『FFXIV』祖堅正慶氏インタビュー/サントラ『Before the Fall』発売記念 もうひとつのライナーノーツ

2015年8月26日、スクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジーXIV』のパッチ2.2から2.5までの曲を集めたオリジナル・サウンドトラックが発売されている。このサントラの発売当日、サウンドディレクターの祖堅正慶氏に、サントラの内容について、パッチ3.0の曲について、そして曲発想の秘密を含む仕事論などを尋ねた。

●Blu-rayながら1位は歴史的

 2015年8月26日に、スクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)のパッチ2.2から2.5までの曲を集めたオリジナル・サウンドトラック、『Before the Fall: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』(以下、『Before the Fall』)が発売された。このサントラの発売当日、サウンドディレクターの祖堅正慶氏に、サントラの内容について、パッチ3.0の曲について、そして曲発想の秘密を含む仕事論などを尋ねた。

 同日は、東京・タワーレコード新宿店にて生演奏を披露するインストアイベントも開催。その直前に話を伺ったのだ。

──14時間生放送、お疲れさまでした! サントラもすごい売れ行きで。

祖堅正慶氏(以下、祖堅) ホント、よかったスね。……(ため息)。

──え。ご本人はそんな程度の感慨なんですか!?

祖堅 売れようが売れまいが、僕の給料は変わらないので…(笑)って。いや、うれしいんですけどね! いまは品切れしているのが本当に申し訳なくて。売れた売れないではなくて、買いたいという方が買えないのはダメでしょって。たくさんの人に聴いてもらえることがうれしいですよね。だからもう売り上げはどうでもいいやって、そういうこと言っちゃダメだね?

スタッフ いいや。もう、本当に品切れはすいません。……ですが売り上げも大事ですよ。

──嵐や福山雅治を抑えてAmazonで1位ですよ。
(※のちにオリコンデイリーでも初登場1位を獲得と判明する。<<こちらの記事参照>>)

祖堅 何が起きたんだろうね? 100位以内が『Before the Fall』を除いて全部CDだったんですよ。その中でもBlu-rayミュージックが1位を獲るというのは、ちょっと大げさだけど歴史的なことだなと思います。ついにCDがつぎのものに打って変わる時代になったんだなと。

──それこそ、80年代後半からはCDが君臨していましたからね。

祖堅 ゲームをプレイする皆さんはハードウェアやメディアに詳しい方が多いじゃないですか。Blu-rayミュージックが出たときにも、一般の音楽のリスナーさんとなると少し腰が引けるところがあるのかもしれませんが、ゲームのプレイヤーの皆さんはそういう部分の適応力が高いうえに、『FFXIV』で言えばサントラも4作目ということもあって、CD以上の価値というものをご理解いただいているんだと思います。

──CD以上の価値とは?

祖堅 たとえば、CDより高音質の音、昨今話題のハイレゾ音源で楽しめるとか、コメントが入っていたりだとか、ライブ映像が入っていたりとか、高品質のMP3データが入っていたりとかですね。僕らがワーワーと言わなくても、皆さんはわかってくださっていて、ダウンロードなどもスムーズにされているようなので。本当にプレイヤーの皆さんは適応力が高いなと。だから今後は皆さんに世界の音楽リスナーの先陣を切っていただきたいなと(笑)。

──(笑)。『蒼天のイシュガルド』の曲を、物理メディアでなく、配信で先行することなども、その点を見込んでの施策ですか?

祖堅 いやいや、このBlu-rayというメディアは付加価値がけっこう高いのですが、それだけ作るのには時間がかかるんです。ゲームのバージョンアップのタイミングと同時に出せるのがいちばんいいんですけど……。まあ、ああいう開発チームなので、そもそもゲームデータを作る量が本当に膨大になるんですね。

──わかります(笑)。

祖堅 通常のパッケージゲームを作っているようなコスト感だと、もう、本当に無理なんですよ。そのくらいぎゅうぎゅうに詰め込んで、馬車馬のように働いても間に合わないようなコンテンツ量なので。それを考えると、サントラ作業に手を回している時間が本当にあまり取れないんです。

──これまではどんなタイミングでサントラを作られていたのでしょう?

