e-sportsは遊ぶだけでなく、観戦も楽しい!

 2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催。会期4日目、セッション“League of Legends Esports の過去、現在そして未来”が開始された。その模様をお届けする。

『League of Legends』に見るeSports運営 選手のキャリアパスからリーグ観戦、ファンのことなど【GDC 2016】_01

 セッションではまず、1988年のメジャーリーグワールドシリーズ、LA Dodgersの試合映像を上映。両足に怪我を抱えたGibson選手がファンの予想に反し、2ストライクに追い込まれてからの、上半身をフルに使ったホームラン。25年前の映像だが、いまだ興奮は残っている。
動画はこちら

 本セッションのスピーカーを務めるDustin Beck氏は、「野球じゃなくても、スポーツじゃなくても、誰もが何かのファンだ。自分の子供時代はスポーツとゲームだった。そして大きくなると、競技ゲームに夢中になった。『WarCraft 2』では全米ランキング2位になったし、『Rainbow Six』ではワールドランキング入りしたチームのメンバーだった」と、みずからのゲーム人生を振り返る。

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 当時の競技ゲームシーンはいまとは想像できない規模で、アリーナや大観衆はなく、試合も家からプレイしてた。賞金も『Magic: The Gathering』のカードパックをいくつか買えるくらいだったそうだ。
 しかしいまは、『League of Legends』(以下、『LoL』)は世界で一番成長しているスポーツだ。中国ではナンバーワンスポーツで、むしろEなし(エレクトロニックなんて種類に分類できないほど)スポーツに成長しているのだ。
 しかしながらeSports運営において、必ず通じる秘策はない。そのため自分たち、そしてゲーマーにとって最善と思われる道を選んで欲しいと述べ、それを踏まえてBeck氏が重要視しているポイントが紹介された。

・一貫性があること
 定期的に試合を開催:ファンが決まった時間に試合を視聴できるように、そしてそれで選手が生活できるようにする
・開かれていること
 ファンが平等に楽しめる
・高品質であること
 従来のスポーツと張り合うだけの品質を

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『League of Legends』に見るeSports運営 選手のキャリアパスからリーグ観戦、ファンのことなど【GDC 2016】_06

●選手が集中できる環境を
 2012年、Beck氏はゴールドマン・サックスから経理を見るためにRiot Gamesに入社。最終的にプロシーンの運営に携わることになった。
 当時のイベントはどれも参加条件が異なっていたり、日付が重なっていたり、一貫性や透明性に欠けていたとのこと。運営が把握不可能なほど複雑な状態で、ひいきにしているチームがいつ試合するのかも分からない状態。ファンが選手との感情的なつながりを生み出すことなど到底できないと思ったそうだ。
 米国では日曜にフットボールがあるという一貫性や分かりやすさは大事であるとし、それは選手にとっても、大事なことであると述べる。
 では、いま我々はプロスポーツ選手をどんな風に見ているだろうか? いまのコービー・ブライアントは、これまでの物語があって“コービー”という存在になってるが、誰もがこれまでの経緯を知っていて、バスケをやっていた人ならいつか自分もあんなふうになりたいと思い続けて、いまの“コービー”という憧れの存在があるのだ。
 ではeSportsで同じことをするには何が必要か? まず第一に、コービーは副業なしで、試合に買っても負けても生活できる。そうでなきゃ練習に、試合に専念できない。そしてコービーはNBAに属し、そのリーグ内で切磋琢磨していた。それが当時のeSports選手とは違っていたと指摘する。eSports選手の収入は、当時は大会で優勝しても飛行機代と宿泊費くらいにしかならなかったそうだ。
 例えば、現在大活躍しているWildTurtle選手は、当時の環境にいたらいまと同じようにトッププロとして活躍できただろうか? 経済的な心配がなく、全力で練習や試合に取り組める環境がなければ成長するのだって難しいはずだ。

 そういった思想があったため、まず公式以外のトーナメントを廃止したとのこと。物議を醸す決定になってしまったのは間違いなかったが、プロ選手として、プロチームが足場を固めて活動を続けていけるようにするには避けられなかったと語る。いまや公式リーグは世界の各地域に合計13あって、毎週試合が行われている。そして各地域のチームには、それぞれ地元のファンがいる。各地域でのファンの盛り上がりなしに、世界的なスポーツは立ち上がり得ないとBeck氏は断言した。

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●ファンが誰でも楽しめる観戦環境を
 上記のように選手やチームにとっての環境を整えた後は、ファンの観戦環境向上に取り組んでいる。数年前はHDストリームが有料だったが、すぐに試合を観れることが大事だと考え無料に。基本プレイ無料のゲームなのだから、視聴も無料であるべきだとBeck氏は思っていたそうだ。

