「皆が主人公に!」が、スローガン。コミュニティーを育てて中国でもさらなる飛躍を目指す
アジアでも最大規模、中国随一のゲームに関する国際総合展示会、ChinaJoyが開催される前日にあたる2016年7月27日、上海世界博覧会後地を刷新した大規模ドーム、Mercedes-Benz Areaの一角に位置するコンサートホール、The Mixing Roomにて、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)が、“2016 PlayStation Press Conference in China”を行った。今回も、昨年、一昨年と違わず新規情報が数多く示され、非常に刺激に満ちたものとなった。
冒頭で登壇したのが、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアのデュピティプレジデント(アジア統括)の織田博之氏。まず、プレイステーション4の普及が急速に進んでおり、その勢いは現在も留まらないことをグラフで示し、中国においてもこの1年はしっかりとコミュニティーを作り上げることで、その一翼を担ったことを告げた。さらにこれを加速化させるため、3つの方針を打ち出した。それらは、1.優れた海外産の作品をローカライズしコミュニティー活動を推進、2.中国国産タイトルの充実、並びに、3.China Hero Projectの推進による中国国内におけるゲーム開発力の向上である。これらを踏まえたうえで、方針的な部分は織田氏が、具体策については、SIE上海総裁の添田武人氏並びに後述するサプライズゲストが解説した。
以下、3項目に渡って見ていこう。
1.優れた海外産の作品をローカライズし、コミュニティー活動を推進
従来、中国の言葉で楽しむことができなかった数多くの作品をローカライズし、中国各地のコミュニティーイベントで活用していくという方針については、この1年のあいだ、これらコミュニティー活動において、中国のユーザーの熱狂的なサポートを見て重点的に行うことを決めたと織田氏は説明。また、ローカライズ戦略の一例として『ファイナルファンタジーXV』(以下、『FF XV』)を紹介すると、サプライゲストとしてディレクター田畑端氏が登壇し、会場は沸きに沸いた。
60分強のカンファレンスにおいて20分もの時間をこの発表に割いたことからSIEが本作にいかなる期待を込めていることが分かる。田畑氏はまず、現在、まさに『FFXV』を簡体字に「絶賛ローカライズ中」であると説明。中国のユーザーがふだん慣れ親しんでいるネイティブ言語で、かつ正規として発売していることが決定していることに喜びを示した。同時に、『ファイナルファンタジー』シリーズの歴史は挑戦の歴史としながら、今回、中国ユーザー向けにローカライズすることも、挑戦のひとつであると語った。また、完全にローカライズすることで、従来伝えにくかった部分も伝えることもできるとして、その一例として、今回挿入歌として採用しているFlorence+the Machine(フローレンス・アンド・ザ・マシーン)のカヴァーによる『Stand By Me(スタンド・バイ・ミー)』をBGMとしたトレイラーを紹介。その際、字幕として歌詞が簡体字で示されていたが、田畑氏はこれについて「この歌詞はゲームの物語性を理解するうえでも重要」とし、ローカライズすることでこういったニュアンスも伝えることができることの喜びを作り手として示した。
さらに田畑氏は『FF XV』UNIVERSE構想についても紹介。同作は『FFXV』のゲームを展開するまえに、親子の絆をテーマにフル3DCGの長編映劇場用作品、『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』(以下、『キングスグレイブ FFXV』)を日本国内の劇場用で公開、友情をテーマに2Dアニメ『ブラザーフッド ファイナルファンタジーXV』(以下、『ブラザーフッド FFXV』)を動画共有サイトで無償公開した。なお、『キングスグレイブ FFXV』は、日本のユーザーレビューサイトで5点満点中、4.57点、『ブラザーフッド FFXV』については全世界で500万ダウンロードを達成するなど、非常に高い評価を得ていると嬉しそうに語った。
また、それぞれが独立したコンテンツでも楽しめるようにデザインしつつも、ストーリーを、主人公を中心に縦軸と横軸を描くことで『FFXV』の世界観を示す役割で機能させたと田畑氏。「これら2つのコンテンツを楽しんでいただきながら、正真正銘、AAAのRPG、『FFXV』を楽しんでもらいたいと思っています」(同氏)。さらに、田畑氏は単体でも作品として楽しめるが、すべてを体験するとまさに『FFXV』の世界に入ったかのような体験ができると付け加えた。
