“ゲームという文化をさらに育てていきたい”という想いの詰まったSTORIA

 2016年10月に、東京池袋にゲームをさらに楽しむための飲食店がオープンした。シアターカフェ&ダイニングSTORIAは、スクウェア・エニックスの協力のもと展開する飲食店で、イタリアンを食べながらゲームの観戦が楽しめるレストランとなっている。また、店舗内にはイベントスペースもあり、ここを使ってステージイベントを開催できるのも特徴。イベントを観覧しつつ同時に食事も楽しめるとあり、いまゲームファンのあいだで注目を集める施設となっている。

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“食事をしながらゲームを観戦して仲間と一緒に盛り上がる”をコンセプトにしたシアターカフェ&ダイニング。

 この店舗をプロデュースしたスクウェア・エニックスの門井信樹氏にインタビューさせていただくことができたので、今後どのようなプロデュースを展開していくのかをお聞きした。店舗の最大の特徴であるイベントスペースをどのように活用するのかや、今後は一般ユーザーでもイベントスペースを借りられるようになるなど、興味深いお話を続々と伺うことができたので、注目だ。

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門井信樹氏(文中は門井)
 スクウェア・エニックス 第7ビジネス・ディビジョン所属。『ガンスリンガー ストラトス』シリーズのプロデューサーを務めるなど、スクウェア・エニックスのアーケードタイトルに深く関わる。

――新しい試みに溢れたSTORIAですが、この店舗を展開しようと思われた経緯からお聞かせいただけますでしょうか。

門井 スクウェア・エニックスでは、これまでにもアーケードゲームのイベントを数年に渡って展開してきました。イベントはゲームをプレイしたり、観ることが大好きなコアなゲームファンが揃う場で、いつも大きな盛り上がりを見せてくれています。そんなイベントを長年見続けた松田(洋祐氏。スクウェア・エニックス代表取締役社長)が、「こういうイベントが手軽にできる“パブリックビューイング(※)”ができる施設があるといいよね」と提案してきたのが企画の発端になります。

※パブリックビューイング…ゲームやスポーツ、音楽ライブなどを会場ではなく他の場所でモニター越しに見て楽しむ仕組み。その会場に行かなくても模様が見られるため、現地に行けない人でもイベントを楽しめる。サッカーを見るスポーツバーなどは、日本国内でも多く展開している。

――立案は松田社長だったのですね。

門井 そうです。我々第7ビジネス・ディビジョンは、過去数年にわたってアーケードゲームのイベントや大会の運営をしてきていますから、社内でこのプロジェクトを進めるには我々が最適だろうということで、松田の立案のもとこのお店をプロデュースさせてもらうことになりました。

――最初から、現在のようなお店作りを予定されていたのでしょうか?

門井 最初は、“パブリックビューイングをする”というコンセプトだけでした。パッと思い浮かぶのは、ゲームが映える暗い照明の店内でお酒やソフトドリンクを飲みながら観戦ができるというスタイルですが、これだと経営だけでは赤字になってしまいます。そこで、老若男女問わず誰でも利用できる飲食店とセットにしたら問題も解決できるだろうし、おもしろいだろうと思ったんです。

――一石二鳥のアイデアだったわけですね。

門井 海外ではこういったスポーツバーはたくさんありますし、ビジネスとして成り立っていますから、このスタイルなら日本でもいけるんじゃないかと。最初はもっとカジュアルでオシャレなバー寄りな店舗のデザインだったんですけど、最終的にいまの形になりました。

――それにはどんな意図が?

