アニメ『NARUTO-ナルト-』がサイバーコネクトツーに与えた影響とは

 2016年10月22日、福岡県福岡市の九州大学 大橋キャンパスにて、コンピューターエンターテインメント開発者向けのカンファレンス“CEDEC+KYUSHU 2016”が開催。本記事では、ぴえろのアニメーション監督 伊達勇登(だて はやと)氏と、サイバーコネクトツー 代表取締役 松山洋(まつやま ひろし)氏によるセッション“アニメ・ゲームにおける超演出対談”をリポートする。

アニメ『NARUTO-ナルト-』を14年間手掛けた伊達監督が語る、アニメ作りの苦労や学ぶべきこと【CEDEC+KYUSHU 2016】_01
▲松山洋氏(左)と伊達監督(右)。

 講演ではまず、伊達監督のキャリアについて語られた。伊達監督は、専門学校でアニメを学んだ後、アニメの撮影現場で半年ほど働いてから、とあるアニメ会社に演出助手として就職。そこで16年務めた後、フリーになるのだが、その道のりは順風満帆とは言えなかったそうだ。

 演出助手時代、チャンスは自分から求めないと得られなかったため、監督に「おもしろそうなシナリオがあるので、絵コンテを描かせてくれ」と頼んだという伊達監督。監督に「やってみろ」と言われて描いたところ、その絵コンテは1発オーケーだったのだが、つぎに機会を得て描いた絵コンテはダメ出しの嵐。そうこうしているうちに、アニメを作るために中国に派遣されるという、大きな転機が訪れる。

 8ヵ月中国で働き、戻ってきても波瀾万丈の日々は続いた。「居場所がなくなっていた」(伊達監督)とのことで、結果その会社は辞めることになり、フリーとなって『少女革命ウテナ』や『烈火の炎』などに携わる。そして、『GTO』での仕事が、とあるプロデューサーの目に留まり、『レレレの天才バカボン』の監督に就任。そこからはもうノンストップで監督業が続き、2002年に『NARUTO-ナルト-』がスタート。699話までの14年、アニメ『NARUTO-ナルト-』の監督を務め続けた。

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 なお、伊達監督は『ナルティメット』シリーズ(発売元:バンダイナムコエンターテインメント)の開発にも携わっており、台本もチェックしている。ここで伊達監督は、PS2用ソフト『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットアクセル』の台本の実物を披露した。テレビアニメ1回分の台本と比べると相当なボリュームだが、しっかりと目を通しているとのこと。

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▲赤い表紙の本がテレビアニメ1回分の台本、右の2冊がゲームの台本。厚さの差は歴然。
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来場者からの質問にプロデューサー&監督が回答

 つぎに、ぴえろのプロデューサーである朴谷直治(ほうのきだに なおじ)氏も交え、来場者から事前に寄せられた質問に答えることに。アニメ制作に対する伊達監督らの考えが語られた。

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▲ぴえろ プロデューサー 朴谷直治(ほうのきだに なおじ)氏。

■テレビアニメの1話は、どれくらいの期間で作られるのか?

 朴谷氏いわく、ふつうのテレビアニメシリーズは6班で制作しているが、『NARUTO-ナルト-』は8班で制作しているという。8班が持ち回りで作ると考えると、だいたい1班は2ヵ月くらいで1話分を制作している、と考えられる。

■クオリティーの高いものを作るために、どのような苦労があった?

 この質問に対し、伊達監督はスケジュールに関して語った。少年篇123話は、シナリオを早めに作り、時間に余裕を持ってクオリティーの高いものを作れるようにしたそうだが、それを皮切りに、「ああいったクオリティーの高い回を作るために、どこでスケジュールを詰められるかな」とつねに考えることになったという。

 朴谷氏はプロデューサーの視点から、数々の課題を振り返り、いつ作画を4:3から16:9に変えるかという問題や、映像を保存するメディアも変わる度、フォーマットをどうするかという問題に対応したことを語った。

■スタッフ間で意見が対立することはある?