 続いてこの会場で、アメフト好きな方で、Super Bowlに行ったことある人? と聴講者へ質問するBeck氏。5〜6人の人が手をあげるのを見て、「少ないですね。それには理由があります、まずチケットが非常に高い」と見解を述べ、「一方自分たちは誰でも気軽に見られるようにしたかった」とコメント。ファンに高額のチケットを売るくらいなら損を被ったほうがいいと思い、マジソンスクエアガーデンで実施された2015年の北米 LCSサマースプリット(訳注: LCS はSpring Split と Summer Splitがあり、それぞれ3ヶ月かけて試合が行われ、それが終わるとプレイオフが行われる。ここで語られているのはその決勝戦)の決勝戦チケットは35ドルに設定したとのこと。ファンの年齢層は若い人が多いし、若い人は可処分所得が少ない。そのため、誰もが見られるような価格設定にしたそうだ。

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 それから、選手とファンの垣根をできるだけなくしたと言う。試合後にファンが選手とハイタッチできる、ポロ(マスコットキャラクター)のぬいぐるみにサインしてもらう、写真を撮る、そういうことができるようにしたのだ。

 また、イベント規模も大事だと言う。2014年の韓国World Championshipでは、大量のファンが集まりeSports大会規模の新記録になった。しかしても、ファン全体の1%未満である。しかし、2015年には規模を小さくしている。これは、自宅で視聴しているファンの視聴環境をより良くするためで、大事なのはイベントの質であり大きさではいと見解を述べた。

●物語
 伝説となる選手には、物語が必要。本作における活動のハイライト動画「Legend Rising」シリーズでは、そういう物語を提供することを心がけたそうだ。
 「ファンであることは簡単であるべきで、どこにいても自分の言語で、無料で、試合を見られるべき。そうして、感情的なつながりを築いていく。それが自分たちの言う、“開かれている”という言葉の意味だ」とBeck氏は語った。

 また、高品質であることも大切とのこと。ファンが「このスポーツのファンなんだ」と自信を持って言える内容にするため、とにかく品質の向上に務めた。そのいい例が、配信スタジオだと言う。
 Riot Gamesは2013年に開発元やパブリッシャーとしては初めて、配信専用スタジオを開設。しかし観客席はなく、選手の試合環境としても十分じゃないと判断し、マンハッタンビーチに新たなスタジオを作り移動。さらにその後は本社の向かいにスタジオを作っている。3年でこの移動回数は決して遅くはないとし、つぎに何ができるかを考えてるそうだ。

●人材
 Beck氏はゴールドマン・サックスで活躍していた輝かしい実績を持っている。しかし、ただ実績を持った人材を求めるだけではいけない。以前、オリンピック関連の放送で豊かな経験を持つ人材が面接に来てくれた。履歴書上は完璧、人柄もよく、エネルギーに満ち溢れていたが、eSports のことを理解しておらず、ゲーマーでもなかった。もちろん『LoL』もプレイしてなかったので、結局その人の採用は見送ったそうだ。情熱があり、eSportsを理解する人を雇うべきであると述べた。

 また、シャウトキャスター(実況者)についても、知識と技術が必要であるとのこと。従来のスポーツ実況の名手であっても、たとえば『LoL』の試合でアイテムビルドの解説ができなければ意味が無い。そういう点で、元プロゲーマーのJatt氏のキャリアは面白い(プロ選手→Riotゲームデザイナー→シャウトキャスター)。Jatt氏は学習意欲が底なしで、ボーカルトレーニングも行っており、スポーツ実況なら普通なことをeSportsでも実践しているのだ。

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 続いて話題は、2013年のWorld Championshipについて。World ChampionshipをStaple Center(世界的に有名なスポーツアリーナ)でビデオゲームトーナメントをやりたいと電話したとき、担当者は大混乱したそうだ。
「どうもRiot Gamesといいます、10月にトーナメントを開きたいのですが」
「Riot……なんですって?」
「Riot Games です。すぐ近所の企業でLeague Of Legendsというゲームを……」(担当者は何のことやら、という様子だった)
「ちょっとまって、Stape Centerでゲームの大会をするっていうの?  Staple Center はスポーツアリーナなんですけど、ゲームを遊ぶ人を集めるってことですか?」
「いや、全然違います、ほかの人がゲームするのを観戦するんです」
「え」(会場笑)
 こんなやりとりが実際にあったが、結果、販売開始直後にチケットは完売したそうだ。

 これまで従来のスポーツを例に出してきたが、eSportsにはユニークな部分がある。親や祖父母がスポーツを見た時と同じくらいの熱量を持ってeSportsは見られるが、eSportsファンは、受動的に見るだけではなく、互いに影響し合うことがあるそうだ。
 また、いまの業界の流れを見ていると、メディアや有名人も入って来たがっていると言う。でも今がピークではないかと思うかもしれないが、それは絶対に違うとBeck氏は強調。スポーツは10年単位で進化するし、『LoL』やほかのゲームもまだ始まったばかりなのだ。

 これからの未来は、プロ選手に従来のスポーツ選手のようなきちんとした契約とキャリアを用意し、有名選手に憧れてプロの世界にやって来る人材がきちんと歩めるキャリアパスを用意したいと語る。いつか、自分がKirk Gibson選手のホームランで感じた圧倒的な感動をeSportsで届けたいと述べ、セッションは締めくくられた。

 日本での『LoL』は、日本語版そして日本サーバー開設と、ようやく本稼動に近づいてきている。LJLなどのプロリーグが北米のリーグの盛り上がりに少しでも追いつけるよう、今後の活躍に期待したい。