『Life Is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』いじめ、ドラック、自殺などデリケートな問題を取り入れたストーリーの作りかたとは?【GDC 2016】

2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催されている。14日には、スクウェア・エニックスが発売している3Dアドベンチャーゲーム『Life Is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』のセッションが催された。

●デリケートな問題をストーリーに取り入れるためのプロセス

 2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催されている。14日には、スクウェア・エニックスが発売している3Dアドベンチャーゲーム『Life Is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』のセッションが催された。

※本リポート記事では、一部『Life Is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』のネタバレにあたる箇所に言及している部分があります。作品を未プレイの方は、くれぐれもご注意ください。

 このセッションは、エピソード形式ゲームの共同ゲームディレクターRaoul Barbet氏と共同ゲームディレクター&アートディレクターMichel Koch氏によるもの。感情的、繊細、またときにはタブーとされる現実社会における諸問題を、どのようにしてストーリーに取り入れていったかを明かした。

 はじめに、ビデオゲームは強力なメディアであると語られた。その理由は“インタラクティブ性(対話的)”によるものだ。昔プレイしたゲームをよく覚えているのは、インタラクティブ性のおかげであるという。映画やテレビは受け身になりがちだが、ゲームはプレイヤーが主人公になれるという違いがある。

 プレイヤーは主人公になることで、ゲームの中で語られる問題について自分がどんな意見を持っているかを考えることになる。これによって思考が刺激されるのだ。このような方向でさまざまな問題に向き合い、作られたゲームが増えているという。例を挙げるなら、PC用アドベンチャーゲーム『That Dragon Cancer』は小児癌を、『Heavy Rain』は公害や喪失を、『Paper Please』 は移民、闘争、家族教育を、『グランド・セフト・オートV』は都市が抱える問題などを。「このような現実世界での問題を取り扱っているゲームがあることは喜ばしい」とRaoul氏とMichel氏は語った。

 『Life is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』では、マックスとクロエというふたりの女子高校生の友人関係が描かれている。5年ぶりに町に戻ってきたマックスは、幼少期からの友達であるクロエが撃たれたときに、自分が数秒のあいだ時間を逆戻りできる能力を持つことを知る。またその能力によって時間を戻り、何かを解決すると、そののち世界によくない影響も与えることも知る。

 このように本作では超能力を扱ってはいるが、サイエンス・フィクションではなく、あくまでも現実に沿ったものであるとし、積まれた問題がすべて解決できるほど、世の中は完璧ではないことをプレイヤーが受け入れ、先へ進むように示しているそうだ。

 本作では孤独、ドメスティック・バイオレンス、いじめ、ドラッグなど、とても難しい数多くの問題に言及している。そのため、まずメイン・ストーリーにこれらのおもな問題を配置し、プレイヤーがメインメッセージから目を逸らさないようにしたとのこと。そこからシーン、状況を作り、納得のいくストーリーが進むようにしたという。

 また「プレイヤーに意見を押し付けることはしたくはない」と、ゲーム中では政治的な問題は取り上げられていない。「あくまでも問題を中立的に提示して、プレイヤーには、それらがいままでとは異なる角度から光を当てたらどう見えるかを考えてもらいたかった」と語る。没入感の強いメディアを扱う開発者として、開発を慎重に進め、プレイヤーの反応や、またプレイヤーが過去に同じようなことを経験したかもしれないという点について、いろいろと想像をめぐらしたそうだ。

 セッションでは続いて、実際のシーンを例にとってデザインと製作の過程が説明された。

●マックスとクロエ

<状況>

 ふたりの関係が時間をかけて深くなり、自己中心的だったクロエが徐々に心を開いていく。(プレイヤーがクロエに親しみを持ってくれるようにすることは重要なポイントだった。)メインシーンの後にふたつの重要なアクションがあり、これはやがてクロエの父をクルマの事故から救うという運命にもかかわることになる。

 上の写真の課題は、呼吸器系末期疾患によって身体が麻痺したクロエの自殺を幇助するという非常にシリアスなものであり、プレイヤーに責任を感じてもらうために難しい選択を強いたとのこと。現実には簡単な逃げ道はない場合もあることを示しているのだ。

