにかくウチのメンバーにはチャレンジしてくれというメッセージを強く出しています。

――確かに高木さんの判断でゴーサインが出せるので、チャレンジしやすいですね。

高木 『閃乱カグラ』を最初に作るときに、あまりゲームを作るという感覚だけではやっていなくて、“コンテンツ”を作らないといけないという意識が当時すごくあったんですよ。

――コンテンツ作りですか。

高木 それにはふたつの大きな理由があって、『閃乱カグラ』の前に『勇者30』(※1)というオリジナルタイトルを手掛けましたが、ゲームデザインありきというか、何となく小学生くらいのところから思っていたゲーム作りを勢いで実現したんです。よいゲームなのでおかげさまで10万本近く売れて好評を得ましたが、10万本から先に広がっていく感じがいっさいしないというのをすごく感じたんですよ。毎年これを作るには無理があるぞ……。これは作りかたを変えなきゃいけない、もうちょっと人にわかりやすく響くような内容の作品を作らなくてはいけない、続編にとにかくつなげてコンテンツとして確立させなくては、とそのころから強く考え始めるようになりました。

――なるほど。では、もうひとつは?

高木 もうひとつは、僕はいわゆる技術とかにあまり興味がないんですよね。ギミックとかはすごく気になって、「こういう新しい遊びができるんだ」とか、「こんなことができるんじゃないか」とかを考えるのは好きなんですけど、マシンスペックがどうこうとか、ハードの画面がどうこうとかは、正直どっちでもよくて(笑)。あ、でも美少女を綺麗に表現できる最新スペックは重要視しています。そういうなかで、ハードの技術がどんどん上がってきていますよね。でも、ハードのスペックを活かしたゲームは、そういうのが得意な人や好きな人に任せようと、覚えるの苦手ですし。技術を勉強する時間があるなら、“遊び”を考える時間に使いたい。僕は時代がどう移り変わろうと、キャラクターや世界観を使っていけるものを作りたい、という風に考えています。それが実現できれば、小さな予算でも積み重ねでよりおもしろいゲームを作れるようにいずれなるのではないか? と。そうして生まれたのが『閃乱カグラ』の1作目でした。ですので今後も、作品の原作を作るというところを強く推し進めたいと思っています。そうすれば、スタジオの人数が少なくても、外部の人たちと臨機応変に協力しながらコンテンツを利用していろいろなものを作っていけますし、そういう集団になっていきたいなと。

――チャレンジをどんどんしてくれと言っているということは、高木さんもこれまでチャレンジしてきたので、それを下のスタッフにも同じようにチャレンジしていいんだよというメッセージにもりますよね。

高木 そうですね。きっとわかってもらえていると思うんですけど、わりと好きなことをどんどん出していく、ビジネス的に少し弱いなというのがあっても、これはおもしろいと感じるならばやっていく。あまり無謀なものを出されても困りますけど(笑)、とにかく何かを完成させて発売するということをくり返さなければ絶対に成長しないと思っているので。小規模なタイトルからでもとにかく、世に出すというんだということに強い執念を持って当たってほしいです。

――高木さんが企画したものを作ったというよりも、自分がこれをやりたいから作ったというほうが、人材の育成としても重要ですよね。それによって、第2の高木さんを生み出すことにつながっていくと思いますし。

高木 そうなればすごくうれしいですし、そうなっていきたいと思います。こうやったらうまくいく、こうやったら失敗するというアドバイスはある程度言えますので。とはいえ、自分から企画を持ってきてくれないと実現できませんから。

――『ネットハイ』がそうでしたよね。

高木 そうですね。自分がやりたい、おもしろいと思うゲームをひとつひとつ積み重ねて、みんなでハニーパレードゲームスのロゴに意味を込めていきたいです。このロゴを見るとすごくワクワクするとか、そういうふうに思っていただけるようになりたいです。

――ちなみに、ハニーパレードゲームス所属のスタッフは何人くらい?

高木 いま20人くらいです。

――規模を大きくするというよりは、少数精鋭でほかのスタッフのかたと協力しながらやっていくというのが近いですか。

高木 基本的にはそうです。なるべく少数の企画者集団で、プロデューサーと各種ディレクターしかいないように能力を引き上げて、絞り込みたいと僕は思っています。