進化を続ける『ハースストーン』
2017年5月14日、オンラインカードゲーム『ハースストーン』大会“Hearthstone Japan Major”が開催された。“Hearthstone Japan Major”は、世界中から集まった256名の選手が“最強”の称号と賞金総額100万円をかけて激闘をくり広げる『ハースストーン』の大型大会。決勝では、4月15日、16日、21日、23日の4日間にわたるオンライン予選を勝ち抜いた8名の選手が一堂に会し、しのぎを削った。見事優勝したのは、台湾のPinpingho選手。決勝戦ではアツい戦いを魅せてくれたので、『ハースストーン』プレイヤーはぜひTwitchのアーカイブを見てほしい。(決勝は08:40:00~)
さて、今回大会会場では、『ハースストーン』プロダクションディレクターのジェイソン・チェイズ氏への合同インタビューも開催された。新拡張カードセット『大魔境ウンゴロ』が実装されて1ヵ月でどういった変化があったのか、また今後どういった施策がなされるのかを詳しく伺ってきたので、ぜひチェックしてほしい。
※“Hearthstone Japan Major”の決勝大会の様子はこちら
ジェイソン・チェイズ氏(文中はチェイズ)
――現在『ハースストーン』でどういったお仕事をされているのですか?
チェイズ プロダクションディレクターとして、今後の戦略の方向性などを考えつつ、ゲームの開発を進めています。
――拡張版のカードセットの立案もされているのですか?
チェイズ 拡張の趣旨やアイディア、新しく追加される機能などについてはデザインチームがおもに考えているのですが、話し合いなどには参加しています。
――新拡張カードセット『大魔境ウンゴロ』がリリースされてから約1ヶ月が経ちましたがご感想は?
チェイズ いちばんエキサイティングだったのは、各ヒーローでもいろいろなタイプが見られるようになったことですね。クエストに関しても、ほとんどのプレイヤーはそれをポジティブに受け止めてくださっているようで、クエストを活かしたデッキなども多く登場していて、多様性の重要さを改めて感じているところです。ちなみに、平均マッチ時間は8~9分となっていまして、そちらについても満足しています。
――クエストローグがかなりの強さを発揮しているようですが、制作の段階から想定されていたことだったのですか?
チェイズ とても強いデッキになるな、とは分かっていましたが、現在のデータでは強すぎるということはないようなので、いまのところは問題視していません。ただ、突撃を持つミニオンによって1ターンに20点以上のダメージを与えられることもある点についてはリスクを感じている部分はあります。
――調整などをする予定はありますか?
チェイズ 『ハースストーン』の開発を続けていく中で、ウォーソングの武将やリロイ・ジェンキンスのように突撃に関する調整は何度かありました。ゲームの中盤以降であれば相手もちゃんと対応できるので、序盤で突撃を持つミニオンが暴れ回ることに関しては現在注視しているところです。
――今後、新たなクエストを追加する予定はありますか?
チェイズ クエスト=『大魔境ウンゴロ』という考えがあるので、クエストがどれくらい人気があるかにもよりますが、追加するとしてもいまとは違った形にする可能性が高いです。あくまでも、コンテンツを追加するときはテーマにあった機能が重要だと考えています。
――『大魔境ウンゴロ』で新たに登場した能力、“適応”はどういったコンセプトで作られたのですか? また、効果はどのように決めたのですか?
チェイズ 『大魔境ウンゴロ』ではたくさんの恐竜が登場するのですが、恐竜は進化するし、環境に適応しながら生きている。そんな姿から生まれたアイディアが適応という能力ですね。効果に付いては、プレイヤーの性格や試合の状況などによって選択を変えられる。しかも、プレイしていて楽しく、強すぎない。といったものにするため、プレイテストを重ねてい決めていきました。
――今回、海賊を除去できるゴラッカ・クローラーが登場し、息をひそめるかと思った海賊ウォリアーですが、みずからゴラッカ・クローラーを組み込みいまも活躍を続けている現状についてはどう感じていますか?
チェイズ 『仁義なきガジェッツァン』以降、非常に強いデッキであることは分かっていましたが、いまはそこまで強いデッキではなくなっているのかなと思います。ゴラッカ・クローラーもそうですが、特定のカードを作ることで現存するデッキを完全につぶしてしまおうとは考えてはいません。
――なるほど。ほかに新たなカードを作っていくうえで注意している部分などはありますか?
チェイズ 我々のおもな仕事は、“プレイヤーにツールを与えること”だと思っています。それによって、あまり活躍できていなかったヒーローにスポットがあたるようになったりと、変化が生まれることが大事だと思っています。コミュニティがさまざまな変化を作り出す手伝いになるように、カードのデザインなどをしていますね。
――新しいカードをデザインするときやバランス調整を考えるときは、実際にはどのようなプロセスで意思決定をされているのですか? また、デザイナーどうしで意見がぶつかり合うことはありますか?
チェイズ 「このカードが強すぎる!」または「弱すぎる!」と、いつもぶつかり合っていますね(笑)。カードをデザインするプロセスですが、“トップダウン”と“ボトムアップ”の2種類の手法があります。トップダウンは、ひとつのカードにフィーチャーしたいときに使う手法です。“探検同盟”で登場したエリーズ・スターシーカーを再登場させたい、という考えが先にあって、そこからどういった効果を彼女に持たせるのか、という風に考えていく感じですね。“ボトムアップ”は、最初にカードのメカニズムを考えてから、拡張版のテーマにどう合わせるのか、どの程度の強さにするのか、といったことを話し合っていきます。
――チェイズさんの好きなカードは何ですか?
