“イタチョコシステム復活”の真の狙いに迫る!
ピグミースタジオとゲームクリエイターのラショウ氏の共同出資によって設立されたニッポンイタチョコシステムジャパン。1990年代にラショウ氏が営業していた伝説のソフトハウス“イタチョコシステム”の復活をテーマに、ファンとのコミュニケーションを大切にするソフトハウス運営を行っていくという。
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ラショウ氏のゲームデザイン、ディレクションによって開発中の『ボコスカウォーズII』のリリースを控えた時期に、なぜ新会社を設立したのか、そして“イタチョコシステムの復活”とは、具体的にどのような状態のことをいうのだろうか? 2016年7月9~10日に京都市みやこめっせで開催されたインディーゲームの祭典BitSummit の会場でブース出展していたラショウ氏と、ピグミースタジオの“工場長”こと小清水史氏に、真相を直撃した。
イタチョコシステム時代の“ラショウ節”、完全復活!?
──まずお伺いしたいのは、ニッポンイタチョコシステムジャパン設立に踏み切った理由です。ラショウさんとピグミースタジオさんとの関係に、何らかの変化があった、ということでしょうか?
ラショウ 現在は『ボコスカウォーズII』の開発に関わらせていただいているのですが、その過程で昔の『ボコスカウォーズ』について考えていくうちに、私の中で人格分離がおこったのです。
──人格分離、ですか?
ラショウ “表現のラショウ”と“エンターテインメントのラショウ”が、ぶつかってきたんです。前のゲームの続編だと、どうしてもやっぱり、再現にこだわってしまうんです。「こういうゲームだったよな」ということで、そこのいいところは残そうとしてしまう。昔の自分の意思を尊重するというのは、新しいゲームを考えるアプローチじゃないんです。
──過去作のリメイクは、どこまでいってもエンターテインメントであり、サービスであり、自身の表現ではない……ということでしょうか。
ラショウ 再現ではなく、新しいことを考えています。来た敵を撃つとかダメージとか、当たり前のように捉えられているゲームのシステム、そこから考え直すべきじゃないかと。もともと『ボコスカウォーズ』もそういった発想から作ったのですけど、そこからさらに進めて、主人公が途中で死ぬのもいいじゃないか……とか。そういうところからゲームの常識をひとつひとつ考え直していきたいですね。そのために必要なのは、一回、お金のことを忘れて好きなことをやってみる。それを(ピグミースタジオさんに)助けていただいて、その中で新しいゲーム観というものをもしかしたら互いに考えられるんじゃないかな、という高い理想のもとにやってみようかと。
──それは……思いきった決断ですね。両者ともに。
小清水 これまでは、ゲームクリエイターのラショウさんとピグミースタジオとのコラボレーションとして、過去作のリメイクや新作をダウンロード販売ソフトとして開発・リリースしてきましたが、一個人である住井ラショウ氏とピグミースタジオの合弁会社であるニッポンイタチョコシステムジャパンでは、まったく別の考えかたを持ってやっていきたいと思っています。ピグミースタジオ名義で開発しリリースするからには、コンシューマーゲームとして抑えるべきポイントがいろいろと出てくるので、開発スタッフはそこに神経を注ぐ必要があったのですが、この会社の作品は、クリエイターそのもの、いわば原液のような濃度の作品だけで勝負したいので、何も注文をつけるつもりはないのです。
──これまでは抑えざるをえなかった“ラショウ節”が全開になるということですね。……ひょっとして、開発はラショウさんおひとりで?
ラショウ そうです。
──まさにイタチョコシステム時代の制作体制の再来じゃないですか!
ラショウ とはいえ、私ひとりである方向に勝手に行くのではなく、もうひとりの別な人の意思がそこに関わることで、正しい方向の道に引っぱられるように進んでいく可能性があると、私は思っています。
──そういった信頼関係は、やはり一朝一夕では築けないものですよね。
ラショウ 『野犬のロデム』、『弁当の素晴らしさをあの2度3度』をリリースさせていただいたことで、いいゲームを作りたいというこちらの意思が伝わり、それを誠実に開発し、売っていただけたことで、培われていったものはあります。
──ある意味、クリエイター冥利に尽きる環境を手に入れたということですね。
小清水 そうした面とともに、ピグミースタジオ側としては、今回の会社設立に、スマホゲームの低価格化に対するいろいろな思いも込めているんです。
──それはどういうことでしょうか?
