生き残る術はただひとつ、東進して堕天使を討つ!
スパイク・チュンソフトから2015年7月30日に発売予定のプレイステーション Vita、プレイステーション4用ソフト『不思議のクロニクル 振リ返リマセン勝ツマデハ』(以下、『フリカツ』)。同社の看板RPG“不思議の”シリーズに続く、新たなRPGとして発売前から話題の作品だ。
タイトルに“不思議の”とある通り、プレイするごとに世界が変化する『風来のシレン』などの仕掛けや基本ルールを踏襲しているのだが、本作がユニークと言われるのは、ジャンル名にもあるようにゲームのフィールドが“強制横スクロール”する点にある。
“強制横スクロール”と言うと、古典のアクションゲームやシューティングゲームで採用されているもの。そんな仕掛けがRPGの中に登場するのだから、遊びのイメージはいまいちピンと来ないかもしれない。
しかし、実際にプレイをしてみると、この“意外な要素の融合”が、とても納得できる形で遊びにマッチしていることを実感した。なんだか、黎明期のゲーム……8bit時代のゲームによくあった、ちょっとしたアイデアに、「これはすごい!」と膝を打つ感覚。実際、本作も“ちょっとしたひらめき”を形にしたものであろうが、いまの時代にそのようなアイデアのド直球で勝負するゲームがプレイできるのは、個人的にはとてもうれしいことだ。本稿では、そんな小さなひらめきを形にした『フリカツ』の基本と、その魅力を紹介していく。
まずは、ゲームの世界観を簡単に説明することから始めよう。世界を統治するコンラス王の王国に、世界を滅ぼす災いの使者が降り立ったところから物語が始まる。使者の名は堕天使アルマ。アルマが放った絶望の光は、“シャインレイド”(光の災厄)と呼ばれ、世界の端から広がりながら飲み込んだものをつぎつぎと消滅させた。そして、シャインレイドはついに国王とプレイヤーのいる城の目前まで迫っていた……。
これが本作のストーリーだ。目的ははるか東(画面右方向)にいるというアルマを倒し、シャインレイドを消滅させること。そして、シャインレイドは西(画面左方向)から、じょじょに迫ってきており、その光から逃げなければならない。つまり、画面右方向にひたすら進むことでゲームが進行するのだ。
冒頭で“強制スクロール”が本作の特徴と記しているが、そのスクロールの仕組みは、画面が動くアクションゲーム的なものとはちょっと違う。本作では、1ターンごとに画面が右から左へわずかにスクロールする。これまでの“不思議の”シリーズと同様に、自分が何かのアクションをしたら、敵もアクションを起こすターン制の概念のもとで、ゲームが進むのだ。このあたりの感覚は、『風来のシレン』シリーズの経験者ならすぐになじめるもののはず(ちょっと離れたところにいる敵を攻撃したい場合は、移動して近寄るのではなく、わざと空振りして敵を移動させて安全に叩く……といったおなじみのテクニックは、本作でも大事だ)。ただし、画面端で輝く光に飲まれるとゲームオーバーとなってしまう。ここが最大の違いとなる。easyなら400キロ(この地点で必ずアルマが出現する)、normalならそれ以上の距離を、ひたすら未知なる大地を東進していくのだ。
広大なフィールドで、画面に表示されるのはごく一部(ちなみに上下方向も数画面分の幅がある)。マップを隅々まで移動してアイテムや街を探りたくなるのは、プレイする人が当然のように抱く冒険者マインドのはずだ。でも、何かひとつ行動をするたびに画面が強制的に横方向へ動く仕掛けが、その心に待ったをかける。
ここでひとつ具体例を挙げよう。ダンジョンや街が現れたらじっくり回りたくなるだろう。しかし、欲目に釣られて、そればかりに気を取られてしまうと、左端に追いやられてやがて、敵や地形に出口を塞がれてしまい、あっけなくゲームオーバー。つまり、本作での強制スクロールは、いわばタイマーの役目を担っているのだ。強制スクロールというルールがあるゆえに、適当な行動、欲張りな行動、単純な選択のミスは、ときとしてすべてを台無しにしてしまう。
ここで筆者はふと気付いた。本作のおもしろさの核となるのは“取捨選択の葛藤”にある、と。プレイを重ねて、調子がいいとうっかり欲が芽生えて、あっけなくゲームオーバーを迎えるたびに、“不思議の”シリーズとは異なる形の“1ターンの重み”が見えてくるのだ。敵をひたすら倒しまくって経験値を上げることや、開かない宝箱をがんばって開けようとすることは確かに重要なこと。でも、時には生き残るために、目前のチャンスを諦めて前進を選ぶ潔さも求められる。まさに“振リ返リマセン”の覚悟が必要だ。その本作独自のエッセンスがわかると、葛藤がもたらすさまざまな緊張感、緊張する状況が少しずつクセになってくる。
シンプルなゲーム構成が導くやり込み性の高さ
ちょっとゲームの土台の説明の時点で大きく語り過ぎてしまった感があるが(スミマセン!)、続いて「じゃあこのゲーム、どうやって遊ぶの?」という疑問に答えるべく、プレイの流れを紹介したい。
