“BitSummit 2015”の会場でBaiyon氏を直撃!

 “BitSummit 2015”にてサプライズ発表されたプレイステーション4、プレイステーション Vita用アドベンチャーゲーム『MUSE: Together Is the New Alone』(以下、『MUSE』)。同作は、サウンド&アートクリエイターのBaiyon氏が、初めてゲームディレクションを手がける作品ということで注目を集めている。今回は、Baiyon氏および、ピグミースタジオの”工場長”こと小清水史氏に、本作の発表では明かされていない部分について聞いたインタビューの模様をお届けしよう。

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『MUSE: Together Is the New Alone』に込められた“LOVE”とは?……Baiyon氏スペシャルインタビュー_01

スタイリッシュなサウンドから、人間くさいゲームへの転身

──本作を制作することになった経緯を教えてください。
Baiyon氏(以下、Baiyon) もともと5、6年前からあったアイデアなんです。2013年に開催された1回目のBitSummitで、ピグミースタジオの小清水さんとお会いしました。そこで、「手伝ってくれる方を探しているんです」というお話をしているうちに、じゃあピグミースタジオで……となりました。
小清水史氏(以下、小清水) (キュー・ゲームスの)ディラン・カスバートさんが、「『PixelJunk Eden』のアートとサウンドを作った人だよ」と紹介してくれたんです。僕自身、『PixelJunk Eden』をリスペクトしていたし、サウンドの方がゲーム企画を持ち込んでくるのはおもしろいと思って、Baiyonさんのイメージを可能な限り忠実に再現するべく、開発中です。
Baiyon ゲームの企画は、組む相手によって、完成型が当初のイメージから変わるだろうと予想していたのですが、小清水さんはクリエイトの部分に自由をくださる方なので、もう、思った通りにやろうと思いました。

──グラフィックは、スーパーファミコン的というか、16ビットゲーム機的というか、懐かしい印象ですね。
Baiyon そうですね。それと(ファミコンなどの)8ビットゲーム機のあいだの感じですね。

──そうしたビジュアルを選んだのには、自身のゲーム体験も少なからず関わっているのですか?
Baiyon そうですね。かつて某ファミコンRPGをプレイして、心底助けられた経験がありまして……。ピクセルアートを選択したことは、そのあたりを含めた、シンプルなリスぺクトからです。また、ビジュアルの構造としては水彩画が入っているのですが、シェーダーなどを使った水彩画“風”タッチには、興味がないんです。僕がやりたいことは、”人間らしさ”を残すことなんです。

──そのあたりの違いについて、詳しく教えてください。
Baiyon これまでの音楽活動では、要素をミニマムに削ぎ落としていく作業が多かったのです。でも『MUSE』では、削いでいくのではなくて、失敗したところを残したいのです。手書きで描いたものをそのままスキャンして、そこで生じる、ノイズやゆらぎの部分で、人間らしさを出したいな、と。ストーリーも、人間くささとか、日々感じていることを投影したいと思っているので、ゴツゴツしたような、あえて磨き切らない方向性に持っていきたいと思います。現時点ではどう転がっていくか、まだわからないですけど。

“いまだからこそ書けるラブレター”に込めた、Baiyon氏の想い

──本作のテーマは”LOVE”とのことですが、何かきっかけになったエピソードなどは?
Baiyon 30歳になったときに、愛をテーマにしたいと漠然と思い始めました。この年になっても、いまだに愛とか、恋とか、よくわかんないんですよ。「これがそうだ」と言いきれない、何ともいえない気持ちがつねにあるのですが、それをそのまま表現したいですね。たぶんこれは、5年後にはもうできない、“いまだからこそ書けるラブレター”だと思います。

──Baiyonさんの“LOVE観”は、企画を思い立った5年前から変わっていない、と。
Baiyon 変わっていません。なぜなら、このゲームが完成していないからです。みそぎのような感覚もどこかにあります。とはいえ、僕自身のためだけに作っているという意味ではありません。人を好きになったり、付き合ったり、別れたりという経験は、誰しも日々共通してあるものですよね。その感覚をみんなでシェアしたいという気持ちがありますね。

