トリガーが手掛ける『戦国アスカZERO』の世界

 ORATTA(オラッタ)から配信中のiOS/Android用アプリ『戦国アスカZERO』は、戦国時代を舞台にしたRPGだ。天下統一を目論む“魔将”と、それに立ち向かう“蒼葉家”との戦いを軸に、国を巡っての攻防が壮大なスケールで描かれる。いずれも劣らぬ魅力的な武将たちを育成させる楽しさに加えて、“街作り”の要素など、極めて遊び甲斐のある1作となっている。2015年11月のサービス開始から1年を経て、ますます盛り上がる同作の人気というのは、やはりやり込み要素の充実の果たす役割も大きいのだろう。

※『戦国アスカZERO』公式サイト

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_01
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_02
▲“蒼葉家”のお姫様である咲姫を軸に、戦国武将たちの戦いぶりが描かれる。深みのあるストーリーと、個性的なキャラクターが魅力。

 そんな『戦国アスカZERO』が配信1周年を記念して、PV(プロモーションビデオ)を制作。しかも手掛けたのは、あのトリガーだという。そう、『キルラキル』や『キズナイーバー』、『ニンジャスレイヤー フロムアニメイション』などで、アニメファンにはおなじみのトリガーだ。「スマートフォンアプリのPVをあのトリガーが手掛ける」とは、なかなかに興味深い取り合わせ。「PVの制作に関わった、ORATTAとトリガーの関係者に取材しませんか?」とのご提案に、いちもにもなく飛びついたのも、アニメファンである記者からすれば無理からぬところだというものだろう。

 というわけで、まずは話題の『戦国アスカZERO』1周年記念アニメPVをご覧あれ。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_28

ORATTA
代表取締役
今井勇樹氏(左から4人目)
DeNAを経て、2010年に代表取締役 CTO 上杉健太郎氏とORATTAを共同設立。『戦国アスカZERO』ではプロデューサーを務める。

ORATTA
メディア事業部 チーフアニメーター
永冶健太氏(左から5人目)
シャフト、AICでアニメーターとしてアニメ業界に従事し、2015年にORATTAに入社。『戦国アスカZERO』ではチーフアニメーター。

トリガー
プロデューサー・取締役
舛本和也氏(左端)
『キルラキル』や『ニンジャスレイヤー フロムアニメイション』プロデューサー。『戦国アスカZERO』のPV制作では、東京チームと福岡スタジオの橋渡し役を務める。

トリガー
プロデューサー
稲垣亮祐氏(左から3人目)
スクウェア・エニックスなどを経て、トリガーには設立当初から所属。『キズナイーバー』や『ハッカドール』の制作プロデューサーを担当。『戦国アスカZERO』のPVではプロデューサー。

アルバクロウ
監督
げそいくお氏(左からふたり目)
トリガーなどを経て、稲垣氏とともにアルバクロウを設立。代表作に『ハッカドール』など。『戦国アスカZERO』のPVでは、監督、絵コンテ、演出を担当。

「PV制作の難易度はけっこう高いと思っていた」

――まずは、今回のPVを制作するに至った経緯から教えてください。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_22
▲ORATTA 代表取締役 今井勇樹氏。

今井 とにかく「トリガーさんにお願いしたい!」ということで、ORATTA側からラブコールを送らせていただきました。もともと僕が『ハッカドール』のPVが大好きで、「この映像を作った会社といっしょに仕事をしたい」と、考えていたんですね。そもそも『ハッカドール』というのは、DeNAが運営するスマートフォン向けのオタク向けニュースアプリで。「ニュースアプリをアニメPVにするなんて、難しいだろうな……」と思っていたのですが、それがうまく映像化されていて驚いたんです。それで今回『戦国アスカZERO』の1周年PVを作るとなったときに、社内で議論して「トリガーさんでいこう!」ということでご連絡させていただきました。あまりゲームのPVを作ったりしなさそうだったので、ダメ元のつもりだったんですけどね。

