対談企画第2弾

 2Dドットで描かれたグラフィックとバイオレンスな描写、優れたゲーム性が世界中で話題を呼んだ、見下ろし型アクションゲーム『HOTLINE MIAMI』。海外で2014年8月にプレイステーション4版として発売された第1作『HOTLINE MIAMI』と、今年発売された続編『HOTLINE MIAMI2:Wrong Numbers』がセットになり、『ホットライン マイアミ Collected Edition』として、スパイク・チュンソフトから2015年6月25日に発売された。

 今回ファミ通.comでは、『HOTLINE MIAMI』シリーズの開発者であるDennaton Gamesのデニス・ウェディン氏とジョナタン・ソーダーシュトロム氏、本シリーズの大ファンというソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏による特別対談企画を実施。激アツの内容は必見だ!

『ホットライン マイアミ Collected Edition』開発者×SCEワールドワイド・スタジオ吉田修平氏スペシャル対談_06
『ホットライン マイアミ Collected Edition』開発者×SCEワールドワイド・スタジオ吉田修平氏スペシャル対談_07
『ホットライン マイアミ Collected Edition』開発者×SCEワールドワイド・スタジオ吉田修平氏スペシャル対談_08
ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ
プレジデント
吉田修平氏
Dennaton Games
共同経営者、グラフィックアーティスト、ゲームデザイナー
デニス・ウェディン氏
Dennaton Games
共同経営者、プログラマー、ゲームデザイナー
ジョナタン・ソーダーシュトロム氏

――今回の対談企画ですが、以前から吉田さんが『HOTLINE MIAMI』に注目されていたとうかがい、オファーさせていただきました。

吉田修平氏(以下、吉田) 『1』が発売された年に、ある企画で自分がいちばん好きなゲームトップ5を聞かれまして、そこで『HOTLINE MIAMI』の名を挙げたくらい好きなんです(笑)。

デニス・ウェディン氏(以下、デニス) ありがとうございます。

吉田 いまでも『HOTLINE MIAMI』が発売されたときのインパクトは記憶に残っています。私は、規模は小さいながらも作り手を感じ取れるような、“大きな存在感”を持つインディータイトルが大好きなんです。本作以前のインディーゲームには“変わったおもしろさ”を持つ作品がたくさんありましたが、一方で磨き足りない部分も散見されました。ですが、『HOTLINE MIAMI』は、マーケットへのアピール力があり、インディーゲームとしての“アート感”を残しつつも、非常に洗練された作品だと感じました。プレイしたときのインパクトは、これまでのトップビュー視点の2Dゲームとは異なり、かなり衝撃的でした。それまでにも良作はちらほらありましたが、『HOTLINE MIAMI』のブレイクがインディーブームを象徴したと言っても過言ではないと思います。

デニス そうかもしれませんね。

『ホットライン マイアミ Collected Edition』開発者×SCEワールドワイド・スタジオ吉田修平氏スペシャル対談_01

ジョナタン・ソーダーシュトロム氏(以下、ジョナタン) 『HOTLINE MIAMI』は、パブリッシャー(Devolver Digital)がマーケティング面をハンドリングしてくれたので、多くの人に手に取ってもらうことができたと思います。

吉田 セルフパブリッシュ(自社販売)ではなかったんですね。パブリッシャーには自分たちから声をかけたんですか?

デニス いえ、友人がパブリッシャーにプロトタイプを紹介したことがきっかけでDevolver Digitalとつながりました。

吉田 なるほど。始めからパブリッシャーがついていたというわけですね。

デニス はい。パブリッシャー側が宣伝を担当してくれたので、私たちはゲーム作りに専念することができました。

吉田 『HOTLINE MIAMI』シリーズは、“Game Maker”というツールで制作されたとうかがいました。本作で”Game Maker”というツールがあることを初めて知り、調べてみるとこのツールがさまざまなゲームのもとになっていたことがわかりました。“Game Maker”というミドルウェアを採用した経緯を教えていただけますか?

ジョナタン “Game Maker”は18歳のころから触っているのですが、プログラミングの技術はあまり必要ありません。どちらかと言うと教育用のツールで、学校などでプログラムを教えるために使われています。非常にシンプルなインターフェースですが、いろいろと掘り下げて使用できるんです。

吉田 なるほど。プログラムはジョナタンさんが担当しているのですか?

ジョナタン はい。そして彼(デニス)は……。

デニス 私は(ツール選択について)彼(ジョナタン)の判断に任せただけです(笑)。

(一同笑う)

――ふたりだからこそ生み出せた部分はありますか?

デニス ふたりで話し合えるので、意思決定が非常に早いですね(笑)。

――意見がぶつかることは?

