リードゲームデザイナーとローカライズプロデューサーが大いに語る
セガゲームスから発売中のプレイステーション4及びXbox One向けソフト『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』は、名作映画『エイリアン』の世界観をモチーフにした本格派サバイバルホラーゲームだ。本作のメインストーリー(キャンペーンモード)では、映画『エイリアン』の15年後の世界を舞台に、映画版の主人公エレン・リプリーの娘であるアマンダ・リプリーが、母親が失踪した原因を巡って宇宙ステーションを探索することになる。その高いゲーム性などから、海外では数々の賞にノミネートされるなどの絶賛を集めた1作だ。
今回、ファミ通.comでは、同作の開発を手掛けるCreative Assemblyのリードゲームデザイナー、ゲイリー・ナッパー氏にメールインタビューを敢行。『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』に対するこだわりポイントなどを聞いた。また、セガのローカライズプロデューサーを担当したセガゲームスのジョン・ロジャース氏にも、ローカライズにあたっての注力ポイントなどをうかがっているので、あわせてご紹介する。『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』ファン必読の読み応えのある内容です!
「原作と同じ圧倒的な恐怖をゲームという媒体の中で再現したかった」
――ゲーム版『エイリアン』シリーズと言えば、これまでシューターのイメージがありますが、本作は本格的なサバイバルホラー(ステルスアクション)となっています。ゲーム内容の転換を図った意図は?
ゲイリー 『エイリアン』を題材としたゲームはこれまでに何作品も世の中に出ています。しかし、「エイリアン自体がプレイヤーに対して致命的な脅威となって存在し、遭遇すること自体を避けなければならない作品は誰も作れていないのではないか」と我々はずっと思っていました。原作となる映画『エイリアン』では、一体のエイリアンにノストロモ号の搭乗員がつぎつぎと殺されていき、エイリアンは圧倒的な存在感をもって、我々に最高の恐怖を与えてくれました。我々の狙いはその原作と同じ圧倒的な恐怖をゲームという媒体の中で再現し、“自分が狩られる”という気持ちをプレイヤーに感じさせたかった、そういうところが出発点にありました。
――本作は、数あるステルスアクションと比べても、かなりハードな難易度設定となっています。プレイヤーに何度もリトライさせる“容赦ないゲームバランス”を採用した理由は何ですか?
ゲイリー どのゲームでもそうだと思いますが、各要素のバランスと調整が非常に悩むところです。作り手のビジョンに合わせてどんなにうまくチューニングしたとしても、人によっては簡単過ぎたり、逆に難し過ぎたりと感じてしまう人も出てしまうものです。『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』の開発初期から最優先としていた目標は、この未知なるバケモノがもたらす恐怖感、そして発揮するであろう破壊力をしっかりと描くことです。こういったエイリアンそのものが有する要素は、単に演出上だけにとどまるものではなく、ゲーム性自体の制作指針にもなりました。一旦ゲームができあがってから、ステルス、ハッキングや戦闘まわりで各要素のバランスを取っていたところ、ゲームを簡単にし過ぎるとエイリアンが脅威として機能しなくなる根本的問題に我々は直面したのです。もちろん、エイリアンの知能を鈍くするという選択肢はありませんので、原作が持つあの恐怖感を堅持するなら難易度を高くするように調整するほかありませんでした。それも最終的には『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』の最恐体験を構築させる最良の制作方法だったと思います。
――“究極の生命体”エイリアンを描くために、どのようなことに気をつけましたか?
ゲイリー 『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』のバケモノに生命を吹き込むことは開発チーム総掛かりでの大きな取り組みでした。モーション、照明、SE、音声、プログラミング、ゲームデザイン、これら要素をすべて融合した形でエイリアンの実現に取り組みました。エイリアン自体が本作のゲームプレイの主軸となっているので、恐怖を体現する存在になるまで全力を挙げて作り込んでいくしかありませんでした。最初は原作のエイリアンを再現することだけに注力し、それができた段階からはゲームのルールに当てはめていく方法を採りました。プレイヤーの動きに応じて反応でき、宇宙ステーションのダクト、天井、廊下などを使って賢く動ける存在に進化していきました。
――ゲームをプレイしていて、エイリアンのAIの賢さに驚かされました。改めてどんな特徴を持つAIなのか教えていただけないでしょうか?
