いかにノウハウを共有するか

 2016年7月9日~10日、京都市勧業館みやこめっせにてインディーゲームの祭典BitSummit 4thが開催。開催初日の9日に行われたプラチナゲームズの稲葉敦志氏による講演は、インディーゲームクリエイターにとっては極めて刺激的なものであっただろう。昨年に続いての登壇となる稲葉氏は、「昨年ここで、“プラチナゲームズはインディーゲームスタジオだ”と発言したときは、ざわつきましたが」と前置きしたうえで、「独立スタジオにはリスクがあるが、自由なものが作れる」とインディーゲームスタジオの魅力を説明した。

プラチナゲームズの稲葉敦志氏が講演で語る、これからの開発スタジオに求められるのは“形のないIP”の共有【BitSummit 4th】_02
▲今年10年目を迎えるプラチナゲームズ。「毎年ゲームを出しているデベロッパーもそうそういないですよね(笑)」とのこと。

 インパクトのあるゲームタイトルを開発することを求めて外に出たという稲葉氏だが、「いまの自分は少し変わってきている」という。より大きな視点で考えているというのだ。具体的に言うと、それはIP(知的財産)。プラチナゲームズはこれまで『BAYONETTA(ベヨネッタ)』を始めとする傑作を世に問うているが、その権利はパブリッシャーに帰属している。そのため「“自分たちのもの”だと言えるものを作りたい」と稲葉氏は言う。

 稲葉氏によると、IPにはふたつあるという。“形のあるもの”と“形のないもの”だ。“形のあるIP”は理解しやすいが、“形のないIP”とはなんだろうか? たとえばプラチナゲームズはアクションゲーム作りに関しては世界的に名前の知られたスタジオだ。アクションゲームとしてどうすればおもしろくできるかのノウハウがいっぱい蓄積している。そのノウハウが“形のないIP”だという。そして、ここからがさらに重要になるのだが、稲葉氏は「それを1社で独占すべきではない」という。世界にはそれぞれのジャンルで強みのあるスタジオがあり、それらのスタジオが持つ“形のないIP”を共有できるのではないか……というのが稲葉氏の主張だ。そのために大切な役割を果たすのが、インディーゲームデベロッパーだと、稲葉氏は言う。それぞれが補完できる関係がインディーゲームデベロッパーならば築けるというのだ。

 ちなみに、いま稲葉氏が関心を持っているのが、“ユーザーから得られるデータを、いかにしてコンテンツの中に自動的に取り込めるか”。それは、“データをどうIPに取り込めるか?”という問題でもあるようだが、ファンのプレイ履歴などのデータ(いわゆる“ビッグデータ”を超えた“ヒュージデータ”)をコンテンツにうまく活かせる時代が来ることを稲葉氏は予測する。そのヒュージデータをいかにうまく取り扱うかで、コンテンツのありかたが変わる。「それで、大きなところがIPを独占する時代は終わります」(稲葉氏)というのだ。それで開発スタジオが力をつけていって、IP云々の議論を吹き飛ばしたいというのが、稲葉氏の夢だという。

 さらに、いまのゲームコンテンツは、ひとつのデベロッパーが求められる規模を超えているので、“形のないIP”の共有が力になると、稲葉氏は見ている。“形のないIP”を共有することで、自社の得意分野のアドバンテージがなくなることが想像されるが、「それでも同じコンテンツになるとは思えません」と稲葉氏。「独自の味が出せるので、そこで勝負すべき」という。

プラチナゲームズの稲葉敦志氏が講演で語る、これからの開発スタジオに求められるのは“形のないIP”の共有【BitSummit 4th】_01
▲講演はベン・ジャッド氏(左)聞き役&英語通訳のもと進行。▲「IPを保つためにはチャレンジをしていかないといけない」と稲葉氏はアツく語る。

 稲葉氏は最後に講演を締めくくるかたちで、「会場の熱気がインディーシーンの盛り上がりを象徴しています。そのつながりを大切にしたいです。(“形のないIP”という考えに)賛同していただけるようであれば、道を築いていきたいです」と語った。プラチナゲームズのIPにおけるチャレンジに期待していきたい。