祝! サービス開始1周年!!
バンダイナムコエンターテインメントから、2014年5月20日に配信が開始されたプレイステーション3用フライトシューティングゲーム『エースコンバット インフィニティ』。週刊ファミ通2015年5月21日発売号では、シリーズ初のF2P(フリー・トゥ・プレイ)・オンライン必須のタイトルとしてスタートした本作に懸ける想いを、プロデューサー・河野一聡氏、ディレクター・和田太一氏、制作プロデューサー・小柳匡史氏へのインタビューを掲載した。そのインタビュー完全版をお届けしよう。

プロデューサー
河野一聡氏(写真中央・文中では河野)
『エースコンバット』シリーズのブランドディレクター。『エースコンバット インフィニティ』ではプロデューサーを担当しつつ、シリーズ全体を統括。これまでのシリーズ作では、『エースコンバット04 シャッタードスカイ』のアートディレクター、『エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー』のディレクターなどを務めている。
ディレクター
和田太一氏(写真左・文中では和田)
『エースコンバット インフィニティ』の各種イベントなど、ディレクションを担当。『スカイ・クロラ イノセン・テイセス』のアートディレクター、『エースコンバットX2 ジョイントアサルト』のディレクター、『エースコンバット 3D クロスランブル』のアートディレクターなどを手掛けた。
制作プロデューサー
小柳匡史氏(写真右・文中では小柳)
『エースコンバット インフィニティ』開発チーム全体を統括している。これまでに手掛けたのは、『スカイ・クロラ イノセン・テイセス』、『エースコンバットX2 ジョイントアサルト』プランナー、『エースコンバット 3D クロスランブル』制作プロデューサーなど。

現在も増え続けるエースパイロットたち
――まずは、サービス開始1周年おめでとうございます!
河野 ありがとうございます。運営型オンラインゲームとしての『エースコンバット』は初めてだったので、“挑戦”という気持ちでスタートしましたが、プレイヤーの皆様に支えられて、なんとか1周年を迎えることができました。素直にうれしい気持ちです。開発がスタートしてから現在までを振り返ると、涙が出そうになります。
――それだけ苦労されてきたと?
河野 運営って、本当にたいへんだということを思い知らされました。オンライン専用、F2P(フリー・トゥ・プレイ)、コンソール専用と、初めてのことだらけでした。企画が立ち上がったときは、継続的にコンテンツを作る覚悟と勇気が必要で、とにかく、パッケージソフトとは全然違う環境ですね。
小柳 僕が本作のチームに加わったのはサービス開始と同時だったので、「あれっ、まだ1年なんだ」という感覚です。1年間運営でバタバタしていましたし。
和田 開発期間を含めると、2年半以上プロジェクトが続いているんですよ。
小柳 オンラインゲームの運営が未経験なスタッフが多く苦労したことも多いのですが、プレイヤーの皆さんの要望を聞いて即修正できるものもあるなど、オンラインゲームならではの長所も実感しました。システム上、時間がかかったものもありましたが(笑)。修正後のお客様の反応を見るのが楽しく、やりがいもありました。ちなみに、プレイヤーの皆様から要望が挙がってから、ゲーム内に反映させるのには、基本的に最低でも2ヵ月はかかるんですよ。ただ、開発チームのメンバーもプレイヤーとして参加しているので、修正すべき点は早めに見つかっていることも多いです。プログラマーにもヘビーユーザーがいて、かゆいところに手が届く存在になっています。
河野 プログラマーと小柳のあいだでコトが進んで、僕が知る前に修正が行われている場合もあります。「えっ、これ聞いてないよ?」といったことが……もう安心してお任せしております(笑)。
――9回目の大型アップデートを迎えましたね。
和田 たくさん飛んでいただいているお客様の期待に応えるアップデートを行っていくことは楽しいです。アップデートの間隔が短いので休む間がありませんが。
小柳 アップデートのデバッグ完了の承認を得たときには、つぎのデバッグ開始まであと2週間という状態なんですよ。
――ひと息つく間もないペースですね。
河野 じつは、1年経ったいまも、開発チームの打ち上げができていないんですよ(笑)。そろそろしたいなあ、打ち上げ。
――ちなみに、現在(2015年4月下旬)までのダウンロード数はどのくらいでしょう?
小柳 約250万ダウンロードです。現在も、週に1万ダウンロードくらいのペースで増え続けていますね。多いときは週に3万くらい増えたりもしますし。


デルフィナスのHUDデザインはプログラマーの暴走から生まれた!?
――これまでの1年を振り返って、苦労されたことはなんでしょうか?
