市場だけでなくクリエイターの質の高さも魅力的

 巨大なゲーム市場である中国に対して、積極的に展開しようと考えている日本のゲームメーカーは数多い。バンダイナムコエンターテインメントもその1社。今年に入って現地法人のバンダイナムコ上海を設立。中国市場に本格展開しようとしている。ここでは、2015年7月30日(木)~8月2日(日)に中国・上海で行われたChinaJoy 2015の会期にあわせて行われた、バンダイナムコ上海 総経理 兼 董事(COO)の山田大輔氏へのインタビューをお届けする。山田氏が見据える、中国市場における戦略とは?

バンダイナムコ上海 COO山田大輔氏に聞く 設立から4ヵ月、中国市場での手応えは?【ChinaJoy 2015】_01

――近年、バンダイナムコグループが中国市場に力をいれていらっしゃるそうですね。
山田 はい。今年の1月に上海に現地法人を設立しまして、4月から実際にオフィスを設立しました。活動を開始してから4ヵ月になりますね。

――上海に現地法人を設立した意図としては、やはり中国への本格展開を念頭に入れて?
山田 そうですね。もちろん、版元様のご協力があってのことなのですが、テンセントさんと組んでの『NARUTO-ナルト-』の『火影忍者ONLINE』や、DeNAさんといっしょに展開させていただいている『ONE PIECE』の『航海王 啓航』など、スマートフォン向けアプリを中心に順次中国市場で展開してきているんです。コンテンツを展開するにあたっては、当然日本と中国とのやりとりが必須になるのですが、遠距離でのコミュニケーションは齟齬をきたすことが多いですし、戦略面においても日本からハンドリングするというのはかなり無理がある。その辺の問題点は昨年から挙がっていまして……。

――それで、現地法人を立ち上げるのが急務であると?
山田 はい。今後、中国市場が本格的に大きくなっていくということは、誰も否定はしないと思うのですが、そこに対して乗り遅れないように、早くリソースを投入して、積極的かつ効果的に展開していくためにはどのような手段が有効か、という話し合いの中で、現地法人を作るしかないという判断に至りました。上海に会社を作って、そこを拠点として、現地採用も含めた人材も確保する。そのうえで、現地のパートナーさんとやり取りをしつつ、中国のユーザーさんに私たちのコンテンツを楽しんでいただくのがいいでしょう……というのが、今回の上海法人設立の趣旨ですね。

――スタッフは何人くらいで?
山田 いまは25人です。そのうち、現地採用が20人です。日本人スタッフだけだと、ただ場所が東京じゃなくて上海になっただけなので、意味がなくなってしまいますので。

――どのようなところが、中国市場で受け入れられたと分析していますか?
山田 やはり期待されているのは、全世界で人気のある作品の展開ですね。『ONE PIECE』、『NARUTO-ナルト-』、『ドラゴンボール』、『機動戦士ガンダム』……。まずはこれらをしっかりと中国市場で展開していきましょう、というのが、今回のメインミッションですね。くり返しになりますが、当然、これらはすべて、版元様のご協力があってのことです。

バンダイナムコ上海 COO山田大輔氏に聞く 設立から4ヵ月、中国市場での手応えは?【ChinaJoy 2015】_02
▲ChinajoyではDeNAブースで『ONE PIECE』など、バンダイナムコのIPが展開されていた。

――やはり日本のアニメは中国でも好まれるということですね。
山田 中国における日本のアニメの人気はとても高いですね。そこに対しては、ゲーム展開に関してもしっかりとお応えしていきたいなと。IPの世界観を活かしたゲーム作りということに関しては、これは私たちが自負するところではあるのですが、バンダイナムコが長年にわたって培ったノウハウや知識が長けている部分が大きいとは思っています。もちろん、IPがあれば中国で受け入れられるかというと、そんなことはぜんぜんなくて、好きなIPのゲームがおもしろくなかったりすると、逆に離れていってしまう。ここは日本のユーザーさんといっしょですね。やはり期待値が高いので。IPの認知度と確かなゲーム性。このふたつが成り立って初めて、日本から来たIPのゲーム化作品を、中国のお客さんに楽しんでいただける形になります。

――逆に、中国のユーザーは、「ここが違うな」みたいなところは?
山田 これは日本との比較になってしまうのですが、たとえばスマートフォンでゲームを遊ぶときって、日本のゲームのだと縦向けのケースが多いじゃないですか。でも、中国のゲームの半分以上は横向けなんですよ。横向けにすることによって、ユーザーインターフェースの配置が全部変わって来てしまうんですよね。いままで慣れ親しんでいたということもあり、縦向け仕様にすると、中国のユーザーは、「わからない」になってしまう。いまは、いろいろなゲームが溢れているので、ちょっとでも入り口のところで深く感じてしまうと、「もういい、ほかのタイトルで遊ぼう」ということになってしまうので、中国のユーザーさん向けに調整していかないと、なかなかなじみは出にくいですね。

――いずれにせよ、中国大陸で展開しようと思ったら、カルチャライズは必須ということですね?
山田 必須ですね。日本のコンテンツをそのまま持って行くと、まずは「わからない」になってしまうので。慣れて、遊びかたを覚えていただければ、「楽しい」になるゲームはたくさんあると思うんですけど、その前に、ほかのタイトルにユーザーさんは流れてしまうので、そこのハードルは高いですね。その敷居を下げて、ユーザーフレンドリーにしないといけないです。