――あくまで印象ですが、トリガーさんにはたしかに硬派なイメージがありますね(笑)。

今井 それが快く受けていただきまして。

稲垣 「『キルラキル』みたいなボリュームで……」と言われたら、ちょっと「ううっ」となっていたかもしれません(笑)。社内編成的に、どうしてもフットワーク軽く……というわけにはいきませんので。それが、『ハッカドール』を見てとおっしゃったので、「その体制であれば」ということで快諾させていただきました。『ハッカドール』は僕がクオリティーコントロールさせていただいた自信作なので、その作品を褒めていただいたというのは、やはりうれしくはありましたね。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_27
▲トリガー プロデューサー・取締役 舛本和也氏。

舛本 トリガーには3人のプロデューサーが所属しているのですが、個人個人の作りかたの独立性が高くて、世界観がきっちりとできているものを映像化するケースだと、僕とかよりも稲垣のほうがぜんぜん得意なんですね。それで、プロデュースは稲垣に任せることにしたんです。

稲垣 もともとスクウェア・エニックスに在籍していたという経歴や他業界での経験もあったので、こういうPV案件はいままで僕がやらせていただくことが多いんです。本体全軍を率いる仕事は舛本が担当しますが、僕は小回りを利かせて対応させていただく感じですね。

――実際にPVに取り掛かるとなって、ORATTAさんからはトリガーさんに対してどのような要望を?

今井 実際のところ、今回のPV制作は難易度がけっこう高いと思っていたんですね。と言いますのも、『戦国アスカZERO』は、ぱっと見は、わりと女の子がいっぱい登場する萌え萌えしたゲームなのですが、シナリオは重ためで、ゲームシステムもけっこう硬派なんです。どちらかというと、コアユーザー向けのゲームシステムなので、見た目だけにフォーカスしたアニメーションPVを作ってしまうと、プレイしていただきたいユーザーさんや、伝えたいメッセージとはずれてしまう。ある意味で、ゲーム自体に矛盾を抱えているので、相反する命題を成立させるのが難しい。といったことをトリガーさんにはお伝えしました。

――逆に言うと、相反する命題を成立させてくれるという期待があったからこそ、トリガーさんを選んだとも言える?

今井 そうですね。僕らも細かい話は言っていなくて、「うまく料理してください」という気持ちでした。ただ、伝えたい要素が最低限3つあるというお話はさせていただきましたね。

――3つというのは?

今井 まずは、キャラクターのかわいさ。それがわかる日常的な掛け合いですね。ふたつめがバトルシステム。本作では、ひとりひとりのキャラクターのスキルが、リアルタイムで複数発生します。ターン制ではなくて、敵も味方も入り乱れるバトルシステムなんですね。それがきちんとわかるようにバトルシーンを表現してほしいと。いわゆる戦国モノというと、英雄が1000人、2000人の歩兵を引き連れてドンとぶつかるといった、大軍勢バトルもあると思うのですが、『戦国アスカZERO』はそうではありません。ひとりひとりのキャラクターは個別の動きをしつつ、縦横無尽のバトルが展開するのをしっかりとアニメーションにしてほしかった。最後が物語です。実際のところ、本作のキャラクターはそこまで萌え萌えしていなくて、“業”みたいなものを背負っています。それがわかるPVにしてほしかったんです。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_26
▲アルバクロウ 監督 げそいくお氏。

げそ 咲姫も、仲間といっしょに蒼葉家を復興していくわけですが、けっして明るい境遇というわけではないですからね。『戦国アスカZERO』は、闇のありそうなキャラクターが多くて、大いに惹かれました。

――どのキャラクターを登場されるかのリクエストはあったのですか?

