『GRAVITY DAZE 2』の独特な背景はこうして作られた!
2017年2月18日、大阪府立国際会議場にて関西圏のゲームクリエイターを対象としたカンファレンス “GAME CREATORS CONFERENCE’17”が開催された。ここでは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントより発売中の重力アクションアドベンチャー『GRAVITY DAZE 2』のセッション“『GRAVITY DAZE 2』のアートコンセプトと背景制作”についてお届けする。
斎藤俊介氏
まず初めに登壇したのは、アートディレクション、キャラクターデザイン、プレイヤーモーションを担当した斎藤俊介氏。斎藤氏より、アートにおける全体のコンセプトについて解説してくれた。
『GRAVITY DAZE』シリーズでは、プロジェクト立ち上げ時にコンセプトムービーを作り演出やアートの方向性を共有することが定番で、『GRAVITY DAZE 2』でも同様に行っている。ところが、プレイステーション4版で発売されることになり、ハードのスペックが全然違うことから絵作りも見直さなければならなくなったそうだ。しかし、コンセプトムービーを作り直す時間はないので、スタッフの意識の統一を図るためあるキーワードを設けたという。それが「手書きのイラストのようなグラフィック(を本気で目指す)」。これは文字通りの意味ではなく、ゲーム内のスクリーンショットを見た人が「これは手書きのイラストだ!」と思ってしまうようなものを、本気で目指すということだ。
では、「手書きのイラストのようなグラフィック」はどういったものかというと、
・塗りのムラのあるシェーディング
・紙の質感のようなノイズ
・抑揚のあるアウトライン
※一部誤記があったため、修正いたしました。
の、アナログの不均一さが特徴になる。その中でも一番重要視したのは、「色味と省略」であると斎藤氏。物理的に整合性がとれたものよりも、“クリエイターの感性を優先した色使い”、“重要ではない部分はあえて描きこまないことによる画面の中のメリハリ”が重要になると考えたそうだ。
そのために、絵作りで使用したのが“3種のフォグ”と、“トーンカバー”だ。このふたつは、色のコントロールと省略するという点において、肝になっているという。使われたフォグは、
(1)デプスフォグ……『GRAVITY DAZE』から使っている基本的な技術。遠景が赤くなっている。
(2)バッググランド……カメラからの距離を掲載して、遠景が透明になっていく。遠くになる建物が透過して、空になじんでいるように見える。
(3)ボリューム フォグ……霧や雲を表現する。遠景に霧がかったようにみえる。
以上3種。これらを駆使することで、CGらしさが薄れイラストらしい風味を出すことに成功しているのだ。
トーンカーブについては、斎藤氏が実際に絵を書くときに使う“Photoshop”のトーンカーブと同じようなものを開発環境でも実装してもらい、画面の色調の調整を行っている。トーンカーブを調整することで、影の部分は寒色系の色にし、光が当たっている部分は暖色系の色見を強めることが可能なのだ。ちなみに、ゲーム全体で40におよぶシーンでトーンカーブによる色調調整が施されている。
実際の制作工程上については、プレイステーション4対応が決まったとき社内ですでに始動していたプレイステーション4向けタイトルの開発期間は、どれも長期化しているものが多く苦労しているように見えたと斎藤氏。また、『GRAVITY DAZE 2』の開発チームは、社内でも一番アーティストの数が少なかったそうで、スケジュール通りに完成させるために“仕様とワークフローを複雑化しない”ということをつねに意識したと述べる。加えて、無闇にフルスペックのアセットを作らずに、目指す絵作りに必要なものをきちんと取捨選択することも心がけていたそうだ。
その一例として紹介されたのが、キャラクターのフェイシャルの手法について。大半のプレイステーション4タイトルだと、ジョイントなどが用いられるが、『GRAVITY DAZE 2』では、目はテクスチャー、口はリグの切り替えで行っている。
目線の動きに関しては、前作ではテクスチャーが必要なものはすべて書いていたそうだが、本作ではより自由度を持たせるために黒目部分の制御を可能にしている。これにより、フェイシャル作業では(1)目のパターンを選択→(2)口のパターンを選択→(3)目線の向きを決定、以上の3つの工程だけで完了するように簡略化されていた。
結果としては、見た目もよく工数も少なく済んでいる。しかし、あくまでこれらはセル画風の見た目で、描画が30fpsだから成り立った手法であると斎藤氏は強調した。
茂木大典氏
続いて、背景リードアーティストの茂木大典氏が登壇。まず、背景を作るにあたり、“少人数でスケジュール通りに大規模な背景を制作する”、“手書きのようなビジュアルを実現すること”の2点を意識したと茂木氏は述べ、これらを実現した仕組みを説明してくれた。
背景の開発体勢は、リードアーティスト1名(茂木氏)、テクニカルアーティスト1名、2Dアーティスト1名、描画モデル7名、コリジョン・オクルーダー2名の構成だが、これは開発ピーク時の最大人数であり、オープンワールドの背景を作るには「とても少なかった」と語る。とくに大量のアセットを作る必要があったため、描画モデルのスタッフがとにかく足りない状況だったそうだ。
この限られた人数で作るには外注を効果的に使う必要があると考えた茂木氏。そこで外注に特化した最適な担当分けを行っている。7人の描画モデラーの内、エリア担当とモデラーに分け、エリア担当はひとつのエリアのラフモデルから発注~検品までを行い、おもに管理は仕様の把握が得意なスタッフで構成したとのこと。モデラー担当は、発注に必要なサンプルや外注には頼めない特殊なモデルの制作を行ったそうだ。