祖堅 だいたいいつもは、パッチの作業がある程度落ち着いて、つぎのパッチの山場が来る前の谷間でサントラの作業をしているんですね。ですが作業が積み重なるほどリリースのタイミングが遅れ、皆さんの“早く聴きたい”というご要望にどうしても応えられない現状が出てきたんです。今回の『Before the Fall』も派手に遅くなってしまったので、巻き返すのがかなり難しいんですよね。だからせめて、『蒼天のイシュガルド』は音源だけでも先にということで配信を決めました。

──なるほど。配信されるファイルの形式は?

祖堅 いまのところAACの予定です。

──そのままiTunesなどに取り込める形式ということですね。

祖堅 そうです。一般的なフォーマットです。

●机に齧り付いてもあまりいい結果は出ない

──パッチ2.2から2.5まで、それぞれの印象的だったお話を聞かせていただけますか?

祖堅 そうですね……リヴァイアサンのときは、公開前に1週間だけ休めたんですよ。でも、公開されたタイミングくらいから休みがねえなと。それがパッチ2.2の思い出かな。ハハハハハハ。

──(笑)。休みは何をされているんですか? 仕事は遮断するほう?

祖堅 グダグダしていますね。仕事はどうしても気になりますが、キリがないので遮断しています。制作業務とは別にサウンドチームの運営業務もあるんですが、それは職場にいないとできないし。作曲もずっと没頭してやっていると、曲の善し悪しの判断ができなくなっちゃうんですよね。ゲームに合っているのか、クオリティは大丈夫なのかなど、のめり込むと案外正常な判断がつかなくなるんです。そこは一歩下がって見ないといけない。やっぱり休まないと客観的に判断ができません。ですので休みがあった場合は、ずっと続けてきた作業のキャッシュをリセットするようにしていますね。

──コンポーザーとしての部分と、プロデューサー的な部分と、チームマネージャーの部分と、その過密スケジュールの中でいつもどうやって切り分けてお仕事をしているんですか?

祖堅 ごちゃごちゃっスよ、ハッハッハ。曲を作ってるあいだにスタッフの面談に行ったり、評価をしてたりね。

──モノ作りに影響は出ないですかね?

祖堅 出てると思いますけどねー。でももう、そんなこと言ってる場合じゃないんで(笑) 。

──(笑)。話をパッチ2.2に戻します。リヴァイアサンの曲は、宣伝チームの白杉(浩嗣)さんに肩を叩かれた瞬間に思いついたそうですが。

祖堅 その瞬間、イントロの部分の楽器が全部頭の中で鳴ったんです。ギターもリズムトラックもベースも全部。

──叩かれた瞬間に?

祖堅 バーンと頭の中に出てきて。

──それは祖堅さんの曲作りにおいてよくあることなんですか?

祖堅 そこまでのものは稀かもしれないですね。でもざっくり言うと、こねくり回すよりは、フレーズがバッと降りてきたものが多いですかね。

──吉田(直樹プロデューサー兼ディレクター)さんなり、前廣(和豊メインシナリオライター)さんなりから発注されたものを踏まえているとは思いますが、スタッフの評価シートをチェックしているときに曲が降りてきたりする?

祖堅 (笑)。あまり事務仕事のときはないですよね。そっちの脳を使ってないのかな。どうでもいいときにポコっと出てくる感じですかね。タバコを吸っているときに鼻歌を歌ってたら出てきて、慌ててスマホに録音するとかがけっこう多いですね。あとは歯磨きしてるときとか、トイレに入っているときとか。歩いているときとかもかな。

──それは、やっぱりそれまでの音楽人生の蓄積で出てくるものなのでしょうか?

祖堅 あ、なんかそんな気がします。机に齧りついて唸っているときもありますけど、そういうときはあまりいい結果は出てきません。蛮神戦などはコネコネしても、だいたいダメ。これは違うなとなる。ワンコーラスやワンオール作ってポイと捨てて、つぎを作るかとなる。机に向かってああでもない、こうでもないと試したものって、ゲームにそんなに実装されていないかもしれないですね。

──コネて実装された曲って具体的に名前は挙がりますか?

