実写動画コンテを制作し、演技・表現をより豊かに
2015年10月17日、福岡・九州大学大橋キャンパス内にて、KYUSHU CEDEC 2015が開催。“DARK SOULS III CGムービーメイキング 「予兆を表現する」”と題したセッションが行われた。
コンシューマーゲーム機の表現力が上がった現在、フロム・ソフトウェアではどのようにゲーム映像を作成しているのか。今回のセッションでは、2015年のE3で発表した『DARK SOULS III』(ダークソウル III)のティザー映像(デビュートレーラー)のメイキングを制作フローを軸に紹介された。その模様をリポートする。
DARK SOULS Ⅲ デビュートレーラー 【E3 2015】
CGセクション リーダー 室隆之氏
CG映像制作会社を経て、2002年に株式会社フロム・ソフトウェア入社。入社後はプリレンダリング映像制作に従事。近年では表現力の上がったリアルタイムカットシーンの制作も行うなどゲームの魅力や世界観を伝える映像を制作している。
まず初めに打ち合わせを行い、ムービー制作の目的、予算、締め切り、そして発表媒体をすり合わせていく。 この発表媒体とは、表示される色味が媒体によって微妙に違うので、あらかじめ確認しておくべきだという。たとえば、プレイステーション4とXbox Oneで同じデータを流しても、実際に表示してみると若干色の差異が生まれるとのこと。そのため、色を最終段階で調整して納品することもあったとのことだ。さらに、プロット、あらすじ、登場キャラクターや背景を決める。とくにこの背景は、デビュートレーラーにおいて世界観を伝えるために重要な要素となっていたそうだ。
これらの情報を検討し、ラフ構成案を作成する。このラフ構成案である程度決めたシーンの順序は、からなずしも順番通りに進むわけではなく、絵コンテ、ビデオコンテの段階で入れ替えなどもしばしばあるとのことだ。
続いて絵コンテの役割について、打ち合わせをした内容をもとにスタッフ、クライアント、プロデューサー、ディレクター間で制作物に対する共通認識を持たせるためだと室氏は語る。そして主題をユーザーに正しく伝えることができるのか、演出技法含め検討する。また、映像のイメージが構成要素を把握し、予算内で制作可能なのか、こちらも表現技法含め検討されるとのこと。演技方法などは絵コンテを通して可視化することができるのそうだ。そうして制作された絵コンテを、ディレクターに承認してもらい、つぎのステップへ進んでいく。
絵コンテで説明しきれない内容については、つぎの実写動画コンテでより詳細な共通認識も持たせていく。
実写動画コンテとは、絵コンテの内容を実際に撮影して、簡易的に映像化すること。人間が演技を行い、演出の雰囲気を掴むために制作する。ではなぜこの工程を挟むことになったのかというと、「絵コンテを正しく理解するためには、書き手側ではなく読み手側にも技術が必要である。実際によくある話として、クライアントが絵コンテを見て承認し、作業を進めていっても、レンダリングした動画を見てもらうと、イメージと違う」(室氏)と意見されることがあるという。原因は絵コンテの出来、CG制作側の腕の良し悪しなどが挙げられるが、絵コンテを読み手が上手に認識することができなかった、脳内で絵コンテをうまく映像化することができなかったために認識のズレが生じてしまうことも。もちろんそういったイメージのずれを極力なくする為に、絵コンテには詳細な説明を書くが、それでもキチンと情報を処理して認識してもらうことは難しいのではないかと室氏は考えているとのことだ。このようなイメージのズレによって、映像制作工程終了間近に、承認者のイメージにそぐわないがゆえに作り直しになってしまうことを防ぐためにも、この工程を挟んでいると強く主張した。
とは言え、この実写動画コンテを制作したのは、デビュートレーラーが初めてだったとのこと。ではなぜ今回から工程を踏んだのかというと、登場するキャラクターの演技のニュアンスがとても重要だったからだそうだ。
また、制作した実写動画は、モーションキャプチャーを撮る際にアクターの参考動画として使える。たとえ参考動画がプロの演技ではなくても、尺間とニュアンスを言葉で伝えるより映像を見て説明したほうが分かりやすく、よりイメージに近い内容の演技をしてもらえるのだ。
モーションキャプチャーを撮影、ビデオコンテへと説明は続く。ビデオコンテ製作では随時最新データの差し替えを行っており、モーションキャプチャーのデータも反映して、より最終系に近いものにしているとのこと。また尺の長さや場面の切り替えもここで確認する。絵コンテでは良く見えても、1本の映像にすると、バストアップの連続でせせこましい映像になど、イメージと違う映像になっていた場合この段階で気づいて対処できるそうだ。
しかしながら、トライ&エラーをくり返すことで時間がかかり、本番データ制作の期間を圧迫してしまうこともある。今後は試行錯誤しつつ、実写コンテなどの行程を踏まえて、制作作業のロスを減らしていきたいと述べた。
ビデオコンテを製作後は、ゲームモデルのテクスチャを調整したり、鎧の素材の特性を表せるようにマテリアル調整をしたり、ディティールアップを施す作業を行う。この工程を踏まえてフォトリアルな映像へ仕上げられているのだ。
続いて、まとめとしてデビュートレーラー制作で行った実例が説明された。『DARK SOULS III(ダークソウル III)』はいままでのシリーズで培った世界のスケール感、世界の終末感、英雄譚という3点を映像で伝えられるよう、注力したという。『DARK SOULS III(ダークソウル III)』が持つ独特な世界観を表現し、説明しすぎないことで期待感を煽るようにしたのとのことだ。シリーズ中の重要キャラクターだった“薪の王”、“巨人”が短い尺であるが登場したのはそんな理由からでもあるという。しかし初めて『DARK SOULS』シリーズに触れる人に、前シリーズキャラクターの登場を匂わせても意味がない。その場合は、世界観の美しさで興味を持ってもらえるように、色あせた太陽、枯れた美しさを表す絵作りを目指したと語った。
なお、フロム・ソフトウェアは、新たな開発拠点として、“フロム・ソフトウェア 福岡スタジオ”を開設。福岡スタジオは2015年10月の開設が予定されており、2016年1月より業務開始予定だ。現在、福岡スタジオの人材を募集中しているので、興味のある方はぜひチェクしてほしい。