──現時点で公開されているのは、導入のストーリーとゲーム画面が数点という状況ですが、何か作品世界をイメージできるヒント、またはキーワードを教えていただけないでしょうか?
Baiyon そうですね……たとえば、自分が旅行に行ったときに、お土産を買って帰りたくなる感覚がありますよね。お土産を渡した相手が喜ぶ顔を見たいという側面と、もうひとつは、単純に気持ちよくてぶっ飛んでいておもしろいという、両方がかみ合ったものになる予定です。主人公は、白くて殺風景な部屋にいる彼女のために冒険に行くのですが、いったん外に出ると、サイケデリックでバキバキな世界が広がっている。理由はどうあれ、その場所に行くと、ただ楽しいんです。そういった瞬間瞬間を楽しむことができる人間らしさ自体を楽しんでほしいですね。視覚的にはかなり気持ちいいし、音もたぶん、そういう感じになるかな、と。

『MUSE: Together Is the New Alone』に込められた“LOVE”とは?……Baiyon氏スペシャルインタビュー_02

──公開されているスクリーンショットの中では、夕暮れ時の団地の場面が印象的でした。
Baiyon 団地! めちゃくちゃ好きなんですよ! 休みの日には写真を撮りに取りに行くくらいに。理由はわからないですけど、そこにいるだけで、泣けてくるんです。

──やはり、幼少時代の思い出に関係しているのでしょうか?
Baiyon 僕は団地に住んでいたわけではないのですが、(Baiyon氏が少年時代を過ごした)1980年代後半当時から、かっこいいと思っていました。モンスター級のでっかいマンションや団地のエレベーターを使って鬼ごっことか、いいなぁという、憧れの気持ちがあるかもしれないですね。自分の中で覚えている景色を形にしたいという思いはあるのですが、ただ適当に選んでいるわけではありません。団地と(ファミコンの)ドット絵は、世代的に共通する部分があるじゃないですか。その取捨選択はロジカルではないかもしれませんが、多くの方に共感してもらえる形で、さまざまな要素を散りばめているつもりです。

『MUSE: Together Is the New Alone』に込められた“LOVE”とは?……Baiyon氏スペシャルインタビュー_07

ピグミースタジオ工場長が、Baiyon氏のパンツをひっぺがす!?

──さきほど音についてのお話がチラッと出ましたが、サウンドはやはり、ご自身で手掛けるのでしょうか?
Baiyon いまのところ、ぜんぶやる予定です。

──それは、Baiyonさんのサウンドのファンにとっても朗報ですね!
Baiyon ゲームを作る時は、いつもアルバムを作るのと同じ感覚で作っています。15年くらい前の話なんですけど、CDショップで働いていた友だちによれば、女子高生の中には、レジでCDを買ったら、シュリンクを開けて、取り出したCDをCDプレイヤーにセットして、ジャケットをゴミ箱に捨てていく子が少なくなかったそうです。僕がリリースしたCDが、2週間後にはもう中古ショップの店頭に並んでいたりするのです。作る側は、ジャケットのデザインも含めて、せっかくトータルで楽しんでもらおうと作っているのに、どうもピッタリ合っていない。さらにいまはデータ配信が主流ですし。そう考えたときに、「やっぱりここはゲームだろう」と思いつきました。僕自身、ずっと好きだったものだし、強制的ではあるけれど、ゲームをプレイすることと音楽がセットになるわけじゃないですか。すごく可能性があるメディアだと思っています。

──ご自身の表現スタイル上、必然的にゲームにたどり着いた、と。
Baiyon やりたいことは、それほど大きく変わっていないんです。どういうふうに伝えたら、僕が考えている楽しみかたをしてもらえる確率が上がるのかなと考えた結果です。いまの国内での盛り上がりにつながる、北米のインディーゲームの流れにずっと関わってきたことも影響しているのかもしれません。

──しかも『MUSE』は、8ビット時代のゲームのリスペクトを含んだものになっています。
Baiyon 『PixelJunk EDEN』は、“フラットな2Dデザイン”、“テクノ的な世界観”に対するリスペクトのゲームでした。ゲーム以外のメディアの醍醐味をゲームで表現したのですが、今回はゲームへのリスペクトをゲームで表現するという初めての試みです。そういう意味でいうと、丸裸な状態ですね。逃げ場がないというか、自分の中でヒリヒリした感触があります。
小清水 『MUSE』は、Baiyonさんそのものだと思っています。だから「パンツまで脱いでください、さらけだしてください」と言い続けています(笑)。
Baiyon 逆に、僕からは「受け止めきれますか?」と答えているんですけどね(笑)。ゲーム業界に関わるようになって7年経ちましたが、つぎのステップに進みたいという気持ちが、原動力になっています。

――どんなゲームになるのか、いまから楽しみにしています! ありがとうございました。

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