 「意見のぶつかり合いは当然ある」と伊達監督。意見を尊重し合いながらどこに着地点を持っていくのかが楽しいとのことだ。

 ちなみに朴谷氏と伊達監督が対立することはあったのか? なんと、わりと最近(去年)、一度険悪になったという。シナリオの出来に満足できない監督と、スケジュール調整に苦心するプロデューサーの意見が対立したそうだ。そのころは、シナリオが上がるのがぎりぎりすぎて、もともと予定していたコンテマンには頼めず、苦労して代わりのスタッフを見つけて、2週間弱でコンテを描いてもらったとか……。

■演出を考える際に、必ず持っている資料やアイテムはある?

 アニメ『NARUTO-ナルト-』におけるバイブルは原作のコミックス。あとは資料など何も持っていないとのこと。我流でやってきた伊達監督ならではの回答。

■躍動感のある戦闘シーンは、何を参考にして制作されている?

 伊達監督は「正直に言うと、アクション作品が嫌い」、「描きたいのは人間ドラマ」と断言。とはいえ忍者ものである以上、アクションも求められるので、アクションが得意な人や、やりたいと手を挙げる新人に委ねたそうだ。

■新しいものを生み出すために、いまも続けている“学び”は?

 伊達監督は、自分の感覚などが古くならないようにするために、テレビで流れているものを大量に録画し、映像を1.5倍速で流して、気になった映像があったら停止して見直すそうだ。世界遺産を紹介する番組で、壮大な自然や建築物を見たり、『鉄腕DASH』で人間の営みを見たり、『世界の果てまで行ってQ!』で知らない土地を見たりしているとのこと。流行りのアイドルもチェックしているとか。

■脚本の監修をする際、どのようなスタンスで取り組んでいる?(細かくチェックするのか、ある程度脚本家に任せるのかなど)

 大切なのは「おもしろいか、おもしろくないか」である、と伊達監督。読んでいて映像が浮かんでこないものはダメだと述べた。

■3Dのアニメ制作について

 3Dのアニメ制作を自分でやってみたいかという問いについては、「手描きのよさが3Dでできるんだったら、やりたい」と伊達監督。朴谷氏は、今後自分がアニメに携わる時間の長さを考えると、いまから3Dをやるよりは、2Dをきちんとやっていきたいという考えだ。

 今後のアニメ業界については、伊達監督は“正直に言うと不安”と吐露。作画ができる人が育っていないと嘆いた(『NARUTO-ナルト-』699話は、早々たる面子が参加していたのだが、かなりダメ出しをしたそうだ)。

 人間の骨格がどうなっていて、どう動くのかを学んだ人、CGで表現できる動きは何か、また表現できない動きは何かを勉強してきた人が勝ち残る。それはアニメが2Dに進んでも3Dに進んでもいっしょだと伊達監督は語った。

伊達監督と松山氏とゲームの演出

 セッション中、和やかに会話していた松山氏と伊達監督だが、ふたりが初めて会ったとき、伊達監督は「ゲームの演出がダメだ」と松山氏に説教したという。「映画であろうが実写であろうがゲームであろうが、映像であることに変わりがない。それなのに、演出家がいないとはどういうことだ」と言われた松山氏は、「わかりました、私が演出家になります」と答え、演出のいろはを伊達監督に学んだそうだ。

 『.hack』シリーズと『.hack//G.U.』シリーズを比べると、明らかに後者で演出力が上がっているのは、伊達監督のおかげとのこと。また、サイバーコネクトツーのスタッフが、アニメ『NARUTO-ナルト-』の映像を研究し、その作画のテクニックをゲームの参考にしていることも語られた。

 伊達監督がゲームの監修も行っていることは先述の通りだが、チェックの細かさ、熱意は相当なものだったと松山氏は振り返る。『ナルティメット』シリーズの発展に、伊達監督とアニメ『NARUTO-ナルト-』が関わっていることが、改めて感じられたセッションだった。

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▲最後に、『NARUTO-ナルト-』での仕事を終え、新たなプロジェクトへ向かう伊達監督と朴谷氏に花束が贈られ、本セッションは終了となった。