チェイズ 個人的に昔から好きなカードは、ロード・ジャラクサスですね。もうひとつは、賛否両論あるカードの希望の終焉 ヨグ=サロンです。こちらは、カードをプレイすることによってストーリーが生まれるところが好きです。よいことが起こるか、悪いことが起こるかが分からない。バランスという面では難しくなってしまいますが、そういった楽しい部分、スリリングな部分は残していきたいですね。
――前回のヒロイック酒場の喧嘩では、ワイルドが採用されていましたが、今後もワイルドで競いあうことになる場面はあるのでしょうか?
チェイズ 今年からはしっかりとワイルドにも力を入れていこうということで、ヒロイック酒場の喧嘩もそうですが、ワイルドのフォーマットを使ったトーナメントなどを開催することもすでに決定しており、今後も積極的にサポートしていきたいです。
――気が早いかもしれないですが、つぎの拡張版の予定などは決まっていますか?
チェイズ いまは、3つの大きなコンテンツを同時に企画・開発しているところです。実装の時期は、今年の夏、冬、そして2018年の初頭を予定しています。3つを同時に考えるというのは初めてのことで、いままでよりもちょっとクレイジーというかぶっ飛んだアイディアを盛り込むことができるのが魅力ですね。また、いままでは拡張版とアドベンチャーは別でしたが、夏からはふたつをいっしょにできるということで、とても楽しみにしています。ただ、3つのコンテンツを同時に作っていくと、環境の変化に素速く対応しにくくなる側面があるので、少しでも早く反応できるように工夫しているところです。
――ゲーム内のエモート(感情表現)を追加したり、コミュニケーションの手段を増やす予定はありますか? また、“お見事”のようなエモートを嫌味に感じてしまうプレイヤーが多いことに関してはどう感じていますか?
チェイズ この3年間さまざまな試みをしてきましたが、どのエモートを作ってもプレイヤーが悪意を感じてしまうという点はある程度仕方のない部分だと思っています。以前、“Great job(よくできました)”というエモートを追加しようと考えましたが、それも嫌味に聞こえてしまうことがあったので入れませんでした。ただ、エモートに関する新しいアイディアをいま考えておりまして、数ヵ月以内には発表できると思います。楽しみにしていてください。
――エモートを常時オフにする機能が導入されることはありますか?
チェイズ そういったリクエストは少なからずきますが、我々としてはつねに無効化するという機能は入れる予定はありません。というのも、もし入れてしまうと相手との対話がゼロになり、対戦相手がAIといっしょになってしまいますから。コミュニケーションが不要に感じるときもあるかもしれないですが、何もないよりは大事だと考えています。
――ドルイドやウォーロックはまだスキンはありませんが、追加される予定はありますか?
チェイズ すでにドルイドとウォーロックの新しいスキンの企画はあって、どのタイミングで導入するかを考えているところです。そのうち発表できると思います。
――もうキャラクターは決まっているんですか?
チェイズ 決まっています。
――デッキの保存、呼び出しといった機能の追加の予定はありますか?
チェイズ コミュニティからの要望も多く、デッキのレシピをシェアする機能など、いろいろなアプローチから追加を検討しています。そう遠くない時期に何か発表できるかもしれません。
――ゲーム内でミニトーナメントや大会が開けるような機能の追加は考えていますか?
チェイズ そちらもコミュニティからもいつもきているリクエストですね。詳細を話すことができないのは残念ですが、近々に実装する予定はない、とだけお答えしておきっます。
――『ディアブロ』や『オーバーウォッチ』とのコラボの予定はありますか?
チェイズ 『ウォークラフト』の世界はとても広く、アイディアはつきないので、いまのところそういった予定はありません。
――日本では家庭要ゲーム機の人気が根強いですが、そちらに移植される可能性はありますか?
チェイズ PCやモバイルなどで、遊べる場は十分に提供できていると考えているので、いまはそういった予定はありません。ですが、コミュニティからのフィードバックは大事にしていますので、要望が高まってきたら考慮する可能性はあります。
――現在の日本での盛り上がりについてはどうお考えですか?
チェイズ b787選手やGundamFlame選手など、日本からもトッププレイヤーがたくさん排出されはじめていて、とても大事なマーケットだと思っています。これからもサポートを続けて、選手たちの成長を見守っていきたいと思います。''
――日本でも対戦型のデジタルカードゲームがたくさんリリースされ始めていますが、どのように新しいユーザーを獲得していこうとお考えですか?
チェイズ 私たち自身、デジタルカードゲームというジャンルが大好きなので、いろいろなタイトルが発表されているのはいいことだと思いますし、とてもプレイしたくなります。『ハースストーン』開発時にいちばん優先して考えていたのは、“誰でも簡単にプレイできる”ということでした。家族や友だちにも親しみやすい、誰でも5分で遊べるゲームとして、アピールしていこうと思っています。
――日本の『ハースストーン』ファンに向けて最後にひとことお願いします。
チェイズ いつも『ハースストーン』を支えてくださってありがとうございます。日本の『ハースストーン』はいまとてもエキサイティングな環境になっておりまして、プレイヤーのみなさんも熱意を持っている方が多く、世界大会で活躍される方もたくさん登場しています。そんな日本のコミュニティをサポートするアイディアをたくさん用意しているので、楽しみにしていてください。