ゲーム中のシーンにあわせて描き起こしたイメージソング

 セガから発売中のニンテンドー3DS用RPG『セブンスドラゴンIII code:VFD』。同作のゲーム内で聴ける楽曲やテーマソングのすべてを収録したサウンドトラックCD『「セブンスドラゴンIII  code:VFD」オリジナル・サウンドトラック&ソングス』が、2015年12月23日にU/M/A/Aより発売となった。主題歌と挿入歌の全4曲を手掛けるのは、シリーズのファンにはおなじみのsasakure.UK氏。物語の持つ世界観やイメージを巧妙に楽曲に織り込むことで知られるsasakure.UK氏だが、今回の楽曲にはどのようなこだわりを込めたのだろうか。そのあたりをインタビューにて聞いた。

『「セブンスドラゴンIII  code:VFD」オリジナル・サウンドトラック&ソングス』 sasakure.UK氏に主題歌とテーマ曲の魅力を訊く_04

■sasakure.UK(ササクレ・ユーケイ)
 2月11日、福島生まれ。
 “ゲームは一日一時間まで!”という非常に過酷な幼少時代に聴いた、8ビットや16ビットゲーム機の奏でる音楽に多大な影響を受けて育つ。学生時代は男声合唱と並行して詩人や文学作家の作品に触れ、創作活動を開始。ネットでの楽曲発表をするなかボーカロイドに出会い、自身が作詞作曲をした楽興を動画サイトへの投稿。“SF”と“寓話”をモチーフにしたキュートな世界観が指示されて多くの評価を集め、人気コンポーザーの仲間入りを果たす。

※sasakure.UKオフィシャルサイトはこちら

――セブンスドラゴンシリーズに関わられるのは3作目ですね。
sasakure.UK氏(以下、sasakure) はい。シリーズの2作目である『2020』から関わっているので、『2020-II』、そして今回の『III』とで3作目になります。

――これまでの3作では主題歌を手がけられてきていますが、今作はどのようなものに?
sasakure 一番異なる点は、これまでボーカロイドで表現してきた歌声を、人間の歌手の方にお願いしている点です。また、主題歌とは別に今回の『セブンスドラゴンIII』は3つのワールドを行き来する物語ですので、それぞれの世界観を大切にしながら、各世界のテーマに沿った挿入歌を作っていくという、少し新しい試みもありました。

――そのアイデアはどこから?
sasakure スタッフの方と話し合いながらですね。それぞれのワールドの世界観やイベントにマッチした挿入歌があったら良いんじゃないか、という提案をいただいて、そこから話し合いながら内容を詰めていきました。

――では、アトランティス、エデン、東京と、それぞれの楽曲のコンセプトをお聞かせいただけますでしょうか。
sasakure まずは東京のテーマソング“Re:Vanishment”。これは『2020』からさらに未来が舞台なので、都会らしさをテーマにしています。未来感、都市感のイメージを思い描きながらフレーズを作っていきました。

――アーバンな曲調に加えて、ボーカルのAnnabelさんの色っぽい歌声も相まってすごく大人な仕上がりですね。仕上がりを聞いていかがでした?
sasakure もともと彼女の歌声が好きだったので、今回お願いするにあたって、Annabelさんの声質に合う楽曲はどういうものかと考えたひとつの回答が“Re:Vanishment”なんです。歌をお願いした3人のボーカリストAnnabelさん、分島花音さん、riya(eufonius)さんについては、それぞれの世界観をイメージしながら「この方に歌っていだきたい」とリクエストさせていただきました。

――曲調が大人な雰囲気ですが、歌詞は明るさを感じさせるものです。このあたりは、あえてギャップを狙って?
sasakure そうですね。歌はそれぞれ特定のキャラクターの思いとリンクしているんです。東京の場合は、ドラゴンが攻めてくるという逆境に負けず前に進んでいくこと、みんなのための盾となることといったコンセプトを織り込んでいきました。

――アトランティスのテーマソング “サンクチュアリを謳って”は、sasakureさんの得意な3拍子を使ったメランコリックな曲調に、分島さんのウィスパーボイスが絡みあったステキな仕上がりですね。
sasakure ありがとうございます。アトランティスは海にある魔法世界なので、海の中というモチーフを大事にしてファンタジックな作品に仕上げました。勇ましい感じもあり、水中を象徴するような音であったり、そういうものを織り込んでアレンジをしていきましたね。

――歌詞についてはどんなイメージで?