今井 そうですね。いわゆる主要キャラクターということでお願いしました。もともとゲームを作るうえで、ある程度主要キャラクターのバランスを取るようにしていたので、そのへんはPVでも踏襲するようにしました。

永冶 で、最初は30秒から60秒くらいの尺で考えていたのですが……。最初の打ち合わせのときに、稲垣さんから「音楽は主題歌でいくのですか? それともBGMなんですか?」と聞かれたんです。僕たちには主題歌という発想がなくて、「このタイミングで主題歌は無理じゃないですか?」という話をしたら、稲垣さんから、似たようなタイミングで主題歌を作ったエピソードを聞かされて、僕らの中に欲が「ぐわーっ」と広がりまして(笑)。ただし、「作れなくはないけど、作るのだったらいま決めてください!」と言われました。「後から主題歌にしてやり直すのは無理なので」と。

――即決を迫られたと(笑)。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_23
▲トリガー プロデューサー 稲垣亮祐氏。

稲垣 絵コンテに入った後から、「曲が変わりました」と言われても、映像のイメージもぜんぜん違ってきてしまいますので。『戦国アスカZERO』に関しては、これだけ世界観がしっかりしているのであれば、アニメのオープニングっぽくしたほうが収まりもいいですし、演出上作りやすい。さらに見栄えもよくなる……というご提案をさせていただきました。ただ、曲の用意はないとのことだったので、こちらで準備することにしたんです。

――曲をですか?

稲垣 そうです。こんなご時世なので、やる気と実力があって、世に出る機会をうかがっているアーティストさんはたくさんおりまして……。インスパイアミュージックさんに協力して貰って5~6人にお声掛けして、1週間で曲を上げていただきました。その中から当社とORATTAさんでコンペにかけて選んだ感じですね。

――なるほど……。今回のPVはアーティストさんにとってもチャンスだったわけですね。

稲垣 昨今のアニメ産業は、仕事はたくさんあるけれど、有名な人にオファーが集中しがちな傾向があります。さらにスケジュールも間に合わなくて、予算もオーバーして……という循環に陥ってしまう。そういう意味ではORATTAさんにはものすごくご理解をしていただいていて、「とにかく作品のためのスタッフィングであればよい」という判断をいただいていたんですね。僕ら制作会社にしてみれば、それはすごくありがたいことです。人気のある方にお願いすると、どうしてもその人待ちになってしまう。楽曲が上がってこないとこちらに作業に入れないというのは、必ずしも作品のためになるのかな……と思うところではあります。そういった意味では、人材面も含めて、うまくいったコラボレーションだったかなと。

――ちなみに、楽曲はzinさん作詞・作曲による“蒼き疾風”が選ばれたわけですが、これはすんなりと?

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_25
▲ORATTA メディア事業部 チーフアニメーター 永冶健太氏。

永冶 ORATTA社内で、アニメーションに関わっているスタッフの中でも評価が高くて、稲垣さんやげそさんも「これならば……」ということで、すんなり決まりました。サビからがらりと変わる曲調が、アニメーションとして映えるのかな……というのが個人的な感想としてありました。日常風景を表現しやすいゆるやかな感じのAメロがちょっとずつ盛り上がっていって、サビで一気に曲調が変わる。『戦国アスカZERO』はバトルがメインでもあるので、転調のタイミングでバトルシーンが入ると、アニメーションもけっこうかっこいいものを持って来られるかなと。

げそ いちばんアニメーションっぽい楽曲でした。

――この曲であれば、いい絵コンテが切れる! みたいな感じで?

げそ そうですね。永冶さんがおっしゃった通り、どの曲調のときにどのシーンを作ればいいかというのはだいたい浮かんだので、後はどういう順番で見せていけばいいかということを考えればいいくらいだったので、本当にやりやすい曲ではありました。

絵コンテを見て、完成度の高さにテンションがあがり……

――絵コンテはどれくらいの期間で仕上がったのですか?

