ヒットメーカー小林プロデューサーに聞く

カプコンの小林裕幸プロデューサーが明かす IPを有効活用しゲームのヒットにつなげる秘訣_11

 『バイオハザード』シリーズや『戦国BASARA』シリーズなどを筆頭に、積極的にコラボレーション展開で知られるカプコンの小林裕幸プロデューサー。これまでに小林氏が手掛けたIP(知的財産)の舞台化や商品化などは大きな話題となり、いまではその戦略を参考にしているゲームメーカーも数多い。ここでは小林氏に、ゲームをヒットにつなげるための、IPの有効活用の秘訣を聞いた。

※本記事は、週刊ファミ通2016年1月21日号(1月7日発売)の記事に加筆した内容となります。

カプコンプロデューサー
小林裕幸氏

作品の世界観に合致したコラボを心掛けている

――小林さんが手掛ける作品では、他企業や他タイトルとのコラボに積極的に取り組まれていますね。
小林 ゲームの認知度を高めるという意味もあって、コラボレーションには積極的に取り組んでいます。カプコンの持つ社風が、他社さんとのコラボに取り組みやすい環境にあるということは言えるかもしれません。社内で協力して取り組んでいますね。

――小林さんを初めとする開発陣主導で取り組んでいる感じですか?
小林 結果的にそうかもしれません。作品のことは開発者がいちばんわかっているので、「こういうふうに展開していきたい!」という熱意を持ってこちらから提案をして進めていくという流れが多いです。

――コラボを展開するうえで、とくに心掛けている点を教えてください。
小林 根本にあるのは、作品に合うか合わないかですね。作品の世界観と合わないようなコラボは、無理やりはやりたくないです。作品の世界観に沿いつつ、話題性のあるものを、ということでセレクトしています。たとえば、すごく好きなアーティストさんがいたとしても、『戦国BASARA』の世界観に合わないのだったら、さすがに組めないなとは思います。仮にどんなに話題性があったとしても、「これはちょっと違うな」ということになってしまいます。そういう意味では、相性というのはありますね。

――いかに世界観にマッチしているかと、話題性のバランスが重要ということですね?
小林 はい。『デビル メイ クライ』にしても『バイオハザード』にしても、基本それぞれの作品のカラーにあったアーティストさんにお願いしています。『デビル メイ クライ4』は、「作品の世界観にマッチしている」ということで、ディレクターの伊津野(伊津野英昭氏)と相談して、L'Arc-en-Ciel(ラルク・アン・シエル)さんにお願いしました。最新作である『バイオハザード0 HDリマスター』のテーマ曲にRaychell feat RICKEY & RABBIEさんを起用したのも、そのためです。

――コラボに際しては、ユーザーさんの意見を参考にしたりもします?
小林 そうですね。自分たちが“こう”と思う方向性と、ユーザーの皆さんが希望される方向性の両軸で考えながら検討しています。とはいえ、必ずしも希望にお応えできるわけでのないので、そのへんは合致するところを探しています。

――やはりユーザーさんの意見を聞く機会は積極的に設けているのですか?
小林 はい。とくに『戦国BASARA』では接する機会が増えましたね。イベントが多いということもあり、ユーザーの方の反応をダイレクトに見られますし。当然、イベントにいらっしゃらないユーザーの方のことも考えていますけれど。実際のところ、“意見を言わない方の意見”をどう捉えるかも大事になってくると思うので。

――“意見を言わない方の意見”ですか? それはどう汲み取るのですか?
小林 それはもう予想するしかないですね(笑)。いくら調査をしたとしても、参考にできる意見はごく一部でしかないので……。いちばん多いのは、購入されて意見を言わない方ではないかと。多くの方は「おもしろかったから、つぎ買おう!」か「おもしろくなかったから、つぎに買うのはやめよう」ということで完結すると思います。

――聞こえない声を聞き取るということが、プロデューサーとして問われるのかもしれませんね。
小林 どうでしょうね。もちろん、調査にしてもある程度は参考にしますが、過信し過ぎないようにしています。そのへんの判断は難しいところですけれども。

――ちなみに、“話題作り”の点では、ゲームの中身に関しても気を配るのですか?
小林 そうですね。たとえば、シリーズ作に関して言えば、新キャラクターを誰にするかというには、作品の注目を集めるうえで大きなポイントになります。『戦国BASARA4 皇』では、千利休を追加したのですが、“二重人格の茶人サイキッカー”という斬新な設定が話題になって、発表直後からこちらの期待以上に盛り上がりを見せてくれました。『戦国BASARA4』のときには島左近と柴田勝家を入れたのですが、好きな方にはすぐに分かる武将なのですが、そうでない方には少しわかりづらかったかも? という反省点がありました。そこで『戦国BASARA4 皇』で1キャラ追加するときは、知名度を考えて千利休にしたのですが、結果として豊臣秀吉との絡みも作ることができて正解でしたね。

