左氏起用の決定打とは!?
2015年12月3日、2Kよりプレイステーション Vita用ソフト『シヴィライゼーション レボリューション2+』(以下、『CivR2+』)が発売された。
『シヴィライゼーション』シリーズは、ターンベースのストラテジーゲーム。好きな文明の“導き手”となり、古代から近未来まで文明を発展させ、他文明を蹴落としていちばんの文明となることが目的となる。“あの素晴らしい文明を「もう1ターン」”と銘打つだけあって、ひとたび遊び始めるとやめ時を失うほど中毒性の高いゲームシリーズとして有名だ。
PCを中心に展開されてきた同シリーズだが、2008年にルールを大幅に簡略化した家庭用版『シヴィライゼーション レボリューション』が登場。以後、本家と言えるPC版とは異なった切り口で進化を続けてきたが、その最新作となるのが本作だ。じっくりと遊び応えのあるその内容は、年末年始はもちろんのこと、長くじっくりと遊ぶにはもってこいの1本と言える。


既報の通り、本作ではイラストレーターの左(ひだり)氏を起用。日本の“導き手”となる、卑弥呼、織田信長、東郷平八郎の3名のキャラクターデザインを手掛けたほか、パッケージイラストも担当されたそうだ。
今回、本作の発売を記念し、左氏と2Kのローカライズマネージャーである、テイクツー・インタラクティブ・ジャパンの矢野要介氏に対談を行っていただいた。

左氏のイラストに心惹かれて……
――早速ですが、左さんにイラストをお願いした経緯を教えてください。

矢野 以前、個人的にイケてるイラストレーターさんの情報を収集していたとき、左さんにたどり着いたのがきっかけです。左さんがキャラクター原案を担当されたTVアニメ『フラクタル』(2011年、フジテレビ・ノイタミナ枠で放送)のキービジュアルが、とても印象に残ったんですよ。
そして『CivR2+』の企画が動き出したとき、日本人のユーザーさんにもっとゲームを遊んでもらいたく、そして日本という文明の指導者に愛着を持ってもらいたいと考えました。シリーズの過去作には、日本の指導者として徳川家康が登場していたのですが、あまり家康っぽいデザインではなく……。
なので、「これは左さんにお願いするしかない!」と思い、依頼したという経緯です。ちなみに、日本人の人気イラストレーターが弊社作品の開発に参加するのは、非常に稀なケースなんです。
左 お話が来たときは驚きましたね。ゲームや2K Games、ロックスター・ゲームスというブランド名は知っていましたが、海外のゲーム会社なので、自分との接点が想像できなくて。でも興味がある仕事でしたし、嬉しかったですよ。
矢野 弊社はいわゆる洋ゲー色の強いタイトルが多いので、左さんが接点を想像できない、というのはごもっともな話です。ただ私的には、『シヴィライゼーション レボリューション』シリーズは、左さんのデザイン画とマッチするのでは、という直感がありました。
――マッチするのは、どういうところでしょうか?
矢野 左さんの作品は、まず人物が魅力的。同時に、アイテムや小道具、背景の書き込みも、繊細ですばらしいんです。人物と小道具、両方を魅力的に描ける方って、なかなか希有なんですよ。
左さんならば、指導者を魅力的なキャラクターで表現でき、かつ『シヴィライゼーション』という歴史を題材としたゲームの世界観にマッチするのでは、という狙いがありました。
リンカーンは“イボ”が重要だった!
――では、そんな魅力的なイラストの具体的なお話について伺っていきましょうか。まずパッケージイラストですが、デザインするうえで苦労はありました?
左 私がデザインした3名を登場させるのではなく、さまざまな文明からキャラクターを選んでいく、というオーダーがありましたので、まず誰にするかという問題がありました。卑弥呼はマストで、個人的に描きたかったクレオパトラも決まったんですが、あとはどうしようかと。老若男女まんべんなく、文明もアジアや欧米に偏りすぎず、軍人だけにもならないように、さらに個人的な描きやすさであったり……。こういったさまざまなことを統合し、トータルバランスを考え、パッケージイラストとして魅力的になるよう、相談しながら調整していきました。
矢野 左さんには、とても頭を使っていただきまして……。

