しっくりこなかったら変えろ!
2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催。
会期4日目の3月17日に、Boss Key Productions(ボス・キー・プロダクション)プレゼンツによる“Surrounded by 800lb Gorillas! Standing Up to the Competition”が行われた。Boss Key Productionsといえば、『ギアーズ オブ ウォー』シリーズなどでおなじみのクリフ・ブレジンスキ氏が2014年に設立した新会社。まあ、クリフはいまのゲーム業界において、個人的にはその動向がとても気になるクリエイターのひとり。“どんでもない状況下に置かれて、激しい競争にどう耐えるか?”といった趣旨に違いないこの講演は、クリフらスタッフがBoss Key Productionsを立ち上げて、いかに小規模の開発集団がゲーム業界の荒波を乗り切ってきているかを語ったセッション。
まずはクリフが口火を切る。「スタジオを作って最初に面接したときはこう言った。いまは赤ちゃんだけど、ここからティーンエイジャーになって、いずれ大人になっていくと。いま会社はティーンエイジャーくらいで、ここから大人になっていくんだ」。そこには自身のスタジオを成長させていく喜びがうかがえる。
2014年7月に設立されたBoss Key Productionsだが、多くのスタッフは大手パブリッシャーに対する不満がバネになっているようだ。たとえば、Boss Key ProductionsのCOOアージャン・ブラッセは超大手パブリッシャーに所属したのだが、こう語る。「200人体制の開発はやりたくない。元の会社では、2~300人のスタッフがいて、プロデューサーは20人体制で、すべてが細かく管理されている。小さいチームやインディーのいいところは、お互いをよく知り合って、プロセスを一緒に通過すること。シニアレベルの開発者は細かく管理する必要などないハズなんだ」。
クリフたちが、スタジオのモットーとして掲げたのは、“戯言やデタラメは一切なし”、“自分自身でやる気を持つ”、“自信を持つ”などなど。要は個々が自立した大人の集団としてやっていくことだと思われるが、クリフは小さいスタジオならではのスピード感も指摘する。「何かうまくいかなかったら、3人くらいで集まって修正して……ということがすぐにできるんだ。時間はもっとも価値ある貴重なものであり、無駄なく正しく使ってやるべきことをやる。中小のスタジオなら動きが速い」(クリフ)。
Boss Key Productionsが手掛けている作品は、FPSの『LawBreakers』。2014年7月にスタジオを設立して、翌2015年2月にはPAX Eastでティザーを公開、同年8月にはPAX Primeにてコミュニティ向けにプレイアブル公開と早いペースで開発が進められたのも、決断力の速さゆえだ。「大きな競争相手に対抗できる力があると思う」とスタジオ・コミュニケーション・マネージャーのローハン・リバス。
決断力の速さとともに、Boss Key Productionsの大きな武器になっているのが、オープンな開発体制。大手パブリッシャーに所属していたアージャン・ブラッセも、「プレイテストしては逐次修正していく姿勢にはびっくりした。大きな会社では見たことがない。こういう姿勢がすばらしいゲームを作ることにつながっている」と驚きを口にする。
ただし、オープンな開発体制は競争に勝つためのひとつの方法だが、それによって身軽に動けないこともあったと、ローハン・リバスは指摘する。クリフが、プロトタイプに入っていた“ハープーン・ガン”を使わないとツイートすると、ファンから「約束を破った」、「うそつき」などと書かれたというのだ。そのためBoss Key Productionsでは“キャラクターの動きやフレームレートの兼ね合いで使えない”としっかり説明しなければいけなくなったわけだが、「何か約束する際には気をつけなくてはいけない」(クリフ)と、オープンな開発体制だからこその、守るべきことも多いようだ。
風通しのいい気風というのも、Boss Key Productionsの大きな特徴と言えるかもしれない。ローハン・リバスは、「オープンなスタジオカルチャーを作っていくことは、競争に勝つひとつの方法だと思う。開発スタッフをオフィスに隠しておくのではなくて、日のあたるところに連れ出すんだ」という。たとえば、中学のときのローハン・リバスの写真がおもしろかったので、クリフがそれでTシャツを作って、みんなで着て写真を撮る……というのも、なんとも和気あいあいとした雰囲気。「楽しいことができるスタジオカルチャーはいい」とクリフもしみじみと語る。
さて、肝心の『LawBreakers』の話に移ろう。「自分たちが目指しているのは、いま市場にある同じジャンル(FPS)のタランティーノ版だ」とクリフは言う。だが、開発当初はアートワークなどゲームのアイデンティティがクリフのビジョンに合致しておらず、試行錯誤がくり返されたという。
とはいえ、そこにブレはなかったようだ。アートディレクターのトレメル・アイザック氏も、「Boss Key Productionsでは、各自が以前に手掛けたゲームとは違うものを作りたいと思っていて、その姿勢は一貫している。いろいろな意見の相違はあったが、いまは快適な場所が見つかっている」とのことだ。講演では、『LawBreakers』における変更点がいくつか紹介されたが、ピックアップしていこう。
・キャラクター(Cronos)
「ベーシッックコンセプトから始め、ゲーム開発が進むにつれて徐々に態度やパーソナリティーが追加されて変化していった。顔は絶対に見せないことになっていたが、クリフにようやく目が重要なことをわかってもらえた。魂の窓である人間の目を見ることは重要なんだ」(トレメル)
・武器
「銃はスケールを落として調整した。これによりリアリティーが増した」(トレメル)
・マップアート
「以前はカラフルで密度が高く、ごちゃごちゃしていてうまくいかなかった。変更後のマップはすっきりしてキャラクターが目立って見える(ローハン)
「いちばん大切なのはゲームプレイであり、ほかはすべてが完璧でないといけないと思う必要はない」(トレメル)
「完全にすべてがリアリスティックということは映画の世界でもない。照明をきちんと使って作り上げている」(アージャン)
・ロゴ
「2015年のバージョンから2016年の新しいデザインに変わり、シンプルでベターになった」(ローハン)
「うまくいっていない、ダメだと認識したらリセットすることだ」(クリフ)
Steamの独占配信が予定されている『LawBreakers』だが、配信形態についての重要な変更が口にされた。『LawBreakers』は当初アナウンスされていた、フリー・トゥ・プレイ(F2P)ではなくなるというのだ。この変更は大きな決断だったと思わえるが、何度もミーティングを重ねたうえでの決断となったようだ。「F2Pゲームにすることでどのように収益を上げるかにフォーカスしてしまい、障害となった」(トレメル)、「キャラクターベースのゲームなので、キャラクターのクラスは奥深い。プレイヤーはキャラクターに大きな投資をすることになることが想定されるなど、だんだんきびしくなった」(アージャン)と、開発陣は揃って、ゲーム性にマッチしていないことを指摘する。そのうえで、クリフは、「60ドルではなく、F2Pでもない。その中間があっていいはずだ」と、新たな道を模索しているようだ。
最後に、まとめとして、クリフたちは本講演のテーマである“激しい競争にどう耐えるか?”の部分に関して以下の5つの答えを提示してくれた。
・戯言やデタラメは一切なし
・魅力あるスタジオカルチャー
・市場の動きに敏感になり、何が起こっているかを認識する
・変更したことはすべてに影響するので、最大限の努力をする
・ユーザーにとってベストな方法を選ぶ
Boss Key Productionsの旅立ちは始まったばかり。クリフによると、これから大人になるようなので、今後どのような成熟を見せていくのか、『LawBreakers』の進捗とともに楽しみにしたい。まずは、将来有望なティーンエイジャーのようであります。