門井 ひとつ目は、食べ物を美味しく食べられる雰囲気のお店であるためです。バーのような暗い雰囲気で音楽もガンガンにかかっているようなお店だと、同じ食事でも美味しく食べられないだろうと。食べ物が美味しく食べられれば、ひとりあたりの売り上げも上がります。ふたつ目は、女性層をターゲットとするためです。いまはどの業界も男性層だけじゃなくて、女性層を獲得することが重要になっています。従来の暗い雰囲気のバーだと、女性はちょっと入りにくいですよね。男性だけをターゲットにするよりも、女性も取り込めたら単純計算で市場は倍になります。女性層でも楽しめる店舗作りにすればお客さんが増えて、本来の目的であるイベントやパブリックビューイングも盛り上げられるだろうと。そういった理由があるので、お店の内装はカフェのような明るくオシャレな雰囲気作りにして、食べられるメニューも女性に喜んでもらえるようなものを多くセレクトしています。

――同じビルの下の階にはタイトーステーションがありますが、ここのお客さんがメインターゲットではないのですね?

門井 もちろん、タイトーステーションで遊ぶアーケードゲームユーザーにも利用していただきたいですが、ゲームセンター帰りのお客さんをメインのターゲットにすると、どうしても客数は少なくなってしまうと思うんです。まずは、幅広い層をターゲットにするために、現在のような形で経営しています。イベントスペースでアーケードゲームのイベントをすれば、そのイベントの前後ではタイトーステーションのフロアもSTORIA目当てのお客さんで埋め尽くされたりしますし、相乗効果はすでに感じていますね。

――アーケードゲーム好きなお客さんは、もっとガッツリしたメニューを希望されそうですね。

門井 すでに店舗を利用していただいたアーケードゲームファンの方からは「もっと醤油とか油の効いたメニューが食べたい」とか「ラーメンを出してくれ」という声もいただいていますが。

――なるほど(笑)。

門井 お店の雰囲気作りもあるし、最初からいろいろなジャンルの食べ物を出すこともできないので、「まあ、待ってくれ」と伝えましたけど(笑)。料理のベースになるのはイタリアンのメニューですが、調理の設備はきちんとしていますし、まだまだ出せる料理は増やせるので、今後はコラボなどで多国籍なメニューが食べられるお店になるかもしれません。また、現在検討中ですが、タイトーステーションに料理をデリバリーできる仕組みも実施できたらなぁと思っています。

――池袋の一等地ですし、ゲームファン以外のお客さんの来店も多そうに感じます。

門井 立地的にも池袋駅の西口がすぐの場所ですから、ゲームに興味のないお客さんもたくさん来ていただいています。ランチはとくに多いですね。

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一般でもイベントスペースが利用可能!?

――STORIAにはイベントスペースがありますが、ここは今後どのような利用のされかたをしていくのでしょうか?

門井 このイベントスペースがSTORIAの最大のポイントです。オープン当初は控えめな運営をしていましたが、今後はゲーム好きのお客さんによろこんでいただけるようなイベントを実施していきます。

――具体的にはどのようなイベントを?

門井 いまは週末や土日にメーカー主催の大きなイベントをやっているのみで、月曜日から金曜日は何も開催されていないこともあります。これからは、たとえばこの曜日はアーケードゲームデイ、この曜日はスマートフォンゲームデイといったように、曜日ごとにテーマを決めて、それぞれ曜日替わりで定期公演のようにイベントを開催して、さまざまなジャンルのゲームファンを呼び込んでいきたいです。今後は、先々までスケジュールを組んでホームページにて公開していくので、そちらを見て興味があるイベントが開催される日を見つけてご来店いただければと思います。

――現在でも、メーカーの垣根なくゲームのイベントを開催されていますよね。

門井 そうですね。基本はスクウェア・エニックスが運営を行っているのですが、弊社のゲームのみのイベントをやるのではなく、コンシューマー、アーケード、スマートフォン問わず、すべてのゲームメーカーさんに利用していただきたいと思っています。先ほどお話した定期公演はベースにありつつもそれだけでなく、イレギュラーなイベントや、一般お客さんがイベントを主催できるような仕組みを導入予定です。

――メーカー主催でなく、一般のゲームユーザーがイベントスペースを借りられるということでしょうか?