げそ けっこうかかりました。実作業として1週間くらいだったのですが、貯める期間がありまして……。

稲垣 いろいろと理由を作ってはもたもたと……(笑)。「降りてこない」みたいな。

一同 (笑)。

げそ これをやるための罪悪感がなくならないといけないんです。「考えているけれど、実作業に入れない」という期間を保たないと、僕は高められないタイプなんです。

稲垣 これはげそさんだけじゃないかもしれないですね。早めに出すと、「俺は手を抜いてしまったのでは?」という罪悪感が生じてしまうんですよね? だけど、ギリギリになって出すと、「しょうがない。締め切りが悪いんだ」と。

げそ それまで頭の中で貯めていたものを、全部(コンテに)詰めて込んでやったという。罪悪感が必要なんです。これは、全クリエイターが思っていることかもしれないです。

――わからないでもないような気もします……。

稲垣 制作管理する者としては、「いいから最初に早く出してくれ!」と思うのですけどね(笑)。毎回、「とりあえず、出してから時間をかけて直せばいいじゃないですか」と毎度説得しているのですが……。

げそ ごめんなさい。

――降りてくるまでがたいへんだった以外は、絵コンテの実作業で難航したことはなかった?

げそ そんなに苦労はしなかったです。コンテも、今回はできるだけ丁寧に書こうと思っていましたし。

稲垣 たしかに、『ハッカドール』のときより丁寧にやっていましたね。

今井 それはめちゃくちゃうれしいなあ(笑)。

稲垣 コンテが上がってきたときに、イメージがはっきり見えたので、テンションが上がりました。「これで今井さんにでかい顔ができるぞ!」と(笑)。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_03
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_04
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_05
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_06
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_07
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_08
▲げそ氏による絵コンテ。

――ちなみに、稲垣さんからご覧になった、げそさんの持ち味というのは?

稲垣 こういう案件にはぴったり合う監督さんですね。“古きよき……”みたいな郷愁を、いま風に作れる。『ハッカドール』も、まさにそういうタイトルだったのですが、DeNAの方とも作っているときに話していたのですが、藤子不二雄先生の『パーマン』みたいに分かりやすく親しみやすい作品なればと思ってやってました。『戦国アスカZERO』には90年代の雰囲気はあると思っていて、女の子が敵の将軍を倒していくというアニメは、90年代にもいくつかあったのですが、参考となるアニメをいくつかお渡しして、「こういうのがいいですよね」という感じで提案していきました。そのへんに対するげそさんの理解はすごく深いので、話は本当に早かったし、いろんな意味でぴったりとハマりました。

――げそさん的には、90年代は意識して取り込んでいるのですか?

げそ 僕は90年代のアニメがいちばん好きなので、「とりあえず90年代の作品っぽくできればいいや」と思っているのですが、稲垣さんから渡された『セイバーマリオネットJ』などを見つつ、イメージを膨らませていきました。『戦国アスカZERO』の設定なんかを読んだりすると、たしかに90年代臭がしたので、やりやすいなあと思いましたね。

――となると、どういうふうにして90年代をいま風にアレンジしているのか、気になるところですね。

げそ それが、僕は昔のままをやっているつもりなんです。それをみんなが「いま風だ」と言うんですよね……。

稲垣 げそさんは僕と5歳くらい年が離れていて、まだ20代なんですよ。リアルタイムの世代が見る90年代とはちょっと違う。世代が離れているので、少し感覚が違うのかもしれません。あと、げそさんはデジタルネイティブであるということも大きいかもしれません。アニメ業界に入る前は、ニコニコ動画で初音ミクの自主制作ムービーを作って公開している世代なので、意識がぜんぜん違うじゃないですか。僕なんかは、高校のときにようやくテレホーダイが始まったくらいで、「これからインターネットが普及するぞ」という世代だったりするので……。最初からネットがあるのとは違う。せいぜい5年くらいの違いなんですけどね。新しい技術を使っている世代は、僕らとは感覚が違うのかな……と思っています。

――コンテが上がって、ORATTAさん的にはどうだったのですか?