<準備>

 医学的背景に整合性を持たせるために、丁寧なリサーチを行ったとのこと。実際の医者とコンタクトを取り、医療器具や医薬品の使用方法、患者の状態についてもきちんと調べている。

 物語を現実的にするために、クロエが不自由な体になってからはふたつの部屋の様子を変えている。クロエの部屋はすっかり片付けられ、部屋に置かれていたモノが寄せられ、デイビッドの部屋はクロエの寝室として使われるようになる。このように家族に起こり得る影響は、筋が通っていてプレイヤーに納得できるものでなくてはいけないし、小さなことにも気を配ってディテールを作っていったとのこと。こうすることでプレイヤーも心を寄せるようになるのだ。

 また、クロエが“障害者となったことで「死にたい」と思った”のではないことを、きちんと伝えることも重要だったと語った。

<シーン>

 マックスはやがて自殺の幇助をクロエに依頼されるが、ことが起こる前にプレイヤーが状況をじゅうぶん理解できるようにしている。これは重大な依頼であり、プレイヤーが過程を踏まえて、よく考えられるようなじゅうぶんな時間が取られなければならない。また、クロエがリクエストしてプレイヤーが選択しなくてはならないシーンでは、スローで、会話も動きも少なく、クロースアップのないシーンになっている。そのほか現実的にするために、大げさな音楽でドラマティックに盛り上げるようなことはしてはいない。

 選択肢には「I don’t know」というはっきりとしない答えも加え、プレイヤーがよく考えて選べるような選択肢にしている。実際には複雑に入り組んで、簡単には解決できない問題だから、「I don’t know(よくわからないね)」なんて受け答えも、存在するはずだ。

 そのほかにも、ボイス・アクティングでは、物語を現実的、実写的にするため、オーバーな感情表現を避け、ゲームプレイとUIは、できるだけプレイヤーが自分の選択にひとりで向き合うような形にしたという。

<決断による結果>

 プレイヤーはじっくり考えて決断する必要があり、考えた結果が何事もなかったかのように進んでしまっては、考えさせたことの意義が失われる。クロエが病気でなかったころのことを話す機会を設け、マックス(プレイヤー)が選択してきた結果の重要性がわかるようにしているのだ。

●ケイトとマックス

<状況>

 ケイトはいじめに遭い、鬱になり、やがて孤立していく。彼女は二次的なキャラクターだが、彼女とマックスとの関係は重要である。

<準備>

 いじめについても多くのリサーチを行い、学生の証言を聞いたり、ブログ、インタビュー、また自殺防止ウェブサイトも参考にして、状況についての理解を深めていったという。さらに、プレイヤーがケイトについてよく知ることができるように工夫を凝らしたそうだ。

<シーン>

 ケイトが屋根から飛び降りる場面で、時間をフリーズするところでは、絵にインパクトを与えるため、多くのライト、パーティクル、サウンド、アニメーションを使い、プレイヤーが居心地悪く感じるようにしている。

 そして「人を納得させる(自殺を止めさせる)のは容易ではない」とプレイヤーに理解してもらうために、会話にはきちんと筋が通った言葉を使い、プレイヤーは非常に注意深く考えて行動する必要があるようにされている。

<決断による結果>

 次のシーンではどの決断も完璧でないことが示され、状況によっては異なるエンディングへと進行する。マックスの決断によってはケイトが死んだり、あるいは自殺を止めて新たなストーリーが開かれたりといった具合だ。長期的にはプレイヤーがケイトとの繋がりを感じることから、“人を失う”ということが矮小化されないようにしているのだ。

 最後にRaoul氏とMichel氏は、「シリアスな問題には慎重に敬意を持って臨んでもらいたい」とし、今回は自分たちにとって非常に興味深いプロセス(工程)だったと語った。「これからもシリアスな問題に、新しいやりかたで取り組んでいきたい」と述べ、セッションは締めくくられた。