デニスジョナタン ほとんどありません。

――『HOTLINE MIAMI』は、混沌とした展開やサイケデリックな色彩が印象的ですが、そのアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

デニス ストーリーや世界観は、80年代のマイアミの麻薬取引を題材にした『Cocaine Cowboys(コカイン・カウボーイズ)』というドキュメンタリー映画がもとになっています。色彩については、90年代のマイアミのネオン街をイメージしています。また、須田剛一さんが手掛けた『キラー7』からインスパイアされた部分もあります。

――昨日、取材があって須田剛一さんにお会いしたのですが、ちょうど「『HOTLINE MIAMI』はすばらしい! ゲーム実況プレイをしたい」と言っていましたよ。

デニス それはすごい! イギリスのパブリッシャーから、須田さんがちょうど『HOTLINE MIAMI』を遊んでいる姿を見せてもらいました。非常にうれしかったです。

『ホットライン マイアミ Collected Edition』開発者×SCEワールドワイド・スタジオ吉田修平氏スペシャル対談_04

吉田 いちファンとしてお聞きしたいのですが、『HOTLINE MIAMI』はゲーム構成的なバランスとしてはパーフェクトで、ストーリー性もほどよくあり、アートディレクションなどの面に関しても、総合的に本当にすばらしいものでした。自分が誰であるのかもわからない状況の中で、“殺らなきゃ殺される”と人を殺さなくてはならないという設定にも納得できました。しかし、『2』の始まりかたは、少なくとも私にはわかりにくく、“なぜ”そのようなオープニングにしたのかを知りたいです。

デニス オープニングのイベントですが、まず背景として私たちのゲームを“映画”と主張する人たちがいました。その捉えかたが非常におもしろく、続編の導入として盛り込むことにしました。続編を作るにあたり、とくに暴力表現がある場合は“どうやって前作を超えるんだ!? ”という期待と懸念が寄せられます。これを踏まえ、“前回を越えた暴力”を見せてより過激な方向性を示唆した後、ゲームの方向転換を見せるカットを入れ、映画シーケンスだったことを明かすという流れにしました。

吉田 そのような意図があったんですね。『1』は自分のミスも納得いくような仕様で完璧なバランスでした。ゲームバランスはどのように調整されたのですか?

デニス 私がテスターになったり、PAXやGamesComなどのイベントでさまざまなプレイヤーの反応を見て、ノートを取り、それをもとに調整を行いました。PC版のリリース時にさまざまな問題点が見つかったこともあり、テストを十分に行っていればよかったといまになって思います。

吉田 でも、おふたりで開発された『1』は完璧なバランスを実現しています。『2』はゲーム開始直後から広いマップで前作以上の敵と戦う必要があり、最後までプレイすることができませんでしたが……。

デニス 現在、ガラス窓を取り除くなど、全体的に難度を下げる“Mercyモード”(慈悲モード)の追加も考えています。

吉田 そのような変更があれば、私もクリアーできるかもしれませんね。さまざまなプレイヤーがいますので、ゲームをより幅広い層に提供することを考えて再構築したら、それはそれでおもしろいプロジェクトになるかもしれませんね。

デニス ありがとうございます。“カスタムレベルエディター”をリリースしたら考えることにします。

吉田 ではせっかく『HOTLINE MIAMI』が日本で発売されたので、『2』のいいところにもフォーカスしましょう。

(一同笑う)

吉田 じつは、SCE Japan スタジオのニコニコ動画の配信チャンネルで、『HOTLINE MIAMI』の日本語版を取り上げたことがあります。そのときは『1』を紹介したのですが、多くの日本のユーザーはシリーズ最新作からプレイしたがる傾向があります。

デニス 『1』を紹介してくださってとてもうれしいです。『HOTLINE MIAMI』は『1』と『2』が揃うことで完成形になりますので、皆さんにはぜひ『1』から遊んでいただきたいです。

吉田 『ホットライン マイアミ Collected Edition』はPS4、PS Vitaでの発売ですが、クロスセーブなどの機能も健在ですか?

スパイク・チュンソフト プロデューサー 飯塚康弘氏(以下、飯塚) はい。

吉田 それはよかったです。私はタッチ操作が便利なので、PS Vitaでプレイするのが好きなんです(笑)。PS4だとL2/R2ボタンの操作を間違えることがあるのですが、このゲームだと命取りになりますよね。

デニス 確かにそうですね(笑)。

『ホットライン マイアミ Collected Edition』開発者×SCEワールドワイド・スタジオ吉田修平氏スペシャル対談_02

――PS Vitaでは手軽に、PS4ではじっくり遊べるところがいいですね。本作は、音楽も特徴的ですが、どちらが担当されているのですか?