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sasakure どの楽曲についても音楽が使われるシーンを前もって理解しておいて、それにハマるように作っていったんですけど、“サンクチュアリを謳って”という曲はテーマの元となるキャラクターが決意を新たにするシーンなんですね。そこでの勇ましさ、儚さを表現できるようなトラックを意識しました。

――では、エデンのテーマソング“終撃のイグニト”については? 美しいコーラスが印象的ですね。
sasakure この曲が流れるのは山場となる決戦へと赴くときなのですが、強さや禍々しさといった、ドラゴンの本質と向き合う重要なシーンなんですね。なので、激しい戦いを表現したパートと、歌声が響き渡るパートとを、人間とドラゴンの対比になぞらえて作りました。ドラゴンを打ち砕かんとする者たちへ向けた楽曲です。

――そして主題歌の“ChRoNiClESeVeN”です。
sasakure じつは、この曲を一番最初に手がけたんです。というのも、ほかの3曲がシーンに合わせて作るウェイトが高かったので、最初にこの主題歌を用意したうえで、それに沿った形でほかの曲のジャンルを設定していきました。それぞれのシーンで使われる楽曲の雰囲気や曲調は、意識して変えています。

――主題歌だけに、ある意味のちに作られるテーマソングの“軸”といえる曲なわけですね。では、そのコンセプトは?
sasakure ドラゴンという脅威が迫ってくる中で、そこに抗うものたちの思いや、立ち向かっていく勇気を歌詞に盛り込んでいきました。曲調についてもアップテンポで盛り上がれるものになっています。

――お気に入りのフレーズはありますか?
sasakure Bメロの「毀(こわ)れかけたこの躯(からだ)に 僕ら また ネガイ オモイ 数えて」というちょっと早いリリックのあとに、伸びのあるサビへと展開するんですけど、ボーカルの語感を気にしながら歌詞を書いていったので、ここにはこだわりが詰まっています。「聖域さえも 深層さえも」といったように、2文字だけど1音にハマる単語の響きをすごく意識して作りましたね。ひとつの音符にどれだけ言葉をはめ込むかというのは、最近の自分のテーマにもなっているんです。

――こちらもAnnabelさんが歌っていますが、レコーディングのときになにかコミュニケートはありましたか?
sasakure 伸びやかで芯のあるAnnabelさんの歌声が入ることで、楽曲全体が締まったものになるんです。人の歌声が持つ表現力のすごさに改めて感心させられましたね。声質に関してはAnnabelさんとディスカッションをしながら決めていきました。やはりそこはボーカリストさんと楽曲を作っていく醍醐味かなと。ボーカロイドで作る場合は、だいたい想定通りの音が作れたり加工ができるので、自分の中で完結することがほとんどなのですけど、ボーカリストさんの場合は、微妙なニュアンスの表現であったり、また「このパートは淡々と歌うことを想定していたければ、この感じだと逆に少し感情的に歌ったほうが映えるのでは?」などといったやりとりや提案があったりするので、その相乗効果でより深みがあるものになったのではないかと思います。

――ボーカロイドは自分の意見を言ってくれないですものね(笑)。
sasakure ボーカロイドは自分次第ですからね。でも、ボカロと生歌、どちらが良い悪いというわけではありません。

――今回はゲームが完結編であることを謳っていますが、そこで意識されたことはありますか?
sasakure これまで3作に関わってきたので、これまでの音だったりアレンジを踏襲しながら盛り上がれるような仕掛けを用意しました。具体的には、今回手掛けた4曲の中に、これまでの楽曲のフレーズであったり音色だったりを、「ここぞ!」という部分に引用しています。シリーズが終わるにあたって、前の作品も思い返してもらうようなギミックを詰め込んだということですね。

――完結編と聞いて寂しい気持ちはありましたか?
sasakure 『2020』から3作の主題歌を手掛けてきた身としては、これで大きな物語が終わってしまうのかということは、非常に胸に迫るものがあります。2011年くらいにお話をいただいてからなので、結構お付き合いも長かったですからね。

――そういう付き合いがあったからこそ見えてきた部分も?
sasakure 『セブンスドラゴン』がどういう作品で、どういう楽曲にすべきかというアプローチが、シリーズを重ねるごとに上達していった気がします。『2020』のときは一度作った主題歌をリテイクして、最初の形とはまったく違う形の楽曲が採用されたんですけど、最初のころは「この音じゃない、この音でもない」と試行錯誤する時間がすごく長かったんです。でも、一度ゲームをプレイして以降の『2020-II』『2020-III』に関しては、ものすごくスムーズにいったと思います。ゲームを実際にプレイしたことで、自然に身体とアレンジがゲームの世界観に寄っていきましたね。

――おお、カッコイイ! それは自分の中にテーマや物語を取り込んで咀嚼して形にするというsasakureさんならではなのでしょうね。ところで今回、sasakureさんが作られたボーカル曲を、ゲーム中BGMのコンポーザーである古代祐三さんがアレンジされています。そのことの感想は?