そして、肝心の本編だが、中国版の通常版と初回限定版も決定していると発表。まだ、発売日は未定ながらも、最速のスピードでお届けしたいと約束した。
ほかの作品については、添田氏が紹介。まずはプレイステーションの独占タイトルとして『グランツーリスモSPORT』、『人喰いの大鷲トリコ』、『GRAVITY RUSH 2』を発表し、会場を沸かした。このほかにサードパーティーからのタイトルとして『討鬼伝2』、『ザ・キング・オブ・ファイターズXIV』を紹介している。
2.中国国産タイトルの充実
一方、中国国産タイトルのいくつかはプレイステーションプラットフォームに展開されてきたが、今後、さらにこういったタイトルを充実させていくと添田氏。具体例として中国パーフェクトによるバスケットボールを題材とした『Free Style 3 on 3』、同じく同社傘下のCryptic Studiosによる『Never Winter Night Online』を紹介している。『Never Winter Night Online』は中国国内において、Xbox Oneのローンチタイトルとして知られていることもあり、パーフェクトによるマルチプラットフォーム展開には驚かれた人もいたようだ。これらを踏まえ、国内外の優れた作品をプレイステーションに集約させると添田氏は意気込みを改めて示した。
3.China Hero Projectの推進による中国国内におけるゲーム開発力の向上
今回の3つの方針の中で筆者が極めて特徴的だと感じたのがこの方針だ。織田氏はこれを“China Hero Project”(中国之星計画)と打ち出し、世界に名だたるゲーム向けツールメーカーと一丸となって、中国国内において家庭用ゲーム機開発に対する志を持つゲーム開発スタジオを支援していくというのだ。これは中国国内に存在するインディースタジオも含まれており、その一例として、『辺境:Project Boundary』 (以下、『辺境』)が紹介された。巨大な地球を眼下に宇宙ステーションとそのデブリで満ちた、映画『グラビティ』さながらの空間に、宇宙服を装着しながら白熱のガン・アクションがくり広げるシーンが会場を沸かす。詳細はまだ明らかにされていないが、本作は深せんに所在するStudio Surgical Scalpelsが制作中のFPSで、Unreal Engine 4(以下、UE4)により開発されたとのこと。こういった例を挙げつつ織田氏は、China Hero Projectに参加するチームは、前述のUE4に加えUnity、CRI Middleware、シリコンスタジオの“Yebis”といったミドルウェアなどのスペシャルライセンスや技術サービスを受けられると説明。また、品質管理やユーザー体験の品質保証についてもHearts United Groupなどの名が挙がっていた。
一方、プレイステーション VR向けコンテンツを開発するうえでは、Unityによるマスタークラスを開講されることも発表している。また、高品質作品をつくるうえで欠かせないのが資金援助だが、ここでもWhiz Partnersによる支援体制が発表されている。つまり、技術と財務の双方においてバックアップするというのだ。
こういった強力なサポートのもとに、“中国発のグローバルエンターテインメント”を生み出したいと織田氏は抱負を述べた。これまで中国スタジオはあくまでも中国市場を意識する傾向にあり、グラフィックやサウンドいった部分においても中国国内のPCに最適化された作品として仕上げなければならなかっただけに、中国スタジオにとっては世界を目指すうえでの追い風になるのは間違いないだろう。応募は、8月15日からSIEの公式ホームページにて開始の予定だ。
プレイステーション VR は中国のユーザーひとりひとりを物語の主人公に!
そして、最後の発表として、織田氏が満を持して示したプレイステーション VRの実機に会場は最高の盛り上がりを見せた。そして、中国の発売日も日本や欧米と同様に10月13日であることを発表すると、会場の熱気は最高潮に。本体のみが2999元、PlayStation Camera同梱版が3299元、そして、これらに加え、PlayStation Moveがさらに同梱されたセットが3699元となる。これらを踏まえ「ハイクオリティーのVR体験を世界と同時に中国ユーザーに体験」させたいと織田氏。また、今後も、プレイステーションブランドで、中国ユーザーに最高峰のゲーム体験を約束するとも。会場での熱狂を見る限り、ハイクオリティーのゲームに対するユーザーニーズは確かに中国にも存在することを改めて実感できるカンファレンスであった。これからのSIEの中国におけるアグレッシブな展開が期待される。
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