どんどんアイラが愛おしくなっていくアドベンチャーゲーム

 感動的なストーリーが話題を呼んだテレビアニメ『プラスティック・メモリーズ』(以下、『プラメモ』)。同作がアドベンチャーゲームとなってプレイステーション Vitaでリリースされた。オリジナルキャラクターやアニメでは描かれなかったエピソードの収録など、さまざまな見どころが用意されたゲーム版『プラメモ』をイチ早くプレイした記者による、プレイインプレッションを、微妙に攻略情報を交えながら掲載する。なお、本記事にはアニメ本編のネタバレも書かれているが、作品のテーマを鑑みれば想定の範囲内の内容であるので、あまり気にせずに読んでいただければ幸いだ。

再会はゲームで――PS Vita『プラスティック・メモリーズ』プレイインプレッション_01

 『プラメモ』が好きだ。ぶっちゃけた話をすると、もともと同作は、自分が担当したWebラジオ番組『今井麻美のSinger Song Gamer』(現在はニコニコ生放送で配信中)のパーソナリティーである、声優の今井麻美さんがエンディング曲を歌うということで、注目したテレビアニメ作品。もちろん、ほかにも注目する要因はいくつかあったが、きっかけはそんなところだった。事前情報から、人とアンドロイドの物語であること、主人公たちが“思い出を引き裂く”ことを担い、別れがひとつのテーマになっていること、どうやら泣ける作品だろう、ということを感じ取っていた。そして、第1話からいきなり泣かされたことを、いまでも鮮明に覚えている。「大切な人と、いつかまた巡り会えますように」というテーマが込められたオープニング曲とエンディング曲、儚さを感じさせる美しいアニメーションに心を奪われた。アニメ放映中の3ヵ月間は、『プラメモ』が毎週のモチベーションになっていたように思う。だからこそ、ゲーム化された『プラメモ』は、じっくりと、しかしきびしい目で吟味するつもりだったのだが、開始30分経たないうちにドバーっと泣いてしまった。ポロポロではない。ドバーッとである。ああ、これが『プラメモ』。改めて思い知らされた。そう。『プラメモ』は泣けるのだ

 そもそも『プラメモ』といえば、『シュタインズ・ゲート』や『ブレイブリーデフォルト』などのゲーム作品で知られるシナリオライター、林直孝さん(MAGES.)によるオリジナルアニメ作品。人工の心“アルマ”を持ち、81920時間(約9年4ヵ月)という限られた時間しか活動することのできないアンドロイド“ギフティア”とそれに関わる人々に、“必ず訪れる別れ”が描かれ、儚く切ないストーリーが話題となった。アニメでも、さまざまな“別れ”が描かれたが、とくに主人公の水柿ツカサとパートナーのアイラとの別れのシーンは、涙なしでは語れないほどの名シーンであり、筆者も最終回はテレビの前で涙を堪えることができなかった。そんなテレビアニメ『プラメモ』の放送から1年。ついに『プラメモ』が待望のゲーム化である。若干待たされすぎて、「え? いま出すの?」という気持ちになったりもしたが、また『プラメモ』に、アイラたちに巡り会えることを、本当にうれしく思った。

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 ゲーム版『プラメモ』の序盤は、非常にシンプルなアドベンチャーゲームの構成となっている。プレイヤーは、主人公の水柿ツカサの視点で、物語を進めていく。テレビアニメの物語を非常に丁寧に描いているので、「原作のアニメを観たことがない」という人でも安心してほしい。むしろ、「原作アニメを観ていないから」という理由で買うのをためらっているのであれば、それは間違いであると、強く言いたい。本作には、ほんの少しだけ短くまとめられている部分はあるものの、『プラメモ』の物語が丸々入っていると言って過言ではないだろう。「これだから素人は!」と言いながらツカサの面倒を見てくれる年下の先輩・ミチルや、彼女のパートナーであるザックとの物語も、アイラの元パートナーであり酒癖の悪い上司・カヅキとの物語も、ニーナやマーシャといった回収対象となるギフティアの物語も、アイラをデートに誘うため右往左往するツカサの物語も、どれもこれも収録されている。プレイしながら作品の場面が記憶から呼び起こされるほど、演出なども含めて丁寧に作られているため、アニメを観た人にとってもしっかりと作品を振り返ることができるゲームに仕上がっている。また、プレイヤーの視点=ツカサの視点となるため、キャラクターたちが自分に話しかけてくる感覚が非常に強い。これが中毒性が高く、アイラやミチル、エルなど、おなじみのヒロインたちと会話を進めるほどに、彼女たちのことがいままで以上に愛おしくなっていく。ゲームでは、ツカサの心情も非常に細かく描かれているので感情移入度も高いため、その効果はバツグンだ。

