多くの調整を経ていよいよ配信がスタート
『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』は、ひかりTVでおなじみのNTTぷららと、『moon』などで知られるクリエイターの西健一氏がタッグを組んだスマートフォンアプリ。スマートフォンで地底を探検し、そのプレイを受けてひかりTVゲーム版では発展した地上を心ゆくまで眺められるといった、スマートフォンとひかりTVゲーム版が連動した仕掛けが特徴の1作だ。
2016年10月13日に実施された“ひかりTV 2016年下期 事業説明会”では、同作の配信日が発表されるとともに、今後のIPのマーチャンダイジング展開なども明らかとなった。いよいよ配信間近! ということで、ファミ通.comでは『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』のディレクターである西健一氏に話を聞いた。
既報の通り、10月27日の配信が決定した『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』。当初は9月の配信が予定されていた同作は、西氏の強い思いにより配信が延期された。配信日が正式に決定したいまだからこそ……ということで、発売を延期した理由を聞いてみると……。
「機能的に、当初から考えていた機能は全部入っていたのですが、プレイして調整していくなかで、“まだ痒いところに手が届いていない”という感覚がありました。それで、ぷららさんに発売延期を直談判したんです。もちろん、簡単な決断ではなかったかと思いますが、どうにか社内調整していただき、10月27日まで配信を延ばしていただきました。かなり時間をいただけて、自分としては満足できるクオリティーまで作り込めたので、結果としてとてもよかったし、ありがたく思っています」(西氏)。
では、最終的に調整した部分とは、具体的にはどんな点なのだろう。西氏が挙げたポイントは、“UI(ユーザーインターフェイス)”、“演出”、“バランス”の3点だ。
「UIについては、ボタンが押しにくい位置にあるとか、押した後のリアクションがわかりにくいとか、そういったところです。演出面は、たとえば何か成功したときに、“よかったね!”といった演出がありますよね。そのタイミングが悪かったり地味だったりして、わき立つ嬉しさに欠けたんです。そしてバランス面ですが、最初はゲームの難易度がイージー過ぎて、バンバン進められる仕様でした」(西氏)という。配信延期で得られた時間により、こうした懸案点をすべて潰していったという。
独特の世界観を伴った深みのある“堀りゲー”
かように西氏が丹精込めて作り上げた『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』だが、実際のところどのようなゲームなのか? ご存じでない方のために改めてご紹介すると、本作は、荒廃した未来世界を舞台に、古代人の末裔である主人公ヨナが地下を掘り進み、地上の“タウン”を開発していくという、いわゆる“掘りゲー”。地上にはゲームを象徴する存在である巨人のルナがいて、魔法の力でもって、ヨナが地下を探索するのを助けてくれる。ビジュアルをひと目見ればわかるとおり、独特な世界観がミソで、これはいかにも『moon』の西健一氏とキャラクターデザイナーの倉島一幸氏コンビらしいテイストだ。
「“堀りゲー”というのは、タイプがいくつかありますよね。僕も“掘りゲー”は好きで、いろいろと見ているのですが、“もう少し世界観が感じられたら、もっと感情移入できるのに”と、感じることが多かったんですね。それなら僕のテイストと倉島の絵で、“世界”を感じられるようなゲームを作れたらいいなと思ったんです」と西氏。掘り進んでいく地下には、失われてしまった古代文明の残骸が眠っているという、ある意味でロマンチックな舞台背景が用意されているのだ。
では、なぜ西氏は“掘りゲー”に心惹かれるのであろうか? それに対して西氏は、「“掘る”とはどういうことかというと、“自分を掘り下げる”ということにもつながると思うんです」と語る。“掘ることで自分を顧みる”というと、ちょっと詩的に過ぎるだろうか。さすがに、それは概念的なものに寄せ過ぎとしても、西氏はゲームデザインの面からも“掘りゲー”にアプローチしてくれた。
「ゲームというものは、何かひとつのアクションを軸に入れないと、作れないと思っています。たとえば『スーパーマリオブラザース』なら歩く、走る、ジャンプ。『ゼルダの伝説』なら、そこにバトルも入ります。今回ターゲット層などを考えて、バトル以外の何かで行くということを考えたときに、“掘る”という、ある種プリミティブな行為がおもしろいのではないかと発想したんですね。いま自分がいる場所や空間の、遙か地下に過去の時間や生活が眠っていて、それを堀っていくと思ったら、何かワクワクしませんか?」と話す西氏の顔は、そのワクワク感を思い出したのか、いかにもうれしそうだ。ゲームデザインと世界観を照らし合わせた結果、“掘りゲー”というのは、必然の道だったということなのだろう。