祖堅 新生のときはコネコネした曲ってけっこう多かったんですけど、『Before the Fall』でありますかと聞かれると、ほとんどないかも。このアルバムに入っている曲くらいから、ポコッと浮かんだものを全部完成形にしているかな。

──浮かぶ幅が広いですよね。祖堅さんの特徴は、作る曲の幅広さだと思っています。

祖堅 誤解されがちですけど、ゲームサウンドのクリエイターたちは、得意なジャンルはあってもいいけど、すべてのジャンルを作れないとダメっスよ。仕事ですから。

──比較すると双方に失礼になるかもしれませんが、たとえば植松(伸夫)さんは、幅広い曲の中にも植松節みたいなものを感じます。祖堅さんの場合は、『Pa-Paya』を最初に聞いたときの衝撃たるや(笑)。

祖堅 ハハハ。

──それを『FF』に使うということも衝撃だったんですが、それまで祖堅さんの作る曲ってこんな感じだよね、と思っていたラインとはまったく違った。これは同一人物から出てきたものなかと。

祖堅 そうスね。『FFXIV』はオケもの(オーケストラもの)が多いから、僕に「劇伴系の曲が得意なんじゃなかろうか」というイメージを持っているかもしれませんが、そんなことはないです。もっとギターでドカーッとしたロックだとか、めちゃめちゃポップなものだとか、ジャズとか、そっちのほうが作るのは好きですよ。そのほうがサッとできますね。オケものとかはやっぱり、「ぐぬぬ」となりますよね。

──構成まで考えなくてはいけないと。

祖堅 そうそう。パッチ2.2は『Pa-Paya』がいろいろ言われますが、古アムダプール市街の曲が作ってよかったなって感じです。ファンフェスでも演奏できましたし。ダンジョンはイケイケゴーゴーみたいな曲が多かったんですけど、ここでやっとしっとりとした曲が作れたので。

(※このインタビュー直後のインストアライブにて、この古アムダの曲を祖堅氏は演奏している。<<こちらの記事参照>>)

●死兆星を見る

祖堅 パッチ2.3は『血で血を洗って』って曲に注目ですね。これは好きな曲調なんですが、PvPをされない方はまったく聴けない曲なんですよ。PvPは3曲あって、この曲は戦っている最中にしか流れない。相手と出会っていないときには『総員抜剣!』が流れるんです。で、「敵がいたーーーっ!!」てなると、これになる。

──どういう処理をしているんですか?

祖堅 クリスタルタワーと似た処理です。戦闘と非戦闘で切り替わる。

──それは個人単位なんですか?

祖堅 パーティ単位です。だから、誰かが臨戦態勢になると仲間に伝わるんですね。

──なるほど。ロック然とした曲ですね。祖堅さんは鍵盤をよく弾かれますが、好みはギターなんですか?

祖堅 聴く曲はギターが多いですね(笑)。ロックばっかり。でも作曲するときは鍵盤ですね。

──ほかに2.3でエビソードなどがあればぜひ。

祖堅 2.3は、ラムウのときですよね? あまり憶えてないですよね(笑)。確かこのころからアレンジアルバムの『From Astral to Umbral』のあれこれが始まり、たいへんだったなあ、というイメージですかね。ゲーム以外での仕事がたいへんで。

──ファンフェスティバルと重なるころですか?

▲都内のシークレットライブで演奏中。

祖堅 ファンフェスはもうちょっと先なんですよ。で、パッチ2.4はシヴァですよね。あのときに都内のライブハウスでシークレットライブをやりましたが<<こちらの記事参照>>、あれが2.4の締切の1週間くらい前だったんですね。そこでファンフェスの準備も並行していたので、やることの量がだんだん膨らんでいって、作業期間がだんだんヤバくなってきてるんですよ(笑)。2.4くらいで「これはもうちょっとヤバイぞ」と。「なんでこんなに寝る時間ねーんだ」って。おかしいなって頭をひねっているくらいの時期が2.4です。

──(笑)。パッチ2.4で言及するならどの曲でしょう?

祖堅 2.4は難しいですよー。でも1曲に絞り切れないなあ。クリスタルタワーがあるけど、本格的にクリタワの曲をアレンジするのはこれが初めてだったかな? うーん、でも1曲ならシヴァ戦の曲になるのかな。それを言うならパッチ2.3ではラムウを挙げたいですしね。

──蛮神の曲は思い出深いんですね。

祖堅 インスタンスダンジョンだとループ曲になるので背景はきっちり合わせますが、ゲームの進行に合わせての曲作り、ということを考えなくてもいいんです。好きなように来た道を戻ったりもするわけで。だけど蛮神戦はフェーズが決まっているので、どこでフェーズが変わるかを曲で演出しないといけない部分がたくさんあったりして、やっぱり試行錯誤する時間がいちばん長いんです。技術的には陰でいろいろなことをしていますが、劇的に変わる部分以外、プレイヤーの皆さんには切り替わりがあまりわからないように努めてますね。自然に聴けるようにするのがゲームサウンドでいちばん難しいんですけど(笑)。うーん、やっぱりシヴァかな(笑)。

