El Diaはなぜ往年の名作を蘇らせるのか?
往年の名作アドベンチャーを復活させた『EVE burst error(イヴ バースト エラー)R』を今年4月28日に発売し、さらには2017年4月27日には『デザイア リマスターバージョン』がラインアップされているEl Dia(エルディア)。さらに、11月には1998年にセガサターンでリリースされた『慟哭 そして…』のリマスタープロジェクトを発表し……と、年季の入ったアドベンチャーファンを狂喜させた。
業界歴20年くらいになる記者にとっても、『EVE burst error』や『慟哭 そして…』は、キャリア初期に親しんだなつかしのタイトル。その名前を聞くだけで、微妙に涙ぐんでしまうのは、年をとって涙もろくなってしまったせいに違いないが、往年の名作がいまに蘇るのはやっぱりうれしいところ。とはいえ、率直な疑問として頭に浮かぶのは、「なぜ往年の名作アドベンチャーをいまに?」との思い。と、疑問に思ったら直接聞いてみるのがいちばん! ということで、El Diaブランドを展開するゲームメーカーRED FLAGSHIPを直撃取材した次第。
[関連記事]『慟哭 そして…』のリマスタープロジェクトが始動! ディサーサイトが公開
開発スタッフとの雑談が企画の発端!?
さて、RED FLAGSHIPは、2006年の設立以降、移植作やオリジナルを含め、美少女ゲームを中心にリリースしてきた会社だ。代表作には、『真剣で私に恋しなさい!!R』、『クロガネ回姫譚 -閃夜一夜-』などがある。取材に応じてくれたのは、RED FLAGSHIPの代表的取締役であり、El Diaレーベルのプロジェクトを統括しているI氏だ。聞けば、I氏は20年以上にわたってアドベンチャーゲームに関わり続けてきたとのこと。美少女ゲーム界隈での人脈も豊富なようで、そんなI氏のキャリアが、El Dia立ち上げのきっかけになっているのかと思いきや、意外にも、発端になったのは、若い開発スタッフとの、何気ない会話だったのだという。
「若い開発の子が、実家にまだサターン版があるという話をしていまして。“なぜ?”と聞くと、“好きなソフトがコレでしかできないから”と言うんですね。だったら、いまの時代でも遊べるものを作るしかないのではという、単純な発想です。“自分たちがいちばんおもしろいと思っているタイトルを、いまに蘇らせよう”と、そこからスタートしました」(I氏)。
そうして始まったプロジェクト。リマスター希望タイトルを社内でいくつかピックアップして動き始めたとのことだが、I氏がまず着手したのが版権。当然のこと、権利問題をクリアーしないとすべてが始まらないわけで……。と、ここでラッキーだったのが、候補としてリストに入っていた『EVE burst error』と『デザイア』の版権を、知り合いのメーカーであるHOBIBOXが持っていることが判明したことだ。「すぐに連絡したところ、“権利は持っているよ”、と。すかさず“とりあえず、やらせてください!”とお願いしました(笑)」(I氏)
ちなみに、El Diaの第1弾タイトルとなる『EVE burst error(イヴ バースト エラー)R』は、立ち上げから完成まではおよそ2年の期間がかかっているが、「その半分が権利関係などの調整期間」(I氏)だったという。なかでもたいへんだったのが声優さん。
「声優さんにしても、事務所さんに全部確認しなければいけません。もちろん『EVE burst error』を知らない事務所さんもありますし、そうなれば最初から経緯を全部説明するわけです。実際に開発に着手する前段階が、本当にたいへんでしたね」(I氏)という。
困難を極めた下準備とデータ整理
版権問題がクリアーになったあとで、おつぎに取り掛かったのが素材集め。ゼロからゲームを作る……というわけにもいかないので、過去作の素材がなければお話しにならない。ところが、当時の素材はしっかりと管理されていたわけではなかったという。
「聞いてみたら、“箱にまとめて倉庫にある”とのことなんですね。でも、古い素材なので詳細は誰も知らないということでした。ならばと言うことで、倉庫にあった箱や古いHDなどをすべて送ってもらって、全部こちらで調査したんです。HDの中のファイルも総ざらいして、素材をすべて洗い出しました」(I氏)という。まさに“発掘作業”だ。だがなにせ古い素材なので、もちろん全部は揃っておらず、データにしてもそのまま使える状態ではなかったらしい。「ビジュアルの絵も、残っていたのは基本は紙のイラストだったので、それを全部スキャニングし直しました。サイズも昔の4:3と、いまの16:9では違うし、細かい部分をどうするのかは気を使いましたね」とI氏。
