シンプルなUI、グラフィックの秘密とは

 2016年3月14日~18日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコ モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターの技術交流を目的とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2016が開催。3月14日、同イベントにて現在配信中のPC用FPS『SUPERHOT』のセッションが行われた。

 本作は、SUPERHOT Teamが開発したFPS。“移動する時だけ時間が動く”というヒネリの効いたギミックが高評価を得ている。要するに、ゲーム中では銃を撃ってもプレイヤーが動かなければ弾が前に進むことはない。基本的に敵に囲まれた不利な状況からスタートするが、この“自分が動かなければ時間は進まない”という法則を利用して、じっくりと次の一手を考えることができるのだ。
 もともとは2013年に開催されたゲームジャムで生まれたアイデアをもとにしたもので、10人のゲーム開発経験なしの、情熱だけが溢れているチームで制作したと語った。

新感覚FPS『SUPERHOT』のシンプルなゲームデザインと心理操作【GDC 2016】_01
▲Piotr Iwanicki氏 | 『SUPERHOT』ゲームデザイナー/ディレクター

 ゲーム要素は、通常だと「要素をたくさん用意して、それらを重ねていく」ことを行っていくが、Iwanicki氏は「その要素に共鳴するものを重ねる」ことを行ったという。例えば、パワーアップ要素を個別に重ねるのではなく、「自分が動いたら敵も動く」というコア要素を最大限に活かすために”肉付け”していくスタイルを取ったとのこと。

 本作では、自分が動かなければ敵も動かないので、どの順序で敵を倒していくかや、どのルートを辿って動いていくかなど、じっくりと攻略の計画を立てることができる。人によってはパズルゲームのようだと評する人もいるが、Iwanicki氏曰く終始一貫してパズルゲーム的にはしたくなかったそうで、ハイスピードなアクションの流れを維持したいと考えていたそうだ。本作が弾とアイテムは黒、敵は赤というふうにグラフィックスタイルを明確に分けて、シンプルなデザインに抑えられているのはそういった理由からで、「画面で起きていることを理解しやすいようにしたい」という気持ちから、現在のシンプルなスタイルになったとのことだ。

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 本作で見られる映画『マトリックス』のような近距離での銃撃戦は普通のシューターゲームではできない。QTEやカットシーンを使えば可能だが、本作ではプレイヤーが“近距離銃撃戦”をカットシーンなどを使わずしてきちんとできるようにしたかったとIwanicki氏は言う。その結果、「自分が動くと敵が動く」というアイデアが、“近距離銃撃戦”を生み出すことに繋がったそうだ。

 また、本作での射撃は選択肢のひとつであり、一番盛り上がらない要素であると言う。銃を投げつけて敵の武器を奪うなど、そういった射撃以外の要素のほうが盛り上がると述べた。

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●「プレイヤーの想像力が補完してくれる」ことを前提としたグラフィック
 本作では、ゲーム内の世界感を抽象的なスタイルにすることで、プレイヤーに想像の余地を残している。ローグライクゲームは、シンプルなグラフィックでも楽しめるが、これはプレイヤーが想像力で補完しているからでもあると言う。例えば、「ビリヤード台を華麗に飛び越え、敵が落とした銃を空中で拾って敵を始末する」というスタイリッシュなシーンも、実際には「ブロックをジャンプして飛び越え、キャラクターと銃の衝突判定を検出したらそれを取得し、最後に撃つ」という単純なことをしているだけなのだ。

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●シンプルで反応的なAI
 本作に登場する敵のタイプは一種類だけだが、手を抜いているのではなく、これにも理由がある。プレイヤーにはスタイリッシュでアクション満載のプレイをつねに楽しんでもらうため、意図的にシンプルにしているという訳だ。台本に沿った行動はさせないようにし、創発的(状況に合わせて生み出される)行動を取るようにしている。

 このほかにも、表示されるテキストがプレイヤー自身には読み切れないようなスタイルで表示される。これも論理的に考えればナンセンスではあるが、ゲームのリズムというものを優先して考えた結果、意図的にそうしているとのことだ。このように、細かな部分のことにもしっかりと意図が込められていると述べた。

●プレイヤーの心理を操作すること
 本作のストーリーにはカットシーンは登場しない。Iwanicki氏は「実況動画などを見ていると、カットシーンの評判はすごく悪いと」と述べ、そのひとつの例としてせっかく没入していたのにカットシーンが入ることによって接続が切れてしまったような感覚に陥ってしまうと語る。 それなら、プレイヤーがつねに操作を行う、「ずっと動かせるゲームデザイン」を取り入れて、プレイヤーの感情を引き出すことにしたそうだ。
 「つねにプレイヤーがアクションを起こすことで、プレイヤーが遊び続ける」という流れを作り、まるで麻薬のようにやり続けたくなる仕組みを作っているのだ。

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 なお、本作ではマーケティングの一環としてkillstagram.comというリプレイ動画共有サイトが公開されている。ぜひこちらもチェックしてほしい。