小清水 ソーシャルゲームはまた少し事情が違いますが、売り切りゲームの場合、数が飽和してくると価格競争が始まって、「たぶんこういうゲームならこれくらいの値段だろう」という暗黙の了解の基準値から逆算し、ゲームの価格は、低いほうへと推移します。その結果、儲かるのか否か、食っていけるのかどうなのかの価格設定がわからなくなってくる。こういう言いかたをするとカドが立つかもしれませんけど、デベロッパーどうしの叩き売り合いは、競争そのものから逸脱しコアなファンの方だけに着目したいクリエイターの首を絞めるのです。
“表現者としての成立”を目指す共同戦線
──疲弊し倒れていった作り手の無数の屍の上に成りたっている市場は、やはりおかしいと。
小清水 これは、そういったプラットフォームのことを批判しているわけではなく、新しいビジネスモデルに挑戦したいというお話。つまり、ゲーム1タイトルあたりの価格の算出方法とは、“制作金額÷購入人数”であることが本来の姿だと思っていまして、たくさん売れるに越したことはありませんが、マスを狙った作品でない場合は、そこが保証されていれば、理論上、制作者は次回作を作れることになります。要するに、不特定多数の人に向けた作品ではなく、ある種の人だけがすごく喜ぶゲームでも、ちゃんと出し続けていける仕組みを作りたいという気持ちがあったんです。まさにラショウさんのゲームがそうで、ニッポンイタチョコシステムジャパンでは、“コンテンツの叩き合いからの決別”というと言い過ぎなんですけど、「しっかりファンに届けて、クリエイターが食っていける」というモデルケースを作る挑戦をしたいと思っています。
ラショウ ストアのランキングが重視されるいまのシステムですと、その裾野で好きなことやっている人たちが、どんどん立ち行かなくなる世界になっていきます。表現者として食べる食べないですごく苦労していて、しょうがないから食べられるようにしようと、いつの間にか自分の意志を挫いている人もいると思うんです。それで「食べられるようになった」って喜んでも、表現者としての自分が死んでいるとしたら、それは幸せでしょうか。そのためにも、成功するかどうかはわからないですけど、(ランキング至上主義にかわる)新しいシステムを打ち立てて、あがいてみようかなと。まだはっきりどうこうという指針はないのですが、それは共同経営であり出資者でもある工場長と、お互いの立場で喧嘩しながら、いろいろ暗中模索考えていきたいと思います。これは、“表現者としての成立”を目指す戦いでもあるのです。
小清水 いろいろ考えてはいます。本当に待ち望んでいるファンにゲームソフトを売って食っていけるようにするにはどうしたらいいか真剣に考えた末として、手売りでいこうかなと。興行というか、ラショウさんがライブ的なものをやりながら、その会場で販売するとか。
──たしかにラショウさんは、歌や舞踏、人形浄瑠璃といった表現活動もされていますよね。
ラショウ ひとり文化祭ですね。ひとりエキスポというか。
──もはやゲームソフトの枠組みさえ超えていますね。
ラショウ 私としてはゲームにこだわらず、ゲーム周辺と言いますか、ゲーム的なものをどんどん作っていきたいと思っています。
小清水 「これはあのとき、あの場所で買ったものだ」と大事にしてもらえるものを目指そうというところがあります。これは、僕が考えたことでも何でもなくて、ラショウさんがイタチョコシステム時代にやられていたことを、いまの時代だったらどういう形でできるか? という部分で、考えを巡らせています。ラショウさんには自由に表現・創作活動をしていただいて、僕らはそれをバックアップするだけです。
──エンタメのラショウ……より具体的にいえば、ピグミースタジオと共同開発するラショウは、現在開発中の『ボコスカウォーズII』を最後に、しばし封印ということでしょうか。
小清水 すごい反響があったらあるかもしれませんが、当面はニッポンイタチョコシステムジャパン名義のタイトルを月1本ペースで作っていただいて(笑)。
ラショウ エンタメに関しては、周囲の要望に応えることも大きいと思っていて、『ボコスカウォーズII』では、要望への回答をいちおう全部答えたつもりです。自分のやりたいこととのすり合わせっていうんですか、その工程がおもしろかったですね。その点については満足できるレベルでお出しできると思います。
『ボコスカウォーズ2』には30年間の時空が凝縮されている!?
