なぜスマホアプリの会社がe-sportsチームのスポンサーに?
2015年5月1日、人気スマホアプリ『剣と魔法のログレス いにしえの女神』などを手掛けるAimingが、プロゲーミングチーム・DeToNatorのメインスポンサーに就任したというニュースが流れた。
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DeToNatorは『Alliance of Valiant Arms』(以下、『AVA』) や『Dota2』、『League of Legends』(以下、『LoL』)、『Counter-Strike:Global Offensive』(以下、『CS:GO』)という4部門で活躍するプロゲーミングチーム。現在はおもにPCオンラインゲームを主戦場にしている。
Aimingは前述の『剣と魔法のログレス いにしえの女神』のほか、スマホアプリを中心とした多数の開発・運営実績を持つメーカーだ。2015年3月には東証マザーズに上場も果たしており、いまもっとも勢いのあるゲーム開発会社と言える。
e-sportsとは無縁にも見えるAimingが、なぜDeToNatorを支援することになったのか? どんな支援を行っているのか? e-sportsファンならずとも気になるアレコレをAimingとDeToNatorの代表おふたりに直撃!
e-sportsやゲーム業界の発展のための支援
――いきなりですが、メインスポンサーになったということで、DeToNatorに対して具体的にはどういった支援をされるのでしょうか?
椎葉忠志氏(以下、椎葉) まずは活動資金の提供ですね、どんな活動をするにしろお金がないと始まらないので。当面のあいだ、これだけあれば十分だろうという額のお金は出しているつもりです。
今回のスポンサードは、e-sports全体、そしてゲーム業界をよくするための支援にもなると考えています。DeToNatorの活動がもっと活発になって、結果が出るようになれば、金銭だけではなく、いろいろな支援もしていこうと思っています。あと、うちの会社は“ゲーヲタ採用”(ゲームを愛する人を積極的に採用する制度)も行っていますし、選手がAimingで働きたいと思って応募してくれれば、いつでも対応します。本当にゲームが好きで、うまくて、人間性がまともだったらだいたい採用しますけどね(笑)。まぁ、その可能性が高いだろうということで。活動資金の提供は、支援の一歩目という感じです。
――ゲーム業界のための支援でもあると。
椎葉 はい。“Aimingという若い会社がプロゲーミングチームを支援する”というニュースは、各所にいい影響があると思っています。
僕はもともとテクモ(現コーエーテクモゲームス)でゲーム開発をしていたんですけど、一度ゲーム業界から離れてSEをやっていた時期があったんです。そのときに『エイジ オブ エンパイア』や『ディアブロII』にハマって、オンラインゲームの運営という仕事があることを知りました。そこから、現在のキャリアが始まったんですよ。別の仕事を体験することで、ゲームが自分にとっていかに夢のある仕事かわかったんです。オンラインゲームがなかったら、実家の石材店を継いでいたかもしれませんね(笑)。
そして、会社が軌道に乗ってきたいま、ゲーム業界にどういう貢献ができるかを考えたときに、ゲームに対して僕らと違うアプローチで一生懸命がんばっている人を支援したいと思い、今回の契約を決めました。
――支援の相手をなぜDeToNatorにしたのか、という部分も気になるところです。
椎葉 「自分が信頼する人が評価している人も信頼しよう」というのが僕のポリシーなんです。Aiming台湾オフィスのリーダーは僕が信頼している方から紹介された人物なのですが、1~2回食事をしただけで採用を決めたくらいです。
今回もそのパターンに近くて、僕がゲームオンにいた頃に部下だった井上洋一郎君(『AVA』日本運営プロデューサー)という男に江尻さんを紹介されたんです。実際に会ってみたら、ゲームに対して並々ならぬ情熱を持っているうえ、自分で会社も経営していたり、キャリアもおもしろい。こういうビジネス感覚がある人がいないとe-sportsは伸びないと感じました。語り出すと話が長いという弱点はあるんですが(笑)。
ほかにもすごい人はいるのかもしれませんが、何でも決めたらすぐやることがいちばん大事。そこに信頼がないと即決できないんですよ。早くやらないといい成果は出ないということで、即決できる人間として江尻さん(DeToNator)を選びました。
――会ってすぐ決めたわけですか?
椎葉 ええ、会って1時間くらいで(笑)。新宿のゴールデン街(飲み屋街)だったかな?
