台湾でゲームをリリースする企業から5名のパネリストが登壇
2016年9月15日(木)~9月18日(日)まで、千葉県・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ 2016(15日、16日はビジネスデイ)。15日、隣接する東京ベイ幕張ホールでは、“アジア太平洋ゲームサミット 2016 in Tokyo”が開催され、おもに台湾進出を考える日本のメーカーに向けて、すでに台湾へ進出しているメーカーからパネリストを迎えてのパネルディスカッションが行われた。
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パネリストは、椎葉忠志氏(Aiming代表取締役社長)、劉★(日のしたに立)昌氏(FUN YOURS副社長)、永田博丈氏(ソネットエンタテインメント台湾CEO)、Sky Lin氏(Wargaming台湾カントリーマネージャー)、大崎敦士氏(ミクシィ海外運用部部長)の5名。Aimingは、『剣と魔法のログレス いにしえの女神』を台湾で展開し、売上ランキング1位を記録した実績もある開発運営会社。FUN YOURSは『ひめがみ絵巻』など自社ゲームを開発している台湾の企業で、Aimingとはパートナー関係にある。ソネットエンタテインメント台湾は、『白猫プロジェクト』『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』などの繁体字版を運営する、ソニーネットワークコミュニケーションズの子会社。Wargamingはオンラインゲームの開発会社でありパブリッシャーで、『World of Tanks』などで有名。ミクシィは台湾で『モンスターストライク』をリリースしている。なお、ディスカッションのモデレーターは台北国際ゲームショウ事務局のJesse Wu氏が務めた。
目移りの速い台湾ユーザーを引き留めるために
最初のテーマは、世界の国々の中から、なぜ台湾への進出を選んだのか。ソネットエンタテインメント台湾の永田氏は、「台湾市場はそれほど大きくはないが、日本のアニメになじみがある点が非常に特徴的。日本の企業からすると、ほかの国に比べて成功の確率が高いと思っている。とは言え、台湾でランキングの上位に来るのは、やはり中国のタイトル。日本のゲームは人気が高く、プレイヤーは多いが、売り上げという観点ではなかなか難しいというのが実情」と語った。また、WargamingのLin氏は「東南アジアと比較して台湾は、発展状況が健全で、消費者の収入も高いと判断した。また、台湾市場はとてもオープン。軍事ものは人気が出ないんじゃないかと言われていたが、我々は2013年1月に参入し、4月には早くもブレークイーブンに持っていくことができた」と振り返った。
このテーマに関して、FUN YOURSの劉氏は台湾企業という立場から「台湾は島型の市場。世界中から大量のゲームが持ち込まれ、それを受け入れる素地がある。やはりローカリゼーションは必要だが、日本のデベロッパーにいい環境」と、台湾進出を選択する意義を説明した。また、モデレーターのWu氏は「『ポケモンGO』のリリース直後、大勢の人がある公園に殺到したことがニュースになったように、他人が遊んでいるのを見て自分でもやってみようというのが台湾。それを踏まえたプロモーションを行えば、台湾市場で一定の成績を上げることができるはず」とまとめた。
つぎのテーマは、日本製ゲームを台湾でリリースする際、どのような調整をしているのかについて。Aimingの椎葉氏は「日本と比べて台湾市場は飽きっぽい。新しいゲームの情報をみんなが知っていて、興味の対象が一斉にそちらへ移ってしまう。だから、リリース当初は大勢のユーザーを獲得できるものの、すぐにどこかへ行ってしまうと考えている。ということで、『剣と魔法のログレス』は、日本で運営していた2年分のサービスを、台湾ではリリースから半年ですべてつぎ込むような設計にした」と明かした。ミクシィの大崎氏は「台湾のユーザーは日本のゲームの情報に詳しく、日本と同じものを提供しても“もう知っている”という状況。そこで、日本版『モンスターストライク』に台湾独自のもの、台湾のユーザーにあったものを運用上加えている。また、コア部分ではなくシステムの周辺の部分で、1年ほど前から台湾独自の仕様を一部採用している」と語った。両社とも、ゲームの根本部分ではなく、運用や周辺の部分をチューニングしているということだ。
友人としては良好な日台関係も、ビジネスでは……!?