今井 永冶とふたりで、「コンテしっかりしているね」と話したのですが、僕らにもイメージが伝わりやすいコンテを最初に送ってくれて、言うことは何もなかったですね。

稲垣 コンテムービーにしてお見せしたんですね。

今井 僕らも当初は稲垣さんから、「コンテがいろいろな意味で鬼門である」というふうにうかがっていたんですよね。「コンテが最初で最後のチェックです」と。「ここですべてが決まるし、ここで言いたいことを言ってください」と。

――なるほど……。作画に入ったら、もう何も言えないと。

今井 そうです。

永冶 それがかっこいいコンテだったので、「これでお願いします!」という感じでした。

――成功はそこで約束されてしまったようなものですね。

今井 そうですね(笑)。

稲垣 と言いながらも、そのあともいろいろと……(笑)。

ひとり原画を経て、最終調整での苦労が……

――作画はどのような感じで進めていったのですか?

舛本 トリガーがちょうど福岡スタジオを作ったこともあり、そこのメンバーに作らせたいという話はさせていただいていました。そこで本田敬一にアニメーションキャラクターデザインとひとりで原画を担当してもらうことにしました。

永冶 本田さんのキャラクターデザインは、ゲームのキャラクターをいい感じにアニメに落とし込んで、かわいらしい感じにしてくれていましたね。使わないであろう、表情の差分まで描いてくださって……。公開する機会がないのがもったいないので、後日少しずつでも出していこうかなと検討しています。咲姫のちょっとふざけた表情があったりして、かわいいです。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_31
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_32
▲本田敬一氏によるキャラクターデザインの決定稿より。咲姫。
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_29
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_30
▲島津豊久。
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_35
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_36
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_37
▲霧隠才蔵。
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_33
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_34
▲蛟。

――ひとり原画にした理由は?

舛本 ひとつは、トータルで作業をしてもらえるということが大きいです。だいたいアニメーションの場合は、分業の作業になることが多いんです。小さいムービーでも、原画は5~10人で担当して、作画監督さんがまとめるんですね。それがひとりで担えるとなったほうがコスト的にも安く済みますし、作品をまとめるうえでも効率的です。トータルでのビジョンが見えやすくなるというメリットがあるんです。

――統一性が取りやすいということですかね。となると、作画の作業的には円滑に進んだのですね。

舛本 そうですね。げそさんのコンテの完成度が高かったので、それを絵にすること自体はそんなに難しくなさそうという判断はありました。コンテが見えた時点で、作画に対する負担や考えないといけない部分はそんなに多くないかな……と安心はしていました。ただ、アニメにはよくあることなのですが、制作スケジュールというものがありまして……。締め切り間際になって、相当ドタバタしてしまったのは事実です。遠方の地だったということもあって。ひとり原画ということで、メリットも多かったのですが、逆にデメリットの部分もでてしまいました。

――ああ、ひとりだと作業が詰まると手が回らなくなるということですね?

舛本 それもありましたね。最後のほうは稲垣やげそさんにフォローしていただいて、東京のほうにもデジタルチームを組んでいただいて、なんとか間に合わせた感じです。

稲垣 後半のほうは、本田さんに直接直していただく時間がないということで、だいぶ特殊なことをしましたね。

――といいますと?

稲垣 どこまで直すかということですね。本田さんは福岡なので、ふつうに紙(原画)を郵送していると2日くらいかかるんですね。そこがロスになってしまうので、スキャンしたものを送ってもらって、こっちで手直しをして納品……という形でやっていました。いちいち福岡に戻さなくてもいいようなチェック体制にしたんです。

今井 そんな作業の傍らで、僕らは同時進行で主題歌の収録をしていたんですよね(笑)。「主題歌は誰に歌ってもらいましょう?」という感じで稲垣さんと連絡を取り合う一方で、稲垣さんからちょっとたいへんっぽいことをマイルドな感じでうかがって、「アニメってやっぱりたいへんですね……よろしくお願いします!」という感じでした(笑)。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_15
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_16
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_17
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_18
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_19
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_20
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_21
▲本田敬一氏の原画。

――ああ、主題歌も歌い手の選定をしないといけなかったのですね。

今井 曲を作っていただく際に、「こういう声質の方にお願いしようかと思っています」ということで、ある程度方向性は見定めていたんですね。『戦国アスカZERO』は先日1部が終わって、これから2部が始まるのですが、今回の楽曲は2部に登場するキーパーソンの声優さんに歌っていただくという方向性でいたんです。キャラクターの楽曲というていで、キャラクターの性格になりきって歌っていただいています。

――詠というキャラクターですね?

