価格や発売時期はポジティブに捉えている

 2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催。

 会期2日目の3月15日に行われたソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカによるPlayStation VRのプレスカンファレンスの直後に、Enhance Gamesの水口哲也氏にお話を聞く機会があった。PlayStation VR向けに『Rez Infinite』を予定している水口氏は、積極的にVRに取り組んでいる日本人クリエイターのひとり。PlayStation VRに向けての意気込みを聞いた。

PS VRカンファレンス直後に水口哲也氏を直撃 『Rez Infinite』はローンチでの発売を目指す【GDC 2016】_02

――ついに、PlayStation VRの発売日と価格が発表になりましたね。
水口 とてもポジティブにとらえています。時期的にも10月だったら、『Rez Infinite』もPlayStation VRのローンチを目標にできるかなと思っています。これで、ローンチでいける可能性がずいぶんと出てきましたね。ですので、がんばりたいと思います。

――『Rez Infinite』の開発は、いまどれくらいの段階なのですか?
水口 いま、新しいエリアを追加しようとしているんですね。オリジナルの『Rez』のVRへの拡張版はけっこういいペースで進んでいます。ただ、僕らがどうしてもやりたいのは、いまのテクノロジーで、VRに特化したステージを追加したくて、それを“エリアX”と呼んでいるのですが、その開発に取り組んでいる真っ最中なんですね。10月だったら、それも含めて間に合わせられるかな……という感じですね。

――“エリアX”は、VRコンテンツとしてさらに膨らみを持たせる?
水口 VRというものを前提に、いまのテクノロジーでVRをさらに拡張したいんです。僕らにとっては、ひとつ実験的なステージでもあります。「未来に向けての実験的なステージ」と呼んでいるのですが、それを入れてリリースしたいです。

――そのステージのキーワードやコンセプトみたいなものは?
水口 まだ内緒です(笑)。もうちょっとしたら、どこかのタイミングで言えるかもしれない。

――VRというジャンルにとっても革新的なもの?
水口 うーん、僕らは『Rez』というものがベースにあって、音楽と振動とビジュアルがセットになった気持ちのいい体験をVR空間でするのに、「ちょっとまた新しい切り口でチャレンジしてみたいよね」という、そういうものに対する実験的な意味合いですね。

――PlayStation VRに関しては、価格もポジティブにとらえている?
水口 そうですね。アメリカで300ドル台できたというのは、すごくいいインパクトがあると思いますね。VRデバイスの発表されている価格が、軒並み高めという現状の中で、プレイステーション4のユーザーさんは、世界中に4000万人近く存在して、PlayStation VRを買うだけで、新しいVR体験がすぐにできるというのは、魅力的な数字だと思いますね。

――水口さんは、VRの普及はどのように捉えていらっしゃいますか?
水口 今年はそれなりの盛り上がりを見せるんじゃないですかね。そのあと、数年かけて、じわじわと広がっていくと思います。過去、90年代の初頭にVRのブームがあって、消えて……というようなことがありましたが、いまの技術の進化のスピードを見ていると、たぶんここから扉がどんと開いて、戻るということはないと思うんですね。センサーのテクノロジーでディスプレイのテクノロジーなど、いろいろなものが向上していくと思うので。VRというものがひとつの大きい中心的なカテゴリになるのではないかと僕は思いますよ。時間をかけてね。

――それは、エンターテインメント分野においてということですか?
水口 全般だと思います。エンターテインメントはすごくパワフルで、最初にエンターテインメントが来るだろうけれど、そのうちコミュニケーションでも来るだろうし、幅広く広がっていくと思います。

――教育とか、広告とか、観光産業とか……?
水口 そうですね。

――それくらいVRは可能性を秘めている?
水口 VRは最終的には、ある段階からARとマージ(融合)されていくと思うんです。VRから始まったものがどんどん広がって、AR的なものと融合してどんどん広がっていくのだと思います。

――どんな世界が広がっていくのか、楽しみですね。PlayStation VRのローンチ時期が発表されたということで、改めて伺いたいのですが、水口さんがVRでいちばんワクワクしている部分は?
水口 やっぱり制約がないので。よく言うのですが、2001年に最初に『Rez』を作ったときって、頭の中でどんなにすごいイメージを持っていても、当時の4:3のテレビのモニターに押し込めないといけなかった。多くのゲームデザイナーは、最後にあきらめて、モニターに入れていたんですね。

――ある意味で、妥協ということですね?
水口 その制約がやっと取れるので、どちらかと言うと、ゲームというよりも、“新しい体験を提供する”ということを主眼に考えてきた自分からすると、「やっとこの時代がきた!」という感じですね。

――ようやく時代が水口さんに追いついたみたいな?
水口 それは言ってないのですが(笑)、やっと解放される感じがします。

――解放ですか! クリエイティビティが解放されるのですね?
水口 解放されます。無限のキャンバスを目の前にしたようで。逆に言うと、僕はアンリアリティーでファンタジックで、新しいイリュージョンや体験を生み出せると思いますね。いままでゲームをやって感じなかった体験を、これからみんな感じられるようになる。それは、作り手の冥利に尽きると思います。そういうことをやりたいです。

PS VRカンファレンス直後に水口哲也氏を直撃 『Rez Infinite』はローンチでの発売を目指す【GDC 2016】_01

 水口さんにお話を聞いたあとで、記者もPlayStation VRで『Rez Infinite』を体験させていただいた。全面に広がるVR空間の中での、音と映像の饗宴はまさに破壊的。実際のところ、没入感というか、ゲームの世界に持っていかれる感がハンパなく、「これが新しい体験の入り口なのだろうか……」と思わせた。ひとまずは、PlayStation VRとローンチに発売されるに違いない『Rez Infinite』の発売を心待ちにしたい。