FOSTの活動は、今後は国外も視野に入れたものに

 2016年3月3日、東京都内にて、“第9回FOST賞授賞式”が行われた。

 FOSTは、公益財団法人 科学技術融合振興財団(foundation for the Fusion Of Science and Technology)の略称。1994年に設立された組織で、社会や文化の中で科学技術の融合を促進させる研究に対する助成事業と、その成果を広く還元する普及啓発事業を行っている。

 助成の対象となるおもな研究は、シミュレーション&ゲーミングの研究だ。シミュレーション&ゲーミングとは何か。今回の受賞者のひとりである井門正美氏(受賞内容については後述)が所属していた秋田大学 ゲーミング・シミュレーション研究所のサイトでは、“ゲーム、シミュレーション、ロールプレイング等の状況再現的・体験的手法を用いて対象の理解や問題の解決を図る方法論”だと解説されている。わかりやすい表現にするならば、“ゲームの体験を通じて、社会問題の解決方法や、企業を経営する術などを探るもの”……と言ったところだろうか。

 FOST賞は、研究助成金に基づいて研究成果を発表した研究者を対象とする賞で、2007年度に始まった。2008年度には、若手研究者向けの賞が新設され、後に“FOST新人賞”として確立。さらに、2011年度には、社会貢献という観点から顕著な業績を上げた人または団体を表彰する賞として、FOST社会貢献賞が設立された。

 授賞式では、FOSTの理事長を務める、コーエーテクモゲームスの襟川陽一氏が登壇。襟川氏は、“今後もシミュレーション&ゲーミングの研究助成を続けていきたい”と述べるとともに、“国内のみならず、国外も支援していきたい”と意気込みを語った。

第9回FOST賞授賞式が開催、すぐれたシミュレーション・ゲーミング研究者を表彰_01
FOST理事長
襟川陽一氏
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FOST賞審査委員長
東海大学名誉教授
白鳥令氏

 続いて、FOST賞審査委員長を務める東海大学名誉教授の白鳥令氏が、FOST賞、FOST新人賞、FOST社会貢献賞の受賞者と研究テーマ、授賞理由を発表した。今回の受賞者は下記の4名で、受賞者には襟川氏から賞状やトロフィーが贈られた。

■第9回FOST賞
鐘ヶ江 秀彦氏
(かねがえ ひでひこ、立命館大学 政策科学部教授 ISAGA President)
研究テーマ:ISAGAサマースクールを通じたゲーミング・シミュレーション開発スキルの学習方法に関する研究
授賞理由:第10回ISAGAサマースクールにおいて、事例に基づいてゲーミング・シミュレーションのプロトタイプを作成・試行し、事例対象にフィードバックするなど独創性な手法により効果検証を行なった。

第9回FOST賞授賞式が開催、すぐれたシミュレーション・ゲーミング研究者を表彰_03

 ISAGA(国際シミュレーション&ゲーミング学会)が毎年夏に行っている、若手研究者を育てるためのサマースクールの日本開催に携わった鐘ヶ江氏。サマースクールには25ヵ国の研究者が参加したという。鐘ヶ江氏は、“これから先、たくさんの仕事がなくなっていく。たくさんの人が、余った時間を何に使うかと言うと、ゲームだ”、“いまでは、社会制度を作る役割もゲームが担っている”と指摘。ゆえに、今後シミュレーション&ゲーミングに長けた人材を育てることが重要になっていき、FOSTの活動もより意義あるものになっていく、と語った。

■第3回FOST新人賞
野瀬 泰史氏
(のせ たいし、株式会社アプリボット 企画開発ディビジョン 企画グループ プランナー)
研究テーマ:多言語での自然言語チャットを用いたゲーミングシミュレーションの会話分析と評価
授賞理由:多言語のような複雑な環境でのチャットログを分析する際の効率と正確さ、緻密さの側面で洗練された新しい分析手法の提案と、それが従来の手法よりもどれだけ優れているかを定量的に評価した。

第9回FOST賞授賞式が開催、すぐれたシミュレーション・ゲーミング研究者を表彰_04

 早稲田大学 理工学術院でゲーミング・シミュレーションについて研究していた野瀬氏。自然言語の研究において、被験者に“ゲーム”という強い動機を与えることで、被験者の自発的なタグ付け(分析手法のひとつ)を促し、分析をしやすくする……という研究が認められ、FOST新人賞を受賞した。現在、野瀬氏はスマートフォン用ゲームのプランナーとして働いているが、これまでの研究の経験は、プランナーの仕事にも活きているとのこと。また、今後も研究は続けたいとのことで、会社にも業界にも貢献したい、と抱負を述べた。

■第5回FOST社会貢献賞
白井 宏明氏
(しらい ひろあき、横浜国立大学大学院 教授)氏
 教育および企業研修に使用できるビジネスゲームの開発・研究の第一人者であり、「横浜国立大学ビジネスゲーム開発システムYBG」を開発し、新しくビジネスゲーム開発・研究に取り組もうとしている研究者・企業を支援している。最近では、開発途上国の貧困を撲滅するためのビジネスモデルを基礎に、企業が経済的価値だけでなく社会的価値をも求めるビジネスゲームの開発に取り組んでいる。

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▲白井氏は、もともとは民間企業でエンジニアをしており、そのころから、ビジネスゲームで経営の勉強をするのが好きだったという。旧・光栄から発売された『トップマネジメント2』(シブサワ・コウ氏が手掛けたタイトル)もプレイしたとのこと。

 “横浜国立大学ビジネスゲーム開発システムYBG”を作り、ビジネスゲームを全国の研究者に無料提供し、ビジネスゲーム全体を盛り上げようという試みを行っている白井氏。現在120の大学で、このシステムが利用されているという。白井氏は、あと1年で横浜国立大学を離れることが決まっているとのことだが、以後もYBGの普及に努めていきたい、と述べた。

■第5回FOST社会貢献賞
井門 正美氏
(いど まさみ、北海道教育大学教職大学院 教授)
 講義や座学に偏りがちなこれまでの授業に対し、真に実社会で役立つ社会的実践力のある学生を育成することをねらったゲーミング&シミュレーション研究会を2009年4月に秋田大学に立ち上げ、活動は他の大学にもおよび、日本古代史に関する興味深い発表を研究室の学生にさせる等々、研究や教育で目ざましい活動をされている。

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 第5回FOST賞の受賞者でもある井門氏は、秋田大学に16年間所属し、ゲーミング&シミュレーション研究会を設立して、地元密着型の研究を行ってきた。昨年4月に北海道教育大学教職大学院に移った井門氏は、つぎの10月には大学院長になるとのことで、これからは北海道教育大学を中心に、日本、そして世界に向けて研究を行っていきたい、と語った。

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