日本語対応も進行中
Sukeban Gamesのアドベンチャーゲーム『VA-11 Hall-A』を紹介する。本作は現在PC/Mac/Linux版がSteamとitch.ioで販売中。別途iPad/PS Vita版の配信を予定している。なおSteamでの価格は1500円。
昨年の東京ゲームショウに日本語ローカライズ版が出展されていたため記憶している人も多いかもしれないが、現時点での収録言語は英語のみ。しかしパブリッシャーのYsbryd Gamesに確認したところ、各プラットフォームで日本語版を準備中で、近日詳細を発表予定とのこと。
バーテンダー、カクテルと一時の憩いの場を提供する仕事
本作はロゴなどで“サイバーパンクバーテンダーアクション”と銘打たれているが、実際にはいわゆるビジュアルノベルに近いアドベンチャーゲーム。プレイヤーは近未来のディストピア都市“グリッチシティ”にある小さなバー“VA-11 Hall-A”(ヴァルハラ)のバーテンダー“ジル”として、訪れる客にカクテルを提供し、話し相手として会話を交わす。
カクテル作成のタイムアタックや回答内容の選択による分岐などは基本的になく、客のオーダーに沿ってガイドを見ながらカクテルを作れば、ほぼ自動的に話が進行していく。ゲーム中のほとんどの時間は、この会話シーンが占める。バーとはただの酒場ではなく、さまざまな背景を抱えた人々の憩いの場であることに意味があるのだ。
そして、アニメ風のグラフィックから、なんとなく軽い話を推測する人もいるかもしれないし、そんな感じのギャグタッチに突入することもあるのだが、基本的に会話はハードボイルド寄りのそれ(ちなみに実際にインスピレーションを受けているのはPC-98のアドベンチャーゲーム)。
比喩混じりの皮肉や、それとなく質問をかわす韜晦、ツッコミ代わりの独白が交わされるので、そういうノリが好きな人はたまらないだろう。「カウボーイビバップ」や「ブラックラグーン」辺りの会話シーンが好きな人は、ぜひオススメしたい。
多くを語らない暗殺者、娼婦アンドロイド、セキュリティコンサルタントとして働く巨乳ハッカー、翻訳機で喋る犬、傲慢なネットメディアの編集長、嫌味が尽きない毒舌男、本来の好みに反して男らしさを演じるバイカー、詩人気取りで謎かけのような注文しかしてくれないキュレーターなど、訪れるのは一癖も二癖もある厄介な人々。
そこで働く人々も、さまざまな過去と側面を持つ。ジルには苦い過去があり、「ジョンって感じの顔」と言われ続ける同僚のギリアンは過去が一切不明。ボスは伝説的な強さを誇っていたという噂ばかりが飛び交っている始末。
そんな彼ら/彼女らが、グラスを傾けていく内に打ち解けたり、最近あったことや、過去のエピソード、そして人生観をゆっくりと語り始める。そんな人生模様が交錯する渋さが、ほろ苦いカクテルのアルコールのように流れていく。
カクテル選びは会話の一部
回答内容の選択こそないが、ストーリーの分岐自体はプレイヤーが出すカクテルによって発生することがある。というのも、大半のケースではカクテルの種類が指定されるが、時にフレイバー(味)やタイプでオーダーされるだけで何を作るかは選べることや、もっと曖昧な注文が来ることがあるし、カクテルによってはアルコールの追加を任意に行えるものもあって、そこに選択の余地があるからだ。
与えられた余地に対して、どんなカクテルで応えるか、それは最早会話の一部だ。例えばAというカクテルを注文しようとした際に恥ずかしそうにして、結局Bを頼んだ時に、Bを素直に出すべきか、それとも本意を察してAを作るべきか? あるいはどうも未成年臭い客が頼んできた時に、お望み通りアルコールを出してやるか、それともノンアルコールで作るか? そこにバーテンダーとしてのチョイスの妙が問われる。
だからこそカクテルの作成自体はシンプルで、名前別・フレイバー別・タイプ別に検索が可能なガイドを見て何を作るかが決まったら、指定された材料をシェイカーに入れ、指定通りに氷や熟成を足し、シェイカーを振ってミックス(または5秒以上シェイクする“ブレンド”)すればいい。すでに触れたように制限時間はなく、何を作るかが重要だ。
ちなみに、うまくクライアントの要求に応えられ、かつミスがなかった場合は終業時の支払いにボーナスがつく。
サウンド面や細かな遊びも秀逸
ゲームの進行は基本的に、前半の勤務→中休み(セーブ可能)→後半の勤務→自宅パート(セーブ可能)→翌日の勤務パートという流れ。自宅パートでは、スマートフォンでネットニュースや掲示板(Reddit風)、ブログなどを閲覧できるほか、ショッピングに出掛けてさまざまなアイテムを購入することで、部屋のカスタマイズができる。
そうした中でミニゲームが遊べるようになったり、バーにいる間に見聞きしたことがどう受け止められているのか掲示板やニュースで知ることが出来たりして、いろいろ芸が細かくて楽しい。
ちなみに裏設定的な話だと、itch.ioでゲームを購入した際についてくるプロローグ版の話が本編でも何度か言及されるので、必須ではないとはいえ、本作を気に入りそうな人はSteamではなくitch.ioで購入するのをこっそりオススメしておこう。itchで購入した場合でもSteamでのダウンロードキーがついてくるので、Steam上で遊びたいという人でも特に問題はないはず。詳細はitch.ioでの製品ページをチェックしてみて欲しい。
また本作の特筆すべき点として、マイケル・ケリー氏によるサウンドも挙げておきたい。フュージョンやテクノポップなどに影響を受けつつ、今風のSynthwave(シンセウェーブ)タッチで仕上げた曲が大量に収録されており、どこかノスタルジックで新しいサウンドが本作の雰囲気に最高にマッチしている。勤務中はジュークボックスにその中からピックアップした好きな曲を入れて再生することができる。こちらはSoundcloudの同氏のページで50曲以上が視聴可能だ。
日本語版を待つもよし、ひと足先にドアをくぐって一杯やるのもよし
そんなわけで『VA-11 Hall-A』を紹介してきたが、バーに織り成す人間模様が丁寧に描かれた、なかなかの作品だと思う。単なるギミックではない、本当にバーテンダー的なゲームになっている。
問題となりそうな言語部分だが、終始口語なのがネックではあるものの、(アメリカではなくベネズエラ開発ということもあってか)そこまで難しい言い回しや単語は出てこないので、テキストベースの洋ゲーに慣れている人なら、時間をかけてプレイすればなんとかなる人も多いだろう。
ただし、そのテキストの物量がハンパじゃないので、日本語版を待つというのもそれはそれで正解。ひと足先にヴァルハラのドアをくぐって一杯ちびちびとゆっくり始めているか、それとも準備万端になってからちゃんと乾杯するかはお任せしたい。