おもしろいタイトルをユーザーの皆さんにご提供したい
2016年8月17日~21日(現地時間)ドイツ・ケルンにて、ヨーロッパ最大のゲームイベントgamescom 2016が開催。ここでは、会期中に行われた、Wargaming.netのアルベルト・デルガド氏へのインタビューの模様をお届けする。デルガド氏は、同社にて新しく立ち上げられた部署WG Labsのパブリッシングプロデューサーとして、『Master of Orion』や、発表されたばかりの『Hybrid Wars』を担当している。
――WG Labsとはどのような部署なのですか?
デルガド 端的にいうと、外部の開発会社のパブリッシングをメインにサポートをする部署です。Wargaming.netは、いま規模を拡大していますが、始まり自体は小さな会社でした。ゲームを開発してはいたのですが、多くのところに持ち込みなどをしても門前払いを食らうことが多かったんですね。そんな経験がCEOのビクターにもあったので、小さな開発企業がパブリッシングをするサポートをしたいと思い立ったんですね。そもそもは、当社が『Master of Orion』のIPの権利を取得したことに端を発しています。ビクターがもともと『Master of Orion』の大ファンで、「昔の芸術品みたいな作品を眠らせておくのはもったいない」ということで、リメイクして、いまのゲームファンに提供することを決心したんですね。
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――ああ、ビクターさんが過去の自身の経験をもとに、開発会社をサポートする部署を立ち上げたということなのですね。WG Labsの方針はどのようなものなのですか?
デルガド 基本は、“おもしろいものを皆さんにご提供する”ということが挙げられます。WG Labsが本格的に稼動し始めたのは今年からなのですが、現在さまざまなタイトルで、サポートの申し込みがきます。そのため、数がものすごくなってしまうので、ある程度のフィルターは用意しています。重要な選定基準になるのは、ポテンシャルの高いものです。今後、いかにして成長できるか、成長の見込みのあるものや、「これは絶対におもしろい」というものをピックアップしていきます。プレイヤーの方がおもしろいと思えるものが選定基準になりますね。
――いま、おおむねどれくらいの持ち込みがあるものなのですか?
デルガド うーん、すごい数ですよ(笑)。特定の数字はお答えできないのですが、ここ数ヵ月のうちに私自身も100以上のタイトルを見てきましたが、実際の数は相当なものになりますね。
――持ち込みが多い国なんてあったりするのですか?
デルガド それこそ、世界中からさまざまなジャンルやさまざまなプロットフォームのタイトルが来ています。どこか特定の国が多いということはないのですが、『Master of Orion』はアルゼンチンの開発会社ですし、『Hybrid Wars』はロシアとなります。場所を問わず、世界中からお話はいただいています。
――思わぬ地域からの申し込みもあったりするのですか?
デルガド 正直なところ、場所というのは選定の基準として気にしてはいません。最終的に選定を抜けてきたところで、開発会社の場所を把握するので、どこから来たということは、あまり気にしたことはないです。
――ちなみに、日本からの申し込みはあったりするのですか?
デルガド どんな内容かはお教えできないのですが、もちろん日本からも申し込みはあります。
――なるほど。いざ作るとなると、どのようなサポート体制となるのですか?
デルガド 基本的に決まったことはありません。その会社がどのようなサポートを求めてくるかで大きく変わってきます。たとえば開発しかなくて、パブリッシングの部署がまったくなかった場合は、パブリッシングに力を入れてサポートしますし、要望をいただければアドバイスもします。もちろん、開発資金の援助などもしていますので、けっきょくのところサポートを受ける会社が、どのようなサポートを必要とするかで大きく変わってきます。
――幅広いレンジでサポートする形になるのですね?
デルガド そうですね。
――持ち込みで、このジャンルが多いとか、このテクノロジーが充実しているというのはありますか?