小柳 じつは、最初覚悟していたよりもスムーズだったんですよ。オンラインゲームの立ち上げというと、緊急メンテナンスの連続だったり、データを巻き戻したりと、予想外のトラブルがつきものですが。
――言われてみれば、初日から問題なく飛べていました。
和田 トラブルが皆無だったわけではないですが、大規模な事故は起きていませんね。
河野 ただ、最初は運営に慣れていなくて、日付を間違えたりしていました。
和田 そういうこともありましたね。本作はワールドワイドで運営しているので、日本時間、グリニッジ標準時間、アメリカ西海岸の時間の3つを基準に考えているうえ、サマータイムもあるので、うっかり間違った時間を記入してしまうことが何度か……。
河野 運営上のミスは注意していても起こりますが、Twitterなどでお客様が愛を持って指摘していただけるなど、非常に優しい方が多く、チーム一同、メンタル面でも支えられています。
――サービス開始後、とくに注力して修正を重ねたところなどはありますか?
小柳 マッチング関連はとくにストレスがたまりやすい部分なので、できるだけ快適にプレイできるよう、調整を重ねています。
和田 マッチングの場面でお客様が期待しているのは「いますぐ自分に最適なマッチングをしてくれ!」というところだと思うのですが、全体のバランスを取るとまだまだ待ち時間があり、お客様にご迷惑をかけ続けています。理想通りのマッチングに向けて、今後も調整を重ねていきます。
河野 表示方法ひとつでも、お客様に喜んでいただけることはどんどん取り入れなければいけないですからね。
小柳 アップデートの目玉ではない小さな変更内容は公式Twitterで告知していますが、本当に小さい修正でもお客様の反響はとても大きいんですよ。
――なるほど。開発的に難しかったアップデートなどは?
河野 デルフィナス(R-101 Delphinus。『エースコンバット3 エレクトロスフィア』が元ネタの架空機体)を導入するとき、HUD表示を原作風に作り直し始めたのを見て、「本当に大丈夫?」ってなりました。『インフィニティ』と『3』では仕組みが違うため、スケジュール通りに仕上げることが難しいだろうと。シリーズのファンに喜んでいただけるならと、現場を信用して任せましたが。
小柳 デルフィナスのHUDは、プログラマーが自宅からPS oneを持ってきて、『3』のゲーム画面を見ながら作成していたんですよ。
和田 工数を見積もりしようかという段階で、すでにプログラマーがHUDを作り始めていましたね。
河野 いましがた「現場を信用する」と言いましたが訂正します。彼は『エースコンバット』が好きすぎて、制御がきかないんです(笑)。
和田 ちなみに、初代プレイステーションとプレイステーション3では描画能力が大きく異なるので、原作では描画できなかった部分が多いんですよ。本作でのデルフィナスは、当然昔よりも細かく描いているので、「いったいこの戦闘機は、どこからミサイルを撃っていたのだろう?」みたいな問題点が出てきました。そこで、現代風に合わせたデザインに修正している部分も多いです。今回のアップデートで導入したナイトレーベン(X-49 Night Raven)も同様です。


爆撃機に続く新たなカテゴリはレシプロ機!
――9回にわたるアップデートで、さまざまな遊びかたやステージなどが追加されましたが、チームデスマッチイベントも最初から予定されていたのでしょうか?
小柳 チームデスマッチは、これまでのシリーズ作でも存在したモードなので、開発も比較的スムーズでした。ただ、対戦要素がドッグファイトだけでは、アタッカー機体しか育てていない人が十分に楽しめないので、後から艦隊攻略戦も作りました。
――艦隊攻略戦は、それぞれの機体に役割があるところがおもしろいですね。
小柳 ガチの殴り合いが苦手な方にも、PvPの楽しさを知っていただきたいという思いもありました。棒倒しのような競技なら敷居も低いのではないかと。
河野 非常招集ミッションも、ストーンヘンジまでは最初から考えていました。
小柳 SOLG(Satellite Interception)を出すと言い出したのは河野です。「ちくわを出せ、ちくわを!」って。
河野 形状的に作りやすそうだと思って。
小柳 あの後、どれだけ苦労して作ったと思ってるんですか!(笑)
――SOLGも、『5』に登場したときと比べて、かなりリニューアルしている感じですね。
和田 少しずつバラバラになっていくように、プログラマーに提案したときは嫌な顔をされました。それはご存じの通りやってくれましたが、試行錯誤したところは多かったですね。
小柳 金SOLGはトンネルを潜らないとと破壊できないとか、MVPを取った方だけ最後にトンネルを潜るイベントが楽しめるといったアイデアも出ましたが、ボツになりました。
――トンネル潜り、いいじゃないですか! “Satellite Interception IV”あたりでどうですかね?
和田 (笑)。けっこう、競うように穴へ入っていく方が多いですね。
――今後はどんな非常招集ミッションを検討されているのでしょうか? 個人的にはメガリス(『4』の最終ステージ)をオンラインでやってみたいです!