門井 その通りです。これは1ヵ月運営してきての反省点なのですが、我々ゲームメーカーの横のつながりだけの狭い世界でイベントを運営をしてきてしまっていました。STORIAはプロアマ問わず、いろいろなゲームのイベントがつねに開催されている、ゲームの聖地にしたいと思っていますので、一般の方でもイベントスペースが借りられるようにしたいと思っています。

――どういった流れで借りられるようになるのでしょうか?

門井 公式サイトに数か月分のスケジュールを掲載して、イベントスペースの予定が空いていれば、誰でも好きなようにイベントスペースを予約できます。そのイベントを確実に観たい人は、その日その時間にお店を予約していただければと。

――一般の方でも借りられるというのは魅力的ですが、レンタル料が気になるところです。

門井 レンタル料については公式サイトに掲載している通りで、一般の方も借りられるようにそれほど高くない金額に設定しています。また、これも検討中ではあるのですが、イベントを主催した方に、そのイベントの開催中に注文された料理の売り上げの何パーセントかをキャッシュバックするような仕組みもできたらいいなと思っています。

――なるほど。そのキャッシュバックでレンタル料が少しでも回収できたら、イベントの開催者としてもうれしいですね。一方で、それでお金稼ぎができてしまうと、メーカーの許諾やロイヤリティーが問題に上がると思うのですが。

門井 一般の方がゲームメーカーさんのゲームタイトルをベースにしたイベントを主催する場合は、「メーカーさんに許可はいただいていますか?」というのをまずお伺いします。ですが、一般の方ですと、そもそも許諾を得たいけどどこに連絡したらいいのかわからないという人がほとんどだと思いますので、その場合は運営側でフォローさせていただく場合もあります。権利を持つメーカーさんの主催でないイベントで“儲け”が発生するならロイヤリティーなどの契約が発生することもあると思いますが、極力そうならないようにはしていきたいです。

――イベントをチケット入場形式にすることは可能なのでしょうか?

門井 可能です。ただ、その場合はイベントの主催者の方に来場者全員の料理を注文していただく形になると思います。そこは、今後ルールを整理していきます。

――スクウェア・エニックスさんのサポートがあるなら、メーカーさんも許可を出しやすいかもしれませんね。

門井 STORIAを我々が企画したのも、それがひとつの理由です。現在日本に現存するゲームバーって、メーカーさんの許諾を得ていないまま経営している、いわゆる”グレー”なものがほとんどだと思います。それ自体を否定しているわけではないし、ゲームという文化の広がりにも貢献してもらっているとは思いますが、ちゃんと許諾を取ってやっている店舗さんは少ないんです。それをなんとか整理したかったという想いもあります。他のメーカーさんも、「スクウェア・エニックスがちゃんと見てくれるなら許可してもいい」と言ってくださるところもあります。店舗名や権利表記に「Powered by SQUARE ENIX」と入れさせていただいているのも、「ちゃんとしたところが運営しているんだよ」という意思表示のためなんです。

――なるほど。お伺いしたイベントスペースの使いかた実現できれば、ゲームメーカーもお客さんもイベントの主催者も、全員にメリットがあるすばらしい施設になりそうですね。

門井 目指しているのはまさにそこです。店内にあるライブモニターを使うこともできますし、インターネット生放送をする機材もあるので、今後はいろいろな方にどんどん利用していただきたいです。

――あれだけの施設を低価格で借りられる理由はどこにあるのでしょうか?

門井 世にあるイベントスペースは、会場のレンタル料やドリンクの代金でしか収益を上げられないので、レンタル料が割高になりやすいです。ですがSTORIAは飲食店ですから、昼から夜まで飲食で売り上げを立てることができます。また、スクウェア・エニックスとしても、このSTORIAで大きく売り上げようとは考えていません。当然企業ですので、赤字運営をするわけにはいきませんが、大儲けしようとも考えていない。それがそこがイベントスペースのレンタル料を安くできるポイントですね。

――慈善事業的な側面も?

