驚くほどにシンプルかつ贅肉のないレベルデザイン

 見ただけで陰鬱さを感じさせる特徴的なアートワーク――。そんな第一印象を抱かせる“つかみ”を持つのが本作『INSIDE』だ。スクリーンショットを見て「もしや」と思った人は鋭い。本作は『LIMBO』を開発したデベロッパー、Playdead社による新作タイトル。2014年のE3で発表されるや、『LIMBO』の高い評価からたちまち注目を集めた本作だが、それから約2年の期間を経て2016年7月7日にSteamにてPC版が国内リリースされた。果たして『INSIDE』はいかなるゲームに仕上がったのか。本稿にて探っていこう。なお、ストーリーの輪郭に迫らぬように避けてはいるが、本稿中には多少のネタバレが存在する。なんの事前情報もナシでクリアーしたいと思う方は、プレイ後に読んでいただければ幸いだ。

『INSIDE』をインプレッション 『LIMBO』スタッフによる新作は、独創的なアートワークとプレイと物語が一体になった体験へと誘う_01

 ゲームのジャンルとしては横スクロール型の2Dアクション。プレイヤーは主人公である少年を操作して、行く手を阻むパズル(仕掛け)を解きながら先へ先へとと進んでいく。操作としては、移動とジャンプ、そして掴むの動作のみと、じつにシンプル。しかも、チュートリアルもなければ、ゲーム中にはテキスト情報が一切ない。要は主人公と同じで、まったく状況がわからぬままに放り出されるわけだ。

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▲ゲーム開始直後。モノトーンの世界であった『LIMBO』とは違って色味はあるが、その彩度は驚くほどに低く、陰鬱とした雰囲気は共通している。主人公がつねにうつむく姿勢なのもジメッと感を引き上げる。

 暗がりの中をしばらく進むと、やがて何かを探している様子の男たちが出現する。どんな行動を取るかはプレイヤー次第だが、おそらくほとんどの場合、ここで初めてのゲームーオーバー(死)を迎えるはず。どうやら主人公は誰かに追われていて、捕まってはいけないようだ。

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▲主人公を探しまわる男たちに見つかれば即ミス(左)。正解は、物陰に隠れて男たちが過ぎ去るのを待つ(右)。じつにシンプル。

 といった具合に、主人公はとにかくよく死ぬ。敵や罠に捕まって死ぬ。見つからないよう潜水を続ければ溺れ死ぬ。犬に襲われて死ぬ。鉄砲で撃たれて死ぬ。笑ってしまうほどにドライにサクッと死ぬ。だが、それらすべては“理屈のある死”であるため(失敗のため息はつけど)理不尽さを感じることはない。先へと進むには自分が死んだ原因を考え、タイミングやギミックの組み合わせをうまく使ってパズルを解く“発想力”が重要となる。パズルを解けず行き詰ることもあるが、それだけに「あ、もしかして!」のひらめきが正しかったときの達成感はひとしお。そうしてパズルをクリアーしたら、つぎのパズルへ……というのが本作の基本的な流れ。アクションの少なさもそうだが、その贅肉のないレベルデザインは芸術的ですらある。

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▲パズルの種類はひとつとして同じ種類のものはない。序盤での解法が、以後のパズルで応用編として登場することも。

プレイと物語展開が一体となった体験

 ここまでの説明だと“ちょっとよくできたアクションパズル”程度に思われるかもしれない。だが、本作の真骨頂は、パズルとパズルのあいだの何気ないシーン、あるいはパズルそのものがいちいち意味ありげで、そうしたカケラが物語を形作っていく構造にある。平たく言うと、ゲームのプレイと物語が一体となっており、まるで飛び出す絵本を読み進むかのように物語とプレイが同時進行していく。

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▲一見そうには見えないが、これもパズル中のシーン。シーンと一体になったパズル表現では、必要以上の情報は表示されない。

 ただし、前述したように文字情報がまったくないため、いちいち状況を説明されることはない。そのシーンが何を意味するかはプレイヤーは自分の目で見て感じたことから、この世界についての推察をする――。つまり、小説でいう“行間を読む”行為が必要になる。そこに意義を見出すか否かで、本作に対する評価は180度違ったものになるだろう。ちなみに筆者はゲームを一度クリアーしたが、それでも物語の全容は明らかになってはいない。それどころか、何度かプレイし直しては、「あのシーンはこんな意味があるのではないだろうか」と考察を重ねる毎日である。

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▲パズルとパズルの合間には意味ありげなシーンが。ゲームが進むごとにディテールははっきりとしてくるが、すべてが語られるわけではない。
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▲エンディングを目指すためとは無関係の隠しフラグも用意されている。すべての隠し要素を見つけるとエンディングが変化するとかしないとか。

物語の行間を読み、考察を楽しむゲーム

 ネタバレ回避のためなんだかモヤッとしたインプレッションになってしまったかもしれないが、そのルールを守ったまま感想めいたことを記すなら、筆者のクリアー後の感想は「手塚治虫の漫画を読み終えたとき見たいだ」。なお、ゲームそのものは数時間でクリアー可能。中盤まではパズルのくり返しはやや淡々としたきらいもあるが、終盤での怒涛の展開はこちらの感情を、気持ちいいくらいに裏切ってくれる。ある意味、この展開を味わうためだけに、本作をプレイしてもいいのではと思うほどであった。

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 くり返しになるが、『INSIDE』はプレイヤーが物語の解釈を楽しむゲームである。ゲームタイトルですら意味ありげで、『INSIDE』は直訳すると内側だが、ほかにも“内幕”、“腹の中”、“本性”なんて意味もある。プレイ後もそのようなことを考えさせる高い作家性と、普遍的なゲーム性が同居する『INSIDE』。いい意味で現代を代表するインディー(独立系)ゲームのひとつだと自信を持って推せる。スクリーンショットを見てビビッときたら、ぜひ自分の目と手で触れてみてほしい。

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▲余談だが、Playdeadの開発拠点はデンマークのコペンハーゲンにある。デンマークといえば童話で有名なアンデルセンが生まれた国。死生観を綴ったストーリーもあるアンデルセン童話だけに、なにか影響があったりするのかな、なんて。