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 そして本作のポイントと言えるのが、スケジュールモード。アイラとの最後の1ヵ月間を、自由にスケジュールを組んで楽しめるモードで、選べるスケジュールは“休息”、“仕事”、“デート”の3種類が用意されている。それぞれのスケジュールでは、アイラや彼女にまつわる人々とのエピソードが、ツカサとアイラのふたりを中心に展開。アニメで言うと11話と12話の時間軸をもっと濃密にもっと深く描くような形で、アニメで描かれなかった裏側に、こんなにもたくさんのエピソードが隠れていたのかと、驚くばかりだった。そういったエピソードを見ていくほどに、よりアイラという女の子のことに詳しくなっていく。だからこそ、アイラのことをもっと好きになってしまうのだ。しかも、用意されたエピソードの数は60個以上! アニメ本編の物語が丸々入っているだけでもなかなかのボリュームなのに、追加エピソードがそれ以上に用意されているのだから、隅々まで遊んだら『プラメモ』世界にどっぷり浸かってしまうことだろう。そして、ちょっとくすぐったくなるようなアイラとの仲睦まじい恋人生活をひとつひとつ重ねていくごとに、さらにアイラのことが愛おしくなっていく。……だからこそ、アニメと同じラストに辿り着いたときは、エンディングを見終えるまで涙が止まらなかった。正直、観覧車のシーンでは「これでアイラとお別れなのか……」と思った瞬間、本当に大切な人を失ってしまうかのような感覚を覚え、思わず「イヤだ!」という強い衝動が沸き上がるほど、感情移入していた。あのとき筆者は、間違いなくツカサになっていたと思う。ある意味、本作はツカサなりきりゲーと言ってもいいのかもしれない

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 ちなみに、スケジュールモードについて、どうしても説明しておきたいことがある。同モードでは、選択したエピソードを見終えると隣接するスケジュールが新たに解放されていくという形で、つぎつぎにいろいろなエピソードが解放されていく。なかには、条件を満たさなければ解放されないスケジュールもあるため、条件を考察して、いろいろなスケジュールを解放していくという楽しみもあるのだ。しかし、プレイヤーが自由に決められるスケジュールは23日分。日数が限られているため、一度のプレイでいろいろなフラグを立てるのは不可能。ではどうするかと言うと、一度クリアーした後に、再度“NEW GAME”を選んでストーリーを進め、アイラに告白を行うのだ。すると、スケジュールモードに突入した際に、前回プレイ時にクリアーしたエピソードが解放された状態になっている。ちょっと面倒ではあるが、クリアーしたら再び“NEW GAME”を選ぶ、ということを、ぜひ覚えておいてほしい。

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 アニメでは明かされなかったアイラの出生に関するエピソードや、『プラメモ』に関する深い設定などがゲーム中で語られるなど、見どころが満載だったゲーム版『プラメモ』。アイラに告白をしないという選択をすれば、それまでの好感度によってミチルやカヅキ、シェリーやエルといったキャラクターたちのルートを楽しむことができる。こちらのルートでは、彼女らやそのパートナーが背負っているものや、彼女らの日常を垣間見られ、意外な一面を見せてくれるキャラクターもいるため、より『プラメモ』のキャラクターたちのことが好きになった。そして、スケジュールモードでは、アイラの生みの親である萌葱ユウ博士や、アイラのトラウマに関わりのあるチェルシーと淡藤サキコといったキャラクターも登場し、アイラとツカサの物語が、テレビアニメとは違った方向へと動いていく。ふたりに用意された結末とは? アニメとは異なるエンディングを迎えたときには、今井麻美さんが歌う楽曲『Reunion ~Once Again~』が流れる。同曲は、作詞に林直孝さんが関わっているだけあって、本作のストーリーにリンクした楽曲になっているため、ぜひゲームを最後までプレイして聴いてほしい。歌詞に非常に意味のある楽曲となっているので、ゲームをプレイすることで、その意味をより深く感じられるはずだ。もちろん、エンディングはそれだけではなく、こんな未来があったのかも、という思いに浸れるようなエンディングを楽しむことができる。また、要所で挿入されるアニメシーンや、メニュー画面から見ることができるアイラの日記など、思わず目頭が熱くなる要素がそこかしこに用意されているのもポイントだ。

 かけがえのない日々を体験させてくれる『プラメモ』という作品との1年ぶりの再会は、またたくさんの感動を与えてくれた。一度あの感動を味わった人も、まだ味わっていない人も、この作品に巡り会えますように。

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プラスティック・メモリーズ
メーカー 5pb.
対応機種 PSVPlayStation Vita
発売日 2016年10月13日発売
価格 6800円[税抜](7344円[税込])
ジャンル アドベンチャー
備考 限定版は9800円[税抜](10584円[税込])、ダウンロード版は6000円[税抜](6480円[税込]) シナリオ:林直孝 ほか