江尻勝氏(以下、江尻) 僕はちょうどその時期、チームの運営方針ですごく悩んでいたんですよ。これまでの方法ではステップアップが難しいところまできていて。いろいろな方に相談している中で、たまたま椎葉さんとお会いできた。本当に運がよかったです。
椎葉 僕は競技性が高いゲームも好きで、ずっとプロチームを持ちたいと思っていたんです。会社ぐるみだと大変なこともあるので、個人資産でやりたいとも考えていました。野球も好きなのでプロ野球チームもいいのですが、さすがに規模が違いすぎて。その点、ゲームのプロチームだったら大歓迎だなと思って、江尻さんの情熱にあてられて「必ず支援する」とその場で約束しました。
江尻 このタイミングで支援の約束がいただけなかったら、下手するとプロチームとしての活動は維持できなかったかもしれません。DeToNatorにとっては重要な分岐点でした。
椎葉 縁と運とタイミングっていうのは大事ですよね。最初はその食事の場に行く予定もなかったんですけど、何となく顔を出したらこんなことに。
――恋愛みたいですね。
椎葉 僕、恋愛はひと目惚れタイプじゃないんですけどね(笑)。自分のことや答えがないことを決めるのは苦手で。たとえばいまオレンジ色の靴を履いてますけど、この色にするのに1時間くらい悩んでます。ただ、仕事では即断即決するタイプです。
――その決断力が、今回のスポンサードや“ゲーヲタ採用”の原動力になっているようですね。
椎葉 とにかくゲームを愛していて、人間性がよければ、可能な限り採用するつもりなので、このインタビューを読んでいる方もどしどし応募してほしいです(笑)。
異色の経歴を持つDeToNator代表・江尻氏とAimingの出会い
――椎葉さんのハートを射止めた“DeToNator”とはどういうチームなのか。詳しく教えていただけますか?
江尻 DeToNatorは、2009年の9月13日の設立から『AVA』をメインに活動してきました。2015年1月から『Dota2』部門、3月から『LoL』部門、そして5月末から『CS:GO』の部門が立ち上がり、いまは4つの部門が並行して動いています。
スポンサー様に関しては、Aiming様にメインスポンサーになっていただいたほか、MSI様、EIZO様、SteelSeries様、DXRACER様、GUNNER様、G2A様の合計7社からの支援を受けています。SteelSeries様はグローバルスポンサーとして、海外のプロチームと同様のサポートをしていただいています。
椎葉 江尻さんの経歴もおもしろいんですよ。カリスマ美容師ブームの頃は美容師をされていて、その後独立して美容室を経営したり、そこから加工食品の販売を始めてみたりと、さまざまな事業をやられてるんです。
江尻 宅建(宅地建物取引士)の資格も取ったりしています(笑)。自分がやりたいこと、やらなきゃいけないことが見えると、突き進んじゃうんですよね。
――おお、それはすごい。経営者体質なんですかね?
江尻 社長という立場にこだわりはなくて、必要なことは自分で率先してやりたいんです。宅建も、そのときの会社に必要だったから取っただけで。 IllustratorやPhotoshopとかも勉強してDeToNatorのWebサイトを作ったり、選手の写真も撮ったり。いろいろなことが積み重なっていまの状況になりました。写真撮影では美容師時代の経験が活きていますね。
――すごい行動力ですね!
江尻 オフラインのイベントで「お店のほうは最近どう?」なんて聞かれたりして、妙な状況になってます(笑)。
――その加工食品店はいまもやられているんですか?
江尻 いまもやってますよ。ゲーム関係者の方から買っていただいたり、みなさんに暖かく見守られています。話は少しそれましたが、これがDeToNatorと僕の経歴になります。
――ありがとうございます。話を戻しまして、椎葉さんは競技性の高いゲームが好きとおっしゃっていましたよね。今後、日本で競技性のあるゲームが流行る、もしくは流行らせなければならないというビジョンがあるのでしょうか?