ちなみに、ゲーム中のイベントグラフィックの場合、残されていたのは“線画”。開発チームはその線画スキャンしていまのサイズである16:9に調整したうえで、書き足しをしながら完成。その上に彩色していくというプロセスを踏んだという。彩色にあたっては、ハードスペックの兼ね合いで、かつてより色数が使えるので、鮮やかになっているという。とはいえ、とくに極端な彩色などは施されてないというから、往年のファンは安心してほしい。
「色の数が増えているので、当然キレイになるとは思うのですが、ピンクはピンクだし、赤は赤です。そういうところはオリジナルに忠実にしています。見た目もいま風というか、いまのゲームの並びに合わせていますが、あまりキャラクターは変わらないようには意識しました」(I氏)。
多くのアドベンチャーゲームを手掛けてきたI氏も、こうした“発掘”や“復元”作業には相当戸惑ったようだ。とくに手こずったのが、“誰に何を頼むのか”だったという。
「たとえば背景の中のモブ(群衆)とかは、引き延ばすと顔がわからないわけです。その修正を誰に頼めばいいのか? 背景担当なのか、アニメーターなのか? 作業プロセスがいまとはぜんぜん違うので、役割分担がいまとはまったく異なるんですね。これも移植やリメイクではなくて、“リマスター”の一環と受け止めてがんばりました。もちろんたいへんではありましたけど、逆にすごくおもしろい作業ではありました」とI氏は語る。
[関連記事]『EVE burst error(イヴ バーストエラー) R』デジタルリマスター化された画面写真が公開
※RED FLAGSHIPさんのご好意により、『EVE burst error』のイラストビジュアルをご紹介。3枚続きの上からオリジナルの線画、セガサターン版のイベントグラフィック、リマスター版のイベントグラフィックとなる。
スクリプトを基にゲームへと肉付け
絵素材にメドがついたところで、それをどうゲームに落とし込んでいくかの作業に取り掛かる。ここからは、ゲーム事業部部長のG.F氏にも同席していただき、当時の状況を振り返ってもらった。気になるのは、プログラミングの指標となるようなデータが残っていたか、だが……。
「スクリプトデータというものがありまして、シナリオテキストに、“ここで絵を表示しなさい”とか書かれているんですね。言わば設計図のようなものです。それは残っていました。プログラムはそれぞれハードごとに違ってくるので、そのスクリプトを基に、プログラマーが各ハードに合うように作っていったという感じです」(G.F氏)。
そのスクリプトをベースにすれば、絵が表示されるタイミングなど、細部もオリジナル版と遜色ないものに作れるのだろうか? G.F氏に聞いてみると……。
「いまのハードでキレイに映るようにタイミングを調整しながら、考えながら作業しました。オリジナルに忠実なタイミングにすることもできましたが、逆にそのままだと古い感じが出てしまうので、ある程度は合わせて素材自体をキレイに再現し、システムはいまの人たちが触っても違和感がないような作りにしました」(G.F氏)。
とのことで、ある程度はアレンジしたようだ。つまりは当時の印象を大事にしつつも、古さを感じないような作りにしたということだ。その例として、G.F氏はいくつかのシーンを挙げてくれた。
「たとえば『EVE burst error』は、当時のバージョンだと、背景と立ち絵がいっしょになった状態で絵が表示されていたんです。でもいまのアドベンチャーゲームでは、背景と人は分かれているのがふつうです。ですので、背景のあとに立ち絵をスッと動かして表示させてみるといった工夫はしました。あとはイベントCGを見せるときにも、一瞬アクションを加えてから表示するとか……。演出にちょっとしたプラスアルファを加えて、当時の雰囲気を壊さないようにしつつ、印象を新しく見せられればいいなと考えていました」(G.F氏)。
基本的に一枚絵とテキストの組み合わせで展開していくアドベンチャーゲームだが、アニメーションが挿入される場面もある。G.F氏によると、アニメーションの調整も、かなりたいへんな作業だったそうだ。
「オリジナルのPC-98版でもアニメーションをしている箇所があるのですが、それは原画でパラパラ漫画のように描かれている状態でした。サターン版以降に追加されたムービーはデータが残っていて、リマスター版の制作にあたっては、それを加工すればオーケーだったのですが、やはり全部が残っているわけではなくて、“復元作業”がひと苦労でした。ときにサターン版で実際のムービーを見ながら調整しつつ、いまの時代にフィットしたカメラワークや演出を加えていったりしました。かなりこだわって作り直しました」(G.F氏)。
データがある程度残っていたとはいえ、その “復元”には多くの手間がかかったことがうかがえる。I氏いわく、「何もいじらないで使えたのは、シナリオくらいかも?」とのことだ。『EVE burst error』に関しては、のちにプレイステーション2版もリメイクされているので、そちらのデータも織り交ぜながら作り上げていったという。