左 中央を誰にするかでも、いろいろありましたよね。さすがに卑弥呼というわけにはいかないので、ナポレオンかな、リンカーンがいいかな、とか指導者の一覧表を見ながら考えて。
けっきょく、過去作のパッケージでナポレオンが中央のものがあったため、かぶらないようにリンカーンにしたんです。そのパッケージではキャラクターが後方にあったので、似てしまわないように今回はキャラクターを手前側に配置したり。
中央がリンカーンに決まったので、あとはバランスを考えながら、少しずつ決めていきました。
矢野 ラフの段階でかなり試行錯誤して、左さんにとても苦労をかけてしまいました。本当にありがとうございました!
――そんなパッケージの“顔”とも言えるリンカーンですが、印象的に仕上がっていますよね。帽子を出すポーズとか、迫力があります。
矢野 ああ、これも帽子にするかどうかで、一悶着ありましたね。
左 ありましたね! 中央にいるキャラクターなので、何かしらのポーズを取らせたかったんですよ。そこで、人差し指を上げたナンバーワンのポーズにしようかとか、自由の女神をコマとして扱っているようにしようとか。
矢野 自由の女神を持っているデザインはすごく格好よくて、個人的にはオーケーだったんです。ただ、海外の担当者がチェックする段階で、ユーザーの方にミスリードするようなデザインでは困るとリテイクが来まして。リンカーンが自由の女神を自由に扱える、なんて誤解をユーザーの方に与えたくない、というわけです。ただ、代案が私の頭から出てこなかったので、左さんにちょっと泣きついて(笑)
左 手に持たせるものにゲーム的な制約が出てしまったので、じゃあゲームと関係ないもの、シルクハットにしましょうか、という感じで決まったんです。
――本当に格好よくキマってます。こういった“おじさん”キャラクターを魅力的に描けることも、左さんの才能のひとつだと思いますが、おじさんを描くのはけっこう好きだったり?
左 好きなもののひとつ、ですね。欲張ってなんでも描きたいタイプなので、おじさんも上手く描きたいと思っていますし。
矢野 おじさんを格好よく描けることも、左さんを起用した要因のひとつなんです。最初に見た『フラクタル』のイラストでは可愛い女の子がメインだったので、「女の子を可愛く描ける人は多いし、うちのゲームはおじさん抜きには語れないしなあ。おじさんはちゃんと描けるのかな?」なんて思ったんです。で、左さんのほかのイラストを見ていたら、おじさんがすげぇ格好よく描かれていて!
左 個人的には、若者向けの、美男美女のイラストを依頼されることが多いんですよね。おじさんを描くにしても、作品のテイストと合わせるため、ある程度記号的なおじさんだったり。
私自身は何でも描けますし、そのことをもっと見てほしい、という欲求がありました。なので、今回の依頼は本当に嬉しかったんですよ! その期待に応えたい、という気持ちで、かなりがんばりました。

――おじさんを格好よく描くコツ、なんてあるんでしょうか?
左 うーん、結果的にではあるんですけれど、女の子にはない顔のしわとか凹凸を、遠慮なく描けることでしょうか。
じつは最初にリンカーンをデザインしたとき、特徴のどこまでが大事かという線引きが、ちょっとあやふやだったんですよね。私に依頼されたということもあって、日本人が持つリンカーン像をイメージし、ある程度キャラクターに落とし込んで、チェックしてもらったんです。そうしたら、おそらく本国からいろいろなリテイクが来て。
矢野 今回、いちばんNG出しが多かったのが、リンカーンなんですよ。『シヴィライゼーション』シリーズのブランドマネジメント担当者が最終チェックを行っていたんですが、リンカーンには並々ならぬこだわりがあったようでして。「口元のイボがない!」とか、「ここの皮膚はもっと汚い」、「毛はもっと縮れている」なんてリテイクが来ました。
左 そう言われてリンカーンの写真を確認してみたら、確かに口元にイボがある。イボとかほくろは、強調しすぎると悪意があるように思われることもあるため、省くこともあるんです。なので、「このイボが重要なんです」と伝えられたときは、いままでになかった衝撃を受けました。
でも、指摘されたように手を入れていくと、どんどんリンカーンらしくなっていったんです。このように少しずつの積み重ねで、おじさんとしての魅力が出たのではないでしょうか。
――では、ほかの指導者についても。左さんがクレオパトラを描きたかった理由を教えていただけますか?
左 まず描いたことがなかったから、ですね。あとは、エジプトをテーマに描くことって少ないんです。たとえばファンタジーゲームですと、中世ヨーロッパとか、現代日本が多いですし。
それに、クレオパトラってキャラクターが濃いイメージがあるんですよ。アイシャドウがバッチリ入っていて、アクセサリーをジャラジャラと身につけて。絵心がない方でも、こういった記号を書けば、すぐクレオパトラだってわかる絵が描けると思います。