『「セブンスドラゴンIII  code:VFD」オリジナル・サウンドトラック&ソングス』 sasakure.UK氏に主題歌とテーマ曲の魅力を訊く_02
▲古代祐三氏

sasakure 僕の原曲のイメージを大事にしていただきながら、ちゃんと古代さんらしいアプローチのアレンジをされているのがうれしいです。自分の楽曲は転調が多かったり、ややこしい和音があったりと“攻めている”んですけど、ちゃんとそういう部分を大切にアレンジしてくださっているのがわかるんです。なんというか、尊重してくださったんなだというか。
 今回はテーマソングもBGMも同時並行での作業だったので古代さんと直接のやり取りはほとんどなかったんですけど、出来上がった作品を聞いてみると、古代さんのアレンジの方向性も自分が目指していたものと重なっていて、示し合わずともシンクロするんだなということが興味深かったです。古代さんとは『2020』からいろいろやり取りをさせていただいてますけど、今回の楽曲が一番自分好みのアレンジになっていましたね。

――ちなみに、古代さんが手がけたBGMでお気に入りのものはありますか?
sasakure “戦場─アトランティス”です。ドラムンベースな曲調になっていて、『2020』の都会的な要素を意識しながらも、アトランティスらしい少し変わったアプローチをしているというか。今回は浮遊感のあるコードがたくさん使われていて、そのあたりを強く意識されたのかなと感じました。現在のEDMの要素が盛り込まれていたりとか。ショップの曲“レッツワーキン!!”だと、メロディはこれまでと同じなんですけど、昔はアーバンな感じだったのが、クラブテイストの重いモノになっていて、そこの対比は意識されたのかなと思いました。新しいジャンルも柔軟に取り入れていくという、ゲームサウンドクリエイターならではの実力を見せつけられた気がします。自分が昔から聴いていただ古代さんのサウンドと、いまこうして同じ作品でごいっしょできるのはとても感慨深いです。

――サントラにはボーナス・トラック として“東京─試練は交錯する (TeddyLoid Remix) feat. Annabel”が収録されています。
sasakure 古代さんによるゲーム中の楽曲を、TeddyLoidさんがお得意のクラブトラック風にカッコよくアレンジしてくれています。僕はアレンジや作詞には関わっていないのですが、元の楽曲のメロディが歌ものっぽいのでボーカルアレンジ向きな曲だと思いますし、まるで元々クラブでかかっていた楽曲のような佇まいがありますね。

――では最後に、ゲームやサントラを手にされた方へのメッセージをお願いします。
sasakure 今回楽曲はすごく味わい深いものとなっています。ゲーム機の仕様上、すべての音を余すことなく聴いていただくことは難しいので、これを機会にサウンドトラックに手を伸ばしていただいて、深い音の鳴り、響き、細かいアレンジのこだわりを楽しんでいただけたらうれしいです。また、今回のCDでは主題歌と挿入歌のフルサイズが収録されているのですが、フルでしか聴けない美味しいパートや歌詞をそれぞれ盛り込んでいます。過去のシリーズを知ってくださる方は、より楽しめる内容になっておりますので、ゲームを気に入ってくださった皆さんにはぜひ聴いていただきたいです!

■「セブンスドラゴンIII code:VFD」オリジナル・サウンドトラック&ソングス

『「セブンスドラゴンIII  code:VFD」オリジナル・サウンドトラック&ソングス』 sasakure.UK氏に主題歌とテーマ曲の魅力を訊く_01

発売元:U/M/A/A
発売日:発売中(2015年12月23日)
品番:UMA-1075~107
仕様:CD3 枚組/ジュエルケース/スリーブケース付き仕様
定価:3333円[税抜]

DISC 1
1.人と竜の物語 (code:VFD Ver.)
2.最後の物語が、はじまる
3.東京─試練は交錯する
4.戦場─UE77
5.つむぎ、討ち果たす
6.襲撃の輪廻
7.戦場─暴威の捕食者
8.UE77 有明にて
9.つむがれていく営み
10.レッツワーキン!!
11.UE77 TOKYO
12.アトランティカ─翡翠残照
13.戦場─アトランティス
14.クラディオン─深海の灯火
15.サンクチュアリを謳って (code:VFD Ver.)
16.ベルク─終極の海洋宮
17.レデイン─聖地深沈
18.真竜─1st Encount

DISC 2
1.カザン─華に沈む、未来
2.レデイン─螺旋の遺跡
3.戦場─エデン
4.破滅への呪縛
5.帰る場所
6.プレロマ─廃滅学都
7.戦場─7の侵撃
8.終撃のイグニト (code:VFD Ver.)
9.この手が届けば
10.Re:Vanishment (code:VFD Ver.)
11.喪失─竜は問う
12.戦場─極点の捕食者
13.戦場─狩る者とは
14.最終決戦─グレイトフルセブンス
15.創造と帰滅の竜
16.VFD─Vicarius Filii Dei
17.ChRφNiClESeVeN (code:VFD Ver.)
18.僕らのミライ、君のセカイ
19.東京─試練は交錯する (TeddyLoid Remix) feat.Annabel

DISC 3
1.Re:Vanishment feat. Annabel
2.サンクチュアリを謳って feat. 分島花音
3.終撃のイグニト feat. riya(eufonius)
4.ChRφNiClESeVeN feat. Annabel
5.Re:Vanishment feat. Annabel [Instrumental]
6.サンクチュアリを謳って feat. 分島花音 [Instrumental]
7.終撃のイグニト feat. riya(eufonius) [Instrumental]
8.ChRφNiClESeVeN feat. Annabel [Instrumental]