相手にコンテンツを理解してもらうことが大事

――いろいろなコラボがあったかと思うのですが、とくに印象に残っているものは?
小林 やはり西川貴教さんとのコラボですね。いまでこそ『戦国BASARA』シリーズの主題歌と言えばT.M.Revolutionこと西川貴教さんですが、じつは最初に代理店経由で1回断られているんですよ。オファーしたときに、ちょうど新作の予定がなかったらしく……。それが悔しくて、とにかく「なんとかならないか?」ということで、四方八方で手を尽くしたところ、ちょうどシングルCDの2曲目が空いているということで、新曲を書き下ろしていただいたんです。忘れもしません。それが『crosswise』です。あれはがんばった甲斐があったなと思います。

――いまでは、『戦国BASARA』にとって西川貴教さんは欠かせないアーティストになっていますね。

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小林 あとは、宮城県知事選のポスターですね。あれはちょうど『戦国BASARA3』がリリースされる前に決まったので、『戦国BASARA3』バージョンの伊達政宗を初めて露出したのは、選挙用のポスターだったんですよね。ゲームのキャラクターが県知事選のポスターになるというのは、奇跡的なことだと思います。

――舞台化も、『戦国BASARA』シリーズがいまのブームの先駆けになっていますね。
小林 舞台はもともとあまりやる気がなかったんですよ。逆に1回お断りしているくらいなんです。最初にお話をいただいたときも、ちょうどアニメが始まる年とかぶっていて、マンガも何本か走っていたりしていたので、「とてもじゃないけど、無理です」ということでお断りしたんですね。それでも、「何とかできませんか?」と再度問い合わせがきたので、「そこまで熱心なのは、よほどやりたいということなんだろうな」ということで、2009年に舞台化の運びとなりました。その舞台が、個人的にもとてもおもしろかったんですね。「ああ、おもしろいな演劇」ということで、続けたいという気持ちが沸き上がってきたんですね。それで、「新しい宣伝効果になれば」ということで継続しています。

――タイアップでも、コンテンツ自体のおもしろさが問われるということですね。
小林 正直、そんなに大きくはゲームの売上にはつながっていないかもしれないのですが、ブランドの知名度アップには、大いに貢献しているのは間違いないですね。

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▲2009年の初舞台化以降、いまのブームの流れを作った『戦国BASARA』。最新作である舞台『戦国BASARA4 皇』は1月21日~2月7日まで公演予定となっている。

――タイアップを展開するにあたっては、やはり相手側にコンテンツをより深く理解してもらうといいものができる?
小林 そうですね。ふだんアニメやマンガなどのコンテンツに接していない方は、クリエイターがどれだけ苦労して作品を作り上げているか、ご存じでない方も多いです。そういう場合は、コンテンツのことを理解してもらうためにしっかりと説明しますし、ときにきびしくご指摘したりもします。逆に、すごく詳しい方もいらっしゃって、シチズンさんとのコラボウォッチは、キャラクター選定からデザインまで、すごくツボを押さえくださっていて、とてもうれしかったです。

――コラボを展開するうえでは、“信頼感”というのも大切になるかもしれないですね。
小林 『戦国BASARA4 皇』のときの、西川貴教さんとのコラボレーション衣装は、まさに信頼感があるからお借りできたものかもしれないですね。

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▲『戦国BASARA4 皇』のタイアップとして展開された、T.M.Revolutionの“HOT LIMIT”仕様の徳川家康専用のダウンロードコンテンツ。各方面から大きな話題を集めた。

――コラボを展開するときは、基本相手の方針を尊重するのですか?
小林 基本は、相手がやりたいことを尊重しますね。たとえばマンガだったら、主人公はマンガ家さんと相談して決めるんですよ。やっぱり描きたいものがいちばん力が入るので。「このキャラクターを出したいんですけど」というご提案があれば、お応えしていますね。アニメはアニメで、監督さんや脚本家の方のご希望を受け入れながら作り上げています。コラボは二人三脚的なところがあるので、それぞれの作家さんがいちばん気持ちの乗るものをやったほうが、いいものができるんですね。

