高齢者もVRには興味津々! 大人世代に向けてのVRコンテンツ作りで必要なこと【GDC 2017】

GDC 2017にて行われた、高齢者向けVRをテーマにしたセッションをお届けしよう。

●高齢者もVRで楽しく遊びたい!

 2017年2月27日~3月3日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2017が開催された。

 あまたあるGDCの講演で、どのセッションをカバーするのかは、取材陣の事前の打ち合わせで決定するのだが、たまに「この講演名おもしろそうだね」という、いわゆる“タイトル買い”で取材を決定するケースもある。とりあえず“タイトル買い”をして取材してみたら楽しかった……ということも、GDCの醍醐味のひとつ。


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▲マイアミ大学のボブ・デ・スカッター教授。ファミ通ドットコムでは昨年に続いての取材。

 というわけで、GDC 2017のセッションで、気になった講演名のひとつが“Beyond Ageism: Exploring VR Games for an Older Audience”。“Ageism”とは、“年齢差別”くらいの意味のようで、つまり講演名を訳すると、“年齢差別を超えて:高齢者にとってのVRを探る”といった感じか。つまり、高齢者に向けてのVRの可能性をテーマにした講演ということになる。“VR元年”と言われる2016年を経て、高齢者向けのVRコンテンツというアプローチは極めて興味深い。と、思っていたところに登壇者に見覚えが……。そう、昨年のGDC 2016の“Beyond Ageism: Designing Meaningful Games for an Older Audience”で取材した、マイアミ大学 ボブ・デ・スカッター教授だったのだ。スカッター教授といえば、高齢者向けゲームの研究に取り組んでいる方で、昨年の講演を経て、今回はVRにスポットをあてた模様。「世の中には高齢者のゲーマーが増えており、今後は高齢者に向けてのゲーム作りが必要になる」というのが、スカッター教授の主張なので、“VRにも高齢者に向けての取り組みを”というのが、今回の講演の意図のようだ。実際のところ、高齢者を対象としたテストも積極的に行っているようで、講演では、興味深い話も聞かれた。

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 「高齢者層は、ゲーマーのもっとも大きなグループのひとつになる」と切り出したスカッター教授は、その根拠のひとつとして、まずはアメリカのシンクタンク、ピュー研究所と国際連合のリサーチ調査の結果をを紹介。それによると、2015年時点での50~64歳までのゲーマーが2600万人以上で、65歳以上は1100万。2045年には、50歳以上のゲーマーが4600万人~1億5000万人のあいだになると予測されるとのこと(ちなみに、スカッター教授は便宜上50歳以上を高齢者と定義)。まさに、大きなグループだ。


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 今回の講演のテーマであるVRに関しては、「65歳以上のアメリカ人の14%が、VRを試したがっている」や、「ベビーブーム世代(51歳~69歳)の64%以上がVRに興味を持っている」との調査結果を報告。スカッター教授の2年間の研究結果から、「ほかのゲームに比べて、VRは高齢者にプレイしてもらいやすい傾向がある」との感触も明らかにしてくれた。“テレビで見たことがある”や“孫に自慢できる”など、関心を惹きやすいのがその理由だ。


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 さらに、スカッター教授は、スライス・インテリジェンスによる調査により、『ポケモンGO』の課金者70000人のうち、20%が高齢者であるとのデータ結果が出たことを紹介。『ポケモンGO』はARだが、「『ポケモンGO』は、商品の購入を厭わない高齢者顧客の獲得に成功したことがわかる」とスカッター教授。VRに関しても、同じように今後高齢者に人気を博していく可能性が大いにあり、「デベロッパーにとって重要なのは、“非VRゲーム好きな高齢者を、VRに導くためにはどうしたらいいのか?”ということになると思います」とスカッター教授は見ている。今回の講演は、“アクセス”、“コンテンツ”、“コンテクスト”の3面から、VR普及の可能性を探ったものだ。


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■アクセス

 まずは“アクセス”から。アクセスとは、アクセシビリティ(情報やサービスの利用しやすさ)や学習、コントロール、安全性のこと。スカッター教授は、まずは自身のGear VRを使ってのテスト結果として、「何人かは視力が低く、デバイスの中で明確に見えるようにすることができなかった」、「眼鏡が大き過ぎる」、「視力調整ができない」などの問題が持ち上がったと紹介。「ヘッドセットはもっと軽量で使いやすいと思っている人が多く、テストではいくつかの課題があった」とした。

 VRを利用するには身体のメカニズムも考慮に入れる必要がある。人間は、“固体受容体(関節の位置関係)”、“平衡感覚”、“視覚”の3つでバランスを取るが、“固体受容体”は40歳以降、“平衡感覚”は55歳以降、“視覚”も40歳以降から老化が始まる。つまり、高齢者にVRを楽しんでもらうためには、老化に配慮したサポートがより必要になるということだ。“キャスター付きの椅子に座ってプレイ”、“見守る人を付ける”、“休憩時間をふんだんに設ける(コントローラ使用時に比べて疲労しやすいので)”、“固い床を使う(カーペットだと転倒しやすいため)”などがそれにあたる。