ゲイリー エイリアンは、敵として表現するAIとしては非常に複雑でした。なぜならエイリアンは積極的にプレイヤーを狩りに行き、見つけ次第惨殺する行動を取りますが、これらの行動を言語も使わずにプレイヤーに伝達しないといけません。ゲーム内で、「いま、エイリアンが怒っている」、「いま、エイリアンが狩っている」、というような説明をするホログラムとかHUD(ヘッドアップディスプレイ)のUI(ユーザーインターフェース)を表示させられませんので、エイリアンがこれからやることをモーションやサウンドで表現する必要がありました。エイリアンのAIは、多彩な行動パターンを持ち、その状況に合った行動はもちろん、いままでプレイヤーが取ってきた行動を学習して覚えて、それに基づいた動きもできるようになっています。
――本作はアートへのこだわりも随所に感じられます。レトロフューチャーとも言えるデザインは、ゲームで再現するのはたいへんな苦労があったのではないでしょうか?
ゲイリー 幸いなことに20世紀フォックス様から大量の資料や生のデータをいただくことができました。まずは、アーティストたちにより『エイリアン』シリーズの世界観をつぎつぎと部品ごとに分解し、デザインの根底にあったモチーフを分析するところから始まりました。そして、世界観を再現しつつ、分解したオリジナルパーツをゲームの方法論に置き直し、『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』として延長線上の新たな世界も起こせるようになりました。分解したこの世界観の細部に対する作り込みがあまりにも凄まじいせいか、オフィスに寄ったお客さんはゲームのスクリーンショットを見て、これが映画からのシーンかどうかを頻繁に聞かれました!
――『エイリアン』ならではの恐怖感を演出するために気をつけた点はありますか?
ゲイリー 緊迫感、雰囲気、そしてリアリティーです。舞台となる宇宙ステーションでは圧倒的に強いスーパー武器とかは用意しておりませんし、環境自体もプレイヤーを手助けするようなものはなく、助けに来てくれる人もいない。プレイヤーは“ひとり”になって、孤立し、そして圧倒的な力に狩られようとしている。それらを直感できるようにしなければなりませんでした。この極限状態を構築することを目的とし、ゲーム内で遭遇するあらゆるシステム、ギミックやゲームプレイ要素を一貫し制作していました。セーブシステムまでもそうです。
――映画版の『エイリアン』を観たことがない人が楽しむためにどんな工夫をしましたか?
ゲイリー 『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』で登場するキャラクターは誰でも共感できる要素を持ち得ています。たとえば主人公のアマンダ・リプリ―の場合は、消息不明となった母親を探し、心に残るわだかまりを解くためにセヴァストポリ宇宙ステーションに出発します。原作にはなかったこの新しい世界のキャラクターたちは、一度もエイリアンと遭遇したことがないので、プレイヤーがゲームプレイの開幕からともに歩み、彼らの目線で感情移入ができるようになります。このように、シリーズを知らなくても、キャラクターたちと同じ目線に立ち、思いを共有することで、『エイリアン』シリーズの世界観を楽しめるようになっています。
――オリジンミッションとサバイバルモードを搭載したそれぞれの意図を教えてください。
ゲイリー オリジンミッションについては『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』の舞台となるセヴァストポリ宇宙ステーションだけでなく、原作宇宙船のノストロモ号を再現して、あの世界、あの名シーンにプレイヤーたちを引きずり込みたかったのです。また、『ALIEN: ISOLATION -エイリアン アイソレーション-』という新しい取り組みのために、原作の俳優さんたちを再度召集する目論見もありました。起案したときには、本当に実現できるものかどうかまったくわからなかったのですが、シガニー・ウィーバーさんに参入すると快諾いただけたときに、チーム一同は「作るしかない!」と決意しました。ゲームが発売されてから、あの宇宙船の中で歩けるようになったことで喜んだプレイヤーたちもたくさんいたことはたいへんうれしかったです。
――ゲーム開発中でいちばんチャレンジしたことはなんですか?
ゲイリー エイリアンの緊迫感、そしてリアリティーをゲーム内で維持させることが大きなチャレンジでした。開発中はエイリアンを何バージョンも作り、何回もデザインの更新をしましたが、最終的に我々も納得できるデザインに到達できました。初期段階では荒い部分がかなりあって、自然に動いてエイリアンらしく行動するまでに膨大な時間の調整やバランス作業がかかりました。
――開発にあたって、インスパイアされたゲームがあれば教えてください。
ゲイリー チーム全体はサバイバルホラーゲームの大ファンです。『デッドスペース』、『バイオハザード』、『サイレントヒル』などのファンも多くいますが、じつは『メトロイド』や『ゼルダの伝説』などのゲームからも影響を受けています。しかしチーム全体のいちばん大きな影響となったのは、間違いなく原作そのものでした。
――シューターからサバイバルホラーへと生まれ変わった『エイリアン』は、ゲーマーから受け入れられました。今後のシリーズはどの方向性へと進むのでしょうか?
ゲイリー 『エイリアン』シリーズは、エイリアンという圧倒的な存在、そしてあの世界観が秘めるサバイバルホラーのポテンシャルを拡張して、さらに深めていく可能性が残っていると思います。今後どうなっていくのかが楽しみですね