矢野 クレオパトラがパッケージにあると、すぐに歴史系や文明系のゲームなんだな、ってわかるじゃないですか。史実でもローマ皇帝と交流があって、古代史における文明交流の象徴とも言える人物なんです。なので、左さんからクレオパトラがいい、とオーダーされたとき、即決しました。左さんの絵柄にもマッチしていると思いましたしね。
――なるほど、小道具というかアクセサリーが多いですからね。
矢野 ええ。本作におけるクレオパトラのデザインは、すでにゲーム中に存在していたのですが、左さんはうまくアレンジしてくれて、パッケージデザインとして溶け込むように描いてくれました。個人的には金属の表現が大好きなので、この小道具のディティールには、本当に惚れ惚れしてしまいますよ。
――左さんがとくに注目してほしい小道具のデザインは?
左 注目してほしい、というよりは感想になってしまうのですが、後ろの建物ですね。姫路城やパルテノン神殿、ピラミッドなど、有名な建築物を描いたのですが、これらを描くのは初めてで、しかもこんなせまいスペースにいろいろと描くなんて(笑)。個人的に楽しかったポイントです。

矢野 非常に濃いお仕事をやっていただきましたよね。人物も背景も、これでもか!ってくらい描き込んである。
左 小物も背景も人物も、全部を必要とされたお仕事でしたので、とてもイラストレーターっぽい仕事でした。自分的にも満足というか、やりがいがありましたね。
日本の“導き手”となる3名のキャラクター
――では、左さんがデザインされた日本の指導者3名についてお話を伺いたいと思います。まずは、卑弥呼について教えていただけますか。


矢野 はい。キャラクターデザインというか、正確にはキャラクターコンセプトデザインから取りかかっていただきました。卑弥呼って、実際にどんな姿だったのか資料がとくに残ってないんですよ。なので、これまで多くの方が描かれてきた卑弥呼を参考にしつつ、左さんにオリジナルのデザインで描いていただきました。3人のなかでは、いちばんクリエイティブなキャラクターでしたね。
左 先人たちの卑弥呼を参考にしながら、着ているものは想像と既存のものを組み合わせてデザインしました。色ですとか、このあたりを抑えれば、みんなが納得できる卑弥呼らしいデザインになるだろう、と。
矢野 実際は3パターンぐらい作っていただきましたよね。
左 ちょっと子どもっぽいアニメ寄りの卑弥呼とか、大人っぽく妖艶でグラマラスな、怪しいお姉さんタイプとかですね。最終的に、子どもタイプでちょっとリアル寄り、という形になりました。
矢野 クレオパトラとの対比もありますね。ふたりとも妖艶だと、かぶってしまうとか。そういう話をした記憶があります。あとは、海外も関わる作品なので、チャイルドポルノと誤解されないよう、水着のような衣装や、幼すぎるデザインにはならないように、というお願いはしました。この問題に敏感な国も多いので。
でも基本的には、左さんのテイストが損なわれてしまうともったいないため、型にはめるような指示は極力出さないようにしたんですよ。この手法だと上手くいかない場合もあるんですけれど、今回はバッチリでしたよね!
――では、織田信長はどうでした? 卑弥呼とは違って、これまで多くの織田信長がデザインされてきたと思うのですが。