デルガド うーん……。いろいろと申し込みをいただきますが、どれがいちばん多くて、どれがいちばん成長しているか……というのは、お答えしづらいですね。ただ、モノとして多いのは、やはりPCのプラットフォームですね。これは開発環境が整っているというのが大きな理由だと思います。
――今後VRが有望だから、VRの申し込みを多く採用しようといったことはありますか?
デルガド そういう方針ではないですね。どちらかというと、それをサポートすることによって、より多くの方々が楽しめるのであれば……という方針です。
――ひとつのモデルケースとして、『Hybrid Wars』はどのようなスタンスで関わっているかお教えいただけませんか?
デルガド 簡単な流れでいいますと、ゲームのプロトタイプがWG Labsに送られてきて、そこからポテンシャルを見て、「多くの方々に楽しまれるゲームだ」との手応えがありましたので、いろいろと開発資金などをサポートしています。リリースを出したり、gamescomで取材の場を設けさせていただいたり……というような、認知度をあげるためのプロモーションのお手伝いもしています。
――開発に際してはアドバイスなども?
デルガド 私たちから指示を出すということはありません。「こうしたほうが、私たちの経験上よかったですよ」というアドバイスはさせていただきました。基本的には、開発会社の判断にゆだねています。
――Wargaming.netというと、戦争ゲームやeスポーツという印象が強いのですが、それとはまったく別軸の動きということですか?
デルガド 私たちのタイトルでは、たしかにeスポーツを強く推している部分はあるのですが、WG Labsで出しているタイトルはまったくジャンルが違います。eスポーツの素質のあるものは、もちろんeスポーツ化を進めていくことになると思いますが、『Master of Orion』のように、まったくeスポーツとは関係のないものもあります。Eスポーツを重視して、それをメインで考えているわけではないです。むしろ、私たちにいままでなかった経験なり技術なりを得るための側面も強いかもしれません。私たちでは、いままで『World of Tanks』を筆頭に、eスポーツをメインに据えた対戦ゲームをご提供してきましたが、今回WG Labsで世界中の開発スタジオと協力することによって、私たち自身もさまざまなノウハウや経験を蓄積できるわけです。
――Wargaming.netにバックされるものも大きいということですね。
デルガド 私たちが、WG Labsを通して目標としていることは、多くのパートナーをサポートしていきたいということがメインとなります。さきほど述べたとおり、WG Labsの立ち上げ理由は、ビクターがまだWargaming.netが小さかったときに苦労した経験がもとになっています。WG Labsから開発会社にサポートを与えながら、双方向的に利益が上がるように、お互いを支えあっていきたいというのが、ひとつの目標になっています。もちろん、サポートした企業からタイトルがリリースされれば、利益の一部は私どもの収入となるのですが、何より大きいのは、こうした関係性を築くことで、私どもにいままでなかった技術やノウハウを蓄積できることです。そうするとことで、市場だったり流行に対してもつねに素早く対応できるわけです。
――ケースとして、WG Labsのほうから働きかけるというケースはあるのですか?
デルガド 『Master of Orion』がまさにそのようなケースなので、今後ないとも言えません。私たちがサポートしたいタイトルだったり、興味深いタイトルなどがあれば、お声掛けをして、サポートしていきたいと'考えております。
――ちなみに、WG Labsのオフィスはどこにあるのですか?
デルガド メインオフィスというのはありません。世界中から申し込みが来ますし、世界中でパブリッシングをしないといけないので、各地域でオフィスを構えています。
――日本にも?
デルガド 基本的にサーバーが配置されているアメリカ、ヨーロッパ、ロシア、アジアに拠点を置いているのですが、日本のオフィス自体には担当者はおりません。シンガポールになりますね。
――日本でWG Labsを利用しようと思う開発スタジオも増えるかもしれませんね。
デルガド そうですね。WG Labsではつねに新しい挑戦をお待ちしております。日本でゲーム開発をされている方で、もしお手伝いが必要でしたら、WG Labsの公式サイトにきて、ゲームを私たちに見せてください。