開発陣が『仁王』の12年を本音で振り返る

 2017年2月9日に発売された、コーエーテクモゲームスのダーク戦国アクションRPG『仁王』。発売から約12年の構想が実った本タイトルは、全世界で高い評価を受け、ゲームショップでは品切れになるほどの人気を博している。
 本記事では、週刊ファミ通2017年2月23日号(2017年2月9日発売)で掲載された、『仁王』のクリエイターインタビューを完全版でお届けしよう(聞き手:週刊ファミ通編集長、林克彦)

「『仁王』を作れたのはファミ通読者の皆さんのおかげ」 シブサワ・コウ氏ら開発陣が『仁王』の歩みを振り返るインタビュー【完全版】_07
「『仁王』を作れたのはファミ通読者の皆さんのおかげ」 シブサワ・コウ氏ら開発陣が『仁王』の歩みを振り返るインタビュー【完全版】_11
「『仁王』を作れたのはファミ通読者の皆さんのおかげ」 シブサワ・コウ氏ら開発陣が『仁王』の歩みを振り返るインタビュー【完全版】_04
『仁王』ゼネラルプロデューサー:シブサワ・コウ氏
コーエーテクモホールディングス代表取締役社長。『信長の野望』や『三國志』シリーズを始め、数々の名作を世に送り出してきた(文中はシブサワ)。
『仁王』プロデューサー:鯉沼久史氏
コーエーテクモゲームス代表取締役社長。光栄(当時)にプログラマーとして入社後、『戦国無双』シリーズなど多数の作品を手掛けてきた(文中は鯉沼)。
「『仁王』を作れたのはファミ通読者の皆さんのおかげ」 シブサワ・コウ氏ら開発陣が『仁王』の歩みを振り返るインタビュー【完全版】_05
「『仁王』を作れたのはファミ通読者の皆さんのおかげ」 シブサワ・コウ氏ら開発陣が『仁王』の歩みを振り返るインタビュー【完全版】_06
『仁王』ディレクター:早矢仕洋介氏
コーエーテクモゲームス執行役員、Team NINJAブランド長。『仁王』のほか、『ニンジャガイデン』シリーズや『ゼルダ無双』など、代表作多数(文中は早矢仕)。
『仁王』ディレクター:安田文彦氏
Team NINJAディレクター。『仁王』では現場統括を担当している。過去には、『ニンジャガイデン3』などのアクションゲームを手掛けた(文中は安田)。

二度の開発中断を経て生まれた“コーエー”と“テクモ”の力の結晶

──いよいよ『仁王』の発売ですね。最初の発表から、早12年。当時生まれた子どもは、もう小学校を卒業するころですが、そもそも、この作品はどなたが企画されたのでしょうか。
シブサワ それは私が最初に言い出しました。

──プレイステーション3という、当時の新ハードが出るにあたって、新機軸のタイトルを作る、ということだったのですよね。
シブサワ そうですね。最初は、日本のRPGならではのおもしろさを中心に据えながら、“合戦”の要素を入れることで、さらなる魅力が出るのではないかと思って作っていました。

──その当時の開発チームは、どのような構成になっていたのですか?
鯉沼 開発チームは、シミュレーションゲームを作ってきたメンバーを中心に、ω-Forceからも選抜して編成しました。新人も交えながら、混成して作った感じです。
シブサワ その新人たちに、日本の民話だとか、妖怪に関する伝説など、さまざまな資料を集めてもらったんです。
安田 当時のファイルは、まだ残っています。分厚い資料がたくさんあります。

──そんな貴重な資料が! 機会があれば、ぜひ見てみたいですね。
鯉沼 ゲームシステムについてはさまざまな変遷がありましたが、世界観については、いまのバージョンまで変わりませんでした。
シブサワ そうですね。世界設定は、細かい変更はあるものの、基本的なところはそのまま残っています。最初に『仁王』のプロットを作ったのは、『決戦』シリーズのシナリオを書いていたスタッフなのですが、彼が書いた“金髪碧眼の侍が戦国時代に活躍する”というコンセプトも、ブレることはありませんでした。ただ、ゲームシステムだけは、2年くらいかけていじっても、しっくり来るものができなかったのです。