タイトル画面から“新たな冒険に出る”を選んで、まずはプレイヤーキャラクターの“クラス”(職業)を選ぶ。本作では20種類以上のクラスが用意されており、クラスによってキャラクターの能力が大きく異なる(序盤は剣士やナイトといった基本的なクラスしか選択できないが、“創世石”というアイテムを消費して新たなクラスが選択できるようになり、なかには専用のクエストが発生するクラスもある)。山や水中の移動性能に優れた“冒険者”、連続攻撃が可能で素早さが身上の“アサシン”、槍とブーメランの扱いに長けた“獣人”といった具合にどこか秀でた力を持っている。
また、クラスとは別に“特徴”という項目もある。これは、選択したキャラクターに加わるボーナス値に相当するもの。“知力UP”、“筋力UP”といった基本パラメーターのアップから、“泳法の心得”(水地形の移動で消費される項目が減少)、“盗賊の心得”(開錠のスキルが使える)などさまざま。最大5つまで設定できる。
この“クラス”と“特徴”の組み合わせで、多彩なキャラクターメイクができるのだ。まずは自分にとって扱いやすいクラスを見つけて、冒険に慣れていくのがいいだろう。
続いては、フィールド(本作では世界と呼んでいる)の選択。本作のメインモード“キャンペーンの世界”では、ソーシャルゲーム風のエッセンスが取り入れられており、特別なルールの世界が時限イベントとして配信される。また“名前で指定する世界”という項目もある。ここでは任意の8文字を入力することで、世界を生成してくれる。
いずれの世界でも注目したいのは、世界の名前だ。本作では世界の名前と地形構造が紐付いており、名前が同じなら同じ地形が生成される。いわば、世界の名前はパスワードに相当する。そのため、同じ地形の世界を何回もプレイしたり、フレンドに世界の名前を教えて同じフィールドを攻略し合うといったことも可能なのだ。
そして、冒険の本番へ。ゲームはまさにシャインレイドに包まれようとしている城から始まる。コンラス王から使命を託されて、東へ旅立つ。そして、目的の堕天使アルマの討伐、もしくは途中で行き倒れてしまったらそこで冒険は終わり。最後にプレイの評価やアドバイスを受けてタイトル画面に戻る(獲得アイテムは限られた数だけ、夢幻倉庫と呼ばれる施設に保存可能。夢幻倉庫にいれるアイテムのチョイスと倉庫の拡張が次の冒険に役立つ)。再プレイは“新たな冒険に出る”を選択。最初のレベルから再び旅立つ。
……と、ひととおり書いてみたが、ここまで読んでいただいた方はうすうすと感じているだろう。本作のゲーム構造は、“新たな冒険に出る”→目的のクリアー、またはゲームオーバー→“新たな冒険に出る”……のくり返しという、超シンプルなものだったりする。たとえば『風来のシレン』シリーズのようにいくつもダンジョンを巡って物語を進めるといった流れとは異なる。
もしかしたら、(リアル時間の)何日もかけて遠路はるばる旅をするスケールの大きな冒険を想像していた人もいるかもしれない。でも、シンプルな冒険だからといって、内容が薄いということではないことはここで強調しておきたい。
先ほど、ソーシャルゲーム風エッセンスと述べたが、遊び自体もそのいいところを備えているのだ。つまり、気軽に触れられて、くり返し遊ぶことで導かれるおもしろさを追求したゲームデザイン。そう考えるとeasyモードで10~15分ほどでクリアーできるステージ設計がとても理に適ったものであることがわかる。ゲームで手に入る“夢幻石”、“創世石”、“英霊石”を集めることがゲームの世界を拡張するカギとなっており、だからこそ、何度でもやってみようというモチベーションにもつながっていく。
もちろん“不思議の”の冠がついているので、膨大な量におよぶアイテムや武器の使いこなし、空腹を満たすためのあらゆる手段、仕掛けられた罠やモンスターハウス(に相当するところ)でいかに生き残るか……などという“おなじみ”の手応えや興奮は本作でも健在! その上で本作が新たなワードが加わった冠“不思議のクロニクル”をまとっているのは、さまざまな要素を取り入れて、プラスアルファ以上の楽しさを生み出しているからと言えよう。不思議なケミストリー(ちょっと古い言い回しで恐縮!)が創りだした、まったく新しいおもしろさにぜひ触れてみてほしい。
不思議のクロニクル 振リ返リマセン勝ツマデハ
メーカー | スパイク・チュンソフト |
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対応機種 | PSVPlayStation Vita / PS4プレイステーション4 |
発売日 | 2015年7月30日発売予定 |
価格 | PS Vita版は3480円[税別](3758円[税込])、PS4版は3980円[税別](4298円[税込]) |
ジャンル | RPG |
備考 | プロデューサー:齊藤祐一郎、ゼネラルプロデューサー:寺澤善徳 |