椎葉 それも少しありますね。そうなることは業界だけじゃなくて、僕らにとっても絶対幸せなことだと思います。ただ、日本は子供のころからゲームをやりすぎて、大人になると飽きちゃう人が多いように感じていて。そういう意味では、ゲームはエンターテイメントの真ん中には来ていない。いまはスマホのおかげで、またみんながゲームをするきっかけが増えていますけど。
――たしかに、いまはスマホ全盛の時代ですよね。
椎葉 だから、カジュアルなゲームがフォーカスされていますよね。つぎは“競技性が高い”とか、“アクション性が高い”とか、“操作がおもしろい”というゲームにチャンスがあると思っています。
いまのDeToNatorはPCオンラインゲームが中心です。ただ、日本ではPCのオンラインゲームのプレイヤーは多く見積もっても数百万人。『パズル&ドラゴンズ』だけで1ヵ月に1000万人くらいのアクティブユーザーがいると言われている世の中なので、まだまだ日本では課題があるとも思いますね。
――ブラウザゲームを好む人はここ数年で増加しましたが、競技ゲームやクライアント型のしっかりしたMMORPGなどのプレイヤー層にはあまり影響がないように感じます。だからこそ伸び代があるとも考えられるのでしょうけど。
椎葉 競技人口が少ないということは市場が小さく、だからアプローチする会社が少ない。アプローチする会社が少ないから日本発でワールドワイドに成功するゲームも出にくい。そうなると、日本の孤立がより進んでしまう。
――悪循環が続いているということですか。
椎葉 そうですね。だから、スマホに変わる、またはスマホが進化したようなデバイスの登場や世の中の変化で、一気に悪循環から抜け出せるタイミングが来るかもしれないと考えているんです。そう遠くない未来だと思っているので、いまは種まきをしている段階ですね。
日本では、対戦ゲームはゲームセンターで遊ぶのが主流になっています。いまはインターネットでの中継もあるので流行る素養は十分にあると思います。現状はすごく大変ですが、だからこそ率先して手を上げて支援しなきゃならないと。
――大変だからこそやろうというわけですね。
椎葉 はい。投資家の方から「e-sportsビジネスに対して、何か収益性を考えているんですか?」と聞かれることもあるのですが、「いまはそういう段階ではありません」と答えています。
――そういう説明で、投資家の方々は納得するものなんですか?
椎葉 ほかの会社だと問題があるかもしれないですが、うちは“ゲーヲタ採用”を掲げているような会社じゃないですか。「日本中のゲーム好きがAimingを知っている環境にしたら、その価値は計り知れないですよ」って伝えたら、「それはいいことですね」と納得してくださいました。“ゲーヲタ採用”って言葉は投資家のみなさんにウケがいいんです。「そんな会社あるのか!」って、インパクトは強いですよね。
Aimingのスタッフは、ゲームが大好きで、会社でゲームを研究して、ゲームを作って、家に帰ってもゲームで遊ぶ。それでいいものが作れないわけがないと。だから、会社としてe-sportsやDeToNatorを支援することはメリットしかない。デメリットなんてありえない。
――“ゲーヲタ採用”を掲げるAimingならでは、というわけですね。
椎葉 昔からDeToNatorは世界で活躍されていましたが、残念ながらニュースバリューが低くて扱いも小さかった。いまはテレビでもe-sportsが特集されて少し認知が広がったから、世界大会に出たというだけで注目度が違う。そこで結果を出してさえくれれば、Aimingとしてももっと支援できるんですよ。
じつは、いまは僕以外の取締役たちのほうが支援に乗り気になっていて、僕が食い止める役回りになっちゃってるんですよ(笑)。
――あれ、立場が変わっちゃってませんか?
椎葉 最初は「いま時代はe-sportsだ! もっとお金を出そう!」と言う僕に対して、「いやいや椎葉さん」と止められる流れを想定して話を進めていたのですが……。取締役会での江尻さんのプレゼンがあまりにもよくて、役員がみんな乗り気になっちゃった。Aimingを立ち上げて4年、苦しい時期もありましたが、いちばん揉めたのはDeToNatorの支援に関してですよ(笑)。
――つい先日の話じゃないですか。
椎葉 上場も決まった3月過ぎに激論ですよ、取締役全員で。一部の監査役は「うわー、いい会社だなー」なんて言いながら笑ってました。事前に江尻さんと描いていたシナリオは「スポンサードのリスクとリターンをしっかりと話したうえで、この程度の支援から始めましょう」みたいな感じだったのですが……。みんな江尻さんを気に入っちゃって「彼をどう支援するかもっと考えましょう!」って。
江尻 僕はそう言っていただけてうれしかったです。
椎葉 江尻さんはよく考えているんですよね。単純にゲームの大会に出てどうとかじゃなくて、ゲーム業界の動きを考慮したうえでいまの選択をしているということが、よくわかるプレゼンでした。みんなが支援したくなったのも無理はないですね。
江尻 かなり緊張はしましたけど、ここで自分の思いの丈をぶつけないと、いままでのことが水の泡になってしまうと思って取り組みました。最初はe-sportsを理解されていない方もいらっしゃいましたが、最終的には「よかったよ」と声をかけていただき感無量でした。資料作りにもかなり時間をかけましたので。
――そのプレゼンで契約が決まったようなものだったんですね。
椎葉 スポンサーになることはもう決めていたんですけど、プレゼンがよくて逆に面倒になっちゃったって感じかな(笑)。
――みんなノリノリになっちゃったと。社長の椎葉さんを前にして言うのもアレですけど、Aimingさんっておかしな会社ですね。
椎葉 そうそう(笑)。さっきも言いましたが、最初は個人で支援してもかまわないと思っていたくらいです。いまの僕があるのは、本当にオンラインゲームのおかげだから。