──最初はRPGだったんですよね?
鯉沼 イメージとしては、プレイヤーのパーティーが、激しい合戦の中に入っていくというものでした。ただ、つねに状況が変化している戦場の中では、パーティーと周囲の動きがうまく噛み合わなかった。
シブサワ 戦場のスピード感と、RPGのテンポがどうしても合わせられず、そこで開発を一度中断することにしたというわけです。

──そこまでが“第1バージョン”になるわけですか。その後はどうなったのでしょう?
鯉沼 じつは、そこで私は一度“卒業”しているんですよ(笑)。その後はシブサワがまた企画を練り直していたようで、テクモと経営統合したころ(編集部注:2010年4月1日にコーエーテクモゲームスが発足)に「今度はアクションゲームで」という話を聞きました。

──そこから早矢仕さんたちTeam NINJAがプロジェクトに参加されたというわけですね。
早矢仕 その通りです。
シブサワ アクションゲームにする、という企画だけが頭の中にあった状態でしたね。
早矢仕 シブサワからは「侍にはいろいろな流派があるので、それを“構え”などで表現してみたい」というアイデアをもらっていました。

──そこも現在に受け継がれている点ですね。
早矢仕 ただ、まずは『ニンジャガイデン』のエンジンを使って実際に作ってみたのですが、侍と忍者の違いだけで、『ニンジャガイデン』と同じようなものになってしまって……。
シブサワ とにかく気持ちよく斬っちゃうようなアクションになっていましたね(笑)。RPGからアクションにして、キレのいいアクションが楽しめるようにはなったのですが、やればやるほど『ニンジャガイデン』の派生タイトルにしか見えなくなってしまいました。
安田 当時、私は違うチームにいたのですが、ゲームを触らせてもらったら、ウィリアムが敵をジャイアントスイングで投げ飛ばしているような場面もあったりして。

――それはそれでプレイしてみたかった気もします(笑)。ちなみに、開発をやり直すにあたって、ウィリアムの設定やビジュアルについても変更はあったのでしょうか?
早矢仕 金髪碧眼のサムライ、という設定は私がこのプロジェクトに参加する前からあったもので、そこは何も手を付けませんでした。
シブサワ ウィリアムの外見については、最初に発表したイメージビジュアルからほとんど変わっていません。もちろん、細かいところは少しずつ変えていますが。
早矢仕 こだわりとして、鎧や兜を身に付けていても、金髪碧眼ということがわかるようなデザインにしています。あと、本作のウィリアムは海賊のため、航海中は髪もあまり手入れできないという設定ですので、ロングヘアーになっています。

「『仁王』を作れたのはファミ通読者の皆さんのおかげ」 シブサワ・コウ氏ら開発陣が『仁王』の歩みを振り返るインタビュー【完全版】_01
▲主人公のウィリアム(画面中央)。

――確かに、超重装備をしても「これはウィリアムだ」とわかる作りになっていますね。ただ、アクション面ではなかなか納得のいくものが作れなかったと……。
早矢仕 忍者がしないような動きをさせようと思って、筋骨隆々の侍だから激しいアクションを入れようと、いろいろ試していたんです。でも、「これじゃない」と……。それで、半年くらい試行錯誤してから開発をストップさせました。その後、プレイステーション4でのゲーム開発が始まるころに、シブサワと鯉沼から「早矢仕、『仁王』をやろう」ともう一度声を掛けてもらい、そこで改めて開発を再開することになりました。

──そこまでが第2バージョンということですね。
シブサワ そうですね。12年間、ずっと開発が続いていたわけではなく、途中で2回ほど充電期間があったんです。

──これは答えにくい質問かもしれませんが、中断しているあいだも、たとえば本誌で“期待のルーキーランキング”などに載り続けていましたよね。そういった記事などは、どういう心境で見ていらっしゃいましたか?
シブサワ 応援していただけるのはありがたかったです。開発が中断していても、『仁王』が頭から離れることはありませんでした。
鯉沼 傍から見ていると、シブサワは、あのランキングを見るたびに心を痛めている印象でしたね(苦笑)。会議でも「いずれやらないといけない」と何度も言っていましたし。二度も挫折しながらも、こうして完成までこぎ着けられたのは、10年以上にわたって応援し続けてくれた、皆さんのおかげです。
シブサワ 応援してもらえる喜びとともに、責任も感じ続けてきたので……。ファミ通読者の皆さんの応援がなかったら、『仁王』はこうして世に出せなかったかもしれません。