続いて、台湾でどんなプロモーションを行っているかというテーマが取り上げられた。ソネットエンタテインメント台湾の永田氏は「台湾は日本と比べて、まだオフライン系の広告を打って響くかなという感じはしている。ただ、マーケットの規模で考えると、日本のようにプロモーションをどんどん打って、新しいユーザーを捕まえていくには限界がある。いかにコアなユーザーを捕まえていくかが重要。そのために、運営チームがユーザーの前に顔を出して、ファン交流会をやったり、生放送をやったりして、相互にコミュニケーションを取っている」とコメント。WargamingのLin氏は「一度ユーザーが流出すると、戻って来てもらうのは難しく、そのトレンドがほかのユーザーにも及ぶ恐れがあるため、ユーザーのニーズは大切。そのため、SNSなどで数十人のコアユーザーを確保し、大きなサポートを行って、フィードバックを受けた。また、台湾のゲームメディア『バハムート』のゲームコミュニティでファンの書き込みなどを見て、ニーズへの対応を行った」と語った。
台湾でのパートナー探しもテーマに挙げられた。AimingはFUN YOURSのタイトルを日本で配信するなど、パートナーとして共同のプロジェクトを行っている。椎葉氏はもともと、FUN YOURSが日本で配信していたオンラインゲーム『ル・シエル・ブルー』を個人的に気に入っていて、FUN YOURSに興味を持っていたという。そんなとき、東京ゲームショウの台湾ブースにFUN YOURSが出展しているのを知り、劉氏と知り合ったのだとか。「台湾で仕事をいっしょにしようと思う人のほとんどが誠実でいいひと。とくに劉さん(笑)」と、椎葉氏は劉氏と肩を組んだ。
また、ソネットエンタテインメント台湾の永田氏が「台湾人と日本人は友人としては非常にいい関係だが、ビジネス的には……。日本人は台湾人のことを、雑、適当、先を考えていないと見ているし、台湾人は日本人を、遅い、コンサバすぎる、判断しないと思っている(笑)。ここをわかっていないと、いいパートナー関係は築けない」と語ると、会場から共感の笑い声が沸いた。そしてFUN YOURSの劉氏は「台湾のディベロッパーはファミコンで遊んできた人たちが多く、ゲームに対する認識や習慣は日本とそれほど差がない。日本のエンジニアとのやりとりもとくに問題がない。日本のゲームに対する知識もあり、小さなころから日本のアニメに親しんできたために美術的な感覚も似ている。台湾の美術製作が美しいと思うものについて、中国とは差があり、日本とは近い」と、台湾の人材について説明した。モデレーターのWu氏は「台湾にはゲームの長い歴史がある。ファミコンにはじまり、スタンドアローン型のゲームや、ポータブルタイプのゲームもあるなかで、これまで市場は成長してきた。開発者たちはそうした中で育ってきた。一方、中国のゲームの歴史は浅く、近年ようやく発展してきた。オンラインゲームが急激に伸びている状況だ。コンソールゲームについては台湾には及ばないと思う。研究開発の人員についても、台湾と中国には差がある」とまとめた。
最後にWu氏は「台湾と日本は、この分野において、非常によい協力関係にある。文化的な違いもあるが、だからこそ交流によって信頼を構築することが重要。日本は台湾を介してさらにシンガポールやフィリピンなど海外に進出することもできるとも思っている。この“アジア太平洋ゲームサミット”も、フィリピンやトルコでの開催を考えている。孤軍奮闘するのは厳しいが、各国との協力や戦略的な提携を通じて、世界に進出することができるはず」と結び、“アジア太平洋ゲームサミット2016 in Tokyo”の閉幕となった。