より透明性の高いクラウドファンディングの可能性を目指して

 ゲーム専門の新たなクラウドファンディングサイト“Fig”が登場。第1弾タイトルとして俳優マシ・オカ(「ヒーローズ」など)のスタジオMobiusによるタイムループものの宇宙探索ゲーム『Outer Wilds』のクラウドファンディングがスタートしている。

 Figの特徴は、(KickStarterなどで一般的な)ファンからの少額出資に対してゲーム本編とおまけグッズなどを提供する“リワード”ベースのモデルと、投資家としてゲーム販売時に出資額に見合った利益が得られる“インベストメント”(投資)モデルを併用した仕組みになっていること。スタジオは両者を併用したクラウドファンディングプロジェクトを行うことができる。

ガチの出資も可能なゲーム向けクラウドファンディングサイト“Fig”が発足。第1弾はマシ・オカのスタジオの『Outer Wilds』_03
▲右側のボタンからできる一般的なリワード(ゲーム本編+おまけ)ベースの援助以外に、画面中央下のリンクから本格的な投資ができるのが特徴。ゲームが売れた場合はもちろん一定の割合で利益を得られる。

 従来のリワードベースのクラウドファンディングはファンから広く薄くお金を集めることができてPR効果も大きい一方、実際はそれでは足りずに投資家やパブリッシャーとの契約で追加出資を得るケースが増えてきていて、プロジェクトの安定性や透明性の点で“炎上”することもしばしばあった。これは出資者とスタジオの双方に、(額は少なくとも)投資家としての、そして投資家に対する責任や扱いが育たなかったことを意味する。

 本誌では先月、格闘ゲーム『スカルガールズ』を開発したLab Zero Gamesによる事例をお伝えしたが、同スタジオが選んだ方法は“パブリッシャーの出資によりプレイアブル可能なデモを開発した上でクラウドファンディングを実施し、成功した場合はパブリッシャーがさらなる追加出資も行う”というもの。事前にパブリッシャーとの契約内容を公表することで透明性を高めつつ、クラウドファンディングの出資効果とPR効果、そして(この場合パブリッシャーからの)まとまった投資の出資効果と旧来のパブリッシング機能のいい面(PR・マーケティング・配信……)をハイブリッドに融合させることを目的としていた。

 今回のFigのスタイルも方向性としては同じで、リワードベースの少額出資とまとまった投資を最初からシステム側で併用することで、よりフレキシブルなクラウドファンディングの可能性を模索するものと思われる。個人的には正直面白いゲームが出れば何でもいいのだが、より安定した透明性の高いプロジェクトが増えるのはいいこと。今後の動向に期待したい。

ガチの出資も可能なゲーム向けクラウドファンディングサイト“Fig”が発足。第1弾はマシ・オカのスタジオの『Outer Wilds』_01
▲海外インディーにとってもしかするとFigを選ぶ一番の理由になりそうなのが超強力なアドバイザー陣。監査委員会に名を連ねるinXileのブライアン・ファーゴ氏、Obsidianのファーガス・アーカート氏、Double Fineのティム・シェーファー氏らがプロジェクトへの助言も行う。全員クラウドファンディングを成功させたスタジオのトップで、従来のパブリッシャーと組むタイプの大作も手掛けてきた業界の大ベテラン。彼らの知見を活かせるだけでも相当なメリットになるはずだ。

 なおFigでの出資は、リワードベースの少額出資はStripeを決済システムに採用。Stripeは日本ではまだ招待制ベータ版サービスの段階なので、まずは正式ローンチしてくれないとといったところか。またインベストメントベースの出資は最小1000ドルからで、さらに将来的には誰でも出資できるよう目指しているものの、現時点では米国証券法501条に規定されたAccredited Investor(適格投資家)のみが対象となっている。

 Figの利用料はリワードベースの出資額の5%(成功時のみ)。インベストメントベースの出資額に対しての利用料は発生しない。Fig自体がプロジェクトに対して他の投資家と同様に投資を行うこともあるという。

繰り返す恒星系最後の20分間と、焚き火で焼けるマシュマロ

 さて、Figの第1弾タイトルとして選ばれた『Outer Wilds』は、インディーゲーム賞IGFで今年の大賞を受賞した作品。元々南カリフォルニア大学のゲーム専攻に所属していたアレックス・ビーチャム氏らの卒業制作としてスタートし、開発が続けられてきた。
 その後ビーチャム氏は2014年にマシ・オカの率いるスタジオMobiusに移籍。ゲームのコアが固まったことで、クラウドファンディングによる出資を得てアートやモーションなどのスタッフを追加し、ゲームを完成させようというわけだ。

ガチの出資も可能なゲーム向けクラウドファンディングサイト“Fig”が発足。第1弾はマシ・オカのスタジオの『Outer Wilds』_02
▲「ヤッター!」マシ・オカは本当にMobiusというゲームスタジオの創設者。ちなみに『Outer Wilds』を元々作ってたアレックス・ビーチャム氏(左端)はクリエイティブ・ディレクターとしてスタジオに参加している。

 ゲームとしては、恒星系最後の20分間を繰り返すタイムループの中での宇宙探索ゲーム。砂に埋まる前に地下都市を訪問したり、衛星の噴火によって破壊される前に惑星を冒険したり、終末的な宇宙を探索してタイムループの謎に迫っていく。開発チームでは“『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』と「アポロ13」の融合”と表現している。プラットフォームはPC/Mac/Linuxで、Steamで来年リリースを予定。12万5000ドル(約1554万円)が一ヶ月以内に集まればプロジェクト成立となる。