小柳 (笑)。現状は未定ですが、非常招集ミッションには今後も力を入れていきたいですね。
――期待しています。話は変わりますが、さまざまなコラボイベントも開催されましたが、これらはどのような流れで実現にいたったのでしょうか?
河野 社内コラボは話が早いのですが、外部とのコラボは時間がかかります。『エリア88』は、巷で「『エースコンバット』って『エリア88』に影響を受けているよね」と言われることがあります。作品に尊敬を持ってきましたが、これまで『エースコンバット』シリーズでのコラボ実績はありませんでした。なので、運営型で継続的にイベントを実施していく本作では、コラボイベントを実施する機会ではないかと。しかし、弊社はこれまで『エリア88』という作品にまったくつながりがなかったため、新谷かおる先生の公式ホームページ内にあるメールフォームから「『エースコンバット』を作っている河野です」と、ダメもとでメッセージを送ったんです。その後、新谷先生から「話は分かりました。担当者を紹介します」というお返事がいただけて。
――トントン拍子で進んだと。
河野 ところが、僕の動きが遅く、僕が担当の方へ連絡する前に新谷先生から連絡をいただいたんですよ。「こちらから担当に連絡したので、○月○日に打ち合わせしてください」と、セッティングまで調整いただき、(連絡が遅れたことが)申し訳ない気持ちで打ち合わせを行い、ついにはコラボへこぎつけました。もっとも、作中で使われていたマークをそのまま使っていいかどうかなど、やり取りで苦労したところはありますが。
――実在のマークなどもありましたからね。コラボの反響はどうでしたか?
河野 まずは我々のような年代が大喜びで、コラボをきっかけに、『エリア88』を読み始めた若い方も多かったようで、反響は大きかったですね。
小柳 開発チームの中でも読み直した者が多く、「地上空母、出したいよね」という無茶を言い出したりして。
河野 また暴走しかけて危なかった(苦笑)。
――甲板に特攻したいです! あと、『エリア88』名台詞無線とか。
小柳 無線はよさそうですね。ちなみにF-5EやF-20Aは『エリア88』コラボのために作りました。
和田 古い機体は不自然に強くできないので導入が難しかったのですが、コラボが決まったとき、チャンスとばかりに入れた感じですね。
小柳 “シン・カザマが乗っていた”ならば、強いタイガーシャークであっても不自然じゃないですから。
――マッコイ爺さんの特製バーツを使っている、とかですかね?(笑)
河野 “マッコイ爺さん仕様”も冗談では言っていましたけど、本当に入れたら、皆さん怒るだろうなあ。安いミサイルを買ったら不発だったり。
小柳 たまに整備不良で出撃できないとか(笑)。
――(笑)。あと、ATD-0の導入も話題を呼びましたね。
河野 国産初のステルス研究機であるATD-Xが報道されて国内で話題になったとき「これ、『インフィニティ』に出せないの?」と、防衛省に話を持ちかけさせていただいたんですよ。
小柳 ATD-Xは戦闘機ではないこともあり、恐る恐るという感じだったのですが、とても協力的な方ばかりで深く感謝しております。
河野 「“ATD-Xを実戦配備のために改修したならば……”という形でデザインしてください」というコンセプトでATD-0が生まれました。最終的に、技術研究本部のロゴまで入れさせていただきました。
――それにしても、新しいものを取り入れるまでが早いですね。
河野 つねに新しいものを探していますから、会議ではいつも「(新しいもの)何かない?」から始まるんですよ。表向きは「PROJECT ACESはお客様のため、毎月イベントで盛り上げていきます」と涼しい顔を見せつつ、「いや、今月、何もないんです……」みたいに、水面下ではもがきまくっているんです(苦笑)。
――新しいものの導入というと、爆撃機の追加には驚かされました。
和田 新しい戦闘機タイプを増やすことで、長くプレイされている方にも新鮮さを味わっていただけると思い、爆撃機を追加しました。B-2Aなどは知名度も高く、注目度も高いのではないかと。アタッカーと役割が被るなど、企画段階では問題点も多かったのですが、爆撃機専用の兵装を新たに入れるなどして、調整を重ねました。
河野 機関砲がついていないのでキャンペーンでは出撃させられなかったり、非常に重い挙動で初心者には向かなかったりする爆撃機ですが、「こんな機体に乗ってみたい」、「じゃあ乗ってください」という『エースコンバット』らしさを重視し、実現にいたりました。ちなみにつぎは、レシプロ機を導入予定です。
――レシプロ機! 本当ですか!?
河野 気がついたら、勝手に開発計画に入っていました。
和田 勝手に開発計画に入れました(笑)。
――『エースコンバットX2』を思い出します。こうなると、レシプロ機オンリーのチームデスマッチもやってみたくなりますが……。
小柳 じつは、限定のチームデスマッチイベントもすでに考えています。
和田 『X2』のときもレシプロ機はご好評をいただいていたので、本作でも皆様のご要望を叶えていけたらと考えています。