――そういう意味でも、やはり上海にオフィスを構えてのきめ細かい対応が必要になると?
山田 必要ですね。日本にいて、「中国ではこういうマーケティング手法がトレンドになっているので、こうしていきましょう」というプレゼンされても、まずはその流行を理解するところから始めないといけなくなります。トレンドを理解したときには、もうそのトレンドは変わってしまっていたりします。ご存じのとおり、こちらのスピードは早いので、そういう意味でも、中国大陸において、スピーディーな対応やタイムリーなレスポンスで、トレンドをちゃんとキャッチアップしていくのは、とても重要なポイントですよね。

――ああ、タイミングは重要ですよね。プロモーション手法も、日本と中国とでは異なる?
山田 ぜんぜん違います。モバイルゲームの場合、日本だとウェブマーケティングがメインになってくるのですが、中国ではけっこうオフラインマーケティングが多いですね。日本でも、もちろんオフラインマーケティングはありますが、本当にヒットしたコンテンツじゃないとやってこない。ところが中国では、いきなりリリース直後からデパートや人の集まりそうな広場を借りて、イベントを開催したりしますからね。

――いきなり認知度を上げていく感じですかね。
山田 あと、もうひとつ大きな違いは、中国ではGoogle Playが使えない。とはいえ、中国のユーザーさんもAndroid携帯を何億台と持っていらっしゃるので、その方たちがコンテツをダウンロードしに行くサイトは、およそ300以上は存在するわけです。

――群雄割拠ですね。
山田 いまは寡占化しており、上位数社のプラットフォームで全体の80~90%の割合を占めているわけですが、それでも中国でAndroidアプリを展開しようと思ったら、Androidのマーケットホルダー、10社さん以上との営業交渉が必要になります。

――それだけ、きめ細かい調整が必要になるということですね?
山田 そうなんです。営業交渉もあったり、プロモーションもあったり……で、それを日本からやるというのは、なかなかにしんどいですよね。たとえば、モバイルゲームはネットワークゲームですので、日々の運営が大事になってきます。それは、こちら(上海)にいないとわからないところがあったりします。たとえば、「このキャラクターのこんなイベントがほしい」とか「こういうアイテムを作ってほしい」という要望は即座にキャッチアップして、すぐに応えられるようなきめ細かい運営体制はとっていきたいですね。

――相当やりごたえはありそうですね。
山田 それはもう。「そんなにやりごたえはなくてもいいだろう?」というくらいにあります(笑)。

――(笑)。ところで、中国市場そのものに対しては、どのように分析していらっしゃいますか? やなりスマートフォンが伸びている?
山田 そうですね。とはいえ、市場規模で言うと、やっぱりPCゲームのほうが圧倒的に大きいですね。いろいろなところのデータを見てみると、ブラウザゲームを含めてPCゲームの市場は1兆円産業と言われています。モバイル・スマートフォンのほうが、だいたい3000億円から4000億円の市場です。それでも、日本のスマートフォンの市場とほぼ同じくらいなんですよね。いま世界のトップ3がアメリカ。日本、中国です。中国に関しては今後数年のうちに1兆円規模になるとも言われています。そういう意味でも、中国は展開する価値があると思っています。

――上海に現地法人を構えて、基本はモバイル領域を攻めこみたいと?
山田 現時点ではスマートフォンをメインにして、あとはPCもいくつか考えています。

――中国で解禁されたコンシューマーゲーム機に関してはどうですか?
山田 まだ具体的には見えていませんが、そこは日本のバンダイナムコエンターテインメントが、ハードメーカーさんともつながりが深いですので、日本と連携しながら話はしていこうという感じです。

――中国でコンシューマービジネスを展開するとなったら、上海が動かないと……という感じですか?
山田 可能性はありますね。そこに関しては、この7月にコンシューマーの全面解禁という発表がなされたばかりです。私どもも、まだ作って4ヵ月の会社なので、「なんでもやります」という形はすぐには取れないので、状況はちゃんと周知しておきつつも、今後本格展開するタイミングが来ても、慌てないで準備している段階です。いまは、モバイルゲーム事業のほうに軸足を置いている感じですね。

――中国でコンシューマーゲーム機が解禁されることで、どのようなものがもたらされると思われますか?
山田 そこに関しては、私ももともとモバイル畑でやってきたので、専門外ではあるのですが、もちろんポジティブに捉えています。中国のゲーム産業自体がさらに大きくなってほしいです。正しいゲームの楽しみかたを理解していただける、いいチャンスなのかなと思っています。

――今後ですが、中国の開発会社と組んで、上海からゲームを発信するといったことは考えていますか?
山田 可能性としては、ぜんぜんあると思っています。中国にも、クオリティーが高くてコミュニケーション能力に優れた開発会社さんがたくさんいらっしゃいますので。そういえば、中国の開発会社の実力も、上海に来て実感としてわかったことのひとつではありますね。

――ああ、なるほど。
山田 こちらに根を下ろして、開発会社の方はもとより、当社のスタッフとも議論を重ねていくと、なんとなくわかってくるんですね。もちろん、言葉の違いはあるわけですが、「すごいなあ、この人たち。けっこうな開発力とスピード力を持っているよね」と実感させられることがたくさんあるんです。

――つまり、市場だけではなくて、クリエイター自体の可能性にも気付かされる?
山田 そうですね。優秀な方はたくさんいらっしゃいますね。商圏としての中国というだけではなくて、生産拠点としての中国のクオリティーというのも、開発会社によってはとても高いものを持っているなと思います。

――最後に、バンダイナムコ上海の、今後の目標をお教えください。
山田 まずは、日本でバンダイナムコエンターテインメントが展開していたようなサービスを、きっちりと中国のお客様にお届けしたいですね。きめ細かいサービスであったり、日本のキャラクターの特徴を活かしたゲームをちゃんとお届けするということを、この1~2年はきっちりとやっていこうと思っています。地の利を生かし、しっかりと上海に軸足を置いてやっていきます。