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 2017年5月11日~同14日にかけて開催された、第56回静岡ホビーショー(静岡県静岡市・ツインメッセ静岡)で出展されたハル研究所の新ハード、PasocomMini MZ-80C (以下、PasocomMini)。1979年に発売されたシャープの名機“MZ-80C”の外観を忠実に再現した手のひらサイズの本体、MZ-80エミュレーターとSmileBASIC(※2014年にスマイルブームが発売したプログラミングソフト『プチコン3号 SmileBASIC』用に開発されたBASIC言語)が搭載されたコンパチブル仕様が話題となったが、今回の説明会では、より詳しい機能について紹介された。

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※“PasocomMini MZ-80C”静岡ホビーショー 2017で実演展示! ハル研、アオシマの開発スタッフも会場に

コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_01
コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_02
▲ハル研究所 代表取締役・三津原敏氏。

 ハル研究所の代表取締役・三津原敏氏は、同社が25年ぶりにハードウェア製品を発売することになったきっかけについて、「自分が個人的に欲しかったから」と告白。いざ作るとなったら、自身が満足いくものを徹底的に……との思いから約1年半の歳月を費やし、今月の発表にこぎつけたと語った。
 三津原氏はまた、昨今のPCについて「ユーザーの使いやすさを突き詰め、コンピュータの、私たちからすると“おいしい部分”を丁寧に隠蔽し、利用することに集中できる構造」と表現。その対極にある存在として、PasocomMiniを “コンピュータの仕組みを正しく理解できるPC”と位置づけた。「当時のPCユーザーはもちろんですが、コンピュータを骨の髄までしゃぶりつくすような体験をぜひ若い人にもしてほしいと思います。そうすることで、周りの人とは格が違う“スター・プログラマー”として成長してほしいですね」(三津原氏)。

コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_03
▲スマイルブーム開発本部長・細田祥一氏。

 PasocomMiniに実装される最新鋭のBASIC言語“SmileBASIC”の開発を行ったスマイルブーム開発本部長・細田祥一氏は、SmileBASICは当初、三津原氏が開発を担当する予定だった……と、いきなりの“衝撃告白”。話が大筋で決まりかけた時に、三津原氏が突如古巣のHAL研究所に再入社。その3年後に同代表取締役になったことについて、「我々がSmileBASICを開発しているうちにトントン拍子に出世されて……」と、会場の苦笑いを誘った。
 MZ-80エミュレーターとSmileBASICの関係については、「それぞれを同時に動かしておくことで、SmileBASICからエミュレーター側に“ちょっかい”を出せるようにしています」と説明。具体的には、デバッガやブートローダーなどの開発支援ソフトウェアをSmaileBASIC側で制御できるとのことで、当時MZ-80のアセンブラを使っていたプログラマーにとっては、非常に便利な機能であることをアピールした。
 そのほかの特徴として、HD表示やフルカラーに対応したSmileBASICを単体で使用できることや、Raspberry Pi用BASICのGPIO(※汎用型信号の入出力)や、 USBのHIDクラス通信(※キーボードなどの各種入力用インタフェース信号のやりとり)を利用できる拡張性の高さを紹介。「イマドキのBASICとしても、昔のマシンとしても遊べる、いいところどりの機械として楽しんでいただきたいですね」と語った。

コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_04
▲青島文化教材社 企画開発部部長・堀田雅史氏。

 PasocomMini本体の外装を量産するための設計・製造を手がける青島文化教材社の企画開発部部長・堀田雅史氏は、少年時代、友人からTK-80(※NECが1976年に発売した、8ビットCPU搭載のマイコンキット)を安価で譲り受け、プログラミングに明け暮れた経験の持ち主。さまざまなメーカーから独自規格モデルが発売されていた当時のPCについて「それほど複雑な形ではないけれど、それはそれで当時のとても美しい形」と評し、いつかプラモデルでシリーズ化したいと思っていたことを明かした。
 ハル研究所の郡司氏(後述)とのやりとりを重ねたことで、「この人たちは本気で皆を喜ばせようとしている」と感じた堀田氏は、単なるサプライヤー(部品製造業者)にとどまらず、「青島なりの熱い気持ち」(堀田氏)をハル研究所側に提案していったという。

コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_05
▲“BEEP” 秋葉原店店長の駒林貴行氏。

 PasocomMiniの販売を担当するレトロPC・ゲーム専門店“BEEP”からは、秋葉原店店長の駒林貴行氏が登壇。若年ながらレトロハードやゲームの造詣が深い駒林氏は、自身が初めて親に買ってもらったゲームボーイソフトが『星のカービィ2』(1996年/任天堂)だったことを引き合いにし、「そんな私がいま、(『星のカービィ』シリーズの開発元である)ハル研究所さんと対等にお話しさせていただくことはありがたい限りです」と語った。

 BEEP秋葉原店では、単に本体を専売するだけでなく、当時開発・販売されたMZ-80用ゲームソフトを同時リリースする構想があることを語った。具体的なタイトルや販売形態は現時点では未定ながら、すでにいくつかのメーカー(個人・法人)と協議し、ライセンスの独自獲得に動いているとのこと。「コンピュータの仕組みを知る教材としてPasocomMiniを買った方に、“昔こういうゲームがあったんだな”とか“こういうゲームもおもしろそうだな”と思っていただける販売形態を整えていきます」(駒林氏)

 PasocomMiniの予約は、2017年6月1日より、同店店頭または同店Webサイトにて受付開始の予定。数量限定販売で、価格は予価19800[税抜]だ。

コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_06
▲ハル研究所 PasocomMini開発ディレクター・郡司照幸氏。

 ハル研究所のPasocomMini開発ディレクター・郡司照幸氏は、『星のカービィ』シリーズの初期タイトルの多くにプログラマーとして携わってきた経歴の持ち主。ゲーム機の内部をすべてコントロールしながらソフトウェアを開発してきた氏にとって、ブラックボックス化された内部をAPI経由でしか触れないう近年のPCは、物足りない存在だったという。「ソフトウェア開発で培ってきた技術を使って、おもしろおかしいハードをつくりたいと漠然と思っていたのに、こんな“おっさんホイホイ”な商品を作るとは……」と半ば自虐的に語る郡司氏だが、MZ-80エミュレーターの開発にも直接携わっているPasocomMiniに関しては、「当時マイコン少年だった僕らが本気になって遊べるものに仕上がっています」と、出来に対する自信をのぞかせた。そして、ホビーユースであり嗜好品だった昔のPCの“復活”に際し、「ダンプリストや、意味もなく逆アレンブルしたリストを見てニヤニヤしてください」と、やや高難易度な楽しみかたを提案した。

 説明会終了後は、会場に展示されているPasocomMiniの実機や試作品、往年のPCの実機の前で、登壇者たちが個別に質疑応答に対応した。

コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_07
▲MZ-80Cの実機とPasocomMini。両者を並べることで、PasocomMiniのコンパクトさが際立つ。郡司氏に、なぜ当時の数あるPCの中からMZ-80Cを選んだのか尋ねてみると、「最初のほうに出たマシンから攻めていきたかったんです!」と、PasocomMiniのシリーズ化を思わせるコメントが。それとともに、モニター、キーボード、記憶媒体(データレコーダー)が一体化した“オールインワン・コンピュータ”としてわかりやすい外観が、当時のコンピュータを学びたい層に訴求するのでは……といった判断があったことも明かした。
コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_08
コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_09
▲PasocomMiniの実機デモでは、MZ-80エミュレーターとSmileBASICが同時に動いていることを表すデモンストレーションと、HD表示に対応したSmileBASICのサンプルグラフィックが動いていた。細田氏によれば、SmileBASICによってMZ-80(エミュレーター)の基本性能自体をブーストすることはできないものの、SmileBASICのスクリーン上の任意の位置に、MZ-80エミュレーターの実行画面をリアルタイム表示することは可能とのこと。両者は同時に動いているため、アイデアと技術力次第で、とんでもないことができそうだ。
コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_10
コンピュータの骨の髄までしゃぶり尽くすような体験を──“PasocomMini MZ-80C”説明会リポート_11
▲郡司氏指導のもとサンプルとして制作した、FM-7(左写真)とPC-8001(右写真)の精巧なミニチュア模型と、それぞれの実機。これを事前に見せられた堀田氏は「これは手を抜けないな」と気を引き締めたという。PasocomMiniの設計に関しては、郡司氏が提供したサンプルをもとに、組み上がり品としての出荷を前提とした金型に落とし込むため、約4ヵ月をかけて行ったとのこと。