左 ええ、デフォルメからリアルタッチまで、さまざまな織田信長が描かれてきましたよね。しかも、資料として残っているものは、教科書に載っているあの絵という。そのままにするわけにもいかず、かといってアレンジを外しすぎて信長らしさがなくなってもいけないので、難しかったです。
ただ、私はこれまでのお仕事で信長を描いたことがなかったのは、利点でした。もし描いていたら、その信長のデザインも避けつつ……ということになるため、急に難しくなるんですよ。
矢野 信長のデザインでいえば、私からはちょっと西洋風のテイストを装いに入れてほしいとお願いしたんです。織田信長は戦国武将の中でも、抜きんでて他国と交流していた人物なんですよ。ワインを飲んだり、西洋の帽子を身につけて外出した記録が残っていたりします。
加えて、『シヴィライゼーション』は他文明との交流がとても活発なゲームです。なので、地球規模で他文明と交流している織田信長を、ぜひとも描いていただきたかった。
左 ですので、マゲやちょびひげ、少し切れ長の目など、基本的な特徴は踏襲しつつ、和風っぽいけど純和風ではない甲冑を着せたデザインにしました。史実を忠実に描くよりは、オリジナリティを出しやすかったと思います。
――では、東郷平八郎はいかがでしょう。


左 東郷は3名のなかで、もっとも資料を忠実に再現したデザインです。じつは私、軍服はどこまでが大事なのか、という知識がなくて。階級章や勲章の形をアレンジしてしまうと、階級の意味がなくなってしまい、旧日本軍でもなくなってしまう。決めごとでガチガチにできあがっているビジュアルなんですよ。なので、軍服に関しては、多少デフォルメした程度ですね。
ではどこでキャラクターに落とし込むか、ということになって、頭部を大きく、四角くデフォルメしていきました。あとは上半身が大きく、ドーンと構えるようなシルエットですね。
矢野 じつは、東郷平八郎は急遽登場が決まったキャラクターなんです。いちばん最初は、じつは山本五十六を候補として進めていたんですよ。でも第二次世界大戦に関わった人物ということで、多国籍のチームだと、どうしてもまだ生々しさを感じてしまう、という意見が出まして。そこで各国の担当者と電話会議を行い、代わりは誰がいいかというミーティングをおこなったところ、第一次世界大戦前の人物なら生々しさが薄れるので、東郷平八郎ならばいいのでは、という流れになって。左さんにお声がけをしたあとで、急遽変更になった部分ですね。
左 リンカーンのイボもそうですが、これまでは必要なかった配慮を考えなくてはならない仕事でした。ただ、このことで“歴史物を書かせて頂いている”実感が強くなりましたし、トラブルではあったのですが、貴重な体験をさせていただけたと思っています。
――では、最後にユーザーへメッセージをお願いします。
左 パッケージのイラストも含め、いままでの作風とはイメージが変わったと思います。オリジナルキャラクターをデザインさせていただいたので、ぜひ新しいキャラクターを使って、楽しんでみてください!

矢野 『シヴィライゼーション』というシリーズは、海外では非常にメジャーですが、日本、とくにコンシューマーのユーザーさんには、もっと知っていただきたい、遊んでいただきたいフランチャイズです。「こういう世界観のゲームですよ」ということを伝えていかねばならない状況のなか、左さんに助けていただいて、本当にありがたいです。
左さんと初めてお目にかかったとき、歴史の話を振っても左さんなりの考えがすぐにポンと返ってきて、世界観を持っているクリエイターさんだと実感しました。ですので、本作のパッケージイラストは、私がこう描いてもらったというよりは、これまでの『シヴィライゼーション』シリーズと、左さんが持つ世界観のコラボレーション、共演だと思っています。
左さんは大変だったと思いますが、そのような形で完成した作品が、ついに12月3日、世に出ることになりました。私自身、とても嬉しく思います!
――ありがとうございました!