ジョナタン 『2』はふたりで探して、その中から選択しています。

デニス 『1』のときはおもにジョナタンが選びました。

ジョナタン ゲームをプレイして音楽を知る人もいれば、音楽を聞いてゲームをプレイする人もいます。また、私たちのゲームで有名になった人たちやツアーを行うアーティストも現れ、私たちに曲を提供してくださった方々にもお返しができて本当にうれしいです。

――『HOTLINE MIAMI』のPS4への移植や日本での発売を想像したことはありましたか?

デニスジョナタン 開発中にそういう冗談を言うことはありましたが、実現するとはまったく思ってもいませんでした(笑)。

吉田 Mike Bithell(Volumeのインディー開発者)をご存知ですか? 彼と話す機会があり、成功することについて話したことがあります。若いうちに成功してしまうと、その重大さに気付きません。彼は『Thomas was Alone』で大成功を収めましたが、戻ってきたお金の半分を次回作のために温存すると言っていました。こうすれば、仮に1度失敗しても、もう1本ゲームを作ることができるからです。Dennaton Gamesにはそのような体制はあるのですか?

デニス 『1』は私の家で、『2』はジョナタンの家で作りました。オフィスを持たずに自宅で開発しているので、節約できるところは節約しています。

――日本は海外よりも暴力やアダルト表現などの規制が厳しいですが、『ホットライン マイアミ Collected Edition』には規制が入ることなくオリジナルのまま発売されました。スパイク・チュンソフトの姿勢についてどういう風に受け止めていますか?

デニス 日本で規制が発生し得ることは知りませんでしたが、スパイク・チュンソフトがありまままのゲームを発売してくれて非常にうれしいです。

飯塚 血の表現で“CERO Z”(18歳以上のみ対象)が想定されましたが、2Dグラフィックだったため規定に抵触せず、“CERO D”(17歳以上対象)がつけられました。

吉田 2Dグラフィックを選んでラッキーでしたね(笑)。

――日本のユーザーも喜んでいると思います。

吉田 いやはや、よかったですね! オーストラリアのユーザーがきっと嫉妬しています。※オーストラリアでは規制のため未発売

デニス たしかにそうかもしれませんね(笑)。

『ホットライン マイアミ Collected Edition』開発者×SCEワールドワイド・スタジオ吉田修平氏スペシャル対談_03

――吉田さんは黎明期のノーティードッグを始め、いろいろなゲームスタジオをご覧になってきていると思いますが、インディースタジオを実際に見たことはありますか?

吉田 インディーゲームのほとんどのクリエイターはTwitterを使っているので、Twitterを使って連絡を取り、ゲームイベントなどで実際に会ったりします。Dennaton Gamesの彼らとは今回が初めてでしたが、PSフォーマットで活躍されている方たちとはお会いしていますよ。

――小規模の開発会社がヒットメーカーになることについてどう感じますか?

吉田 すごくうれしいですね。ノーティードッグも最初は小規模でしたが、そこから規模が大きくなり、若い人たちがゲームを作り世に問えるようになりました。世に問うことで勉強になりますし、クオリティーアップにもつながります。しかし、大きなタイトルは開発に何年もかかるため、小規模の開発会社が何か新しいことをやってくれないと、ゲーム業界全体として進化しませんでした。近年はインディーゲームの良作も増え、『アンチャーテッド』を始めとした3Dゲームが映画のように進化するのと同時並行で、ゲーム性に重きを置いた2Dゲームも進化しているのだと思います。今後インディーゲームは、ゲーム業界に欠かせないシーンになると期待しています。

――吉田さんが今後、Dennaton Gamesに期待することはなんですか?

吉田 “今後もゲームを作り続けること”に尽きますね(笑)。クレイジーな想像力を存分に開放してください(笑)。

デニス クレイジーなところは否めないですね(笑)。ぜひともがんばります(笑)。

――今日、吉田さんとお話していかがでしたか?

デニス まるで友人と話しているように楽しく会話できました。そもそも、吉田さんがおもしろい方という評判を聞いていましたので心配はしていませんでしたが(笑)。

ジョナタン これほどリラックスして話すことができたのが意外でした(笑)。

――最後に『HOTLINE MIAMI』のアピールポイントをお願いします。

デニス 日本の皆さんが『HOTLINE MIAMI』を好きになってくれることを願っています。これまで私たちは日本の文化にインスパイアされ続けているため、ぜひとも日本のゲーマーの皆さんにお返しできればうれしいです。

ジョナタン ゲーム中でプレイヤーの皆さんは何度も死んでしまうと思いますが、めげずにがんばってください(笑)。

『ホットライン マイアミ Collected Edition』開発者×SCEワールドワイド・スタジオ吉田修平氏スペシャル対談_05

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ホットライン マイアミ Collected Edition
メーカー スパイク・チュンソフト
対応機種 PSVPlayStation Vita / PS4プレイステーション4
発売日 2015年6月25日発売
価格 各3700円[税抜](各3996円[税込])
ジャンル アクション
備考 開発:Dennaton Games