奇妙なマンション部屋とその住人たちに注目

『ボクノコミュニケーション』わかりあえやしないってことだけをわかりあう内観型アドベンチャー【とっておきインディーVol.108】_01

 大手メーカーが莫大なコストを投じて制作したタイトルが“雰囲気ゲー”と称される場合、そこには「雰囲気はいいんだけど」
という、ややネガティブなニュアンスが含まれている場合が多い気がします。その点、個人や小規模チームによるインディー系タイトルは、そう評されることが、プレイヤーに確かな爪痕を残せた証のひとつと言えるかもしれません。

 『ボクノコミュニケーション』は“プレイ中、エモい(感情が揺さぶられる)瞬間が多々ある”という一点において、強く印象に残るタイトルです。全20の部屋=横スクロールアクションゲーム風のフィールドを行き来して、それぞれの部屋に住む住人と、微妙な距離感のコミュニケーションを図っていく本作。会話の内容は断片的で、その大部分はゲームの進行に直接は関係ないものながら、ステージごとに打ち出された世界観が、その訴えの切実さのみを引き立たせます。それらがクリティカルに“刺さる”かは個々の心境次第ですが、テレビゲームが本来有する抒情性の豊かさは、しっかりと再認識できるはずです。

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▲シンプルなジャンプアクションゲーム形式で、オフビート感たっぷりのゲームプレイを楽しめる。
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▲主人公・ゼオは、マンションの一室に同居(?)する母の勧めにより、ほかの部屋を巡ることになる。

【セカイとのコミュニケーション手段】

◎友好的/敵対的な干渉
 住人や特定の場所に対してプレイヤーが働きかけるには、会話アクション(Zキー)が基本となるが、その前後に“四葉のクローバーを贈る(Vキー)”か、または“叩く(Cキー)”のいずれかのアクションを行うことで、異なる反応を得られる場合がある。

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▲第三者への振る舞いは、各場面ごとのリアクションのみならず、プレイの最終局面にも影響を及ぼすらしい。

◎各地に散らばる歯車の回収
 ゲーム中、序盤から唯一明確な目的として提示されるのが、アイテム“歯車”の収集。これらを規定数まで集めると、移動スピードがアップするなど、特殊な移動が可能となる乗り物を入手できる。当面は、歯車探しを基準に、各部屋を探索しよう。

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▲発見した歯車は、工場の部屋“エンジンギアファクトリー”にいるロボに手渡す。
▲歯車などの収集アイテムの入手方法は、シンプル。ヒントを頼りに探すだけ。
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▲本作で一、二を争うほど異次元感のある“カートゥーンスマイル”。背景アニメとBGMの中毒性、高し!
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▲一見、本格アクションが展開しそうな“オブリソートマイン”だが、哀愁ムードがハンパない。
▲矢印で画面が満たされた“エクセラレートロード”のひとコマ。舞台と会話内容の妙に、クスッとくる。

開発者のIN氏に聞く!

IN氏
フリーゲーム開発者 フリーゲーム制作歴約2年の20代前半会社員。幅広いジャンルのゲーム制作を手掛けている。

──本作の開発体制を教えてください。

IN 制作期間は、構想1ヵ月・制作4ヵ月の、計5ヵ月です。スタッフは自分ひとりで、BGMや一部の背景グラフィックはフリー素材を使用しています。

──制作時にもっとも力を入れた点は?

IN 本作は“雰囲気ゲーム”なので、それぞれの部屋の世界観をBGMやグラフィックなどで、いかに表現するかを重要視しました。たとえば、工場の部屋“エンジンギアファクトリー”では、重厚感を演出するために、スローで重々しいBGMを選んだり、影絵風の演出で暗さを醸し出したりしています。BGMはとくに、雰囲気を決める重要な要素のひとつでした。決まらないときは、1部屋につき1週間以上かかったこともありました(笑)。

──苦労した部分はどういったところでしょうか?

IN 曖昧なイメージの部屋を作っていた時でしょうか。“オータムパーク(秋の公園)”や“トワイライトシティー(夕暮れの都市)”などは、現実的な世界なのでイメージがすぐに固まりましたが、“アーティスティックタウン(現代アートのような部屋)”や“ワードアートランド”などのような非常識的な世界は、なかなかこれといったイメージが掴めずに苦労しました。

──使用した開発環境について教えてください。

IN “アクションエディター4”という、昔から利用しているゲーム制作ツールで開発しました。このようなタイプのゲーム(雰囲気ゲーム)は大抵、RPGやノベルゲームの制作ソフトで作られるものですが、使い慣れたツールでどんなゲームを作れるか挑戦してみたかった……という理由もあります。

──“アクションエディター4”について、もう少しくわしく教えてください。

IN 基本的にはアクションゲーム制作用のツールですが、シューティングゲームの制作も比較的簡単にできます。無料にもかかわらず高性能で、それでいてツール上に見慣れない専門用語も、あまり登場しません。何より、プログラミングの専門知識がなくても、画面配置やパラメータ設定だけで誰でも手軽にゲームを作れてしまうのが、最大の長所だと思います。

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▲フリーゲーム開発者のアントン氏が、自身のオリジナルアクションゲームを制作する過程で開発されたというWindows PC用ソフト“アクションエディター”。現行のナンバリングバージョン“4”は初公開が2008年だが、2017年もなお、地道にマイナーバージョンアップが行われている(※記事作成時の最新版は、2017年1月30日公開のv8.81)。“アクションエディター4”は、アントン氏のサイト“おもしろゲーム神殿(http://omoshiro-game.com/)”でダウンロード可能。

──INさんにとっての、フリーゲーム制作の醍醐味は?

IN 自分の頭の中の世界を具現化する楽しさ……でしょうか。プログラミングやグラフィック作成、テストプレイといった制作の過程で、想像した世界が次第に現実のものになっていくさまを見るのは、まさに至高の瞬間です。決して楽しい面ばかりではないゲーム制作を続けられるのは、やはり自分がゲームを心底好きだからだと思っています。好きだからこそ、作りたいゲームのアイデアがつぎつぎと生まれ、ひとつのゲームが完成した後も、すぐに次のゲームを作りたいという欲求が、どんどん湧いてくるのだと思います。

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▲使用PCの処理能力に挑む(?)、解放感ある視覚演出が印象的な“ジューシープール”。
▲大きな満月が照らす“ミッドナイトムーン”では、謎の少女との出会いが。彼女のメッセージが意味するものとは……。

ボクノコミュニケーション
メーカー IN(制作者)
対応機種 PCWindows
発売日 2016年11月5日配信
価格 無料(フリーゲーム)
ジャンル アドベンチャー
備考 “ふりーむ!”にて配信中