今井 そうです。その間作画作業は相当苦労していたようで……。最後のほうは、1日に何回か、最新バージョンが上がってきて、永冶から「新しいものがきました!」と報告があるたびに、「どこまで行くんだろう……」と(笑)。ただ、実際に上がったものを見てみると、後からいただいたバージョンのほうが明らかにデキがいいので、僕らも黙っていようと。

永冶 1日だけで、テレビ放送→DVDリテイク→劇場版→劇場版のDVDリテイクくらいの感じの修正が一気呵成に入った感じですね(笑)。

稲垣 この業界ではけっこう日常茶飯事な感じではあります……。そうはしたくなかったのですが、けっきょくそうなってしまいまして……。

今井 アニメ業界にいた永冶から、最初は「今井さん、納期はそんなに伝えないほうがいいですよ」って言われていたんですね。納期を伝えると負担をかけるだけだし、クオリティー重視で行ったほうがいいから納期は言わないで、トリガーさんがとにかく「これがいいんだ!」と納得するまでやってもらったほうがいいと。それが最後のほうになってきたら、本当に納期がやばくなってきて、さすがに永冶も「これ、どうなっているんですか!?」って詰め始めたんです。「言っていることぜんぜん違うじゃん!」って思いました(笑)。

――僕らの業界もそうですが、締め切りって往々にして守られないですよね……。どのへんにこだわりが?

げそ 僕のやりかたは、けっこうふつうとは違うみたいで……。動画と仕上げが終わって撮影に出しものをリテイクする場合は、もう一度動画に戻して修正をお願いする……というのが通常のプロセスなのですが、僕はデジタルデータに直接手を入れて、自分で手直ししてしまうんです。

――ああ、最終調整みたいなものですか?

げそ そこからがけっこう本番だと思っていたりします。動画として仕上げがきて、絵の素材が整った。そこからがどこまで自分の味を出せるか……というので。本田さんの絵のよさを活かしつつ、絵を修正したり、素材をずらして回転させたりとか、ある種パズルのようにして、より映えるように調整するのを2~3日くらい取ります。

――それはデジタル時代ならではの制作手法ですね。

稲垣 昔だったら、修正があると紙ベースで指示を出して、ことによると原画さんに直してもらって、もう1度動画に出して、セルに色を塗って撮影して……という工程になる。それで1週間とかかかってしまうんですね。1回1回紙まで戻すのは、やはり相当な手間なわけです。そのため、げそさんのほうで修正できるものは直して貰ってしまうわけです。

――なるほど。ちなみに今回のPVでは具体的にどのように手を入れたのですか?

げそ 中割り(原画と原画をつなぐカット)は崩れてしまったりすることがあるので、適宜描き変えたりとかですね。これなら見られるというところまで落とし込んでいきます。動きをつないでおかしくないようにする。アニメはある意味でキャラクター商売なので、クオリティー的に押さえるべきところは押さえないといけない。今回とくにやったのはエフェクトですね。本田さんはとても絵のお上手な方なのですが、ちょっと淡白なところがあって、エフェクトが少し弱かったりするので、少し補足したりしました。あとは、動きのタイミング。同じ素材でも動きのタイミングを変えるだけで、だいぶ違って見えるので、そういったところにちょっとこだわると、「あ、見えるようになった」となるんです。