「とにかく、現存しているライブラリーを可能な限り使用しました。PC版、サターン版、プレイステーション2版と、それぞれのファンがいると思うので、できる限り内包していって、“こうなったらいいんじゃないか”と誰もが思うようなリマスターを心掛けました」(G.F氏)。
ちなみに冒頭でI氏がお話していた、El Diaのプロジェクト立ち上げのきっかけになった“若い開発者”というのが、このG.F氏。G.F氏が『EVE burst error』をプレイしたのは、学生のとき。当時は探偵ものに憧れていて、『ルパン三世』や『シティーハンター』などと同列のヒーローのような認識で、『EVE burst error』の主人公である小次郎やまりなを好きになったという。マルチサイトシステムにも感銘を受け、「可能であればいつか、何らかの形でこの作品に関わりたいとはずっと思っていました」(G.F氏)という。『EVE burst error(イヴ バースト エラー)R』は、そんなG.F氏の念願がかなった1本だったと言える。
スタッフ自体にも作ることに対する感動があったので、このプロジェクトはぜひ続けたい
紆余曲折を経てリリースされた第1弾『EVE burst error(イヴ バースト エラー)R』だが、ファンの反響は上々で、どうやら開発スタッフの熱量はしっかり受け止められたようだ。
「ありがたかったですね。自分たちが好きで、本当に欲しいものを作っているという思いが、やっぱり伝わったのかなと思います」(I氏)。
「当時の作品を知っている人たちが喜んでくれた印象はあります。若い世代と話をして、“昔はこういうゲームがあってね”、という話題になったときに、現状遊べないという環境でした。El Diaは、そんな若い世代の人にも良作に触れてほしいという思いから始めた側面はあります。そういった意味では、新規の方にも楽しんでいただけていると思います」(G.F氏)。
『EVE burst error(イヴ バースト エラー)R』がリリースされてしばらく経つが、プロジェクトに対する率直な感想を改めて聞いてみた。
「仕事全体として見ると、幸せな時間でした。当時の自分がやってみたかったことをいま仕事にできている喜びもあります。途絶えてしまっている作品を現代につなげたい、まだ消えてないんだぞ、と言いたかったのですが、この作品を出すことで、それは少なくともできたかなと思います」(G.F氏)。
「苦労が苦労じゃなく思えるということですよね。“たいへんじゃない”、というのは、やはりどこかウソじゃないですか。当然たいへんなんですけど、このタイトルの作業では、最終的に残った言葉が“幸せだった”ということです。こういう言葉が出るというのは、やはりすごい作品だなと私は思います」(I氏)。
先述の通り、ただいまEl Diaでは、2017年4月27日に発売予定の『デザイア リマスターバージョン』の開発もたけなわで、さらに第3弾タイトル『慟哭 そして…』のリリースも発表したばかり。『慟哭 そして…』に関して、発売時期や対応プラットフォームなどすべてが未定だが、少しだけお話をうかがってみると、I氏はEl Diaの企画が立ち上がった段階で、キャラクターデザインを担当していた横田守氏に会いにいったのだという。I氏と横田氏は旧知の仲で、I氏はざっくばらんにEl Diaの趣旨を横田氏に説明し、「リマスター版に協力してほしい」とリクエストをしたらしい。
「『慟哭 そして…』に関しては、詳細発表は少しお待ちいただければ……と。いずれイベントCGなども公開していきますので、それを見たらファンの皆さんにもわかっていただける部分もあるのではなかと。ハードについては、どうしようかなと、いま悩んでいます。『慟哭 そして…』は脱出ゲームで、これまでの2作とは少し趣きが違いますから」(I氏)。
そしてちょっと気の早い話だが、せっかくの機会なので、『慟哭 そして…』以降のEl Diaの展開を聞いてみると……。「スタッフ自体にも作ることに対する感動があったので、ちょっと意地にもなりますよね(笑)。ぜひとも続けたいです!」(I氏)と、力強いお言葉。当然のことながら、ユーザーからはリマスター希望タイトルのリクエストが多く寄せられているという。ファンからの声が多いタイトルは明かしてくれなかったが(El Diaプロジェクトの候補作なのだろうから当然!)、1タイトルだけ、『慟哭 そして…』を発表した時点で、続編の『Revive ~蘇生~』に対する要望が多く寄せられたことは教えてくれた。「ファンの皆様からのご要望はもちろんありがたいです。全部にお応えできるかは難しいですけど、なるべくユーザーさんの期待は実現させていきたいです」とI氏は明言する。
名作を次世代につなげていくことを目標に立ち上げられたEl Diaのプロジェクト。おじさん世代のゲームファンとしては、時代の波に埋もれてしまった名作を、これからもどんどん現代に蘇らせてほしい!
※画面は開発中のものです。