門井 そこまで大それたものではありませんが(笑)。我々はこのSTORIAをオープンさせることで、ゲームという文化をさらに育てていきたいと思っています。ゲームがさらに盛り上がってゲーム業界全体が活性化すれば、巡り巡ってスクウェア・エニックスの利益も自然と上がるでしょうし。

他県への出店も検討中? STORIAの今後は?

――お話を聞くと、店舗をオープンしてプロデュースの終わりではないようですが?

門井 そうですね。10月からオープンして、いいところと悪いところが見えてきました。つぎの半年では改良を重ねてさらにお店を盛り上げていきたいと考えています。私としても、「これはいける」とSTORIAにはかなりの手ごたえを感じているので、池袋のお店が盛り上がったら、2店舗目を検討してもいいかもしれません。

――オープンするならどこでしょうか?

門井 秋葉原など、東京に数店出してもいいかもしれませんが、大阪とか違う都市にも出店できたらいいですね。

――日本各地にSTORIAの文化を根付かせられたらすばらしいですね。

門井 潜在的な需要はあると思います。ですが、そのためには他メーカーさんのご協力が不可欠です。ご協力いただけることで、他メーカーさんに還元しつつ、さらにゲーム業界全体を盛り上げたいです。スクウェア・エニックスとしても、さまざまなゲームのコラボレーションでいろいろなメーカーさんにお世話になっているので、それをお返しする場にもなればいいなと。幸いにも、すでにいろいろなメーカーさんに快くご協力いただいているような状況で、たいへんうれしく思っています。ふつうのゲームバーでは許可は出せないけど、「スクウェア・エニックスだから」と許可をいただけている側面もあると思います。窓口がハッキリしているというのは、STORIAの強味ですね。

――そのほかに、今後考えられていることはあるのでしょうか。

門井 イベントの運営だけでなく、家電量販店にあるような家庭用ゲームの試遊台を置くとおもしろいんじゃないかなと思っているんです。美味しいご飯も食べられるし、ゲームの試遊もできる。インディーズゲームのイベントを開催しつつ、その横ではお客さんもいっしょに遊べたりしてもいいのではないでしょうか。また、ビルの壁にモニターがついているのもこの場所にSTORIAを開こうと思った理由のひとつです。あのモニターもスクウェア・エニックスが管理していて、ゲームの映像やCMを流すこともできます。イベントの開催中はモニターに映像を映したり、何もないときはいろいろなゲームのPVやCMを流したりと、大いに活用していきたいです。

――池袋駅西口の駅前すぐですし、道行く人にかなりアピールできそうですね。

門井 テレビCMもそうですが、出し続けて見せ続けることに意味があるんですよね。サブリミナルというか、刷り込みですね。何度も見るうちに興味だったり親近感が沸いてゲームをプレイしてみようかなと思うこともありますから。池袋西口は周囲に同じようなモニターがないので、遠くまで音が響きます。宣伝効果にはかなり期待しています。

――本日はありがとうございました。STORIAの今後に期待させていただきます。

門井 現在公式サイトには、料金表を公開しています。また、フードとドリンクも、フェアメニューやコラボメニューをどんどん増やし、ゲームも飲食も楽しめる場所にしていきますので、ぜひ今後もご注目ください!

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<店舗情報>
店舗名:シアター カフェ&ダイニング STORIA(ストーリア)
所在地:東京都豊島区西池袋1-15-9 第一西池ビル6階(JR池袋駅 西口徒歩0分)
開店日:2016年10月5日(水)
営業時間:11:00~24:00/年中無休(フードラストオーダー 23:00/ドリンクラストオーダー 23:30)
店舗面積:約68坪
店舗運営:株式会社 TBI ホールディングス
企画・プロデュース:株式会社スクウェア・エニックス