本作では、その“掘る”という、ゲームの軸となるアクションにも、さまざまなバリエーションが用意されている。魔法の力で一気に掘ることができたり、連鎖させるといったことも可能だ。主人公であるヨナをサポートしてくれるのは、先述の通り巨人のルナ。ルナはヨナといっしょに掘る作業はできないが、そのぶんヨナをサポートしてくれるのだ。「自分はけっしてひとりぼっちではなく、地上には友だちがいてつねに助けてくれる。そういうところも、ほかのゲームにはない味付けになっていると思います」と西氏は言う。タイトルにその名が使用されていることからも分かる通り、ルナはこのゲームを象徴する存在だと言えるだろう。
西氏によると、この巨人というモチーフは、企画当初からあった設定だという。当初は、巨人のルナもヨナといっしょに掘るというアイデアもあったようだが、絵的にふたつのキャラクターのバランスが悪くなるので、ルナは地上に残すことにしたそうだ。存在としては、「人間にマナというエネルギーを伝授し、文明繁栄に貢献したのですが、文明が滅ぶ大海嘯もまた招いた存在。言わば創造神であり、破壊神でもあります」(西氏)という位置づけになっている。
「ヨナがどんどん掘り進んで文明を再生していくと、また同じ悲劇が起こるかもしれない。だから本来、巨人はそれを止めるべきなのですが、逆に応援してくれます。これは、“つぎの世代ならば、なんとかしてくれるはず”、という期待の表れなのかもしれません」(西氏)というから、ルナには相当奥深い設定が隠されていそうだ。
キャラクターや音楽への徹底したこだわり
巨人のルナに対しては、NTTぷららサイドのこだわりも深かったようで、キャラクターデザインを固めるにあたっては、西氏&倉島氏とNTTぷららサイドで、現在のデザインに落ち着くまでに、相当な紆余曲折あったようだ。「モフモフしたものからバトルっぽい雰囲気のものまで、最初は30~40くらいのパターン案を出しました」と西氏。NTTぷららにしてみても、『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』を有望なIPに育てたいとの思いがあったようで、まあ、ざっくり言ってしまえば“産みの苦しみ”というものだったのだろう。
ちなみに、ルナの造形にあたって西氏が目指したテイストは、“ふつうにカワイイ”ではなく、“それでいて愛着を持てる”というデザイン。「初見でカワイイと思うキャラクターは、あまり長続きしないと個人的には思っています。印象に残っているのは『E.T.』です。まだ映画を見てなかった段階の僕にとっては、気持ち悪いキャラクター以外の何者でもなかった存在が、ひとたび映画を見るや、ハートを鷲掴みにされてしまいました。そこがキャラクターのマジックかもしれません。単にカワイイじゃなくて、ちょっと違和感を抱きながらも味わいがあって感情移入できるというのが、キャラクターデザインとして正しいと思っています」(西氏)と語る。そんな西氏の目指すテイストは、ルナを見ているとよくわかる。
以下、NTTぷららと西健一氏のご好意によりご提供いただいたボツとなったイラストをご紹介しよう。
そしてもちろんのこと、あまり多くを語っていただく時間はなかったが、主人公であるヨナのデザインも、かなり難航したようだ。ヨナのデザインに関しては、西氏の口からちょっと意外な話を聞くことができた。ヨナの見た目は宇宙服のようなスーツとヘルメットになっているが、「いずれタイミングが来たら、ヘルメットを脱いで素顔をお見せすることになると思います」(西氏)というのだ。「素顔があるのか?」ということでちょっぴり意外だが、デザインはすでに完成しているらしい。キャラクター的には男の子と女の子がいて、女の子はポニーテールなのだとか。エンディングのあるゲームであれば、最後の最後でヨナがヘルメットを脱ぐといって展開も想定されるが、『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』はその手のゲームではない。どのようなタイミングで素顔が公開されるのか……気になるところだ。
キャラクターに続いて、本作の音楽についても印象をうかがってみた。本作の作曲を担当したのは、安達昌宣氏。つまり、ディレクター・西健一氏、キャラクターデザイン・倉島一幸氏、音楽・安達昌宣氏という、『moon』のゴールデントリオが、本作では再現されているのだ。「『moon』はいまだに皆さんがおもしろいと言ってくださるゲームなのですが、そのときのスタッフである安達さんに参加してもらっているので、『moon』ファンなら、なんとなく響く部分もあるのかなと思っています。曲調はいろいろなのですが、ワールドミュージックや民族音楽っぽいものが多めになっていますよ」(西氏)とのことだ。
スマートフォン版とひかりTVゲーム版との連携は?
