『戦国BASARA』シリーズ10周年を迎えて

 2015年7月23日発売の週刊ファミ通では、『戦国BASARA4 皇(スメラギ)』(以下、『4皇』)の発売記念特集を掲載した。同記事内では、『戦国BASARA』シリーズのゲーム開発陣である、小林裕幸氏、山本真氏、重吉信哉氏および、『4皇』のアニメーションムービーを手掛けた野村和也氏、大久保徹氏を交えた座談会を実施。シリーズ10周年を迎えての気持ちや、アニメ制作の苦労話、プログラマー視点による技術的な話などをうかがった。意外な裏話が満載なので、ぜひ最後まで読んでほしい。

『戦国BASARA4 皇』スペシャル座談会完全版_01

写真手前左
『戦国BASARA』シリーズディレクター
山本 真氏(文中では山本
 小林氏とともに、ゲーム、アニメ、舞台、ドラマなど、すべての『戦国BASARA』に携わる。

写真手前中央
『戦国BASARA』シリーズプロデューサー
小林裕幸氏(文中では小林
 『戦国BASARA 』シリーズを始め、カプコンのビッグタイトルを数多く手掛けている。

写真手前右
戦国BASARA4 皇』メインプログラマー
重吉信哉氏(文中では重吉
 『戦国BASARA3』からシリーズの制作に携わる。『4皇』ではメインプログラマーを務めた。

写真奥左
TVアニメ『戦国BASARA弐』監督
野村和也氏(文中では野村
 TVアニメに続き、劇場版『戦国BASARA -The Last Party- 』でも監督を務めた。『4皇』ではオープニングアニメの監督を担当。

写真奥右
TVアニメ『戦国BASARA』、『戦国BASARA弐』キャラクターデザイン・総作画監督
大久保 徹氏(文中では大久保
 さまざまな作品でキャラクターデザイン、作画監督、原画などで携わっている。

座談会実施日:2015年7月3日
協力:神楽坂 久露葉亭(お店の情報はこちら

『戦国BASARA4 皇』スペシャル座談会完全版_02
『戦国BASARA4 皇』スペシャル座談会完全版_03
『戦国BASARA4 皇』スペシャル座談会完全版_04

シリーズの10年間の歩みの中で印象深い出来事は?

重吉 こういった場に出るのは初めてなので、まずは自己紹介させてください。今回、メインプログラマーをやらせていただきました重吉です。
山本 重吉は、最近では珍しい“ゲームが作れる”プログラマーなんだよね。
小林 そうそう。オーダー通りのものを作るのではなく、遊びの要素を企画できるプログラマー。
大久保 そうなんですね。プログラマーのお仕事で、とくに苦労されたことはなんでしょう?
重吉 いろいろありますが(笑)、家康が溜めた力をほかの技に引き継げるようにしたことですね。もともと僕は、『3』で雑兵や敵武将がどう襲ってくるかの動きを担当していましたが、家康の改造がきっかけで、『3宴』ではプレイヤー武将を作り、企画にも関わるようになりました。
山本 『4皇』では、景品交換でもらえる“固有技・改”という技を、重吉ひとりで40人分作ったんですよ。ほかの仕事もやりつつ。
重吉 足利義輝、京極マリア、千利休はほかのスタッフが作っていて、僕はメインプログラマーの仕事をしていたのですが、ある日、山本さんから「全員の技を追加したい」と注文があって。それで、どんなネタを仕込むか、動きのつなぎ、雑魚がどう吹っ飛ぶか、コンボに組み込んだらもっとおもしろくなるか……などをひとりでやっていました。全部(笑)。
小林 みんな本編の制作で動けないから、重吉ひとりで新アクションを作っていたよね。通常は企画マンが考えて、デザイナーが動きを作っていくものなんですけどね。
野村 個性的な技がいっぱいありますが、それぞれの技名って、モーションが完成してからつけるのでしょうか?
山本 だいたいそうですが、ネタ出しの段階でまず苦労しますね。ほかと被らないように。『戦国BASARA』って、オンリーワンでいたいというのがありまして、斬る姿も誰かと似ないように、ポーズもそれぞれ変えているんです。でも、初めてプレイする人でもある程度使いやすくないとダメ、というハードルもあって。それが成立するまで揉んで、設計図を描いてからモーションキャプチャーするわけです。ここで、技名つけられるくらいの個性ある動きができるかが重要になるんですよ。
小林 そういう段階を経て、やっとプログラマーのところにいくんですけど、そのプロセスが全部ナシで、重吉ひとりだったわけです。合戦ルーレットの部分なども。
大久保 “手付け”みたいな感じですか。
重吉 ええ。いろいろな技の一部を集めて、組み換える作業になりました。なかには、デザイナーのご厚意で作ってもらえたものもあります。
野村 新しく技を作るってたいへんですよね。技の苦労話だと、劇場版『戦国BASARA』を作っていたときを思い出します。

『戦国BASARA4 皇』スペシャル座談会完全版_05
『戦国BASARA4 皇』スペシャル座談会完全版_06

アニメーションでも技を作るのはたいへん?

野村 アニメで、政宗が技をくり出すところを作ったのですが、あれひとつだけでもすごい苦労しました。それを40個って、相当ですね。
山本 プログラマーでアクションをいちから作れる人はレアなので、かなり助けられました。
大久保 そういう点でも、アニメーションに共通する部分があります。迫力あるアクションシーンを描けるかどうかなど、人によって得手不得手がありますから。
野村 アニメーターの仕事は、誰かが作ったデザインをなぞって描くことが多いから、何もないところから想像して描くのは、皆さんが思ってしている以上に難しいものなんです。何か新しく生み出せる人は、どの業界でもレアな存在になりますよね。
山本 『戦国BASARA』シリーズでは、『4』からキャラクターデザインをお願いしましたが、やはりたいへんでしたか?
大久保 そのときは、山本さんとのやり取りがわかってきていたので。自分の色を出すというよりは、山本さんにデザインを投げてみて判断してもらおうという意識が強かったですね。最初は文字だけの設定をいただいて。ひとまず自分なりに考えて、山本さんからどう反応が返ってくるかがけっこう楽しみでした。まあ、最初の案はほぼ使われないんですけど(笑)。
小林 大久保さんには、7年前のアニメ1期のときからお仕事をお願いしていますからね。ゲームの3Dモデルで描かれたキャラクターを、アニメ用にデザインしていただいて。
大久保 そのころは間接的なやり取りでしたので、山本さんとあまりお会いしていなかったんです。だから最初は、恐い人なのかと、勝手に想像していました(笑)。
一同 (笑)。
小林 最初は、幸村で苦労しましたね。
大久保 あの細かいデザインをアニメで動かすとなると、アニメーターさんもたいへんなので。
小林 アニメならではの演出もありましたね。野村さんも1期の11話をやっていただいて。
野村 はい。あとはエンディングと。思いのほか評判よくて、うれしかったのを覚えています。
山本 そういえば、野村さんの初監督作品は、アニメの2期だったんですよね。
野村 最初、『戦国BASARA』がTVアニメ化すると聞いたとき、「ああ、これは相性がいいだろうな」と思っていたので、参加するのが楽しみでしたね。現場のスタッフの人たちも熱量がすごかったので、居心地がよかったです。
小林 TVアニメ2期の打ち合わせをしたのも、もう6年前になりますね。懐かしい。
野村 当時、小林さんのことはファミ通の『バイオハザード4』の記事などで知っていました。初めてお会いしたときは、緊張してぜんぜんしゃべれなかったです(笑)。