発想法にボツ妖怪にコマさん誕生秘話まで! トップデザイナー長野氏&田中氏が明かす愛されるキャラクター作り【レベルファイブ初の学生向けカンファレンス完全リポート その7】_02

 2017年2月21日から2月28日まで、東京、大阪、福岡の3都市で開催され、合計約1500名もの学生が参加した “大学・短大・専門学校生向け クリエイターを目指す者たちへのカンファレンス”。つぎつぎとヒット作品を生み出し続けるレベルファイブだが、いったいどのような人たちが、どんなふうに企画や開発をしているのかは、これまであまり表に出てこなかった。だがこのカンファレンスでは、「将来クリエイターになりたい!」と強く願う学生たちに向けて、同社のトップクリエイター陣がふだんは目にすることのできない開発の舞台裏を見せてしまうという、貴重なセッションが行われたのだ。

 取材を行った2017年2月26日に開催された東京会場では、昼と夜の2回に分けて同内容のセッションが開催されたが、それぞれ席を埋め尽くすほどの学生たちが詰めかけた。ファミ通.comでは、これら各セッションのリポート記事を数回にわたって紹介している。
本記事では、レベルファイブ代表取締役社長/CEO日野晃博氏と、同社の人気キャラクターを生み出してきたキャラクターデザイナーの長野拓造氏、田中美穂氏の3人による、魅力的で愛されるキャラクターの制作術について語られた、セッション内容についてのリポートをお届けする。

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長野氏に質問、キャラクターを描くのが速いのはなぜ?

 『妖怪ウォッチ』シリーズでおなじみのジバニャンに、『イナズマイレブン』シリーズの円堂守。そして『レイトン』シリーズのレイトン教授など、レベルファイブを代表するキャラクターたちのデザインを手がける長野拓造氏。

 さらに、レベルファイブ創立時からのメンバーでもあり、あの『妖怪ウォッチ』のコマさんを始めとする、数多の人気妖怪を生みだした田中美穂氏。

 多くの人の心をつかみ、作品を超えて愛されるキャラクターをデザインしてきたふたりのデザイナーは、いったいどのようにして人気のキャラクターを生み出しているのか。

 なんと、今回のセッションでは、日野社長自らが聴き手となり、一問一答形式でその秘密に迫ることに! 会場に詰め掛けたキャラクターデザイナーを夢見る学生たちが固唾を飲んで見守る中、まずは日野氏から、長野氏のキャラクターデザインについての質問から幕を開けた。

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 長野氏は、レベルファイブの作品の中でかなりの数のキャラクターデザインを担当しており、社内でも「キャラクターを描くのが速い」と言われているそうだ。

 レベルファイブのクリエイターたちは、みんな「なぜ長野氏はデザインを上げるのが速いのか?」について疑問に思っているのだと日野氏。というわけで、今回、セッションの場を借りて、学生たちの前でこのナゾが解き明かされることに……!
 
 長野氏の回答に注目が集まる。だが、以外にも「これと決めたら、すぐに提出するから」だった!?

 長野氏は、「キャラクターデザイナーが最初にゲームの世界観を表すメインビジュアルを作ることで、チームの全員がイメージを共有してプロジェクトを動かしやすくなるから、とにかくイメージ画を速く上げたほうがいい」と考えるようになったのだという。こうした考えから、次第に、「自分のイラストを描く作業で詰まってしまって、プロジェクトの時間を取ったりするわけにはいかない」という気持ちになったのだという。

 そういった意味もあり、長野氏は、インスピレーションが浮かんだら、まずは迷いなく描いてみて、提出するそうだ。

 この意外な答えに対して、思わず日野氏が「デザイナーはボツをくらうかもしれない、と迷う仕事だけれど、長野にとっては、その“迷い”がよくないということなんだろうな」とひと言。

 「とにかく頭に思い浮かんだものを、即、描いて提出する。イメージと違うと言われてしまうかもしれないけれど、勇気を持ってガンガンぶつけていき、“人の目に触れる”ようにしている」と長野氏。これは誰でもできるようでいて、なかなかできないことなのだそうだ。

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▲長野氏いわく、「迷って唸っているよりは、何かひとつでも決めて、「こうだ!」と描いてみるのが重要」とのこと。

長野氏に質問 どうやって作品ごとに頭を切り替えているの?

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 日野氏から、長野氏へ次の質問が。この質問もレベルファイブのディレクター陣が疑問に思っていることなのだという。

 それは、長野氏は多くのキャラクターデザインを手がけていながら、キャラクターがきちんと描き分けされていることについて。

 このように多くのキャラクターを描き分ける方法とは、いったいどのようなものなのだろうか?

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▲長野氏がデザインしたキャラクターたちが、ズラリと勢揃い。こうして見るだけでも、作品の個性が描き分けられている。

 これまた気になる長野氏の回答だが、「タイトルの“ターゲット”を意識して、情報量を調整している」のだという。

 まず、どんな世代に向けた作品かを意識して主人公を描く。その後に、周りを囲むキャラクターたちを描いていき、」格好いいキャラクターや、格好よくないキャラクターなどをデコボコに配置することで、作品の世界観を作っていくのだそうだ。

  そうした中で重要になるのは、やはり“ターゲット”を意識して作品を作れるかどうかだという。

 長野氏は、入社して間もなく『レイトン』シリーズ第1作目となる『レイトン教授と不思議な町』のメインキャラクターデザイナーを担当したが、最初にこうした個性あふれる作品を担当させてもらえたおかげで、デコボコしたキャラクターを描いて世界観を作り上げていく方法に馴染みやすくなったのかも、と語った。

 「長野がデザインのうえで重要視している“ターゲット”とは、対象年齢や、どんな人に対して作っている作品なのか? と言うことで、それを意識することで、線の量や等身など、そういうデザインに必要とされる要素が自然と見えてくるのだと思います」と、日野氏は分析する。

 こういった“必要とされる要素”の見え方について長野氏は、自身の経験で補っているのだと説明する。
 たとえば、子どもが多く楽しむ作品でキャラクターをデザインする場合は、自分が小学校3年生の時に、どんなことをして遊んでいたか、どんなものが好きだったのかという、“当時の自分の記憶”を頼りにして、作品に生かしているのだという。

長野氏に質問 キャラクターの個性の出し方は?

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 キャラクターデザインを速く仕上げるよう努めている長野氏だが、それぞれのキャラクターの個性は、どのようにして表現しているのだろう? アイデアに詰まったりはしないのだろうか。

 長野氏は、「キャラクターの見た目と性格を関連付けて、シルエットではっきりわかるようにしている」のだという。極端な話、丸とか四角という図形を元に、キャラクター化していくのだそうだ。

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▲これは『レイトン教授と不思議な町』に登場するチェルミー警部と、ボブ、ロイ。言われてみると、確かに図形がモチーフになっていることが見て取れる。

 長野氏は、『レイトン教授と不思議な町』から、こうしたキャラクターの作り方をしていて、今でも図形をモチーフにしてキャラクターを起こすことがあると語った。更には、先にキャラクターのシルエットだけを描き、個性を出してから中身を描くことさえもあるそうだ。