稲垣 “溜めと詰め”ですね。ふつうにスムーズに流れるのではなくて、少し誇張していったん溜めてからポンといったほうがかっこいいじゃないですか。最後にげそさんのほうで、そういうアニメーションタイミングの調整を入れていった感じですね。

げそ バレない嘘と引っかかりで、ちょっとでも見られるものにできれば……と思っています。実際に優秀な方の中割りに比べると、自分の描いたものは多少はがたついていたりするのかもしれないですが、まあ、見栄えがよければ……という感覚です。

――チューニングというか、ご自身の作品に1本筋を通す感覚ですかね……。

げそ そうですね。『ハッカドール』のときもそうでした。動画マンさんの描いた線に手を入れると、どうしても均一な線にはならないんですね。パソコンを使うにせよ自分の筆圧をかけて描くので、ぼそぼそしたりちょっと太くなったりするのですが、90年代のセルアニメのころは、それこそ線の太さがまちまちだったので、むしろこれが味になると開き直ってやっていたりします。そんなところで古さというか、手作り感、暖かさが出ればいいなと思っています。

――なるほど。それが、90年代の雰囲気につながっているのかもしれないですね。実際にできあがったPVをご覧になっていかがでしたか?

永冶 個人的にバトルが好きなので、できあがったPVはとても気持ちのよい映像でしたね。さらに、PVにはストーリー性があって、すでに第1部をクリアーしている方からすると、PVは極めてフィットするものだったんですね。逆に本作を未プレイの方は、ワンカットワンカットでストーリーがイメージされて、後々ストーリーを体験すると、より深みが出てくるのかなと。非常にすぐれたゲームPVだと思っています。

『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_09
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_10
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_11
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_14
『戦国アスカZERO』PV制作秘話をトリガー×ORATTAに聞く 異業種コラボが実現した新しいアニメのカタチ_12

――PVが完成して、ユーザーさんの反響はいかがでしたか?

今井 ものすごくいただいていて、とくにユーザーさんからの反響は大きいです。ソーシャルゲームの抱えている宿命みたいなものがあって。いわゆる“エンディング”がないんですよね。ずっと提供し続ける前提です。でも、事業的にはどこかで終わるので、お客様の中には「自分がお金と時間をかけているゲームが、突然終わってしまうかも知れない」と不安に感じていらっしゃる方もいらっしゃるんです。運営側の“本気度”をお客様はとても敏感に見ていて。そういった意味で今回のPVは、僕らの“本気度”を伝えたかった。「これだけ深くこれから世界観を描こうとしている会社が、いきなり『戦国アスカZERO』を終わらせないだろう」という。「これからも本気で取り組みます」という、宣誓ができたかなと思っています。

――ユーザーさんからは、これだけのPVを制作するからには、「もうアニメ化するしかない」との意見もあるようですが……。

今井 そういう声はよくいただいていますね。今回お話しさせていただいておわかりかと思いますが、アニメ制作って本当にたいへんで……。

一同 (笑)。

今井 ゲームを作るのも相当たいへんなのですが、アニメはアニメのたいへんさが身に沁みてわかったので、覚悟を決めないといけない(笑)。たくさんご要望をいただいたら、ぜひにとは思っています。

永冶 僕はやりたくないなあ(笑)。僕はずっとアニメーターだったので、制作さんに「設定を持ってきてください」みたいな感じでわがままを言っていたところが、今回制作の立場にまわってみて、自分でいろいろと用意しないといけないことが多く、制作さんの苦労を痛感できたので(笑)。制作さんには足を向けて眠れないという、大変さを感じました。次回は動画で参加します(笑)。

稲垣 そのへんはお互いさまで(笑)。

――『戦国アスカZERO』はしっかりとした世界観が構築されているので、なんらかの“ワールド”は構築していきたいのでは?