『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』では、スマートフォン版とひかりTVゲーム版とが連動している。具体的には、スマートフォン版で地下を探索して、地上の装飾品をゲット。ひかりTVゲーム版では、大画面を活かして地上の風景を堪能することになる。ひかりTVゲーム版では、アクション性などはない。そもそもは、ひかりTVゲームのプロモーションの意味合いもあるだけに、ひかりTVゲーム版を遊ぶことで、スマートフォン版に大きなメリットがもたらされるのが筋というもの。とはいえ、ひかりTVゲーム版ユーザーでなければ、入手できないアイテムなどがあったりすると、スマートフォン版だけを遊ぶプレイヤーに対して不公平感が出る。スマートフォン版はスマートフォン版だけで、ビジネスとして成り立たせたい……との思いもあり、そのへんの調整には相当ジレンマがあったであろうことは想像に難くない。むしろ、容易に想像できる。そこで、連携要素として、スマートフォン版で入手した樹木に対して、ひかりTVゲーム版では、さらに“実がなって収穫できる”ようにして、ひかりTVゲーム版で遊ぶとお金が貯まりやすい仕様にしたのだという。西氏が想定したユーザーモデルは、親と子という家族でのプレイだ。
「お母さんと子どもは、昼間は家にいて、お父さんは会社です。お母さんたちがひかりTVで遊んで収穫したら、それがゲーム内のお金としてスマホに送られて、お父さんは帰りの通勤電車で、“子どもががんばってくれたな~!”と思いながらゲームを楽しむ。それで帰宅したらお互いのプレイの話を交わしてコミュニケーションできる。そんな遊びができたらいいな……というイメージですね」(西氏)。
アニメ化やコラボなど多彩な展開にも注目
10月13日に行われた“ひかりTV 2016年下期 事業説明会”では、『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』の新たな展開として、アニメ化も発表された。制作はIGポートグループ(『攻殻機動隊』などで知られるProduction I.Gなどを擁するアニメーション制作会社グループ)で話題作『CYBORG009 CALL OF JUSTICE』を手掛けるSIGNAL MD。3分×10話というスタイルで、2017年4月にひかりTVのビデオサービスなどで配信される予定だという。まだゲーム自体の配信前に、アニメ化が決定するというのも、NTTぷららの同作に対する注力ぶりがうかがわれるところだ。それにしても、いきなりアニメ化というのも驚きだが……。
「アニメ化については、僕も話を聞いてビックリしました。制作がIGポートグループということで、重ねて驚きました。アニメ化にあたってのミーティングでは、アイデアを提供させていただいたりもしましたが、基本的には監督にお任せというスタンスで、いちユーザーとして楽しみにしている感じです」という西氏。アニメ化にあたって西氏から何か要望を出したのか尋ねたところ、「絵本っぽいタッチだったら嬉しいな、ということは伝えました。あとは、3分×10話という形式ならば、まとまったストーリーを作るのはきびしいと思うので、オムニバスがいいのかなと……。巨人がフィーチャーされるエピソードがあったり、主人公の少年少女のロマンスがあったりと。いずれもアイデア出しのレベルなので、実際にどうなるのかはわかりませんし、基本はお任せしています!」とのことで、アニメ化の内容も気になるところだ。
さて、NTTぷららによると、今後はアニメ制作のみならず、ほかにもさまざまなマルチメディア展開を検討中だという。東京ゲームショウでは、ブーススタッフのTシャツにプリントされた登場キャラクターが来場者に好評だったそうで、大きな手応えを感じたという。キャラクターグッズ化などの可能性も十分にありそうだ。「東京ゲームショウって、圧倒的に男性客が多いじゃないですか。でもルナたん ~巨人ルナと地底探検~』を試遊してくださる方は、4割くらいが女性の方で、とても興味を持ってくださったみたいです。そういった女性ユーザーにも届くような、絵本などの幅広い展開ができればと思っています」(西氏)。
まだ配信前の『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』だが、今後に関する気になる情報も西氏からうかがうことができた。まだ企画段階ではあるものの、いくつかのコラボがほかIPとも計画されているというのだ。スマートフォンアプリでは、ほかの人気ゲームのキャラクターが登場するといったパターンが一般的だが、西氏によると、“ほとんど、ゲームではない”IPとのコラボだという。
「いま交渉中のコラボのお相手はいくつかありますが、いずれもアニメだったり映画だったりと、違うジャンルとのコラボを仕込み中です。実現すると、ちょっとおもしろいコラボになると思います」という。今後、『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』では、いろいろな仕掛けが着々と進行中のようだ。
配信日決定やアニメ化発表など、いよいよ本格始動となる『ルナたん ~巨人ルナと地底探検~』。最後にファンの方へのメッセージをいただいた。
「手に取ってもらったら、もうとにかく掘るだけ、タップするだけでどんどん先に進めます。すごく簡単で、間口も広いゲームです。さらにうまく進めようと思ったら、戦略的に遊びたい人には深みも十分用意しています。もし深い世界観まで思いを馳せて遊んでいただけるとしたら、足元に埋まっているのはかつて自分が暮らしていた世界だと仮定して、掘り起こして再生することで見えてくる“未来”とったものを感じていただきたいです。過去に向き合うことで未来が見えてくることもあると思いますから。掘り下げるということは、じつは本当に大事なことで、日々掘り下げる人は、きっとステキな大人になれるんじゃないかなと思っています」。