──(笑)。そしてパッチ2.5では。

祖堅 2.5は……なんだろうなあ。闇の世界かなあ。パッチ2.5だけ蛮神がいないんですよ。決まらないのは、単純に俺が『FFIXV』プレイヤーだからかも?(笑)。

──ご自身が作曲したものがプレイしているときに聞こえてくるのって、どんな感覚なんでしょう。

祖堅 作っているときから何百何千回と聴くので、まず誰よりも知ってますよね。そのいつも聴いているものがそのまま流れてくるだけなので、「自分の曲だ」など気にしたことがないですね。

──趣味で遊ばれているほかのゲームの曲は意識したりしますか?

祖堅 何かしらのスイッチが入るとそうですね。でも、曲よりは効果音が気になることが多いです。「これはどうやって鳴らしているのかな?」とか。仕組みやロジックを紐解いていくのは好きなので。

──聴いて紐解けるものなんですか。

祖堅 技術的にできることやできないことはある程度わかっていますので、「ああ、よくこんなことをやったなー」と感心することはあります。たまに手段がわからないこともあるので、気になった音が鳴るシチュエーションを何度も試したりしますね。うちのサウンドチームもゲーマーが多いんですけど、みんなそんな感じの、いやらしい遊びかたをしていますよ(笑)。

──まあ、皆さんご職業ですからね(笑)。このパッチ2.5の時期は、いよいよヤバかったのでは?

祖堅 ファンフェスはあるわ、2.5はそもそも結構な物量があるわ、ボイス収録はあるわ、新曲も多いわで。それまでヤバイんじゃないかって頭をひねっていたのが、完全に「ポカ~ン」といってしまった感じですね(笑)。

──2.5を作っているということは、2014年の秋から年末にかけてのお話ですね?

祖堅 そうです。だって東京のファンフェスでライブをしたじゃないですか。あの翌日が締め切りですからね?

──打ち上げとか行ってる場合じゃないじゃないですか。

祖堅 あの開発チームは、おかしいんですよ(笑)。なんでそこに締切を設定するのかなと。

──でもその締切は守ってデータを収めているわけですよね?

祖堅 はい。ヒドい話ですよ(笑)。ファンフェス+パッチ2.5で死にそうだったのが印象的でした。そのまま年末を迎えて2015年になるんですけど、ちょうど『From Astral to Umbral』も発売され、落ち着いたかと思いきや、『Before the Fall』を作らなきゃいけない時期になったわけですね。『蒼天のイシュガルド』の前に発売しなきゃと焦っていたんですよ。5月ごろに出したかったんですけど、でもそのためには年始にはプロット版できあがっている必要があった。ファンフェスが終わって2.5のデータも出した翌日くらいからこの作業をやってですね……。

──……。

祖堅 正月三が日からマスタリングをスタートして、そうしているうちにパッチ2.55のゴールドソーサーの締切日がやってきて、追加された新曲をまたマスタリングしたりして、そのまま雪崩式にパッチ2.57の作業をするわけですが、その裏で『蒼天のイシュガルド』が本格的になってきてるんですよ。で、現在に至ると。

(周囲のスタッフ含め、一同爆笑)

祖堅 おっかしいんですよ、ホント!

▲お台場メディアージュでの演奏前。

──お台場でお話を聞いたときに<<こちらの記事参照>>、残りの日数と曲の数で割り算するとおかしなことになっている話をうかがいましたね。

祖堅 1日1.5曲くらい作らないと間に合わない。もう笑い話なんですけど。

──でもその『蒼天のイシュガルド』の曲は大好評で、取材者として、プレイヤーとして聴かせていただくと、「人は1日1.5曲でこんなに名曲が作れるんだな」と思っちゃうわけです。

祖堅 (爆笑)。まあその、アレじゃないですか? 死兆星が見えているときにですね……。

──祖堅さんの希望の灯火が消えちゃうんですか? 年内に(笑)。

祖堅 死兆星が見えてケツに火がついたというか(笑)。