今井 そうですね。アニメに限らずメディアミックスは積極的に展開したいと思っています。とはいえ、社内で、今回のPV制作の途中で上がってくるものを見せたら、やっぱりテンションがすごく上がるんですよね。本当にベタなお話になってしまうのですが、「この作品に携わってよかった」みたいな感じになるメンバーがたくさんいて……。そういう意味では、ゲームを開発しているクリエイターって、自分の作品がアニメになるのは、すごい夢なんですよね。ですので、どこかでメンバーのためにアニメ化を叶えてあげたいという思いはあるのですが、なにぶん今回のプロジェクトでも、1分半作るのにこれだけかかったので……。

――覚悟を決めるしかないということで……。最後に、今回のPV制作を経ての手応えなどありましたら、お願いします。

舛本 トリガーはテレビアニメーションを主軸に展開している会社なんですね。逆に、こういった形で、いわゆる“PR”のためのPVとかは、あまり本数をやらせてもらっていない。そういった意味では、今回のプロジェクトに関わらせていただいたことは、当社の“経験値”という意味からもプラスになったと思っています。チャンスをいただけたのがすごくありがたかったです。他業種の方とのコラボによって、アニメ業界のクリエイターが新しい表現方法で、活躍できる機会を与えてもらえたのがうれしかったですね。

稲垣 トリガーは、“オリジナルを作りたい”という一作入魂のアニメスタジオではあると思うのですが、だからこそ、“人様のIPを汚したくない”という思いも強くて、そういった意味では、今回のような機会を与えてくださったことは非常にありがたいことでした。初めてORATTAさんとお話をさせていただいたときに、共感できる部分が多かったのが大きかった。相性が良い人たちとのめぐり合わせは非常に貴重です。

げそ 僕らからはひと言だけ……。いい経験でした。本田さん、お疲れさまでした。――と言うことはおいておいて、後は……、『戦国アスカZERO』みたいなストーリーがここまでしっかりできている作品を担当するのは、今回が初めてだったんですね。『ハッカドール』もスタッフみんなでいっしょに話を作っていく感じでしたし、いままで制作してきたPVもふわっとした世界観のコンテンツが多かったので……。そんな中で、今回みたいに話があらかじめ決まっていて、キャラクターもかっちりしているという、いわば “制約”の中で「どういうふうにやっていければいいのか」というトライアルができたのは、いい経験でした。

今井 僕らの業界では、アニメスタジオにお願いしてPVを制作する事例はけっこう増えてきていると思うのですが、そのほとんどがリリース前で、サービス開始前のPR目的がほとんどです。そんな中、さきほどもお話した通り、僕たちは「これからも本気で『戦国アスカZERO』を続けます」という意思表示のためにPVを作ったのですが、僕が知る限りそういうケースはあまりないですし、その“決意”は、しっかりと伝わったという意味では、大成功だったかなと。

――当初の目的は達したということですね。

今井 さらに言えば、クリエイティブでも刺激を受けるところが多かったです。たとえば、できてきたものに対して修正が施されていたりするわけですが、僕らからしたら「なんで修正するの?」という満点のデキだったりするわけですが、実際に直ってきたものを見ると、「ああ、そういうことだったのか」と納得させられたりすることも多かったです。こだわっているポイントや手直しするところが明確で、今回アニメーションの制作に準備段階から携わっていたメンバーは、すごくいい刺激をもらったと思いますし、最後の最後まできっちりやるという、モチベーションの高さは学んでくれたのかなと。そういった意味では、メンバーの視座はすごく上がったようです。もともとそれを狙っていたわけではないのですが、プラスオンの価値でしたね。

永冶 『戦国アスカZERO』って、けっこう初めて尽くしのことが多いんです。PVもそうなら、PVの前に制作したテレビCMも当社で初めてでした。アニメ化も初めての経験ばかりで、会社の士気も上がったり……と貴重な経験になりました。クリエイティブの面でも、デザイナー陣が一致団結して、「やります!」みたいな状態になったんですね。アニメ化をきっかけにして、「グッズ展開もしてみたい」といった、いい意味での“欲”がでてきたりして。そういった意味でも、今回のアニメーション企画は、いいものになったかなと思っています。