では、この限られた人数でどのようにスケジュールを厳守したのか。茂木氏は「クオリティーが高いけど、間に合わなかったという最悪の状況を防ぐために、遅延が発生しない進行管理に努めた」と言う。これは、制作期間の前半ではアセットを揃えることにとにかく専念し、後半の残った時間でブラッシュアップ作業を進めたとのこと。とにかく最低限のクオリティーでもいいのでアセットを揃え、アセットがすべて揃い次第、シナリオ進行上プレイヤーが必ず目にするアセットに、最優先でブラッシュアップを施している。
これにより、アセットをすべて期間内に揃えつつ時間の許すかぎりクオリティーアップを行うことができ、スケジュールの遅延もなかったそうだ。
続いて、実際の制作工程についての説明に移る。作業は大まかに分けて、コンセプトアート→全体図→ラフモデル→外注作業→調整組み込みの5段階になる。
まず初めのコンセプトアートは、街の雰囲気や空気感を各パートで共有するために作られる。これを使用して実際にモデルを作ることはないので、細かいディテールはコンセプトアートで必要はないそうだ。続く全体図は、エリア全体の規模、形状がコンセプトアートよりも具体的に分るよう、線画で描かれている。この全体図を使用して、ラフモデルの制作が行われる。
続くラフモデルだが、一般的なゲーム制作ではラフモデル作製の前に“レベルデザイン”をプランナーが行うと前置きした上で、「『GRAVITY DAZE 2』はあまりにも複雑で広大だったため、プランナーではなく3D制作のスキルが高い背景班で行うことにした」と言う。またこの段階では、処理不可、外注発注のしやすさ、建物の配置、デモ仮配置、イベント仮配置について検証される。これは、リファレンスモデルの分布に偏りがないか、外注に発注する際適したパーツに分けられているかを調べるためだ。茂木氏は、「ラフモデルは簡単なモデルではなく、見た目以外の調整や問題点を予め検証してすべて洗い出していくため、ある意味制作工程の中で一番大事で難しい作業である」と言い切る。そのため、時間をかけて制作を行っているのだ。
そして工数表制作に移る。先ほどのラフモデルをもとに作製され、作業量に応じて分け、そして別のエリアで似たようなアセットを作っていないかも調べる。またアセットに優先度を付け、作業時間が取れないようであれは没にする対象アセットもこの段階で決めていったそうだ。
そして、納品・組み込みへ。なお、ラフモデルの段階で、建物の仮モデルが配置されているので、ここでは納品された完成モデルを差し替えるだけで、どこまで完成したか目視できるようになっている。こうすることで、背景班以外のスタッフも制作状況を把握することができ、完成を待つことなく全体の背景を確認できている。そのため、不具合があってもすぐに指摘してもらえ、修正も迅速に行えたそうだ。
膨大な数のアセット制作を外注と内製でこなし、その数は5000にも及ぶ。パーツの管理も大変になるため専用のツールを用意したそうで、最終的には水や煙といったエフェクトパーツもこのツールで管理することになったそうだ。
一方、『GRAVITY DAZE 2』で力を入れていた空は、すべて手書きで書かれているとのこと。エリアごとに空も違いがでるので、全100枚に及ぶ空のテクスチャーを一枚ずつPhotoshopで制作しており、クリエイターごとのタッチの差が出ないよう、茂木氏ひとりですべての作業を行ったそうだ。工数を減らすところは減らし、こだわるところはしっかりこだわりを見せていると伺える。
川野紀昌氏
スピーカーの最後には背景TAリード、背景アウトソースマネジメントの川野紀昌氏が登壇し、テクニカルアーティストとして背景をどのようにして構築したかを解説したくれた。
川野氏はまず、テクニカルアーティストとして意識したこととして、「アーティストがクリエイティブなことに時間をさけるよう、自動化できるところは自動化する」ことであったと言う。背景のアセットは、できあがったものを最適化して負荷を軽減することが必要とのことで、本作では5000以上のアセットすべてを最適化しなければならない。となると、アセットの最適化だけで53日(5000個×5分)の日数が取られてしまうことになる。
そのため、アセット最適化自動ツールを作製し、自動出力とLODデータを一括で済ませることに成功。また最適化する際に、仕様の変更が生じることも予定されていたため、仕様が変更される都度、自動化ツールの機能を拡張して対応することに。これについては、「5000個あるアセットの仕様を確定せずに制作すると後々問題になるのでは」と懸念していたそうだが、短時間のスケジュールの中で確定はできなかったため、機能の拡張で対処したとのこと。これらツールを使用することで、背景アーティストがアセットの最適化作業をほぼ行わずに済んだそうだ。
総括として川野氏は、“クリエイティブなことが不要な工程はなるべく自動化”し、“自動化することで、データに一貫性がでた”とのこと。なお、例外的なアセットを自動最適化すると自動化ツールが余分な判定を行い自動化作業に長時間を要してしまうため、すべてを無理に自動化しないようにしたそうだ。
セッションの最後にまとめとして斎藤氏は、「とにかくクオリティーを保ちながら、スケジュールを守ること」を最重要視したと語る。この目標を達成するためには、“技術は目的ではなく手段として、まず作りたい絵がありそのために必要な技術を新旧問わず選択する”ことが重要であり、必要不可欠だったと述べ、セッションを締めくくった。