──ラショウxピグミースタジオの集大成ともいえる『ボコスカウォーズII』について、詳しくお伺いします。リリースが2016年8月ということで、BitSummit 4thに出展されたバージョンで、ほぼほぼ完成バージョンということでしょうか。
ラショウ ほぼほぼ。
小清水 ピグミースタジオとしては、前作『ボコスカウォーズ』をリアルタイムでプレイした第一世代に向けて出したいという意思がありました。当時のドット絵のままの画面モードで懐かしさに浸っていただいて、その上でふたりプレイができるとしたら、子どもとやってみようかなって思いますよね。自分は“一日の長”ぶりを発揮しながら、二世代で同じゲームを遊べるのが、楽しいんじゃないかなと。
ラショウ そこに関して、ワンボタンで30年……通常グラフィックモードと、前作風のドット絵モードを切り替えられるようにしてほしいという工場長の無茶ぶりがありました。とんでもないと思いながらも、やってみたいという誘惑に負けてしまいましたね。けっきょく、プログラマーは泣き、私は両方のモード用にすべてグラフィックを用意することになりました。
──ドット絵モードはぱっと見、前作と同じようですが、新キャラもかなり増えているので、作業量は相当のものですよね。
ラショウ そうですね。ひとつのゲームに何年ぶんかけたんだよったって。
小清水 実現したかったのは“並行宇宙”なんです。タイムスリップで、二世代にわたって遊べる……この話をしだすと朝の五時までかかっちゃうんで、これくらいにしておきますけど。
── (笑)。
ラショウ ゲーム内容は同じなんですけど、それぞれの画面モードでまったく違うゲームを遊んでいる気分になれるんです。展開が違うと思ったり……グラフィックで与えられる世界の印象によって、人の想像の拡がりかたが変わってくるということを、いま一度考えさせられました。
──プラットフォームが、以前から発表されていたプレイステーション4版に加え、Xbox One版も同時リリースとなったり、先ほどの工場長の無茶ぶり話もあったりで、発売時期が、ずいぶん延びたなという印象があります。
小清水 完成させたくなかったんです、僕自身が。終わってしまうのが寂しくて……というのは冗談ですけど(笑)、これでいいと納得するところまで、徹底的にやりたかったんです。イメージビジュアルも、初代『ボコスカウォーズ』のパッケージを描かれた伊東宣哉さんにお願いして描き下ろしていただきました。伊東さんはいまも現役のイラストレーターですが、パッケージの画風はあのとき限りのものだったそうです。伊東さんからもいろいろな提案をいただいたのですが、僕は『ボコスカウォーズ』のファースト世代にコンタクトしたかったので、当時のタッチで描いていただきました。それに加えて、momo-i(桃井はるこ)さんが唄う“すすめボコスカ”をBGMとして収録しました。もともとは2007年リリースのアルバム『ファミソン8BIT STAGE2』の収録曲で、それ以降、momo-iさんとラショウさんの絡みもあったようなので、ぜひにとお願いして実現しました。
ラショウ そういったことも含めて、初代から『2』までの30年間に、私の身辺で起こった出来事が、ゲームの中に入っています。イタチョコシステムを思わせる国や、Mac(※アップル社製PC、Macintoshシリーズ)を思わせる国が登場し、それらとの同盟関係をどうするかによって、オゴレス(※ゲームの最終ボスである、バザム帝国の王)を倒す過程が変わってくる……というのも、私が歩んできた道を肯定したい気持ちの現れなのかもしれません。
──つまり『ボコスカウォーズII』は、ラショウさんの過去30年間にたいする“落とし前”でもあると。
ラショウ あるひとつの大目標に向かっていくとき、どんな艱難辛苦があるか、そしてそれを乗り越えるにはどうするべきか。でもやっぱり、工夫をすれば有利になるんだよ……っていうことが、『ボコスカウォーズII』で訴えたいことなんです。そうすれば絶対に勝てる、とは言えないけど、有利になることは、あるんです。本作を遊んで、「目標に向かって突き進む」ということを、皆さんにもう一度考えていただきたいですね。
──そのような壮大なテーマが込められていたとは……さしずめニッポンイタチョコシステムジャパンは、“ピグミースタジオ国”との同盟関係の証ということですね。
ラショウ ……どっちかっていうと(ピグミースタジオは)、オゴレス側かな(笑)。
──えー(笑)。
小清水 そこに関しては、エンディングの解釈で、いろいろと読み取っていただければと。
ラショウ エンディングはいくつか用意しています。皆さんには完全踏破を目指していただきたいと思います。