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 また、ユーザーインターフェース周りにも工夫が必要だ。フォントサイズやコントラストなどは、高齢者向けの一般のゲームを作るときの留意点と共通だが、VRに特化したポイントで言うと、“VRメニューなどを近くにして見えやすくする”、“モーションコントロールを調整できるようにする”、“VRゲームでは、そこで何が期待されているのかをきちんと伝える”などに注意すべきだという。「痴呆者の中にはVRと実際の世界の区別がつかなくなってしまう」というケースもあるようだ。


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 なお、「インターフェイスは調整しても、難度を下げるべきではない」との指摘は興味深い。「バトルに正面から挑戦する人たちもいます。年を取るということは、必ずしも弱くなったり、退屈になったりすることではありません。ゲームを楽しむ能力をしっかりと持っている人たちもいるんです」だという。


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■コンテンツ

 「高齢者は使いやすさをとても大事にしている。高齢者向け(と思われる)ブレインゲームなどに固執しないこと」とスカッター教授。たとえば、VRシューティングの『Space Pirate Trainer』は、高齢者にとっても有益だったようだ。「ヘッドセットが汗でびっしょりになるほどでした。高齢者にとっていいエクササイズになるかは、現時点では科学的に証明できていませんが、いいアイデアだと思います」とスカッター教授。「高齢者は、イノベーティブ(先進的)で、考えさせられたり、意味のある会話を交わせるようなゲームを求めています」という。

 ちなみに、スカッター教授が行ったテストでの高齢者向けの人気ナンバーワンVR経験は“Google Earth VR”とのこと。教育的効果があるのはもちろんのこと、かつて行ったことのある場所を体験して思い出にふけるのは意味のあるもののようだ。ただし、“Google Earth VR”はインターフェイスが高齢者には使い勝手がよくないという課題もあるようだ。「ガイド付きツアーなどがあるといいですね」とスカッター教授。「あちこち見て回るゲームは高齢者にはぴったりのメカニズムです。なんらかのインタラクションがあれば、より楽しめるという意見も聞かれました」という。

 Valveがリリースしているロボットドッグと遊ぶコンテンツも、高齢者に好まれるらしい。バーチャルでも実在する生き物でも、ソーシャルコネクションは好まれる傾向があるようだ。また、「とくに説明する必要がなくプレイできることやすぐに認識できることは高齢者がゲームをプレイする上で、とても重要」と言う。まあ、そこにヘルメットがあれば、かぶってみたくなるのは人情というものだ。

 ちなみに、スカッター教授のテストで、あるグループでもっとも人気があったのは、ゾンビシューティングの『The Brookhaven Experiment』だったらしい。「(実験時は)女性が入るときと入らないときがあったので、多少バイアスがかかったかもしれないが、実際にゲームだと感じられるところが気に入ったようだ。高齢者も撃ってゾンビを倒すのが好きなようだ」とはスカッター教授。ただし、ゾンビものに関しては、日本の高齢者がプレイしていたら、また少し違った結果が出たのかもとも思われる。とにかくアメリカ人はゾンビ好き!

 なお、スカッター教授によると、『Job Simulator』や『Fantastic Contraption』は、期待していたほど高齢者はさほどプレイが続かなかったらしい。アートスタイルがアニメっぽいものは不評だったという。


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■コンテクスト

 コンテクストとは、おおむねは“文脈”をいう意味かと思われるが、スカッター教授の考えでは、“社会性”や“人生”といったことになるようだ。今回の講演では、時間の兼ね合いからか、具体的な説明は行われずに、パネルの紹介のみに留まったが、なんでしたらぜひ来年にでも!


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 まとめとしてスカッター教授は、高齢者向けにVRコンテンツを作る際の留意点を以下の通りピップアップ。

・インターフェースを調整して、チャレンジは維持
・身体バランスに留意してデザインする
・期待されることを明確に伝える
・探索や回想、繋がりを大事にしたゲームデザイン
・インターフェイスとゲームプレイは認識しやすくする
・アートスタイルは幼稚でアニメっぽいものは避ける
・高齢者向けの幅広いニーズに応えるようにデザインする

 最後にスカッター教授は、「VRはネットやスマホ同様に“変化させるテクノロジー”。いろいろなものを変化させるとともに、変化させるとともに年を重ねることにも影響を与える」としたうえで、VRは「高齢者向けの楽しいVRやアクティビティーの機会がたくさんあるが、高齢者の需要や希望に敬意を払う必要があり、それができるまではまだまだ長いみちのりだ」と結論づけた。

 昨年の“VR元年”を経て、VRコンテンツ作りはまだまだ入り口に立ったばかり。今後ますますゲームユーザー層に締める割合が大きくなることが予想される高齢者層を配慮したゲーム作りが、VRのさらなる普及のためのポイントのひとつとなるのかも。


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