――『戦国BASARA』シリーズのすごいところが、コンスタントに作品を出し続けているところですよね。間を空けずに。それでコラボも展開しているという。

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小林 まあ、セガゲームスさんの『龍が如く』シリーズも毎年出していますからね。本当にすごいと思います。セガゲームスの横山昌義プロデューサーから『龍が如く』シリーズのお話を聞いていると、驚嘆するしかないですね。カプコンでも、僕自身は関わってないのですが、『ロックマン』を毎年リリースしていたときに、「『ロックマン』すごいな、真似できないな」って思っていました。こっちは何年かに1本しか出していなかったのに、『ロックマン』チームは毎年クリスマスに合わせて作品をリリースしていたんです。そのときは、まさか自分が毎年作るゲームがあるとは思っていなかったですけどね(笑)。そういうチームを見ていたので、自分がプロデューサーになってから、コンスタントにリリースするペースは大事だと認識できたのかもしれないです。あとは、『戦国BASARA』シリーズのディレクターである山本(山本真氏)を筆頭に、タイアップなどに理解のあるスタッフに恵まれたということはあると思います。これが、「そんなこと1年だったら無理ですよ」というスタッフだけだったら、やっぱりできていなかったでしょうね。

――コラボに関しては、だいぶチームに浸透しているのですね?
小林 そうですね。まあ、やることは先に言いますね。主題歌は何となく1作目から定番になっているので、もう「入るんだろうなあ」ということで心構えはしてくれてはいますね。

――コラボに関しては、小林さんがいろいろと決めてきてくれるということで、チーム間との信頼関係もできているのですね。
小林 どうでしょうね。そればっかりはわからないですね(笑)。まあ、話題を作っているというのはわかってもらえているとは思うんですけど。まあ、ネタに走り過ぎているなあと思うときもありますね(笑)。

――そこは話題にならないよりはなったほうがいいですよね。小林さんが、“ゲームファン以外への広がり”というのをすごく意識されているのは、外から見ていてもよくわかりますし。
小林 「とにかく広めないと!」というところでしょうか。

――今後取り組んでみたい企画などはありますか? 先日『戦国BASARA 真田幸村伝』が発表されたばかりですが……。
小林 本作ではコラボは少し抑え気味です。作品自体が2016年という年にマッチしているので。とはいえ、今後も新しい取り組みには挑戦していきたいです。『戦国BASARA』シリーズも10周年を迎え、1月20日には企画アルバムとして『戦国BASARA 武将テーマ ボーカルコレクション』がリリースされますし、3月にはイベント“戦国BASARA 10周年祭 ~十年十色の宴~”を予定しています。『戦国BASARA』シリーズともども、2016年もよろしくお願いします。


コラボを積極活用する『戦国BASARA』シリーズ

 小林氏がとくに、積極的にコラボ展開しているのが『戦国BASARA』シリーズ。これまでに100アイテムのコラボを行なっているというから驚きだ。印象的なコラボとしては、本文中で言及している宮城県知事選挙のポスターのほかに、Zoffとのコラボがあるとのこと。「伊達政宗で“ダテメガネ”でどうですか?」ということで、ネタで即決したのだとか。山崎製パンとのタイアップも思い出深いコラボだという。「スーパーによく行くと、コラボの包装などが展開されていて、『戦国BASARA』でやれないかとずっと思っていたので、実現できてうれしかったです」(小林氏)。

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アーティストとの楽曲コラボも積極的に展開

 小林氏の作品において欠かせないものとなっている、アーティストとの楽曲のコラボ。開発陣も「もうすでに入るものと思って心構えをしている」(小林氏)という。1月21日に発売される小林氏の最新作『バイオハザード0 HDリマスター』では、Raychell feat RICKEY & RABBIEとコラボ。彼らを起用した理由について小林氏は「Raychellさんは『ドラゴンズドグマ ダークアリズン』の日本版テーマソングでごいっしょして歌唱力抜群なのは理解していて、最近は新しいユニットで活動されていて1月にアルバムが出ることもあり、タイアップさせていただきました」とのことだ。

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▲テーマ曲となるRaychell feat RICKEY & RABBIEの“Until the Justice”。楽曲の雰囲気が世界観にマッチしていたことから今回の抜擢になったとのことだ。

『戦国BASARA 真田幸村伝』にも注目

 シリーズ最新作にあたる『戦国BASARA 真田幸村伝』は2016年夏発売予定。コラボ数自体はあまり多くないそうだが、複数予定しているとのこと。新キャラクターとなる幸村の父親・真田昌幸と兄の信之もインパクトのあるキャラとのことで、「アクションも見てほしいし、声優さんも早く言いたいんですけど、少しお待ち下さい。本当に早く遊んでほしいです!」(小林氏)とのことだ。

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▲まさに真田幸村の時代とも言える2016年。時代にマッチしたとも言える『戦国BASARA 真田幸村伝』は大きな注目を集めそうだ。